15th International Conference on Copepoda | COPE (KOBARI Lab)

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絶滅危惧研究室の営みをつづるブログです

こんばんは。主宰です。

 

南星丸でのハダカイワシ調査航海終了後、すぐに国際学会へ出席してきました。自分にとってはかなり考えさせられることがあったので、備忘録のために所感を残しておこうとおもいました。

出席した学会は、カイアシ類という分類群に関する国際学会です。カイアシ類はたいへん多様な生物群で、陸水・海洋だけでなく洞窟・地下水などの変わった水域に出現したり、魚類・貝類・多毛類などに寄生したりします。このため、まだ見つかっていない種が膨大に存在するとされ、系統・進化・生態など学術的に非常におもしろい生物群です。カイアシ類分類学で著名な大塚先生から依頼されたので、実行委員としてこの国際学会に参加しました。以前参加した時には、分類・系統・進化に関する研究発表が大部分を占めており、カイアシ類にこだわった研究をしていない私にとっては、あまりおもしろそうな情報はないだろうと予想していました。しかし、参加してみると対象としている研究材料がカイアシ類だけであって、研究分野が非常に多様であるだけでなく、最新の解析技術・学術情報が満載だったので、終わってみればたいへん充実した学会参加でした。

所感や情報を整理してから記載するとよいのですが、時間がたつと感動が薄れてしまうので、雑駁な所感として記録を残します。自分用なので、どうかご容赦下さい。

 

学術情報に関する所感

●コロナ禍と関係があるかどうか分からないが、この数年間のうちに研究で利用する解析法が格段に進化している。特に、系統分類や群集解析のために多様な領域を使った遺伝子解析、環境変化に対する個体~群集レベルの応答・機能を理解するための遺伝子発現解析や生理学的解析、膨大なデータセットから客観的かつ明確な傾向を読み解く統計解析、などにとても感銘したし、これらに対する自分の勉強不足も感じた。

●解析法の進化と関係があるかもしれないが、若手研究者や学生の発表する研究が、膨大な努力によるデータ収集と解析によって裏付けられた非常に高度な内容であると感じた。先生やシニア研究者だけでなく、同世代との密接な対話・議論を通して、このような研究レベルまで高められたのだろうとも思った。うちの研究室ではどうしても欠けている要素で、何とかしなければならない

●約20年ぶりに参加したが、口頭・ポスター発表の多くに感銘を受けた。以前の参加時には分類・系統に関する研究報告が大部分を占めており、これらの方法論についても検鏡による形態分類であった。しかし、同じ分類・系統に関する報告であっても、温暖化に伴う分布の拡大・縮小や環境変化に伴う遺伝的差異など、メカニズムやプロセスを理解しようとする内容が多く含まれていた。

●閉会式でオーマン博士が述べたフレーズがとても印象的だったので、ここに残しておくことにする。英語表現が異なっているかもしれないが、こんな内容だった。

Science is orginated from our cruiosities.

この単純で明快なことに、私はどれくらい真摯に向かい合っているかどうか、少々不安になった。

 

研究発表に関する所感

●制限された発表時間を、効果的に使うべきだと実感した。技術的なことではなく、意識的なことである。発表内容を伝えるために時間を使うことも重要だが、対面で開催する最大の目的・利点は自由な議論・協議である。発表時間では、十分に議論するための時間確保はもちろん、そのための英会話能力も必要である。

●閉会式で述べられていたように、学術研究の最も重要なことは「興味・関心」である。自分の研究内容に対しては当然だが、他人の研究内容に対して興味・関心がないあるいは湧かないことは研究者として重大な欠点ではないかと感じた。

●導入部の説明が非常に重要と感じた。どんな研究にも、興味・関心から始まった「目的」が存在し、この目的に対する「予測(仮説)」も同時に存在するはずである。さらに、この予測を証明するための「課題」も同時に成り立つ。口頭・ポスター発表では、このような部分を相手目線で丁寧・親切に説明することが必要である。

●分かりやすい説明には、いくつかの法則があると感じた。例えば、仮説を証明するのに十分な証拠を示したごく単純な図表、仮説証明に至った端的だが親切な証拠に対する説明、仮説証明へ向かう直接的な論証、などがあげられる。

●たくさんの費用・時間・労力をかけてまで参加する学会ならば、尖った研究内容を分かりやすく発表し、できるだけ多くの研究者と議論することで、参加者から評価を少しでも多く受けるべきだと感じた。他の研究者から興味・関心を持ってもらえることには充実感を感じることができるし、そのような議論から新たな展開(共同研究・議論相手)が生まれるからである。