2024春アニメ 6月22日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2024年春アニメのうち、6月21日深夜に録画して6月22日に視聴した作品は以下の2タイトルでした。

 

 

アストロノオト

最終話、第12話を観ました。

今回はアストロ荘が巨大ロボットになり、ゴシュ星の皇帝の率いる艦隊が地球に迫る場面から始まります。ゴシュ星の皇帝はミラに鍵を渡して自分と結婚しなければ地球を滅ぼすと脅す。しかしミラはキッパリ拒絶し、アストロ荘を宇宙に発進させてゴシュ星の艦隊と戦いになります。そこにショーインもラブホテルを宇宙船にして突っ込んできて、ゴシュ星艦隊を攻撃する。ショーインはゴシュ星の皇帝がミボー星の王位を継いだら自分がミラと結婚させてもらうという約束をしていたらしいので、約束を破ったゴシュ皇帝に腹を立てていたのです。しかしショーインはゴシュ皇帝の攻撃でラブホを破壊されて地球に落下していく。また、戦いの最中もアストロ荘の住人たちは呑気に宴会をしていました。そして結局ミラと拓己はゴシュ星の艦隊を撃滅しました。

そしてミラは地球に残ることにして、ナオスケは反対しますが、ミラは王位継承権を放棄する。生まれた時から決まっていることが正しいとは限らない。地球には自分の好きなものがたくさんあるからミラは自分の「好き」を選び自分を幸せにする道を選ぶのだという。それを聞いてナオスケも納得し、ナオスケは1人で鍵を持ってミボー星に帰ることにする。そして葵は法律事務所で働くことが決まり、ナオスケはハチであることが葵にバレて、葵のことをこれからも宇宙の彼方で気にかけていると誓う。

拓己も就職先が決まり、アストロ荘ではナオスケの送別会が行われ、食材のローストビーフが無くなったので探すと、行き場の無くなったショーインがゴシュ星のスパイ達と一緒に8号室に隠れていて、結局ショーイン達もアストロ荘で受け入れてあげることになった。そして山下は下高井戸の遺志を継いでナオスケと一緒にミボー星に行きたいと言い出し、ナオスケも了承して一緒に行くことになった。

そしてナオスケと山下の出発の時となり、ミラはナオスケと涙の別れをして、葵はナオスケに愛用のラジオを渡し、宇宙船は飛び立っていく。地球の上空でナオスケがラジオをつけると、葵が番組に送ったメールが読まれていて、ハチへのメッセージが読み上げられる。その頃、アストロ荘の前ではミラと拓己が今度水族館に行く約束をして帰ってくると、住人たちがサプライズ用に練習していたフラッシュモブを披露して、そこで物語は終幕となります。

 

 

ガールズバンドクライ

第12話を観ました。

今回を含めて残り2話となり、いよいよ物語もクライマックスです。この作品はオリジナルアニメですから、普通に考えれば次回で物語は完結して、2期などはありません。ところが2期や劇場版の噂が散見される。これは「人気のあるオリジナルアニメ」特有の現象であり、一種の「勲章」と考えていいでしょう。この作品を好きな人がそれだけ多くて「終わってほしくない」という願望がそういう発言を生み出しているのです。まぁこういうのは終わることを嫌がる愚痴みたいなものであり、実際は2期は無いでしょう。むしろ「1期で綺麗に終わらせることが出来るのがオリジナルアニメの強み」なのですから、わざわざその強みを放棄するわけがない。

「これだけ人気があるのだから続編を作るはず」とか言う意見もありますが、実際はそんなに人気は無いでしょう。この作品を観た人は今期の圧倒的ナンバーワンだと認めるでしょうけど、そもそも観てる人がそんなに多くない。「このすば」とか「転スラ」を観てる人の方が絶対に多い。また「東映がこれだけ金をかけてるのだから1期で終わらせるはずがない」という意見もあるが、実際このクオリティーを実現するのに金をかけすぎているわけで、オリジナルアニメでこんなの絶対に採算度外視でやってますから2期まで続けるのはさすがに無理でしょう。

まぁ作ってるのが東映ですから「劇場版で完結」という可能性はゼロではないとは思うが、とにかく「2期は無い」という前提で全13話で完結する物語を最初から組んできているのだと思うし、そうであってほしいと思っている。中途半端な終わり方よりは絶対にそっちの方がいいですから。この作品で確立されたフォーマットで登場人物を一新してキャストも一新して別の新たなガールズバンドの物語を東映が作る可能性はあるし、東映が作らなくても他の制作会社が作る可能性もあるとは思うが、今回のプロジェクトは次回の最終話で打ち止めなのだろうと思う。

同じ花田脚本の「ラブライブ!」みたいに分割2期全26話方式でやるパターンもあるし、トゲナシトゲアリのプロモーションとしてはむしろそれぐらいの方が良いのかもしれない。花田氏はファンの人たちが買い支えてくれれば2期もアリみたいなXへの投稿もしていて、むしろ意欲的みたいですが、さすがにこの作品は映像制作に金と手間をかけすぎているので「ラブライブ!」とは話が違うとは思うんですよね。それに花田氏がそんな投稿をしているというのは、つまり現状は2期の予定は無いということの裏返しであり、「全13話で完結する物語」というオファーで花田氏が脚本を書いたということを示している。つまりこのXの投稿は2期の可能性が低いということと、全13話できっちり完結するということを示唆しているわけで、私としては中途半端な終わり方はしなさそうだと分かって、むしろ安堵しました。2期を待望する人には残念かもしれませんが。

