2024春アニメ 6月15日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2024年春アニメのうち、6月14日深夜に録画して6月15日に視聴した作品は以下の2タイトルでした。

 

 

アストロノオト

第11話を観ました。

今回も含めて残り2話となり、次回は最終話です。前回、あすとろ荘の昔の写真が見つかって、庭に鍵のオブジェが存在したことが分かり、それが今どこにあるのかとミラ達が探していたところ、ポストの裏に隠れていたことが分かり、遂にミラ達はミボー星の王位継承の証となる鍵を手に入れます。そうなるとミラはミボー星に帰らなければならなくなるわけで、出発は1週間後となり、ミラはあすとろ荘の住人たちには「故郷に帰って家業を継ぐ」と説明して大家を辞めて旅立つことを告げます。

それで住人たちがミラが旅立つ日にサプライズ送別会をやろうということになり、フラッシュモブの練習をします。拓己もその日の昼間はミラと水族館に行く約束をして、ミラと拓己が水族館から帰ってきてからサプライズ送別会ということになる。ところが実はショーインがゴシュ星のスパイだったみたいで、水族館に行く日、ミラを攫って連れていこうとする。そのことに気付いた拓己がミラを奪い返して、これまでショーインが強かったのは全部ゴシュ星のスパイとの八百長だったのであり実はショーインが弱かったのだと分かり、拓己は怒って自分がミラを守ると言い、ミラに地球に残ってほしいと伝える。

そして拓己はミラに好きだと伝えて、ミラも自分も拓己のことが好きだと応えて、2人の想いが通じ合ってキスをすると鍵が光って、あすとろ荘の屋根の上に鍵穴が現れたのでそこに鍵を差し込むと、あすとろ荘が変形して巨大ロボになり、ミラと拓己は宇宙服みたいな服を着て操縦席に座ることになる。一方でショーインの連絡を受けてゴシュ星の皇帝が艦隊を率いて宇宙空間に現れて地球に侵攻しようとしてきて、戦いが始まるのかというところで今回は終わり、次回の最終話に続きます。なんかトンデモ展開になりましたが、次回どうやって物語を締めるのか注目ですね。

 

 

ガールズバンドクライ

第11話を観ました。

今回はトゲナシトゲアリが初めて野外音楽フェス「BAYCAMP」に出演するお話であり、8話、9話、10話と3話続けて無かったライブシーンが久々に描かれました。8話で桃香が過去を乗り越えトゲナシトゲアリが解散の危機を乗り越えてフェスでダイヤモンドダストと対決すると宣言し、9話で智が過去を乗り越える話に絡めてフェス用の新曲の作曲の話を描き、10話で仁菜が過去を乗り越える話に絡めてフェス用の新曲の作詞の話を描き、そうして満を持してその新曲のライブシーンをフェス回であるこの11話で披露することになったわけです。その前に10話では「このフェスで爪痕を残せたら大手芸能事務所から現在の路線のままメジャーデビューが出来る」という約束を取り付けており、その「爪痕」を残すための曲として新たに作られたのが今回披露された新曲「空白とカタルシス」なのです。

まず、この「空白とカタルシス」のライブシーンがビックリするほど凄かった。曲も歌も映像もヤバくて、まさに「爪痕」を残されてしまった。0時半から1時まで夜中にリアルタイム視聴していたんですけど、感動とか涙腺崩壊とか、そういうのじゃなくて、あまりの凄さに圧倒されて目が釘付けになって鳥肌が立ちまくる状態で、興奮のあまり完全に体内時計が狂わされてしまって2時ぐらいまで眠れませんでした。こういう音楽系のアニメの場合「このライブを見てみんな感動した」「みんな爪痕を残された」なんていう場面は多々あるんですけど、そういうのは大体は「そういう設定」というのを呑みこんで視聴しなければいけない。そこまで酷くなくても、キャラへの思い入れとか、そこまでのストーリーの積み重ねとか、そういうのを加味して初めてそのシーンに説得力というものが生じる。しかし、この作品のライブシーンの場合はそもそも本物のガールズバンドプロジェクトのアニメ化なので、素の音楽性だけで十分に説得力がある。「観客が爪痕を残されたシーン」なんだなと感じるのではなく、視聴者自身がしっかり「爪痕」を残されているので、そりゃ観客だって爪痕を残されてるのも納得がいきます。そこの説得力が他のバンド系の作品とは別次元です。

1話の「空の箱」も、3話の「声なき魚」も、5話の「視界の隅 朽ちる音」も、7話の「名もなき何もかも」も全部同じで、音楽がまず素晴らしい。その上でライブ映像が3DCGの利点をフルに活かした圧巻の作画と演出であるのも同じ。ただ今回はいよいよ満を持してのフェスでの新曲披露でメジャーデビューの鍵となる「爪痕」を残すライブシーンですから、そうした音楽面でも映像面でも全てがこれまで以上にグレードアップしていた。

特に映像面では、シンプルにライブ映像として史上最高クラスに素晴らしいだけでなく、まず地味な要素なので気付かない人も多いと思いますが、これだけド迫力でゴリゴリにカッコいいロックのライブシーンでありながら、キャラがとても可愛いというのが凄い。それは表情の描き方が抜群に上手いからであり、この作品独特の「イラストルック」の技法が今回のライブシーンでは大活躍して、純粋な音楽性の強さにキャラの魅力と躍動感を加味していて、隠れたMVPといえる。また、グイグイと三次元に動き回るカメラワークやズーミングがライティングやライブパフォーマンスとの相乗効果で盛り上げる効果的な使い方がされていて、更にそこにインサートしてくるイメージ映像の使い方が抜群に上手くて、ここまであれだけの映像を作っていながら、まだこんなに隠し玉を持っていたのかと驚愕しました。また、観衆の描き方がリアルで素晴らしい。

そして、ここまで物語をじっくり丁寧に描いてきたからこそ最高に映える各自の過去に絡んだイメージシーンの挿入が更にライブ映像を盛り上げる。ここで過去の映像を手描きの2D映像でインサートするというのが効果的な演出になっている。この作品では過去の場面を通常シーンの3DCGと意識的に差別化して2D作画にするという手法を多用しますが、今回のライブシーンでの過去映像はかなり美麗な作画になっていて、それがまたライブシーンを更にドラマチックに盛り上げる重要な役目を果たしている。よくよく見ると、ライブシーンに限らず、この作品は時々インサートされる2D映像はそのシーンのテイストに合わせて細かくタッチを変えている。通常のアニメではそんなことは不可能なんですが、この作品の場合はハイレベルな3DCG映像というのが軸としてしっかり存在しているからこそ、2D作画のタッチをシーンごとに切り替えて効果的な演出技法とするという、これまでのアニメの常識を超えた演出を可能としているのです。こういうところもこの作品が革命的作品といえる理由です。

