2024春アニメ 6月13日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2024年春アニメのうち、6月12日深夜に録画して6月13日に視聴した作品は以下の1タイトルでした。

 

 

怪異と乙女と神隠し

第10話を観ました。

今回を含めて残り3話となり、今期も大詰めが近づいてくる中で、また強いエピソードが来ましたねぇ。紛れもない神回でした。原作は未読なのでどういうエピソードが来るのかは分からない状態で視聴はしてたんですが、クール中盤の紅衣小女孩のエピソードのあたりで「まだ本命のエピソードが来ていない」「この作品はそこから化ける」という噂は聞いていたんです。おそらく、それがこの「姫魚よるむん」のエピソードのことだったんですね。この作品はいつもキメの回はかなり濃厚なのをぶっこんでくるんですが、今回は確かにこれまでで最高に濃厚でした。

今期は「ガルクラ」「ユーフォ」「ヨルクラ」「忘却」などリアル寄りの設定の作品に名作が多くて、それぞれにかなり強烈な神回がありました。確かにそういうリアルが生み出す感動も良いんですが、アニメを見ているわけですから、やっぱりこういうのが一番見たいんですよね。現実にはあり得ないようなものを見せた上で感動させてほしい。それが一番難しいから、リアリティで感動させるパターンがどうしても多くなるんですけど、やっぱりたまにこういう凄いのを見せられると「やっぱりこういうのが見たかったんだな」と実感します。リアルを積み重ねてもたらされた感動を、おとぎ話がシンプルに凌駕していく。こういうのがやっぱり虚構の醍醐味なのです。そういう意味では、今期一番の神回だったと思います。もちろん作画など含めた総合的な完成度や、そこに至るまでの物語の積み重ね、キャラ人気要素なども含めれば「ガルクラ」8話とか「ユーフォ」10話とか「忘却」7話とか「ヨルクラ」5話とかの方が感動は上ですけど、単一エピソードとしての純粋なる話の内容だけならこれがナンバーワンだと思いました。

まず今回の冒頭は姫魚よるむんが人気配信者の動画を乗っ取る事件が続発しているという描写から始まります。前回、人気絶頂で引退を発表したVTuber「姫魚よるむん」の熱心なファンだった人たちが次々に失神昏倒する事件が続発して、その中には乙の親友の天地のどかも含まれており、蓮はVTuberの引退によって用済みとなったデジタルデータのアバターの「姫魚よるむん」が「付喪神」という怪異と化してネット配信を経由してファン達を襲っているのだろうと推測しました。そして、蓮はもっと事件は拡大するだろうとも予測して警戒しつつ、のどかを救ってほしいという乙の願いに応えて対処に動くことにしました。

そういう前提で見ると、こうしてよるむんが人気配信者の動画を続々と乗っ取っているのは蓮の予測が当たっているようにも見えます。この作品における怪異発生のメカニズムは都市伝説が生まれて、その都市伝説を共有する人々の無意識が実体化するような感じですから、人気者だったのに突然粗末に扱われて捨てられた姫魚よるむんの不遇な扱いを恨むファン達の意識がよるむんの付喪神を生み出し、その付喪神と化したよるむんが復讐のためにファン達を襲い、その噂が広がることで更に強力になったよるむんの付喪神が無差別に人間を襲い始めたのではないかというふうに見える。

しかし蓮はどうも腑に落ちないと言う。被害がファンだけでなく無差別に広がるのは理にかなっていないと言うのです。よるむんに乗っ取られている人配信者の動画の中には「姫魚よるむん」の運営サイトも含まれていたので、この一連の事件はよるむんの過激なファンがよるむん引退に腹を立てて実行したネット上のテロ行為なのではないかなどとも噂されていましたが、ファン達がよるむんの謎のライブ配信によって失神昏倒していることも併せて考えれば、これら一連の配信乗っ取り事件も付喪神と化したアバターのよるむんによる怪異現象であるのは間違いない。ただ、運営サイトがよるむんの標的になるのは理にかなっているのだが、その他のよるむんと無関係の人気配信者の動画まで標的となっているのはおかしいというのが蓮の見立てでした。