今回のエピソードを観た感じでは、次回の最終話はクラブチッタでのダイヤモンドダストとの対バンのワンマンライブを描くことになりそうですので、トゲナシトゲアリが目指している「武道館ライブ」は実現しないまま最終話を終えることになりそうです。まぁ物語の進行速度から考えて、全13話で武道館まで辿り着くのは無理だろうとは途中から察してはいましたが、おそらく最初から「武道館を目指して頑張るぞ」エンドにすることは決まっていたのでしょう。それで綺麗に物語が完結する脚本になっているのでしょうけど、その後に武道館編を描く余地は一応残してあり、この全13話の反響次第で続編あるいは特別編としての「武道館編」もアリなのでしょう。ただ、さすがに武道館編だけで1クールは蛇足感が強いので、まぁ実現したとしても劇場版なのでしょうね。それも現時点では実現の可能性はまだまだ低いとも思います。

結局のところ、この作品は2024年日本アニメ界の特異点であり奇跡のような存在となるのだと思います。アニメーターや声優を「やりがい搾取」で酷使した上で製作委員会方式でプロモーションを打ちまくるということで成立している既存日本アニメとは全く違う文脈で徹底的に内容にこだわって作られたこの作品は、「日本アニメの歴史を変えた」なんて言われたりもしますが、私はそうは思わないし、あんまりそういうのを歓迎は出来ない。全てのアニメがこんな方式でこんなハイクオリティで作られるようになったら、既存の日本アニメ文化が成り立たなくなってしまいますから。だから、この作品はあまりにも進歩的すぎてこの時代には似つかわしくないオーパーツのような作品として歴史に「爪痕」を残すぐらいでいいんじゃないかと思う。だから2期も無いし、後続作品もあまり出てこないんじゃないかと思います。

もちろん「日本アニメも変わらなければいけない」という意見にも大いに納得はしますけど、アニメ業界もアニメファンも保守主義の極みみたいなところがありますから難しいでしょう。実際、今のやり方で業界はそれなりに上手く回っていますし、良い作品もたくさん生まれていますから、これをわざわざ崩す理由は無い。そういう既存のやり方では未来が無いという意見も理解出来ますが、そういうのはとても大きな論点であり、少なくともこの作品1つだけで状況が動くことはないでしょう。

それはこの作品の劇中展開ともリンクしており、今回はトゲナシトゲアリがひたすら内容にこだわって新曲を作る姿が描写されましたが、その新曲は配信開始されると全くバズらなかった。やっぱり今の時代の売り方じゃないのでウケないのです。それはこの「ガールズバンドクライ」というアニメ作品も同じなのであって、第1話時点では人気は微妙でした。アニメ作品としての「ガールズバンドクライ」はその後徐々に人気が上昇していったが、劇中のトゲナシトゲアリの新曲も次回の最終話では何らかの形で挽回して、しっかり「爪痕」を残して、それが劇中のトゲナシトゲアリの武道館へ続く道を生み出していくのでしょう。それと同じようにアニメ作品「ガールズバンドクライ」も次回の最終話で物語が完結することで「爪痕」を残して、それがあるいは武道館編に繋がっていく道をつけるのかもしれない。そして、劇中のトゲナシトゲアリの武道館ライブが劇中の日本の音楽シーンをどう変えていくのかはおそらく描かれることはない遠い未来の話であるのと同様に、この「ガールズバンドクライ」という日本アニメ史の特異点のような作品が今後の日本アニメを変えていくのはもっとずっと先のお話なのだと思います。

そういうわけで、とりあえず今回のエピソードですが、大まかに言えば次回の最終話に繋がる内容であり、割と静かな展開でありました。トゲナシトゲアリがゴールデンアーチャー所属となりメジャーデビューが決まり、楽曲作りを進めていく場面がメインでしたが、次回おそらくお披露目されるであろう新曲「運命の華」を今回は伏せておく必要があるため、演奏シーンなどは無かったので、そのぶん前回みたいなライブ回に比べて静かな印象にはなります。ただ次回は思いっきりライブ回でしょうから前回以上のライブシーンの盛り上がりは期待出来ますから、それは別にOKです。

そして今回は楽曲作りに並行して、ダイヤモンドダストから対バンの申し込みがあって、色々と迷った末に勝負を受けることを決意し、それと同時に迷いを振り切って楽曲作りも成し遂げるというドラマの盛り上がりがちゃんと描かれていて、相変わらずストーリーがアツかった。まぁ普通に神回でしたけど、この作品は神回が通常回で、この作品の神回は超神回ということになってます。そして、第1話から前回までのエピソードでは、トゲナシトゲアリのメンバーそれぞれの抱える葛藤が描かれたり、各自が様々な過去のトラウマと戦う話が展開されてきました。それが前回のフェス回でそれらが一旦全て回収されて、まるで最終話のような内容だったのですが、そうすることによってストーリーが一気にクリアになって、この作品の根本的なテーマが今回からのラスト2話で描かれることになったのだといえます。

それはここまでの各自の抱える葛藤の物語ともリンクしてくるのですが「孤高の天才の苦悩の物語」だといえます。それがここまでは各自の物語として描かれてきたのですが、ラスト2話ではそれがトゲナシトゲアリというバンドとしてぶち当たる壁となってくるのでしょう。天才というものは、特に芸術的な分野での天才というものは一般人とは感性が違うのであまり世間で受け入れられにくい。しかし、そこで世間に迎合することは稀有な才能を腐らせることに繋がるので、どうしても独自の路線を追求することになり、それは大抵はイバラの道となる。それが天才のリアルな残酷物語なのであり、天才が安易に成功する安っぽい非現実的な物語などでは味わえない醍醐味というものがある。そうして天才が己の道を貫いて壁を突破する物語は、それは凡人が必死に努力する物語に負けない感動物語となるのです。