そういう「空白とカタルシス」のライブシーンが今回はこれまでのように1分半のテレビサイズではなく、3分11秒のフルサイズで披露されていて、更にその前にライバルバンドであるダイヤモンドダストの新曲「Cycle Of Sorrow」のライブシーンがこっちは1分半のテレビサイズで披露されているが、これも普通にムチャクチャ良くて、普通のガールズバンドアニメならこのライブシーンが主人公バンドのキメの曲の場面として使用されていても全く不自然ではないレベルだった。ただ単に「空白とカタルシス」がそれを遥かに凌駕していたというだけのことです。ちょっと凄すぎて、これが本当に今後のガールズバンドアニメのためになったのか疑問に思うレベルです。ライブシーンの求められるハードルを上げすぎてしまったんではないかと心配になります。しかし、おそらくこれが最高峰じゃないんですよね。最終話の第13話ではこれ以上のライブシーンがあるんでしょうから。

とにかく今回のエピソードはこの2つのライブシーンがあるだけでもう十分に永久保存クラスの神回でありますが、ライブシーンで合計4分半以上も尺が食われているぶん、当然ですがドラマ部分に使う尺は少ない。それで今回はそのキツキツな尺に無理にドラマを詰め込まないようにしている。通常は1話の中でフリがあって最後にキメるという、ちゃんと「起承転結」を作っていってるんですが、今回はフリを描かず、これまでの1話から10話までのエピソード内容をフリにしてキメの場面だけで構成して、それから最後のライブシーンに繋げていく構成になっている。こういうのは最終話とか、最終話がエピローグである場合は最終話1つ前の回でやる手法であり、最高にエモくて盛り上がる構成なんですが、この作品の場合は恐るべきことに、これが最終話でも最終話1つ前の話でもない。こういうエピソードを描きながら、更にまだ2話を残しているのが驚きです。

まぁ残り2話には大いに期待するとして、今回はそういうシンプルな構成にしているぶん、普段のエピソードよりも分かりやすくてレビューも簡単に済みそうで嬉しいとか思ってた。普段のエピソードもこの作品は割と分かりやすい方ではあるんですけど、やっぱり情報量が多いのでレビューは大変だったんですよね。特に8話から10話はライブシーンも無くてフル尺で濃厚なドラマをやってくれたのでレビューする立場としてはキツかった。だから今回もしっかり相変わらずの神回ではありましたが、それでも今回はちょっとレビューは楽をさせてもらいたいとか思ってたんですが、結局ムチャクチャ濃厚でドラマ的にも凄いエピソードでした。普段あんまりこういう言い方したくないんですが、とにかく全てにおいて神でした。

まず冒頭の場面は、いきなりトゲナシトゲアリの5人がフェスのステージに立っているらしき場面から始まります。観客たちが歓声を送っているので演奏後のシーンみたいなんですが、仁菜が夜空に向かって手を上げて「いい風」と呟く。手を上げているのは観客に応えているのではなく、風を感じるためです。ここで吹いている風はステージのテントに付いている旗のなびき方を見ると、仁菜の背後から吹いているように見える。つまり「追い風」ということであり、仁菜はそれを「良い風」だと感じているのです。そして「桃香さん、私」と何か言いかけたところでこの冒頭の場面は終わる。夜空に手を上げて桃香に呼びかけているので、まるで桃香が死んだ後みたいにも見えてしまえてちょっと変なんですが、実際は桃香はステージ上に立っているので、仁菜が演奏が終わって「追い風」を感じた後で隣に立つ桃香に仁菜が何かを言おうとしている場面の途中で終わったことになる。この続きはラストシーンで描かれます。

そうしてOP映像が始まり、OPが終わると、時間は巻き戻って、フェスに向けてトゲナシトゲアリの5人が練習スタジオで新曲の練習をしている場面になります。前回、仁菜が熊本に帰省して、また東京に戻ってくるまでの間に新曲の歌詞を書き上げて、タイトルも「空白とカタルシス」に決定して、仁菜も戻ってきて5人でフェスに向けて突っ走ろうということになったんですが、フェスが迫ってくる中、まだ演奏の細かい部分などは詰めていってるみたいです。金が無いのでスタジオが狭くて、すばるのドラムセットで半分ぐらいのスペースを占領してしまい、他の4人が残り半分のスペースで近接距離で演奏してるのが何だか滑稽で面白いです。

その練習の後、フェスのポスターを見て5人が盛り上がる場面となります。このポスターを見ると、トゲナシトゲアリは2日間ある日程のうち1日目の出演であり、しかも結構早い時間の出演みたいです。こういうのは大体は1日目よりは2日目の方が盛り上がるし、早い時間帯よりは遅い時間帯の方が盛り上がる。だからトゲナシトゲアリはあまり良い条件での出演ではない。有名バンドも多数出演するこれだけ大規模なフェスで、無名に近い新結成のバンドなのですからそういう扱いなのは当然ではありますが、それでもトゲナシトゲアリは芸能事務所ゴールデンアーチャーの三浦さんとの約束で、このフェスで「爪痕」を残さなければならない。それだけ観客にインパクトを与えるような演奏をしなければならないのだが、その肝心の観客がほとんど居なかったりしたら厳しい。それでも与えられた条件の中でどれだけの「爪痕」を残せるか考えなければいけない。

ただ、その与えられた条件というものが変わりそうだと桃香が伝える。予定していたバンドが出られなくなったとかで、トゲナシトゲアリの出番を2日目のもっと遅い時間に変えてくれないかという打診が来ているのだという。それを聞いて、皆はもちろん了承する。その方がより分かりやすい形で「爪痕」を残したことを見せつけることが出来そうだからです。こうした僥倖ともいえる展開に仁菜は「もしかして、追い風、吹いてますか?」と目を輝かせて桃香に問いかける。

そんな仁菜の闘志あふれる様子を見て、桃香は練習後にメンバー全員を連れてフェスの会場の下見に行きます。場所は海浜公園のような広い場所で、いくつものステージが設営されている作業中でした。こういう野外フェスはいくつもステージが設置されていて、大きいステージで演奏して大勢の観客が集まる広大なスペースの大きな会場もあれば、もっと小規模のステージもある。人気バンドは大きな会場に出演し、知名度の低いバンドは小さいステージに出演する。当然トゲナシトゲアリが演奏するのは一番大きいメインステージではなく、それよりちょっと小さいサブステージです。当然集まる観客も少なめになるが、それでも普段やっているライブハウスよりは大きい会場といえます。一方、ダイヤモンドダストは同じ2日目に一番大きなメインステージに出演します。さすがは大手事務所に所属してメジャーデビューした人気バンドです。