もともと姫魚よるむんのアバターが付喪神と化したのは「大切にしていたのに捨てられた」ということへの恨みによるものであるはず。ならばよるむんの復讐のターゲットとなるのは「よるむんを大切にしていた人たち」だけであるはずなのです。蓮が「まだまだ事件は拡大する」と危惧していたのは、最初は熱心なファンだけに限定されていた被害が、よるむんの配信を見ていた人全員にまで拡大するだろうという意味で言っていたのであり、それだけでも膨大な被害が出るだろうという意味で危惧していたのです。ところが現状はよるむんが無差別に人気配信者の動画を乗っ取っていることによって、よるむんの配信を見ていなかった人たちまで被害に遭い始めている。これは「大切に使われていたものが粗末に扱われたことに復讐するために怪異となった」という付喪神の特性に照らせば不自然なことなのです。

そうした違和感を抱きつつ、蓮は乙と董子と一緒にのどかの入院している病室を見舞うことにした。とりあえず乙からの一番の願いは「のどかを救ってほしい」ということだったからです。のどかがよるむんの引退報道の後、どんどん荒んだ様子になっていき「よるむんが応援してくれている」と言い残して倒れてしまったこと、その際にのどかの持つタブレットに怪異の痕跡を表す標識が立っていたことなどは蓮は乙から話を聞いていました。だから、おそらく怪異と化したよるむんがタブレットを通してのどかに何らかの働きかけを行ったのだろうということは推測出来た。

通常の付喪神というものは普通の実体を持つ道具が怪異化するものですから、百鬼夜行のように街を徘徊したりするのですが、実体を持たないデジタルデータが付喪神化するというのは蓮も初めて知るケースですから、ちょっとよく分からない点もある。怪異というものは実体を持たない噂話が実体化して歩き回ったりもしますから、元はデジタルデータであるとはいっても、よるむんだって怪異となったことで実体を得て普通にそのへんを飛び回っていてもおかしくはない。だが、どうもよるむんは怪異となった後もネット空間から配信という形で人々にアプローチするという手法は守っているようです。これは、やはり元がデジタルデータだから配信を通してしか現実世界に働きかけることが出来ないということなのか、それとも怪異化する前のアバターだった際の習性に従っているということなのか、そのあたりはどうも不明でした。

そうした謎に迫る意味でも、また実際によるむんが何をしているのかについて探るためにも、被害者であるのどかに接触する必要があると蓮は思っていました。その上でのどかを救う手立てを講じようと思って、のどかの両親が経営している高天原病院ののどかの病室に行くと、のどかが院長である父親と言い争っている声が聴こえた。のどかは自分のやりたいことをやらせてくれない父親に反発している様子で、のどかのあまりの剣幕に父親は退散していきました。その後、蓮たちが病室に入ると、のどかは病室にタブレットを持ち込んで必死の形相で何かを打ち込んで作業に没頭している。何をしているのかというと、倒れてしまって遅れの出ている勉強の続きをやらなければいけないのだという。

どうやらのどかが入院後も衰弱し続けている原因はこういう無茶をまだ続けているからみたいです。倒れる前も勉強やアイドルの稽古などを根を詰めて4日も徹夜していたらしい。そして、それを引退して本来は活動していないはずの姫魚よるむんがずっと応援し続けてくれていたのだとのどかは言っていたらしい。そして標識が立っていたことから、よるむんはタブレットを通じてのどかを応援していたようです。そのタブレットを病室にも持ち込んでいるから、相変わらずのどかはよるむんの応援を受け続けて無茶な頑張りを続けていて、だから体調が良くならないのだ。