そういう結末が描かれるであろう超神回必至の最終話の前フリとなる今回のエピソードですが、まず冒頭はトゲナシトゲアリの5人が撮影スタジオでアーティスト写真を撮ってもらっている場面から始まります。これは、前回のフェス「BAYCAMP」で見事なライブステージを披露して人気投票でも上位に入ったとのことで、それをゴールデンアーチャーの上層部にも認められて、トゲナシトゲアリがゴールデンアーチャー所属でメジャーデビューする運びとなったことを表している場面です。

しかし、前回のライブ回ではコメントする内容が多すぎて、あえて触れませんでしたが、トゲトゲ5人の衣装が実に個性的ですね。今回の冒頭のアーティスト写真撮影場面の衣装は前回のライブシーンの衣装と同じなんですが、仁菜は「傍若無人」とか「仁義」とか文字の入ったハッピスタイル、桃香はいかにもロックなクラッシュや装飾多めのクールなスタイル、すばるは和風喫茶のウエイトレスみたいな和風のストライプな衣装、ルパはミリタリースタイル、智はサソリか海老か分からんけど変な生物の柄の下に「藻屑と消えろ」と書いてある変なシャツを着てます。いや、明るい場所で改めて見ると、あまりに統一感が無さ過ぎて笑えてきます。

そして後日、正式に事務所所属の契約を交わす日となり、ちょうどルパと智は吉野家のバイトの最終日ということで欠席して、残り3人がゴールデンアーチャーの事務所に出向き、晴れてトゲナシトゲアリの担当となった三浦さんから5人分の契約書を貰うこととなりました。ここで仁菜がテーブルの上に置かれたミネラルウォーターのラベルに社長の趣味で会社の名前が入っているのを見て驚く描写があるが、こういうのはストーリーの上では特に深い意味は無くて、この作品はこういう音楽業界や音楽に絡む場面、その他の日常描写などでも、やたら細部にこだわりのあるところが特徴的で楽しいですね。

そうして契約を終えた後、仁菜たち3人はゴールデンアーチャーを後にして、ルパ達のバイト先の牛丼屋に行く前に楽器屋に寄ったりします。ここでロクに契約書を読んでいなかった仁菜をすばるが「アダルトな仕事をさせられると書いてあった」と言って脅かしてからかったりしますが、実際はアダルトな仕事は無いみたいで残念です。ちょっとぐらいなら見て見たかった気もします。実際は仁菜たちは給料を貰う代わりに売り上げの何%かが事務所の収益になり、事務所はそのためにあちこちに売り込みをかけるみたいなことが書いてあったようで、それを桃香が仁菜に説明しますが、仁菜は初めて貰うプロのバンドマンとしての給料で何を買おうかという考えで頭がいっぱいみたいで、楽器店で初心者向けのエレキギターのセットを見入ったりしている。

ただ、別に浮かれているわけではなく、仁菜はとにかく早く上手くなりたい、そしてもっとトゲナシトゲアリで成功したいと思っている。それは、仁菜が先日のフェスの結果に満足していないからでした。確かにアンケートでは上位に入りゴールデンアーチャーの上層部には認めてもらえてプロとして事務所に所属出来た。そういう意味では確かに「爪痕」は残せた。だが仁菜がフェスで目指していたのはそれだけではない。仁菜はダイヤモンドダストに勝つ気満々だったのです。そしてライブのパフォーマンス的には仁菜は自分たちの方がダイヤモンドダストよりも上だったと思っていた。

ところがフェスの後、仁菜がネットをエゴサしてみるとダイヤモンドダストの評判ばかりで、トゲナシトゲアリの話題など全く盛り上がっていなかった。どう見ても自分たちの方が凄いライブをしたのにどうしてなのだと仁菜は憤慨していたのです。しかし仁菜がそういう怒りをぶつけても、桃香は「そもそもステージが違う」と言う。ダイヤモンドダストはメインステージだし、こっちはサブステージです。世間で話題になるのはメインステージに出演したアーティスト中心になるのは当然なのです。特にダイヤモンドダストはもともと大手事務所の後押しで知名度が高かった上にアイドルバンドのイメージをひっくり返す玄人ウケするパフォーマンスをいきなりやってのけたのだから話題を全部持っていくのは当然だった。当然フェスに来たお客のアンケートでもトゲナシトゲアリよりも上位であり、フェスに来ていない一般人の評判はダイダス一色となっていた。

しかし、それでも自分たちの方が良いライブをしたはずだと仁菜は文句を言う。それなのに評価されないなんて、まるで自分たちのやり方の方が間違っていると思われているみたいじゃないかと仁菜は気にしている。仁菜はダイヤモンドダストに「私たちの方が正しかったと証明してみせる」と宣戦布告した。常々からそう言い続けてもいる。フェスのライブの前のMCでも「あたしの全てを否定した全ての連中に、間違ってないって叫んでやる!」と宣言もした。だが結果はこんな感じであり、仁菜は世間の多くの人々はまだずっと自分のことや桃香の歌やトゲナシトゲアリのことを否定したままであり、ダイヤモンドダストやヒナは自分たちのやり方が正しくて仁菜や桃香のやり方の方が間違っていると証明されたと思っているのだろうと感じた。

それで仁菜は世間の人々の理解の無さに腹を立てるのだが、桃香は「エゴサなんかするな」と言う。それを聞いて、まるで桃香が「どうせ世間は分かってくれない」と言っているようで仁菜は悔しかった。桃香も旧ダイヤモンドダスト時代に、そういう自分の音楽観と世間との意識のズレに散々苦しんだのです。その経験を踏まえて桃香は「自分の曲ではプロでは通用しない」と言い、プロになることを拒絶していた。その桃香がようやく前向きになってくれて、トゲナシトゲアリの皆で「桃香の音楽で勝負しよう」と心を1つにしてこうしてプロとなったのです。その矢先にこんな形でまた桃香に「やっぱり世間は自分の音楽を分かってくれないんじゃないか」と思わせてしまう結果になって、仁菜は申し訳なかった。