それを聞いて仁菜は悔しがるのではないかと桃香は思ったが、仁菜は設営中のメインステージを見て笑みをこぼし「私嬉しいんです。大きなステージで歌うダイダスに小さなステージで歌う私たちが挑んでいくって、なんかカッコいいと思うんです」と言う。それで桃香は仁菜も今は自分と同じ気持ちなのだと改めて知り、嬉しくなると同時にいよいよこれで心置きなくダイダスと戦えると思い、気持ちを引き締めます。

桃香は8話でダイダスのライブを見に行った際に仁菜がダイダスに宣戦布告したのに乗っかって自分もダイダスに宣戦布告したが、桃香は別にダイダスに敵意があるわけではない。旧ダイダスの解散の経緯に関しては、自分が仲間を裏切ってしまったという負い目がずっとあった。そんな自分が「自分の音楽の方が正しい」なんて言ってダイダスを否定する資格など無いと思っていた。そして同時に、桃香は仲間たちのことも自分が逃げ出した後ずっと嫌々ながらアイドルバンドをやっているのだと思って憐れんでいた。

だが久しぶりに会った時、仲間たちは「自分たちの選んだ道が正しかったと証明してやる」という気概でバンドをやっていたことが分かった。それを知って桃香は自分だけが運命の被害者ぶって戦うことから逃げていたのだと気付き、恥ずかしくなった。そして本当は自分も、どれだけ事務所の人間に否定され、それが売れるためには正しい道なのだと理解しようとしても「それでもやはり絶対に自分の音楽は間違っていないのだ」と思っていたからこそ辞めたのだということを思い出した。だから、仲間たちが「自分たちの選んだ道が正しかったと証明してやる」と言ってくれている以上、それに対して自分も「私の選んだ音楽の方が正しいと証明してやる」と言い返したかった。

それでも自分にその資格があるのだろうかという躊躇もあったところに仁菜がダイダスに宣戦布告したので乗っかって宣戦布告した結果、ようやく桃香は自分のずっと抑え込んでいた本当の想いを解放できて涙を流したのです。自分を曲げることはむしろ仲間たちへの裏切りなのであり、自分を曲げないことこそが本当の贖罪なのだと気付くことが出来たのです。桃香もダイダスの残された3人も、それぞれが自分の選んだ道を曲げないことでロックを貫き、そのロックが自分を救済し、互いに贖罪し、互いを赦すたった1つの道だったのです。

仁菜のおかげでようやくそのことに気付くことが出来た桃香であったが、「仁菜はあくまでダイダスへの敵意で宣戦布告したのだろう」とも思っていた。そこに自分とはまだ意識のズレがあるのだろうと思っていたのですが、こうしてフェスの直前になって仁菜の様子が以前とはどうも違っているようだと桃香は気づいたのです。「間違っているはずの現ダイダスが自分たちよりも大きなステージでやるのおかしい」なんて敵意剝き出しの発想をしなくなっている。その理由は桃香にはよく分からなかったが、おそらく熊本で何かがあったのだろうということは桃香にも想像はついた。

それはおそらく前回の10話で、熊本で父親と和解したことによる影響でしょう。父親の真実を知り、父親への敵意が無くなった喪失感の中で自分のロックを再確認したことによって、仁菜は自分のロックの本質は他者への敵意ではなく、自分が間違っていないという信念を貫くことで自分自身を救うことにあると気付くことが出来たのです。だから仁菜はもうダイダスに対して敵意は向けていない。ただ単に自分たちの力で自分たちの正しさを証明したいだけなのです。そのためには、むしろ小さなステージで大きなステージのダイダスを喰うくらいの気概がちょうどいい。

そこにおいて、遂に桃香の意識と仁菜の意識は完全に一致したのです。だからこそ、フェスでダイダスと同じ2日目のステージに立つというのは、桃香と仁菜にとってダイダスとの真っ向勝負という意味合いが濃くなる。だが、それは他の3人には関係ない話だ。そのことが分かっている桃香は、2日目に出演を変更することにまだ躊躇はあった。それで5人全員で会場の下見に来て再度意志の確認をしたのだが、桃香と仁菜がフェスでのダイダスの勝負にこだわっていると承知しながら、他の3人もその勝負に乗ってくれたので、結局桃香も2日目のステージに立つことを運営側にOKすることにした。

そうしてフェス会場から仁菜だけバイトに行くと言って一足早く帰っていく。仁菜は吉野家のバイトを辞めて1人で別のバイト先で働くことにしたのだそうです。それも、これまでのように何でも他人のせいにして甘えていた自分を戒めて、これからは1人で何とかやっていこうという仁菜の意識の変化によるものなのだろうと思われます。そうした仁菜の変化をルパから聞いて、ちょっとすばるは複雑な表情を浮かべる。

すばるも仁菜が熊本に帰省して戻ってきてから、そういうふうに変化したことには気づいていた。熊本に帰省する前、仁菜はすばるの家に泊まって「父親とは話が出来ない」と愚痴っていた。そして、それはすばるが祖母と話が出来ないことと同じだとも言っていた。ところが、そんなことを言っていた仁菜は熊本に帰ってどうやら父親と話をつけてスッキリして帰ってきたようなのだ。それですばるは、なんだか自分だけ仁菜に置いていかれたように思えてモヤモヤしてしまった。

それで自宅のマンションの部屋に戻って、夜になってすばるはスマホに祖母からまたドラマのオーディションの誘いが来ているのを見て「1人だけスッキリしやがって」と仁菜に対して愚痴を言う。自分は相変わらず祖母にバンドをしていることを伝えることも出来ていないので、こうやってオーディションの誘いが来る。こんな自分でも一度は祖母に打ち明けようとしたのだ。だが、その時に仁菜が止めたので言うのをやめた。そして仁菜が自分と同じように父親に本音で喋れない奴だというので、すばるも同類だと思って安心していた。ところが仁菜はいつの間にか自分だけ父親と話をつけてしまった。ならば、どうして自分をあの時に止めたのだと、すばるは腹が立ってきた。