父親も体力の落ちている娘に安静にするようにという意味でタブレットの使用を止めるようにと注意しているようですが、もともと父親は娘を勉強漬けにしてしまった自分のせいで娘が倒れてしまったと勘違いして負い目を感じており、のどかの方は今やタブレットを通じて自分を励ましてくれるよるむんが心の支えなのでタブレットを取りあげられることを激しく嫌がり、これまで自分の好きなことをやらせてくれなかった両親への恨みもあるので強く反発し、父親はその剣幕を前にして退散するしかないようです。父親としては、娘がそんなに言うならタブレットぐらい持ち込むのは許可しようというところなのでしょうけど、まさかそのタブレットが娘の衰弱の元凶だとは気づいてもいないのでしょう。

大体そういう状況なのだろうと理解した蓮は、やはり、よるむんはタブレットやスマホのようなデジタル端末を経由して被害者に働きかけているのだろうと思った。つまり、よるむんは怪異化してもあくまで端末経由でしか人間に働きかけないのです。それは「出来ない」からなのか「やらない」からなのかは分からないが、とにかくタブレットをのどかから遠ざけてしまえばよるむんの影響を阻止することが出来るのではないかと思えた。ただ、遠ざけてもよるむんがタブレットから抜け出てのどかの元にやってくる恐れはあった。そこで蓮はタブレット自体に怪異を封じる護符を施すことで、よるむんがタブレットから出てくることも、タブレットを通じてのどかに働きかけることも出来なくしようとしますが、何の説明もせずそれを実行しようとしたので董子に制止されて、まずは説明するようにと言われる。

それで蓮は、まずのどかに姫魚よるむんは危険な怪異となっていることを告げ、更に姫魚よるむんは単なる付喪神ではなく「絵から抜け出た怪異」であり、昔からそういう逸話はよくあるのだという。例えば絵馬に描かれた馬の絵から馬の怪異が現れて近所の畑を荒らしては絵馬に戻るという話があったそうです。姫魚よるむんもデジタル画像のアバターが付喪神となった怪異であり、もともとはデジタル画像という一種の「絵」ですから、その画像が表示されるタブレットの画面から抜け出してきて悪さをするわけです。ただ絵馬の馬が悪さをした後は絵馬に戻ったように、よるむんもタブレットから抜け出して悪さをした後にタブレットに戻っていく。そうした特性を利用してよるむんの悪さを封じることが出来るのだと蓮は言う。

絵馬の馬のケースでは、絵馬に描かれた馬の絵に手綱と柵を描き加えると馬は出てこれなくなったそうです。だから姫魚よるむんの画像の元データを加工してよるむんの動きを封じるようにしてしまえば、よるむんはデジタル端末の中から現実世界に出てくることは出来なくなるかもしれない。しかし蓮にはそんな技術は無いし、元データを弄る権限も無い。仮に元データを弄ることが出来る人が弄ってくれることになったとしても、絵馬の馬に手綱と柵を描くような単純な方法でデジタル画像の動きを封じることが出来るというわけでもないだろうから、この方法はよるむんにはあまり有効ではないでしょう。

しかし、単にのどかをよるむんから守るというだけならば、タブレット自体に護符を施すことで、よるむんがタブレットから出てくることを出来なくさせることで解決する。そう考えて蓮は「九字護身法」の護符をタブレットに描き加えようとしたのです。これは修験道や陰陽道の怪異を退ける護身法で、具体的には「九字紋」という縦5本、横4本の線を重ねた紋様を描く簡易的な護符ですが、これを端末に描けばよるむんを防ぐことは出来るはずだと蓮は言う。そして、改めてその方法でのどかを守りたいという意思を伝えてタブレットを渡すよう求めるのだが、のどかは激しく拒絶する。