だが桃香は続けて「焦ってもしょうがない」「勝負はこれからだろ」とも言ってくれる。それを聞いて仁菜は決して桃香の心は折れていないのだと思って安堵する。桃香だって今回は「そもそもステージが違う」のだから負けは仕方ないとは思っている。それは言い換えれば「同じステージに立てば決して負けない」という強い想いがあるということです。ダイダスの方が先行でデビューしていて大手事務所もバックについているのだから先に良いステージに立てているのは当然であり、後発で追いかける自分たちが不利な場所からのスタートになるのは当然のこと。事務所のバックアップはダイダスほどは見込めないかもしれないけど、それでも地道に頑張っていけば追いつけない差ではないと桃香も思っている。そして同じステージに立てた時、トゲナシトゲアリの5人であればきっとダイヤモンドダストに勝つことが出来ると桃香は信じている。

それで仁菜も安心して機嫌を直して、その後、仁菜と桃香とすばるの3人はルパと智のバイト先の吉野家に行き、桃香が2人に契約書を渡して、更にバイト卒業記念にすばるが2人に花を贈る。ルパも智もゴールデンアーチャーとプロ契約したのを契機に音楽活動に専念するために長く続けた吉野家のバイトを今日で辞めるのです。この店は一時期は仁菜も働いていた場所であり、桃香が仁菜と初めて出会った日に夕食を喰いに来た店でもあり、すばるも加わった新川崎時代から練習帰りによく食べに来ていた思い出の店です。そして、そこには常にルパと智が居たので、その2人がこの吉野家から居なくなるというのは仁菜たち3人にとっても何だか感慨無量なのでした。まぁどうせまた食いに来るんだろうとは思うんですが、それで何か節目としてすばるは花を贈り、花には仁菜からのメッセージカードも添えられていた。そこには「ありがとう、ベニショーガ魂、忘れてはいません」とか書いてあり、「紅ショーガ魂」とは何なのか意味不明ですが、とにかく智はそれを見て嬉しそうにしています。そんな智にルパも「お疲れ様でした」と笑顔を向ける。そしてルパと智の最後のバイトを記念して、仁菜と桃香とすばるの3人はいつものように牛丼の「並」を注文して食べます。

そうして、その後は桃香の家で「トゲナシトゲアリのプロ契約記念パーティー」と題して、5人で鍋を囲んで夕食会となる。ルパと智がバイト先からやってくるのを待って仁菜たち3人は鍋の準備をするが、その際に仁菜は上京して最初に出会った日に桃香とこの家で交わした会話の話をします。あの時に仁菜は桃香に「世間知らずのお嬢様」みたいに決めつけられて腹を立てて、それで

桃香も失礼なことを言ったと謝罪したのだが、今になって思い返せば、仁菜はあの時、本当は自分は図星を突かれて頭に血が昇ったのではないかと気付いたのだという。

今になってそんなことに気付くということは、あの時は自覚していなかった自分の真実を仁菜が理解できるようになったのだということを意味する。あの後、仁菜は1人で生活し始めて、自分は何も出来ないことに気が付いた。それまでは自分は1人で何でも出来ると思っていて、だから平気で1人で川崎に出てきたのだが、1人では何も出来ずに色んなことを桃香に教えてもらい、その結果、仁菜は「自分は本当は何も分かっていなかったのかもしれない」と思うようになった。その経験があったから、仁菜は自省することが出来るようになり、自分は本当に世間知らずで、そのことを指摘されてキレていただけだったのだと気付くことが出来たのです。

そうして自分を省みることが出来るようになった結果、仁菜はすばるや智やルパとも上手くやっていけるようになった。そして父親のことも理解できるようになり、家族とも和解することが出来た。ダイヤモンドダストに負けたくないという気持ちは残っているけれど、もう以前のように嫌な感情はほとんど無い。それは仁菜の成長であったが、それを聞いて桃香は、それなら仁菜がロックをする意味はもう無いのではないかとも思った。いや、そもそもロックンローラーになる必要のない人生だったのかもしれない。そんな仁菜を自分の過去の思い出と重ね合わせてロックの道に引き込んだのは自分のエゴが招いた過ちだったのはないか、仁菜の人生を自分は狂わせてしまったのではないかと桃香は心配になり「本当に良かったのか?」と問いかける。それに対して仁菜は真っすぐ桃香を見つめて「そう思えるようにするんです、皆でこれから」とキッパリ言う。仁菜はもはや自分の怒りをぶつけるためにロックをやっているのではない。これから仲間5人が自分の信じる道を正しいと思って生きていけるようにするためにロックをやろうと考えているのです。

そうしているとルパと智が酒やジュースを買ってやってきて、鍋パーティーが始まり、皆でワイワイ楽しくやりますが、そんな仲間たちの様子を見ていると、不意に桃香が新曲のアイディアを思いついたらしく、スマホを弄り始めます。そして数日後、トゲナシトゲアリの楽曲を制作するためのレコーディングスタジオでの作業が始まる。ゴールデンアーチャーが手配してくれた立派なスタジオであり、三浦さんがエンジニアの中田さんをはじめとしたレコーディングスタッフを紹介してくれますが、みんな似たようなメタボ体型なのが面白い。仁菜たちはスタッフの皆さんが外見が似すぎていて区別がつきにくくてちょっと困ってしまったりします。

レコーディング作業には当然ながら既存のトゲナシトゲアリの楽曲を改めて録音して音源化する作業も含まれますが、桃香は新曲も用意してきていた。それが先日の鍋パーティーの際に思いついた曲で、簡単なメロディーラインと共に仮の詞も桃香は用意してきており、その詞を書いた用紙には「運命の華」というタイトルもつけてあった。桃香はこれをトゲナシトゲアリのメジャーデビューの一発目の曲にしたいのだという。そして、それは自分たち5人をイメージして作った曲なのだと桃香は言います。最初の曲は何がいいかって考えたら、やっぱり自分たちのことしか無いと思ったのだそうです。