そうしてすばるが部屋の中に視線を動かすと、そこには初めてライブハウスで演奏した時に着た「嘘つき」と大書したTシャツが置いてあった。確かに自分は祖母に隠れてバンド活動をしているのだから「嘘つき」なのかもしれないが、すばるは本当に自分が「嘘つき」だと思っているわけではない。Tシャツに「嘘つき」だと書いたのは単なるノリであり、実際は自分は「嘘つき」ではない。少なくとも一度は正直に言おうとしたのだ。だが、それを仁菜が止めて、その仁菜が自分も親に打ち明けられないとか言いながら勝手に裏切って打ち明けたのだ。むしろ「嘘つき」は仁菜の方ではないかとすばるは思ったが、それも違うのだろうと思い直した。仁菜はどうしようもないアホだけど嘘はつかない正論モンスターだからです。

あの時、仁菜は確かに自分も親とマトモに話せない状態だから、すばるにも祖母に打ち明けなくていいと素直に言っていたのだ。それなのに仁菜だけが親と話をつけることが出来たのは、仁菜がそれが可能な状態に変わったからなのだ。そして、すばるだけが変わっていないのだ。では何が変わったのかというと、あの4話ですばるが祖母にバンドをやっていることを打ち明けようとしたのを仁菜が制止した際に言っていた言葉は「やりたいことがちゃんと見つかるまでは言わなくていい」ということだった。つまり、仁菜は「ちゃんとやりたいこと」が見つかったのだ。それが自分にはまだ見つかっていないということなのかと、すばるは思った。仁菜も桃香も自分が間違っていないことを証明しようとしてプロを目指してバンドをやっていこうと決意した。ルパと智はバンドでプロになって本気で音楽をやることしか自分の生きる道はないと覚悟を決めている。そんな中、自分だけが単にドラムを叩くことが好きでバンドをやっている。他の4人みたいに「ちゃんとやりたいこと」が無いのだ。だから自分はまだ祖母に本当の想いを打ち明けることが出来ないのだとすばるは思った。

一方、海浜公園で仁菜が帰って行った時にすばるが複雑な表情を浮かべていたのを見逃していなかったのは智だった。智も仁菜が熊本に帰省した際に、仁菜がそのまま父親に引き止められて熊本に帰ってしまうのではないかと心配していたのだが、それぐらい仁菜と父親の関係が上手くいっていないことは知っていた。それに対して智が複雑な表情を浮かべていたのは、単にこのまま仁菜と離れ離れになるのが嫌だという想いもあったが、仁菜が父親と喧嘩するにせよ和解するにせよ、それは智には出来ないことであったので羨ましいという想いもあったようです。

智は母親が愛人を作ったのがショックで家を飛び出して上京してきたので、母親とはもう会う気は無い。自ら会おうとしていないのだが、同時にそれは「会えない」ということでもある。智が仁菜に対して妙に親近感を覚えていたのは、仁菜も自分と同じように親と折り合いが悪くて、もう親に会えない自分と同じ境遇だと思っていたからだ。だから、仁菜が実家に戻って親と話をすると聞いた時、智は自分だけ取り残されたようで嫌な気分になったのです。その時、智は自分も本当は母親と会って話をしてみたいと思っていることに気付いた。もちろん今さらそんなことが出来るはずもなく、智は自分のそうした気持ちを誰にも言いませんでしたが、自分がそうした気持ちになったことによって、すばるも同じような気持ちになったのだろうということには気づいていました。すばるも祖母の安和天童にバンドをやっていることを秘密にしていることを智も知っていたからです。だから、仁菜の帰省と、帰省後に仁菜が前向きになったのを見て、自分と同じようにすばるもモヤモヤした気持ちなのだろうということを智は気づいていたのです。

それで帰宅後に智がすばるの様子がおかしかったことに触れて、すばるのことを心配すると、それを聞いたルパは「智ちゃんもいつか赦せる時が来るといいですね」と笑顔で言う。智はいきなり自分の話になって驚き焦って「そんなわけないでしょ」と憮然とする。ルパは智が本当は母親と和解したいと思っていて、そんな自分をすばるや仁菜に重ねて見ていたことにとっくに気付いていたのです。そして、ルパも智が母親と和解した方が良いと思っている。「未来のことは分かりませんよ」と諭すルパに、智は「無理よ」と目を背けてこぼす。

智も母親への嫌悪感から自分が母親と自分の過去を全て否定して家を飛び出してしまったことで母親を深く傷つけたことは分かっていた。自分も深く傷ついたが、同時に母親も傷ついている。だから自分と母親の関係は修復不可能なのだと思っている。母親が男に走った経緯は不明だが、おそらく繊細で弱いところのある女性なのでしょう。だから傷つきやすく立ち直れない人なのだと、智は母親を信頼出来ないところがあるのだと思われる。

だがルパは「一切会わなくて話さなくても、今生きてる」と言います。ルパも智が母親と会えないし話せない事情は理解しており、会って話をするようにとおせっかいを言っているわけではないのです。ただ単にルパは、既に家族が亡くなっていて会うことも話すことも出来ない自分の境遇と比べて、その気になれば会って話をすることが可能な智やすばるや仁菜がただ羨ましいのです。しかし、ただ羨ましがっているだけではあまりに悲しいので、自分が前向きになるためにルパはそういう人たちの背を押して励ますことにしているのです。だからルパのこうしたお節介の裏には深い悲しみが常にある。「私の大切だった人たちはもう灰になって何処にもいません」と涙ぐむルパに、智は「私がいるでしょう」と言ってルパを抱きしめる。智ももう親と会うことはないと覚悟を決めた時から、ルパの悲しみを理解し共有していこうと心に決めているようです。いや、むしろルパを気遣って絶対に自分も母親とは会わないと心に決めているのかもしれない。そうした智の優しさにルパは「ありがとう」と応えて智を抱きしめ返すのでした。

ここでトゲナシトゲアリの5人が「なんで歌うのか?」という誰かの質問に答える音声がインサートされるのですが、智は「はぁ?なんで歌うのかですって?」とキレ気味に返して回答せず、ルパは「誰かと繋がっていられるから」と答えている。これを聞く限り、やはりルパは根本的に深い寂しさを抱えた人なのでしょう。ルパのファンサービスが過剰なのも寂しさや人恋しさの表れなのかもしれません。

そして、すばるは「自分が正直でいられる場所だから」と答えている。女優になってほしいという祖母の夢に合わせて本当は役者になりたくないという自分の本当の気持ちを隠して生きてきたすばるにとって、バンドはただ1つだけ自分が正直になれる場所だったのです。それは以前にも言っていたことです。ただ、ここでは更に一歩前に踏み出して、そんな大事な場所だからこそ、「ちゃんとやりたい」という決意が込められているように思える。そして「ちゃんとやりたい」と思えるということは、本当の意味で正直になるということに繋がっていく。

