7th Zooplankton Production Symposium ~所感 | COPE (KOBARI Lab)

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絶滅危惧研究室の営みをつづるブログです

おはようございます。主宰です。

 

パイセス事務局のかたから機関紙への投稿依頼があるので、国際学会参加の所感について備忘録・情報整理のためにここで記録に残しておくことにします。閉会セッションでは、事務局のチバさんが描いたポンチ絵が添えられて所感を総括されていたので、それを添えながら私の所感を述べたいとおもいます。

 

温暖化

地球規模での温暖化はもはや疑いようのない現象であり、プランクトン生態系にどのような影響を及ぼしているのか、そして今後このプランクトン生態系どうなっていくのか、ということについて多くの研究発表があったと感じています。広島(日本)・プコン(チリ)・ベルゲン(ノルウェー)での開催時よりも圧倒的に発表数が増えており、10年~20年前にようやく検知できた変化が、現在では顕在化した現象・影響がより多くなり、人間活動にも様々な影響を及ぼしている結果と考えています。水産資源に依存している国々では、この温暖化に対する海洋生態系の変化が水産資源にどのような影響を及ぼすか注視する必要があると思いました。

閉会セッションでもこの点について、少々触れられていました。

 

新しい方法論・アプローチ

ここ数年で観測機器・解析技術・データベースが格段に進歩し、様々な方法論・アプローチが台頭してきたと感じます。動物プランクトンは脆弱・微小・多数であるが故に、解析には高度な技能や多大な労力・時間・経費が必要とされ、データの時間・空間解像に限界がありました。しかし、これらの問題点を克服できるような方法論・アプローチが利用され、これまでに認知・評価されてなかった現象が発見されており、これまでの概念・視座を変える(パラダイムシフト)を変える必要があると考えています。これは、さらに有意義な発見にも繋がることなので、科学の発展として素晴らしいことだと思いました。他方、これらの方法論・アプローチでは膨大なデータを生みますが、その多くは有効に利用されないまま捨てられたり、研究者自身がその膨大なデータの波にのみこまれてしまう可能性も秘めています。新しい方法・膨大なデータを使いこなし、これらの中から有意義な発見を見出すことが、研究者として必要な能力かと思いました。

これについては、特に古いデータが捨てられ忘れ去れる様をチバさんのポンチ絵で描かれていました。

 

ゼラチン質動物プランクトンの重要性

これまで、ゼラチン質動物プランクトンは人間にとってネガティブな自然現象のプロダクトとして捉えられてきました。例えば、温暖化が進んだ海洋では貧栄養に強いクラゲが増える、沿岸域の構造物が増えるとこれに着底したポリプからクラゲが大発生するとか。しかし、今回の国際学会では海洋生態系の構造や栄養動態に機能的な役割をもつ構成群であることを指摘する発表がいくつか認められました。カナダ・ビクトリア大学の研究者のかたが述べた言葉ですが、「Gelatinous zooplankton is NOT trophic dead end」はこの学会で最も印象的なフレーズの1つです。短絡的・単一的な視座ではなく巨視的な視座は、動物プランクトン研究を発展させるためには必須なことだと感じています。

これらのことを、チバさんのポンチ絵ではわかりやすく描かれています。

 

先鋭化

動物プランクトン業界だけでなく、(方法論・目的などの)先鋭化はあらゆる研究分野においても認められることだと思います。科学の発展においては必然だし必要なことだと理解していますが、動物プランクトン業界では研究分野を超えてブレークスルーを創出することを妨げる一因になっていると感じました。参加したセッションでの議論にもありましたが、先鋭化した知識・技術を理解しないと意味のあるプロダクトを創出しにくく、これを創出するのに必要な努力・時間には限界を生じるというジレンマがあります。このような問題点を克服するには、どのような研究分野でも共感できる大きな学術的な疑問(ビック・クエスチョン)が必要だとおもいました。幸い、我々の研究室では「黒潮パラドックス」というビック・クエスチョンを共有・共感できているので、いくつかのブレークスルーが創出できていると思います。

 

若手研究者の交流

今回の国際学会で一番印象的だったのは、若手世代間での活発な交流と質疑応答でした。私が国際学会に参加し始めた頃には、若手研究者の交流イベントはほとんどなかったので、その研究分野の将来を語り合える同世代にはなかなか巡り合えなかったです。そのため、自分の研究分野の巨匠との質疑応答・議論が国際学会参加の大きな目的でした。他方、私はたまたま若手研究者時代に同じような研究に従事する同世代の仲間に巡り合えたのですが、ふと考えると今の研究基盤はそのような仲間との研究によって築かれたものだと思いました。いくつかの問題点を述べてきましたが、これら克服困難と思えるような問題も若手研究者の交流を通して創出されたブレークスルーによって自然に解決されるかもしれないという期待をしました。

チバさんのポンチ絵で描かれているように、私のような中堅・古参研究者は、若手研究者が動物プランクトン業界を自由に楽しく闊歩できるようにサポートする配慮も必要と感じました。

 

閉会セッションで説明された内容、どれもこれもが納得・共感できるものでした。この国際学会で受けた新鮮な気持ちを忘れずに、今後の研究活動に活かしていきたいとおもいます。