そうしてレコーディング作業が始まるのだが、これは季節的には秋の出来事ということになるのでしょう。そもそも前回描かれたフェスの「BAYCAMP」は現実にも行われているイベントで、今年のBAYCAMPにはリアルバンドのトゲナシトゲアリも出演しますので、それが劇中にも反映されていると考えて、今年のBAYCAMPは9月14日と15日ですから、劇中でも9月15日がトゲトゲのライブだったと考えて、その後はゴールデンアーチャーの社内で三浦さんが上司を説得してくれたり色々あって、手続きなどもあったでしょうからトゲトゲの5人がゴールデンアーチャーと契約を交わしたのは12月に入ってからだったみたいです。その数日後にレコーディングスタジオに入ったことになりますから、レコーディング作業は12月上旬から年末にかけてという感じなんでしょうね。

この後はレコーディング作業の様子や5人の日常描写などがダイジェストで描かれていきます。智は電車で妊婦に席を譲る場面が描かれていて、母親というものに対しての優しさを感じさせてくれる。前回フェス会場にやってきた母親とのその後の顛末は特には描かれていないが、おそらくあれは智本人が呼んだのだと思われることから、一応和解はしたのだと思われる。それを反映するように、母親という存在に対する優しさが自然に出るようになったという智の変化がこうして描かれているのでしょう。

また、ルパの部屋では以前のバンド仲間と一緒に撮った写真に代わって、あの諏訪に行く途中で立ち寄った談合坂サービスエリアで撮ったトゲナシトゲアリ5人の写真に「目標!!武道館!!」と書いて貼ってあるのが描かれる。また、すばるはアクターズスクールの練習場で他の生徒が演技の稽古をしてる横でドラムのイメトレをしたりしている様子が描かれるが、どうやらアクターズスクールは辞めてはいないようですね。前回の描写を見る限りでは祖母の天童さんはすばるがバンドでプロを目指すことは認めてくれたはずなんですが、天童さんもすばる自身も別にアクターズスクールを辞めるという決断にはならなかったようです。まぁどっちにしても芸能界に入るわけですから、人脈を作るという意味でも、無理にアクターズスクールを辞める必要も無いということなのでしょう。もちろん仕事優先ですから、バンド活動に支障のない程度に顔を出すというレベルなんでしょうね。

そして、仁菜は相変わらず楽器店で初心者用のエレキギターセットを睨んで何かを考えている様子が描かれ、桃香は1人で武道館の前に立って、武道館を見つめている様子が描かれる。6話で桃香を除く4人で武道館を見に行く場面が描かれましたが、ここにきて桃香も4人と同じ想いであることが示されたといえます。そして、「武道館を目指す」というのは桃香にとっては、高校時代にダイヤモンドダストのナナ達と誓った約束でもあります。今の勢いだとダイヤモンドダストは武道館ライブも実現してしまいそうですから、桃香も自分もその約束を果たすためにトゲナシトゲアリで何とかしてそこまで昇っていかなくてはいけないと強い決意を示す場面であったのでしょう。

そうしてダイジェスト場面は終わり、レコーディング作業もだいぶ進んだ頃、おそらくもう年末も近づいている頃なのだと思われるが、レコーディング作業が行き詰っている場面となります。どうやら桃香が新曲「運命の華」の音作りに迷っているようです。それでどうしても気になる部分をやり直そうということになるのだが、もう深夜なので作業は終わり、続きはまた後日ということになる。そうして帰りの電車の中で仁菜はもうすぐ自分たちの曲が出来て多くの人のもとに届くのだと思うと楽しみだと言いますが、ルパや智は「誰も手に取ってくれないかもしれない」と、そんな甘いものじゃないと指摘する。だが仁菜は桃香があんなに迷うほど必死に入れ込んで作っているのだから、きっと良い曲が出来て、世間の人々も手に取ってくれるようになるはずだと、あくまで楽観的です。

そうして相変わらず桃香が音作りに試行錯誤している中、仁菜は三浦さんが電話をしていてダイヤモンドダストの話をしているのを偶然聞いてしまい、仁菜がダイヤモンドダストと因縁があることを知っている三浦さんは仁菜に話を聞かれてしまったことを焦り、その挙動が不審だったために仁菜が余計に怪しんで、結局は三浦さんは電話の内容をトゲナシトゲアリ5人に打ち明けることになった。それはダイヤモンドダストから対バンの申し込みが来ているという話でした。

正確にはダイヤモンドダストの所属事務所からトゲナシトゲアリにそういうオファーが来ていて、そういう連絡がゴールデンアーチャー本社に来て、会社の上司から三浦さんにも連絡が来たみたいです。川崎のクラブチッタで2月のバレンタイン企画ということで2日間のライブを行い、1日目はダイヤモンドダスト、2日目はトゲナシトゲアリがそれぞれワンマンライブを行うという企画です。ちなみにクラブチッタはキャパは1300人であり、これまでトゲナシトゲアリが出演してきたライブハウスよりもだいぶキャパが大きい。BAYCAMPのサブステージ前に集まった客の数なら1000人近くは居たであろうけど、あれはワンマンライブではないし、トゲナシトゲアリのチケットを買って来た客ではない。ワンマンライブで1300人のキャパの会場というと、現状のトゲナシトゲアリでは果たして満席に出来るかどうか怪しい。