そして桃香は「何もかも忘れて自由になれるから」だと回答し、仁菜は「私は間違ってないって思いたいから」だと言っている。この「なんで歌うのか?」という質問ですが、智がキレて回答を拒否していることから、おそらく仁菜から他の4人への質問だったのだろうと思われる。なんで仁菜がこんな質問をしたのかはよく分からないし、そもそも何時の時点での質問なのかも分からない。最後に仁菜が自分の質問に回答する時のトーンが妙に暗いのもちょっと気になりますが、この時点では深く考察しても仕方ないので放置とします。ただ仁菜自身の答えである「私は間違ってないって思いたいから」はここでそう言っている心情は不明ながら、文言自体はいつもの仁菜のポリシーそのものです。

一方で桃香の「何もかも忘れて自由になれるから」はちょっと意外な印象で、てっきり仁菜と同じ「間違ってないって思いたいから」なのかとも思えました。ただ、それは「空の箱」の作者としての桃香のイメージなのであり、仁菜はまさにそれに影響を受けての発言なのですが、桃香自身はバンドを始めた結果「空の箱」を作ったわけで、桃香自身の音楽のルーツはまだ別にあると考える方が確かに妥当でしょう。それが「何もかも忘れて自由になれるから」というのは、おそらく高校時代にダイヤモンドダストを結成した時の心情をルーツとしているのだと思う。

ここでそれぞれの音楽に求めるものの違いを強調するようなセリフのインサートをした意図は今のところ不明ですが、それは置いておいて場面はフェスの2日目の当日となります。トゲナシトゲアリの出演は夕方ですが、5人は昼間から来て機材を搬入して、その後は待ち時間となります。楽屋のテントで暇つぶししたりひたすら集中したりするのもアリですが、だいぶ時間的に余裕があるので他のバンドのステージを見に行くのもアリです。すばるは他のバンドを見に行くと言って駆け出していき、仁菜も一緒に行きたいと言うのだが、すばるは「仁菜はダメ~」と意地悪を言って駆けていってしまう。

それで仕方なく仁菜も一緒に、すばる以外の4人は楽屋のテントでのんびりしますが、そこにミネさんが激励に来てくれた。そしてミネさんは仁菜に「いい顔になってきた」「歌唄いの顔をしてる」と褒めてくれる。それはつまり、7話でミネさんが言っていたように「どんなに唄うことが怖くても自分にとって言いたいことが言える場所だから逃げない」という覚悟が決まっているという意味なのでしょう。それは7話で諏訪でミネさんと出会いギターを貰って以降、仁菜が桃香と衝突したり、智を理解したり、父親と和解したりする過程で成長してきた結果といえます。

更に楽屋には意外な人もやってくる。それは1話で桃香と川崎駅前の路上ライブの場所取りで揉めた男女2人組バンドのベースの女でした。どうやらミネさんの知り合いらしくて、キョーコというのだそうだが、トゲナシトゲアリのファンだと言う。なんか1話のラストで何故か桃香と仁菜とセッションをして「空の箱」を演奏したのがきっかけで仁菜の歌声のファンになって、それ以降トゲナシトゲアリのファンになったようです。それで、ちょっと強面のキョーコの勢いに押されて、仁菜と桃香はキョーコと3人で変顔での記念撮影をする羽目となってしまう。

その後、仁菜たち4人は楽屋の外の休憩スペースのテントの下で休んで、そこでルパがビールを貰ってきて飲もうとするのを止めたりしていると、ゴールデンアーチャーの三浦さんが通りかかる。それで仁菜が三浦さんに声をかけるのだが、三浦さんは何故か人違いだとか言ってコソコソと逃げていく。先日はすごくグイグイ来ていたのに、どうも妙です。それで仁菜が不審に思っていると、ルパがすばるが楽屋に戻ってきていたと言うので、仁菜は1人で楽屋に戻ってすばるを見つける。

それでライブはどうだったかと聞くのだが、すばるは適当な返事をするだけで、遊びに行ったすばるを羨ましがっている仁菜に向かって「1人だけスッキリしやがって」とボソッと呟く。それで仁菜は「どうかしたの?」と問いかける。すると、すばるは昔初めてフェスに行った時に見たドラマーの人が「メンバー全員の背中を見て頑張ってます」と言っていたという話をして、それが自分なんだと思ったのだと、すばるは言う。自分はそういうポジションなんだと、すばるは言う。そして、「昨日、お祖母ちゃんにメールした」「役者じゃなくて他にやりたいものがあるって伝えた」と言う。

つまり、すばるは祖母にちゃんとバンドをやっていることを伝えて、役者にはならずバンドをやっていきたいのだと伝えたのです。しかし、あの会場を下見に行った日の夜には、すばるは祖母に本心を伝えられずまだ悩んでいたはずです。どういう心境の変化があったのかというと、それはおそらく自分なりの「ちゃんとやりたいこと」を見つけることが出来たということなのでしょう。そして、それが「メンバー全員の背中を見て頑張ってます」なのです。自分は確かに他の4人みたいに「ちゃんとやりたいこと」は無いかもしれないが、かといって単にドラムを叩きたいから此処にいるのではない。そうした「ちゃんとやりたいこと」を抱えて頑張っている4人の背中を見て、4人の支えになってバンドをやっていきたい。それが自分の「ちゃんとやりたいこと」なのだと気付いたことによって、すばるは祖母に自分のそうした気持ちを打ち明ける勇気を持つことが出来たのです。

「だからさ、ずっと続けようよ、このバンド」とすばるは仁菜に言い、そして、仁菜の欠点を色々あげつらいながら、それでも仁菜は嘘はつかないし全てに全力で安心できるから、付き合ってみようと思ったのだと自分の気持ちを打ち明け、すばるは「嘘だけど!」と悪戯っぽく笑いながら小指を立てる。それを承けて仁菜も「嘘つき!」と笑いながら小指を立てて、2人はそのまま小指を絡め合い、約束の指切りをするのでした。

なお、ここですばるは仁菜に「昨日お祖母ちゃんにメールした」としか言っていないが、実際はついさっきまで祖母の安和天童にこのフェス会場で会ってしっかりと話を通してきたのだと思われる。何故なら、この後のライブシーンで観客席に安和天童が居たからです。しかもゴールデンアーチャーの三浦さんと一緒でした。つまり、昨日すばるからメールを貰った天童さんは、フェス会場に来てすばると話をしたいと言い、それですばるは三浦さんに連絡して自分と祖母の話し合いの場に立ち会ってもらったのでしょう。そのことをメンバーに内緒にしていたので、三浦さんは仁菜に見つかった時に焦っていたのでしょう。どうして三浦さんに立ち会ってもらったのかというと、安和天童は芸能界の重鎮ですから、自分と祖母だけで話がこじれてゴールデンアーチャーに迷惑をかけるようなことになったら困るとすばるが判断したのでしょう。