のどかは蓮が父親に頼まれて自分からタブレットを取り上げるために騙そうとしていると誤解したようです。そこまで猜疑心を強くしているのは、よるむんから引き離されることを嫌がる警戒心があまりにも強いからなのであり、それだけよるむんに依存する気持ちが強いからなのでしょう。それはつまり、よるむんの呪いによってのどかが冒されているということなのかと思い乙は心配しますが、どうものどかの言い分を聞いてみると、そういうわけでもないようです。

のどかは「よるむんはファンを応援してくれているだけ」「よるむんは何も悪くない」と言い、自分が倒れたのもよるむんのせいではないのだと言う。つまり、のどかはよるむんに励まされて頑張りすぎてしまい倒れたのだという。確かに前回の描写を見る限りその通りです。よるむんはひたすらのどかを応援していただけであり、のどかはそれで頑張っただけです。ただ、倒れるまで頑張ってしまうというのは異常であり、やはりよるむんが危険な怪異であるのは間違いない。だが、確かによるむんは励ましていただけであり、蓮はそのことを初めて聞いて、どうもやはり普通の付喪神とは違うようだと感じた。

本来の付喪神というものは自分が粗末に扱われたことを恨んで復讐しようとする危険な怪異であり、出会った者は必ず死ぬと言われていた。しかし、どうもよるむんには相手に対する殺意は無いようです。ただ応援しているだけであり、その応援がいきすぎて相手を頑張らせすぎて昏倒させてしまっているようです。制御不能な危険な怪異である点は間違いないが、現実にまだ死人も出ていない。とりあえずよるむんの励ましを受けても頑張れないぐらいまで衰弱してしまえば、死ぬ前の段階で無茶はしなくなるので被害者も死にまではなかなか至らないのでしょう。ただ回復したらまた無茶を始めるでしょうから一生回復することもない厄介な状況は変わらない、やはり危険な怪異であるのは間違いない。

そもそもさっき蓮のやろうとした対処法だって、世の中にはあらゆる場所にデジタル端末が溢れているのだから、その全てに九字紋を描かない限りはよるむんは何処かの端末から現実世界に出てきてのどかや他の被害者のところに現れるはずです。全てのデジタル端末に九字紋を描くなど不可能ですから、結局はよるむんを封じることなど出来ないのです。だが、それでもまだ誰も死んではいない。つまり、よるむんは殺意は無く、ただファンを応援しているだけだというのどかの言葉は嘘ではない。ならば、よるむんの目的は復讐ではないということなのだろうか。だとしたら、これは普通の付喪神ではないようだと蓮は思った。自分を粗末に扱った者への復讐がよるむんの行動原理でないのだとするなら、無関係の人気配信者の動画を乗っ取ったりしていることとも辻褄は合う。だが、それは「ファンを励ましているだけ」というのどかの言葉とは矛盾する。もしよるむんがファンを励ましているだけだというのなら、どうして無関係の人気配信者の動画を乗っ取る必要があるのかよく分からない。また運営サイトを乗っ取ったりしているのは一体どういう意味なのだろうか。これはまさに復讐のためにやっているようには見えるが、運営サイトの人も死んではいない。ならば運営サイトの人もファン達のように励まされているのかというと、そういうわけでもないようです。そういうわけで蓮はどうもよるむんの行動原理がよく分からなくなってきた。

そうしていると、のどかの病室に畔目真奈美先生がやってくる。のどかに会わせたい人がいるのだと言う。真奈美はその人物を董子や蓮や乙にも会わせたいと思っていたようなので、ちょうど全員が揃っていて好都合だと言う。そうして真奈美がのどかに紹介したのは車椅子に乗った少女で、名前は花村美甘といい、その声を聴いてのどかは驚く。その声はよるむんと同じ声だったからです。実は美甘は姫魚よるむんの「中の人」、つまりVTuber姫魚よるむんの声を担当していた人だったのです。