それでも仁菜はいよいよダイヤモンドダストと「同じステージ」で勝負できるチャンスがやって来たと思い「望むところです」と乗り気になる。だが三浦さんも他の4人もイマイチ乗り気な様子でないのは、やはりこのオファーは不自然だからであり、そのからくりは企画書の続きに書いてあると三浦さんは説明します。そこには「チケットの売り上げと動員人数で勝負をつけて、勝ったバンドの曲がドラマの主題歌に決定する」と書いてあった。それを見て桃香たちは「なるほど、そういうことか」と納得しますが、仁菜には何が問題なのかよく分からない。それで桃香たちが席を改めて仁菜に状況の説明することにした。

つまり、これは「出来レース」なのだと桃香たちは仁菜に説明する。最初から勝敗は決まっていて、ドラマの主題歌のタイアップもダイヤモンドダストに決まっているのですが、ドラマのプロモーションのためにこんな企画をやるのだろう。もちろん「チケットの売り上げと動員人数」という明確な指標で勝負する以上、不正が入り込む余地は無く、トゲナシトゲアリが勝つ可能性もゼロではないのだが、同じ観客の前で同じ日時に勝負するのではなく、それぞれのバンドが別の日に別の客を集めて勝負するわけですから、この場合はどう見てもダイヤモンドダストが有利なのだと桃香たちは言う。

同じ場所で同じ客の前でパフォーマンスを競い合うのならばトゲナシトゲアリにも勝機は十分あるでしょう。しかし、それぞれのバンドが別の日に自分たちのファンを集めてライブをするのなら、どちらも同じぐらい盛り上がるでしょうし、むしろ固定ファンの多いダイヤモンドダストの方が盛り上がる可能性が高い。というか、そもそも盛り上がりは勝負には関係なくて、あくまで動員人数で勝負が決する以上、もともとファンの多いダイヤモンドダストの方が有利なのです。

おそらく500人ぐらいのキャパの会場であれば両方のバンドともに満席に出来る可能性が高いでしょうから勝負がつかない可能性が高い。逆にダイダスがデビューライブをやった東京ドームシティホールみたいな3000人ぐらいのキャパの会場ならば、そもそもトゲナシトゲアリに勝ち目など無いので勝負には乗ってこない。だから、ちょうどトゲナシトゲアリが勝負に乗ってくる可能性がありつつ確実にダイヤモンドダストが勝てそうな絶妙のキャパの会場であるクラブチッタで勝負を持ち掛けてきているのです。その目的は一見フェアな真剣勝負で盛り上げてドラマのプロモーションをしながら、確実に勝負には勝って予定通りにドラマの主題歌のタイアップを正々堂々と得ようというダイヤモンドダスト側の事務所の思惑なのでしょう。

つまり、ダイヤモンドダスト側は一見すると、ちゃんと勝負しようとしてきているように見せかけて、トゲナシトゲアリとちゃんと勝負しようという気は無い。ただ、それはあくまで事務所側の思惑であり、ダイヤモンドダストのメンバー自体はどう思っているのか分からない。桃香が再会した時に感じたナナ達の印象はそんな狡猾なことを考えている様子は無く、機会があればトゲトゲともちゃんと勝負してくれそうな雰囲気はあった。ただ、そんなことは考えても仕方ないとも桃香は思った。ナナ達も今の事務所の方針を受け入れてプロとして仕事としてバンドをやっているのであり、そこに個人的な感傷を挟むつもりはないのであろう。ドラマのタイアップやプロモーションのために必要なのだと言われれば、内心の葛藤は表に出すことはせずにトゲトゲをダシに使うような出来レースでも淡々とこなす、それがナナ達が選んだ道なのだと桃香は納得した。

しかし仁菜はそこまで好意的に考えることは出来ないようで、「ヒナはきっと何とも思ってない」と言う。自分の知っているヒナは「自分に得な選択をして何が悪いの?」と言うような子なのだと仁菜は言います。だから、少なくともヒナに関しては、事務所の思惑に嫌々従っているのではなく、ダイヤモンドダストの成功のためなら出来レースでも何でも喜んでやるだろうし、そもそもトゲトゲとちゃんと勝負する気など無いのだろうと仁菜は決めつける。しかし、前回のライブの場面を見た印象ではヒナはそんな子には見えなかったし、そもそもそんな人間が嫌いなはずの仁菜が昔はヒナと親友だったというのですから、どうも仁菜の発言には思い込みが大きいようにも思える。ただ、とにかくそんなふうに仁菜のヒナに対する印象を最悪なものに一変させる何らかの出来事が2人の間に熊本時代に起きたことは間違いないようです。

とにかく、結論を出さねばいけないということになり、仁菜とルパは勝負を受けるべきだと主張したが、桃香とすばると智は、そんな相手の都合のいい出来レースに乗る必要は無いし、そもそも勝ち目が無いという理由で、対バン勝負は受けるべきでないと主張し、多数決の結果、勝負を受けないことに決まった。そして、翌日5人でゴールデンアーチャーに行き三浦さんにそのことを伝えたのだが、仁菜がそこで「三浦さんはどう思ったんですか」と意見を求めた。それに対して三浦さんは「正直、迷っていた」と答える。

三浦さんはこのオファーを聞いた時、今のトゲトゲではダイダスに勝つのは難しいと思った。だが、この勝負に乗れば、たとえ勝負には負けてもトゲトゲの知名度は上がるとも思ったそうです。それで乗り気になる部分もあったのだが、もし大差で負けるようなことがあれば「トゲトゲは人気が無い」という印象が世間に広まってしまい、むしろマイナスになるという心配もあった。だから迷ったのだという。それだけ現時点のトゲトゲの動員力が三浦さんにも確実なところは読めないのです。デビューしてもう少し地道に活動してからならば、そのあたりも予測がつくようになってくるのですが、まだ曲も出していない今の段階では読めない部分が多い。だから「時期尚早」という桃香の言葉に三浦さんも同意は出来るのでした。