すばるはそういう事情を抱えてこのフェス会場にやってきていて、それで到着後に「ライブを見に行く」と嘘をついて単独行動をとり、仁菜がついて来るのも断ったのでしょう。そうして三浦さんと共に祖母と会い、改めて「役者にならずにバンドでプロを目指したい」という自分の気持ちを伝えたのでしょう。すばるは祖母に強く反対されることを覚悟していたのでしょうけど、天童さんは4話の時点で既にすばるの本心は分かっており、半ば認めていたようで、あとはすばる本人が本気の覚悟を決めて言ってくるのを待っている状態だったのだと思われ、話はすんなりまとまったのだと思います。さすがにメールで済ませるような話ではないと思い、直接会ってすばるの覚悟を確かめた上で激励しようという気持ちで天童さんはこのフェス会場まで足を運んでくれたのでしょう。その後は天童さんは三浦さんの案内でトゲナシトゲアリのライブを見るという流れとなり、すばるは楽屋に戻り、三浦さんは天童さんと一緒に居るところをトゲトゲのメンバーに見られるわけにいかないのでトゲトゲメンバーを避ける行動を取らざるを得なかったというところでしょう。まぁむしろその距離感が桃香の信頼を得たみたいですが。

その後、トゲトゲの5人はダイヤモンドダストのステージを見に行く。さすがにフェス会場で最大規模のメインステージで、大観衆が集まっており、その最後方でトゲトゲ5人はダイダスの登場を待ち構えて、そこにステージ上にダイダスの4人が入ってくる。その中のボーカルのヒナがMCを始めると、仁菜の身体から膨大な量のトゲトゲが発生します。父親の前ではもう出なくなったトゲトゲですが、やはりまだヒナに対しては出るみたいです。

ここで仁菜の回想シーンが挿入されますが、高校の屋上で仁菜とヒナが寝転んでいて、ヒナが「いつまで悲劇のヒロインやってるつもり?仁菜が間違ったんだよ」と言って立ち上がり「これ以上やっても損するだけ」「ほんと、バカじゃねーの?」と捨てゼリフを残して立ち去っていく場面です。これがどうやら仁菜がヒナに対してトゲトゲを発する理由みたいです。ダイヤモンドダスト自体に対してはもう敵意は無い仁菜ですが、それとは別にヒナに対してだけは特別にトゲトゲを発する理由はあるのです。

ただ、この場面を見る限り、ヒナがイジメの黒幕だったというようには見えない。仁菜とヒナはかなり近しい関係にあるように見える。仁菜自身「親友だったけど絶交した」と言っており、ヒナがイジメの犯人だったとは言っていない。むしろこの回想シーンを見る限り、ヒナは仁菜へのイジメを止めるために仁菜に妥協するよう求めていたように見えます。つまり「自分を曲げてイジメっ子に屈するよう求めていた」ということになる。そうすればイジメは終わるのだとヒナは言っていたように見えるが、それは仁菜が最も嫌う考え方です。つまり、白を黒だと認めてイジメを無かったことにしてしまおうということであり、仁菜は父親がそういう隠蔽をしていると思っていたので赦せなかったのです。幸い父親はそんな隠蔽はしておらず仁菜が誤解していただけだったので仁菜は父親とは和解することが出来たのだが、ヒナの場合は誤解ではなく明らかにイジメの隠蔽をしようとしていた。だから仁菜はそれを断固として拒否して、ヒナはそんな仁菜に呆れて、2人は絶交して、仁菜は今でもヒナを赦していないのです。

ただ、この仁菜へのヒナへの感情は、単純に仁菜からヒナへの敵意というように解釈するのはどうも違うような気がする。何故なら仁菜は以前にすばるにヒナとの関係について喋った際に「親友だけど絶交した」としか言っておらず、別にヒナが悪いとは言っていないのです。「絶交した」のは仁菜であり、ヒナが仁菜を絶交したとは言っていないし、ヒナに悪いことをされたから絶交したという説明も無い。この仁菜の物言いならば、仁菜が一方的にヒナを嫌って絶交したというようにも解釈出来る。そしてもう1つ、この回想シーンでヒナは仁菜に「バカじゃねーの」と言っているが、これは2話で仁菜が自己嫌悪に陥って電灯を振り回していた時に自分に向かって発していた悪態と同じです。それがもともとヒナが仁菜に向かって言っていた悪態だとすると、仁菜は内心ではヒナの自分に対する指摘を正しいものとして受け止めていたとも考えることが出来る。

あの2話の仁菜が自分に向かって「バカじゃねーの!」と言って電灯を振り回していた場面では、仁菜が自分のどういうところに対して自己嫌悪に陥っていたのかというと、すばるや桃香が自分のために親切にしてくれたのに意地を張って無碍にしたことに対しての自己嫌悪でした。仁菜がそんな自分に「バカじゃねーの!」というヒナの残した言葉で悪態をついたということは、仁菜は本心ではヒナの親切から発した忠告を無視して酷い対応をした自分に対して自己嫌悪している可能性がある。そうであるとするならば、仁菜がヒナを見た時に発しているトゲトゲは、曲がったことを強要しようとされたことに対する怒りや、それに同調して自分を殺そうかと迷いもした自分に対する怒りと共に、親友の思いやりを無碍に扱った自分自身に対する怒りも起因しているのかもしれません。そして、そこにはヒナに対して申し訳ないという想いも含まれているようにも思える。5話で酔い潰れた桃香がダイダスの仲間への想いを「ごめんね」と呟いた時に仁菜だけがその心情を理解していたこと、8話でダイダスの仲間と分かり合えたことで桃香が号泣していた時に仁菜も密かに泣いていたことなどから、やはり仁菜の中にはヒナとの和解を本音では望んでいる部分があるようにも思えるのです。

そのあたりの仁菜とヒナの複雑な関係については、おそらく残り2話で描かれるのだろうとは思いますが、とにかくここの場面では仁菜は盛大にトゲトゲを身体から発し、両手の小指をヒナに向けて立てます。もちろん仁菜のトゲトゲは普通の人間の目には見えませんけど、小指は見える。まぁ、そうはいっても最後方ですからステージからそうそう見えるものではないはず。しかしヒナはどうやら仁菜が小指を立てている姿が見えたような感じでニヤリと不敵な笑顔を仁菜の方に向けて、その後「いっくぞ~!!」と跳びあがって演奏開始となります。