この美甘は第3話で少し登場している。真奈美がコオネ女学院のよだれかけ事件の結果、火傷を負って高天原病院に入院していた場面で、真奈美の病室に訪ねてくる姿が描かれていました。実はその時、美甘は定期検査で高天原病院に検査入院していて、その時に入院中の真奈美と知り合って仲良くなっていたのだそうです。その際、真奈美は美甘がVTuberをしていることや、姫魚よるむんの声を担当しているという話も聞いていたのですが、そもそも真奈美はVTuberというものについて全く無知だったのでよく理解できず、話の内容もほとんど忘れていた。だが、先日のどかと学校でVTuberや姫魚よるむんの話をしたことがきっかけで美甘がよるむんの関係者だったことを真奈美は思い出し、のどかが倒れて入院してしまったことで乙が姫魚よるむんと関係があるのではないかと心配していたので気になって美甘と連絡をとってみたところ、美甘がよるむんが自分と無関係に勝手にネット上に出没して多くの人を昏倒させていることで悩んでいたので、それで真奈美はまず実際に被害に遭ったのどかに話を聞いた上で怪異に詳しい董子や蓮たちに相談しようと思って美甘を連れてのどかの病室にやってきたようです。そこにちょうど董子や蓮も居合わせたということで、挨拶をすると美甘は皆に向かって「お願いします!よるむんを助けてください!」と頭を下げる。董子たちはどういうことなのかよく分からないまま、とりあえず皆で談話スペースに移って話し合いをすることになった。

そうして董子たちは美甘がVTuberであり「姫魚よるむん」の声を担当していた「中の人」だということを説明してもらったのだが、美甘は車椅子に乗っていて身体が不自由な様子であり、気も弱そうな印象で、配信映像の中の姫魚よるむんとは全く違う印象でした。特にのどかはいつも自分の見ていた配信映像の「姫魚よるむん」とのあまりの印象の違いにショックを受けていた。よるむんはいつも元気で前向きで、そんなよるむんに励まされていたのどかは美甘を見て幻滅してしまったのです。こんな人がよるむんの元気な姿を演じていたのかと思うと、自分を励ましてくれた言葉も全ては嘘だったように思えて、のどかは騙されていたように思えて嫌な気分になった。特に、自分が初めて「アイドルになりたい」という夢を打ち明けて、それを美甘がよるむんを演じて「これからも応援していく」と言っておきながら翌日によるむんを引退させたことは赦せなかった。自分の夢をバカにしているのかと思ってのどかは腹立たしかった。美甘は要するに運営側の人間であり、のどかにとって大切な姫魚よるむんを突然引退させた張本人なのであり、そのことで深く傷ついたのどかにとっては敵のようなものだった。だからのどかは美甘に敵意を抱き、まともに顔を合わせようともしなかった。

美甘の方ものどかが姫魚よるむんの熱心なファンであって引退報道でショックを受けていたということは真奈美から聞いて知っていたので、のどかが自分に対して良い印象を持っていないことは分かっており、こんな弱弱しい自分がよるむんを演じていたことで幻滅させてしまっているだろうということは分かっています。その上で、美甘は自分も子供の頃は活発で目立ちたがりでアイドルになりたいと思っていたのだと、生い立ちを語りだす。だが12歳の時に進行性の難病が発病して歩けなくなり車椅子生活になり、当然アイドルになる夢は諦めるしかなくなった。そして美甘が動く時は常に他人の手を煩わせることになり他人の迷惑になるばかりの人生を美甘はずっといたたまれない気持ちで生きてきた。そんな何の希望も無い美甘の人生を救ってくれたのが「姫魚よるむん」だったのだという話になり、それまで興味無さそうにしていたのどかは初めて反応を示して美甘の顔を見た。のどかも姫魚よるむんに救われた人間なのであり、そんなのどかから見て美甘はよるむんを単に利用して商売をしていた人間に過ぎなかったのだが、その美甘もまた自分と同じくよるむんに救われたというのが意外だったのです。