ただ、桃香はそうした三浦さんの話を聞いて、なるほどそういう考え方もあるのかと思い、もしかしたらダイヤモンドダスト側がこの対バン勝負を持ち掛けてきたのには「ドラマ主題歌タイアップのための出来レース」以外の意図もあるのかもしれないと考えた。そもそも対バン相手はトゲトゲである必要は無いのです。単なる当て馬ならば他に適当なガールズバンドはいくらでもある。わざわざデビュー前のトゲトゲを指名してくるのは不自然だった。つまり、トゲトゲに対して何か思うところがあってこの勝負を持ち掛けてきているのではないか。

ただ、ダイダス側が真っ向勝負をする気が無いことは確かだし、出来レースで勝ちを譲る気も無いことも確かだった。それならどういう意図があるのかというと、それはまさに三浦さんが感じた2つの可能性がその答えを示していると桃香は思った。1つの可能性は「対バン勝負でトゲトゲの知名度を上げてやろう」という意図であり、もう1つの可能性は「対バン勝負で圧勝してトゲトゲを叩き潰してやろう」という意図でした。桃香はそのどちらもあり得ると思った。まず前者は昔馴染みのナナ達がデビューしたばかりのトゲトゲのために知名度を上げる場を用意してくれたという解釈で、これは十分あり得そうではあった。一方で後者の方も、勝手に脱退した挙句に他のバンドでプロデビューしてきた桃香に腹を立てたダイダスの事務所の人間がトゲトゲを叩き潰す場を用意したという解釈であり、これも十分にありそうな話であった。

そのどちらなのか知りたくて、桃香は三浦さんにそういう考えを抱いたのは先方の事務所から何かを聞いたからなのかと尋ねるが、そういうわけではなく三浦さんは自分1人でそう考えただけであり、先方の思惑は分からないと言う。ダイダス側はトゲトゲと共存共栄でやっていこうとしているのかもしれないし、逆にトゲトゲを潰してやりたいと思っているのかもしれない。ダイダスのメンバーだって全員同じ考えなのかどうか不明だし事務所の人間も多数関わっている。だからいずれの考え方が真実かなんて分からないし決められない。誰かの建前が他の誰かの本音なのかもしれないのだから、この場合、何が真実なのかなんて考えるだけ無意味なのだというのが三浦さんの意見でした。ただ、1つだけ確かな真実は、ダイダス側の思惑がどうであれ、この勝負を受けて勝つか或いは僅差で負ければトゲトゲの知名度は上がり、大差で負ければトゲトゲは立ち直れないダメージを負うということであり、結果がどうなるのか決めるのはトゲトゲ次第だということです。

だが桃香は結局は対バン勝負を受けないことにした。やはり現在のトゲトゲの動員力が読めないので大差で負けるリスクを負う覚悟が持てなかったのです。更にその後レコーディングスタジオに入って新曲「運命の華」の音作りに試行錯誤して、桃香は「こういうのウケないっていうか、古いのかなって思って」と言って、根本的に作り直そうとする。それを見て、仁菜は「あちこち気にしすぎて最初にあったものから離れていってるように思う」と指摘し「一番大切なのは、あたし達の歌になっているかいないかだけ」と言う。つまり仁菜は桃香が本来の「自分たちの歌」を忘れて世間ウケのする方向に流されているんじゃないかと指摘したわけです。そして、その原因は桃香が以前に言っていた「あたしの曲ではプロでは通用しない=世間に受け入れられない」という不安に囚われてしまっているからだということにも仁菜は気づいた。

つまり、桃香が新曲の音作りに迷いまくっているのも、とことん突き詰めて良いものを作ろうという前向きな理由なのではなく、自分の感性でそのまま作ってしまって本当に大丈夫なのかと不安になって迷走していただけだったのです。また、ダイダスとの対バン勝負にトゲトゲの飛躍の可能性があることを知ってもなお勝負を避けようとしているのも、同じような不安が原因でした。自分の音楽でいくら頑張って良いものを作っても世間の人には見向きもされずお客を集めることが出来ず惨敗するんじゃないかと、どうしても不安になってしまうのです。それだけ桃香にとって旧ダイダス時代に「あなたの曲では世間には受け入れられない」と突きつけられてしまったことは大きなトラウマとなっているのでしょう。その痛いところを仁菜に突かれてしまい、桃香は黙り込むしかなかった。

そうしてその日のレコーディング作業は終わり、帰り際に5人で三浦さんと別れの挨拶を交わした際、仁菜は「私やっぱりダイダスとの対バンやりたいです」と三浦さんに言う。そして仁菜は「どんな事情や思惑があっても、とにかくワンマンで歌える場がある以上、トゲトゲはその場から逃げてはいけない」「それをしたら負けたことになる」と主張する。前回の話のフェスのライブ前のMCで仁菜は「現実に呑み込まれないようにこの歌を貫く」「そして、この歌で信じていない人たちを信じさせてやる」と宣言した。それがトゲナシトゲアリの信条なのであり、困難な現実がある時こそ、「自分たちの歌」でそこを突破するのがトゲナシトゲアリの本来あるべき姿なのであり、「自分たちの歌」を避けて安全策を逃げるのはトゲナシトゲアリの選ぶべき道ではないのです。だから、ワンマンライブという「自分たちの歌」を歌える格好の場がある以上、そこから逃げてはいけない。そこで逃げたら自分たち自身に負けたことになるのだと仁菜は言っているのです。