このダイヤモンドダストの演奏した新曲「Cycle Of Sorrow」がかなりゴリゴリにロックしていて普通に良い曲で、ライブ映像もかなり上出来で素晴らしかったです。観客席はペンライトを振ってアイドルを応援してる感覚の人が多いというふうにちゃんとトゲトゲのファンとは差別化していて、それでいて演奏の方はいかにも桃香が本来やりたかったような感じのゴリゴリのロックをしています。タイトルを和訳すると「悲しみの繰り返し」という後ろ向きな感じですけど、かなり気分のアガる曲で、桃香が評して「アイドルをボーカルに迎えて企画先行バンドになり下がったと散々叩かれて、ふざけんなバカにすんなと見返してやろうとしてる曲」と言うのがまさにピッタリとはまる、理不尽な苦しみや悲しみを跳ね返して、それをバネにして頂点を目指してやろうという気合を感じる曲でした。

前の曲であるダイダス版の「空の箱」とは違って桃香の曲ではないにもかかわらず、むしろ今回の曲の方が桃香の好みそうな感じのハードなロックに仕上がっているのも、「我慢して売れれば好きなことが出来るようになる」という彼女らの信念の正しさを証明しているように見える。8話の時に彼女らが「私たちの選んだ道は間違ってなかったと証明してみせる」と言っていたのをまさに有言実行したといえる。そして、それがしっかりアイドル売りを応援に来たようなファン層にも刺さっている。そうした手応えをヒナたちダイダスメンバーも感じたのか、演奏後、ステージ上で4人とも小指を立てるパフォーマンスをしてみせる。もちろん、それはこの会場に見に来ているはずの桃香や仁菜たちに向けての「逆・宣戦布告」でした。自分たちに向けて小指を立てて「私たちの方が正しかったと証明してみせます」と宣言した仁菜と桃香の気持ちはしっかりダイダスの4人に伝わっており、だからこそダイダスの4人はこうして自分たちもまた間違ってはいないのだということを示した上で「さぁ、これを超えられるものなら超えてみせろ!」と挑発し、そしてトゲナシトゲアリをリスペクトしてエールを贈ってくれているのです。

ヒナは小指を高々と掲げながら仁菜に向けてベロを出してウインクしてみせ、仁菜はもうトゲトゲは出すことはなく「このお客、全員引っ張っていきましょう」と気合を入れる。こういうところからも、仁菜とヒナの関係が根本的に悪いようには見えないのです。そもそも仁菜はダイダスの演奏が始まると、もうトゲトゲは引っ込めていましたし、やはりダイダスやヒナが憎くてトゲトゲを出しているのとは違うように思えます。まぁもうここのダイダスのライブシーンの描写だけで仁菜とヒナの関係性は描かれているようなものだし、別にこの2人は明確な形で仲直りする必要も無いし、このまま良きライバル関係で完結しても支障は無いので、残り2話でこの2人のドラマが描かれなくてもそれはそれでアリですけどね。

その後、サブステージでのトゲナシトゲアリのサウンドチェックの場面となり、まずドラムのサウンドチェックとなるが、ここでエンディングクレジットが出てくる。この作品の場合、こういう場面でエンディングクレジットが出てくる時というのは、この後にライブシーンがあるというサインであり、もうこのパターンも4度目ですからお約束化しており、視聴者的には「キタキタァ~!」って感じで否が応でもテンションが上がってきます。更に続いてのベースのサウンドチェックでルパがわざとさっき聞いたばかりのダイダスの「Cycle Of Sorrow」を耳コピして弾いてるあたり、むっちゃ好戦的で、トゲトゲメンバーのボルテージも上がっていきます。

そしてライブの開始時間となり、それまで晴れていた夜空に雲がかかってくる中、トゲトゲの5人はサブステージ脇で輪になって仁菜の提案で小指を立て合う。そして桃香が「これから始まるのは、あたしたちにとって一番のライブだ。そのステージで仁菜の歌を聴かせてくれ。叫んでくれ。あたしたちの歌でみんなの心を抉ってくれ」と気合を入れ、仁菜は少し感極まるが、ステージインすると、あらかじめ頼んでいたとおり、桃香からギターを借りてちょっとカッコよく弾いてみせる。だがカッコいいのは仁菜の脳内イメージでしかなく、実際はまだまだライブで披露出来るような代物ではなく、「ギター弾けません!!」とMCするとすぐに桃香にギターを返して観客たちに笑われ、智に「下手くそ」と罵られ、ルパに「ロックですねぇ」と面白がられる。

仁菜としてはせっかく練習しているギターを実際の演奏では披露するのは無理だとしても、こんな形でもいいからこういう大舞台で披露してみせたかったということなのでしょうけど、こういう奇行に対してもちゃんと笑ってくれる観客がいるということは、普段からトゲトゲのライブに足を運んで仁菜や他のメンバーのノリに慣れているファンが多く来てくれているということなのでしょう。ただ、そういう内輪のノリが目立つということは、ステージ前には一般のお客はむしろ少な目であり、コアなファンが多いということであり、コアなファンだけではサブステージ前は人手も割とまばらな印象です。

それでも仁菜はその数少ない新規の客に対して主に呼びかける形で「はじめまして、トゲナシトゲアリです。バンドやってます」と少し間の抜けた挨拶をする。そして「それって全然簡単なことじゃなくて、私たちみんな臆病で人を信じないし、グジグジしてて、誘っておいて本気じゃやらないとか言い出すし」と、自分のことや智のことや桃香のことをディスるようなことを言い出す。それに桃香や智が抗議するのを引き取って、すばるが桃香と智と仁菜を紹介し、返す刀でルパも紹介して、それを引き取ってルパが「そして、ドラムの~!」と言ってすばるの自己紹介に繋げたところ、すばるはいつものライブのように「プレアちゃん」と偽名を名乗るのではなく「すばるで~す!」と初めてライブで本名を名乗る。

そうしたすばるの覚悟を見届けて満足そうに笑った仁菜は、そこで雰囲気を変えて、演奏の前フリの自分語りのポエトリーに入っていく。「諦めろ、叶うはずがない、そんなの無理、現実を見ろ、このぐらいでいいんだよ、あたしだって辛いんです」と、これまで自分たちに自分を曲げて楽に生きるよう諭してきた全ての言葉を挙げていき、仁菜は「そうやって現実が私を呑みこもうとして、クソ優しい顔で蝕んでくる」と言う。そして顔を上げて手を真上に突き上げて「だから、この歌を貫いてやります!」と力強く言うと拳を握り、「そして、この歌で信じていない人たちを信じさせてやります!」と言葉を続けるが、ここで観客席に立つ三浦さんが映るのは、まさに彼女がこのステージで未だにトゲトゲを完全には信じていないゴールデンアーチャーの上司たちにトゲトゲを信じさせようとしている同志、6人目のトゲトゲだからです。そして仁菜は更に「あたしの全てを否定した全ての連中に、間違ってないって叫んでやる!」と叫ぶと同時に真上に突き上げていた拳を振り下ろして前方に力強く突き出す。