美甘の話によると、美甘は何の希望も無く他人の迷惑になるだけの人生の中、何か突破口を見出そうとして、藁をも縋る想いでVTuberのオーディションを受けることにしたのだそうです。VTuberなら顔を出さずに済むし上半身だけ動かせれば演じることが出来る。そうしてVTuberで子供の頃に夢見ていたアイドルになって、自分みたいにどうしようもない状況で足掻いている人を応援したり癒してあげたい。そうして他人に迷惑をかけ他人から応援されるだけだった自分がこれからは誰かを元気にしてあげたい。そうした切なる想いでのダメ元での応募だったのですが、運営会社の人たちがそうした美甘の想いに共感してくれて採用となり、モデラーやデザイナーも共感してくれて、美甘と一緒に皆で「姫魚よるむん」というキャラを作り上げていったのだそうです。

下半身が魚の人魚キャラにしたのは、下半身が動かせない美甘が演じやすいキャラ設定で、そこから人魚にまつわる伝説などから名前をとって「姫魚よるむん」というキャラが出来上がったのだそうだ。ちなみに「姫魚」というのは日本に伝わる人魚の妖怪の名前であるが、むしろキャラとしての「姫魚よるむん」の姿は「姫魚」に似た姿の人魚の妖怪「神社姫」の方がより近いといえます。二本の角があるという神社姫に似て「姫魚よるむん」は頭髪が左右に2ヵ所クセ毛のように跳ねていて角のようになっており、下半身の魚のような部分が非常に長い。「神社姫」をモデルとしていながら、それに似た「姫魚」という名前をつけているのは、おそらく「神社姫」よりも「姫魚」の方がキャラとして可愛らしいイメージだからでしょう。そして「よるむん」という名前の方は、おそらく北欧神話に登場する大蛇の精霊「ヨルムンガンド」から取っているのでしょう。「ヨルムンガンド」は海の底に居て、尾が非常に長いので「神社姫」のイメージと重なる部分が多かったのだと思われ、あとは「よるむん」という言葉の響きが他に無い特徴的であって可愛らしい感じだったからなのでしょう。

そうして美甘は「姫魚よるむん」というアバターを皆で作りあげて、その「中の人」として子供の頃の夢だったアイドルとなり、多くのファンを獲得して、多くの人を応援して元気づけてきた。前回、ライブ配信に寄せられたのどかの「アイドルになりたいけど夢を追う勇気が出ません」というコメントに反応して「姫魚よるむん」を演じる美甘が「私も似たようなもので、Vに出会ってなかったらアイドルになれなかった」と言っていたのはこういう意味だったのです。難病で下半身が動かない美甘はVTuberになることでアイドルになるという夢を叶えることが出来たのです。そして、それは自分が夢を諦めなかったから実現したのだとも言い、だからファンの人たちにも夢を諦めないで頑張ってほしいのだと前回も美甘は「姫魚よるむん」として言っており、そうしてのどかの夢も応援してくれていたのです。

だが、あののどかの夢を応援した配信が終わった直後に美甘は倒れてしまった。「姫魚よるむん」として何年も頑張りすぎたために、もともと進行性の難病に冒されていた身体がとうとう限界に達してしまったのです。それでドクターストップがかかり運営側はもう活動の継続は無理だと断念し、苦渋の決断で「姫魚よるむん」は引退と発表された。ところがその直後からネット上で「姫魚よるむん」のライブ配信があったとか、それを見たと思われるファンが何人も昏倒する事件が起きたりして、更には運営サイトがよるむんに乗っ取られたり、他の人気配信者の動画もよるむんに乗っ取られたりする事件も続発し、運営側の関与を疑われたりもしたが困惑するばかりで、奇妙な現象としか言えない事態に美甘も困惑していたところ、以前に知り合った真奈美が連絡してきて事情を話したところ、それは怪異が関わる事件かもしれないと言われて、真奈美にそういうことに詳しい人物を紹介すると言われ、まず被害者の1人がちょうど教え子に居るので会いに行こうと言われて美甘がこの病院に来たところ、そこで董子や蓮に出会ったのです。