ここで改めて仁菜がその正論を持ち出したのは、桃香が不安に囚われてそのトゲトゲの信条を忘れそうになっていることに気付いたからです。だから、その正論を突きつけられて桃香は黙り込むが、ルパが割って入って「桃香さんが決めるべきです」と言う。ダイヤモンドダストと一番縁が深いのは桃香なのだから桃香が結論を出すべきという理屈ですが、これはあくまでルパがこの場で桃香と仁菜の言い合いになって三浦さんの迷惑にならないように気を使ったのであり、とにかく強引に「桃香に一任する」という状況を作り、ひとまず議論を終わらせ、結論は持ち帰って決めるということで三浦さんとは別れた。

そして、その足で5人で仁菜の家の近くの神社に立ち寄り、仁菜は「神頼み」に来たのだという。そして桃香に何を悩んでいるのかと尋ねて、桃香が「曲が上手く作れないから悩んでいる」と誤魔化そうとするので仁菜は「私たちに嘘をついてほしくありません」と言う。それで桃香は自分の正直な気持ちを打ち明けるのだが、桃香の本心は、単に自分の歌が世間に受け入れられないことが不安だったから悩んでいたのではなく、自分が自分の曲に夢中になって自分の音楽にこだわることで、また自分の音楽では世間にウケずプロの世界で通用しないという現実を突きつけられることで旧ダイダスの時みたいにまた仲間たちを失う結果になるんじゃないかと思って怖かったのだという。だから桃香は大衆ウケのする音に妥協しようとしたり、ダイダスとの対バンからも逃げようとしていたのです。それは、それだけこのトゲナシトゲアリの4人の仲間が桃香にとってかけがえのない物になっていたことの証でした。ダイダスの時は最終的に仲間よりも自分の音楽の方を選んだ桃香であったが、いや、その苦い経験があったからこそなのかもしれないが、今回は自分の音楽を犠牲にしてでも、大事な仲間とずっと一緒にいられる妥協案の方を選ぼうとしかけていたのです。

だが、今のトゲトゲの音楽は「桃香の音楽」ではなく「5人全員の音楽」でした。だから、それを犠牲にする選択は仲間を大事に思うのならば誤りだったのです。そのことは桃香も今となっては分かっている。そして仁菜もまた、桃香が不安に囚われていると分かった時から、それはきっとダイダスの時のような辛い仲間との別れをしたくないゆえの悩みなのだろうということも分かっていた。そうした桃香の苦しみは理解した上で、仁菜はこの神社で「神」の話をしたいと思ったのです。

仁菜は拝殿の前に立つと、自分たち5人はもともとバラバラだったのだと言う。でも自分が桃香の音楽の情熱をずっと身体の中に感じ続けていたから桃香と巡り合ったように、この5人は音楽で繋がったのだと信じているのだと仁菜は言う。自分はこの5人の音楽で繋がったトゲナシトゲアリの物語を作りたい。そして5人で同じ夢を見ていきたい。だから自分はバラバラだった5人を音楽で繋いでくれた「ロックの神様」というものが存在すると信じている。だからこの5人はどんなことがあっても離れ離れになったりしないと信じている。その絆はもともと同じ高校に居たダイヤモンドダストよりも強いはずだ。何せ本来出会うはずがなかった5人を「ロックの神様」が音楽で結び付けてくれた絆なのだから、運命的な絆に決まっている。だから「桃香さんも信じてほしい」と仁菜は言う。どんなことがあってもこの5人が離れ離れになることはないと安心してほしい。だから自分の音楽を信じて貫いてほしいのだと仁菜は桃香に訴えるのでした。

そして仁菜は小指を立てて差し出して「ロックの神様は居ると思うんですよね」と笑い、桃香も「居るといいな」と笑って小指を立てて差し出して、仁菜の小指に重ねる。そこに他の3人も小指を突き立てて差し出して重ねてきて、5人全員が改めて自分たちの音楽を貫く決意を固める。そして5人で拝殿に向かって「ロックの神様」にお願い事をしてみることになり、皆が口々に「百万枚売れるように」「千万枚」「一億枚」とふざけて言いあう中、桃香は「私は、ダイダスとのライブで勝てますように」とさりげなく呟く。それを聞いて、遂に桃香が勇気を出してダイダスとの対バンを決断してくれたのだと気付いた仁菜たちは歓喜するのでした。桃香は遂に過去に自分の音楽のせいで仲間を失った悲しみを乗り越えることが出来たのですが、それはロックの神様の導きとしか思えないこの4人の仲間との奇跡のような出会いがあったからこそだったのです。

そうしてすっかり吹っ切れた桃香は、あくまで自分たちの本来の音楽性を押し出して新曲「運命の華」のレコーディングも終えて、年末ギリギリに「運命の華」は完成し、トゲナシトゲアリのプロとしての最初のレコーディング作業は完了した。ずっと黙々と作業に付き合ってくれたエンジニアの中田さんも「やりたいことがちゃんと正しく入っていて、今の形が僕は好きだ」と言ってくれる。そして「ずっと見てきた貴方たちが飾らず表現出来ている」「だから作っていて気持ちがいい」と褒めてくれた。また三浦さんも「三浦も好きです」と褒めてくれて「この曲が売れると信じています」と言ってくれた。そして年が明けて1月、「運命の華」の配信開始日、仁菜は「ロックの神様」に手を合わせて「どうか十万再生、いや、せめて1万再生」と願をかけて恐る恐るスマホの画面を開いて「運命の華」の再生数をチェックするのだが、そこに表示された再生数はなんとたったの「103回」再生であり、仁菜は「なんだ、これ」と愕然としてしまう。結局は自分たちの音楽を貫いても世間には受け入れられないのか。それならばダイダスとの対バンでも惨敗を喫してしまうのだろうかと暗雲が立ち込めてきたという、今回はこういう衝撃的な場面で終わり、次回の最終話に続きます。さて、どうなるのか、対バンまで1ヶ月、ここから一体どうやって巻き返すというのか。一体どう畳むのか、最後の最後まで退屈させない作品ですね。