それが合図でルパのベースに合わせて仁菜のボーカルが響き渡って「空白とカタルシス」のライブが始まるのだが、既にメンバー紹介の始まるあたりで降り出していた雨はこの演奏開始時点ではちょっと強めに降りかけてきている。そういうこともあって、サブステージの前にはそんなにお客は多くない状態でのライブ開始となったが、ステージのテントに付いている旗は最初から客席側に向けてたなびいており、仁菜たちの背後から「追い風」が吹いていることが分かる。この「追い風」は演奏が終わるまで一貫して変わることはなく、仁菜が期待したように、ちゃんとこのフェスでトゲナシトゲアリに「追い風」は吹いていたのです。その「追い風」に誘われるように、イントロ、Aメロ、Bメロと仁菜が歌い続ける間に、その歌声とメンバーの演奏に惹かれるようにしてサブステージ付近を歩いていた一般客がどんどんサブステージ前に吸い寄せられてくる。ここでBメロのあたりで最前列でキョーコと第1話で登場した連れのドラムの革ジャン男がノリノリになってるのがチラッと映ったのがグッときた。

そしてサビに入ると、サブステージのテントの上を上手から下手に向けて鳥が二羽飛んでいき、途中でもう一羽が加わる。まるで最初は桃香とすばるの2人で始まったバンドに仁菜が加わって3人となり「新川崎」になったことを象徴しているようであり、更にその三羽が下手の上空に到達したところで二羽の鳥が加わり、五羽となって天高く飛翔していくのは、ルパと智の2人が更に加入して「新川崎」が「トゲナシトゲアリ」になり、頂点目指して躍進していく未来を象徴しているようです。

そうして1コーラス目のサビが終わる頃には雨が上がり星空が再び雲間から顔を覗かせ、間奏が盛り上がる中、観客席はぎっしり満員状態となってきた。そして2コーラス目が始まると、Aメロ、Bメロのライブシーンにトゲトゲの5人のそれぞれの過去に抱えてきたものが美麗な2D作画の回想カットとしてインサートされていき映し出される。仁菜は高校で孤立してイジメで受けたケガで頭から血を流す場面、そこに「ひとりぼっちの怒りも」という書き文字が重なる。桃香はダイダス時代の写真に涙をこぼして俯く場面、そこに「無くした喜びも」という書き文字が重なる。すばるは祖母の映画「すばる」を見つめて自分の本心を隠していた辛い姿、そこに「ウソの哀しさも」という書き文字が重なる。智は家を出てピアニストとしての未来と母親との思い出を捨てると決意して過去の賞状などを全部火にくべた場面、そこに「この歌に全部」という書き文字が重なる。ルパは霊安室に横たわる家族のもとに駆け付けて涙を流して崩れ落ちる場面、そこに「全部」という書き文字が重なり、そして「ぶちこめ」という文字と共に5人の絶叫カットが入る。まさに「怒りも喜びも哀しさも全部ぶちこめ」という作品のキャッチコピーの回収です。

そして叫びの後、映像がもう凄いことになってきて、イメージカットが乱舞するように入り、ボルテージが上がりまくった観客席を更に煽るように大サビ前の間奏が桃香のギターソロから始まる。このギターソロがもうムッチャクチャにカッコいい。そしてカメラワークがギュンギュン回っていく中、全員の演奏もパフォーマンスも最高に盛り上がっていき、頂点に達したところで一瞬の間が入り、やや抑えたトーンで仁菜がBメロのラストをリフレインして、そこで溜めたものを爆発させるようにガンガン演奏が盛り上がっていき、ステージ上で仁菜と桃香とルパが交錯してカメラワークがこの3人の間を縫ってクルクル回ってからきりもみ状に飛び上がり俯瞰に移行し、そこから一気にステージに向けて急降下してワケの分からないままギターの弦の上を走り、一気に大サビの怒涛のライブシーンに切り替わる。

そこにメインステージ脇からとんでもないことになっているサブステージの盛り上がりを晴れやかな笑顔で眺めるダイヤモンドダストの4人のカットが挿入されるが、ヒナだけ一歩後ろでブスッとした顔をしているのが仁菜と同じで負けず嫌い感があって良い。そしてフェス会場の入り口には智の母親らしき女性の姿があり、熊本の仁菜の実家ではこのライブの配信映像をスマホで見てノッている仁菜の父親と、その姿を見守る母親と姉の姿もあってこれもまた良い。父親の部屋には仁菜の「不登校」Tシャツが架けられており、仁菜の心配に応えるように禁煙しているようで、部屋には灰皿は置いていない。

そして墓石の前で亡くなった家族に花を供えるルパの回想シーンが挿入され、そこで供えられた花束の花びらが1枚舞って、時空を超えて今回のフェス会場に飛んできて、観客席の最後方で三浦さんの隣で満足げにトゲトゲの演奏の大詰めを見守る安和天童さんの横を通り抜けていく。まるでルパの亡くなった家族の霊が、自分たちのように亡くなって肉親を祝福出来なくなってしまう前に孫と分かりあえて晴れ姿を応援することが出来た天童さんを祝福しているかのようです。そしてその花びらは満員状態で盛り上がりまくる観客席の上空を飛んで一気にステージ上に達して、ステージ上のトゲトゲの5人を祝福するようにグルリと舞い踊って消えていく。そして同時に演奏が終わり、一瞬静寂を包まれたサブステージの引き絵の上空に「空白とカタルシス」というタイトル文字が出て、ライブシーンは終了となる。

そうして演奏終了後の満員に膨れ上がった観客たちの大歓声を前にして、ステージ上の仁菜が手を上に掲げて、「いい風」と呟いてトゲナシトゲアリに確かに吹いた「追い風」の感触を掌で確かめつつ、「桃香さん」と声をかける冒頭の場面に繋がる。そして仁菜が笑顔で「桃香さん、私、間違ってないですよね」と言うのだが、それは問いかけではなく、既に確信の言葉であった。確かに自分たちは「爪痕」を残したのだと仁菜は、いや仁菜も桃香もすばるもルパも智も確信していた。そういう場面で今回は終わり、次回に続きます。さて、これであと残るはラスト2話、この物語の終わりを見届けましょう。