そういう経緯を説明した上で、美甘はよるむんを止めるために力を貸してほしいと蓮たちにお願いする。よるむんと名乗る者が自分とは関係なく出没して、その結果、多くの人が苦しんでいる。その正体が何なのか美甘には分からなかったが、自分が多くの人を元気づけるために作り上げて演じてきた「姫魚よるむん」が今は多くの人を苦しめているということが美甘には耐えられず、とにかくよるむんを止めなければいけないと思っているのです。ただ、そのためにはまずは今活動している「姫魚よるむん」とは何者であるのかを知らねばならない。

それについては蓮は当初は「付喪神」だと思っていた。大切にされていた道具が粗末に扱われたことを恨んで復讐のために怪異と化したもののデジタルデータ版なのだと思っていた。だが復讐が目的の付喪神にしてはどうも不自然な点が多いので、蓮は違和感は覚えていた。そこに、董子が「美甘のところにはよるむんは来ていないのか?」と質問したのに対して美甘が「何故か自分のところには来ない」と答えたのを聞いて、蓮はやはりこの「姫魚よるむん」は普通の付喪神ではないと確信した。粗末に扱われたことに復讐することが目的ならば、真っ先に美甘のもとに現れて美甘を襲うはずだからです。

しかしよるむんは美甘のもとには現れないということは、復讐ではなく何か別の目的で動いていることで確定です。そして、その目的とは、のどかの話を聞く限り「ただ応援するだけ」みたいです。その上でさっきの美甘の回想話の中で語られた「姫魚よるむん」というキャラが誕生した経緯をふまえて、蓮は今騒動を起こしている「姫魚よるむん」の正体は「画霊」だと確信した。デジタルデータという無生物が怪異化したという意味では一種の「付喪神」であるのは間違いないが、復讐を目的とした通常の付喪神ではなく、「画霊」という本質を持つがゆえに別の目的で行動しているのだということになります。

「画霊」とは人が心を込めて作り上げた絵や彫刻などの創作物に作者の想いがこもって動き出す怪異なのだそうで、つまり強い意識の力が創作物を依り代として実体化したものと考えればいい。通常の怪異は多くの人間の集合無意識が実体化して怪異となるが、画家や彫刻家などのような芸術家の強烈な意識の力はそれを単独でも可能にすることもあるのでしょう。そして、「姫魚よるむん」も美甘の「人を応援したい」という強い想いがこもって作られている。美甘自身は高名な芸術家ではないが、難病によってずっといたたまれない想いで生きてきた人生から湧き上がってくる「人を応援したい」という切なる想いは強烈であり、更にその美甘の想いに共感した多くのクリエイター達の想いも加わっており、一種の「画霊」としての特殊なデジタル画像の怪異を生み出すには十分だったといえます。

前回、のどかが「姫魚よるむん」のライブ配信を見ている時、「中の人」である美甘の視点ではなく、それとは別に水中の居る「姫魚よるむん」の視点で画面の向こうののどかを見ているカットがあったが、あの水中にいた「姫魚よるむん」が「画霊」として既に生まれていたよるむんだったのです。たぶん美甘が「姫魚よるむん」として活動し始めた頃から「画霊」としてのよるむんも生まれていたのだと思います。そして「みんなを応援したい」という美甘の想いが画霊にもこもっていた。ただ、美甘自身がみんなを応援していたので、画霊のよるむんは前回ののどかを見ていた場面のように満足してそれを見ているだけだった。だが、その直後に美甘が倒れてしまいみんなを応援することが出来なくなってしまったので、画霊のよるむんは自分が美甘の想いを引き継いで「姫魚よるむん」としてみんなを応援しなければいけないと思い、美甘の代わりを果たそうとして懸命に頑張っているのであり、頑張りすぎて、過剰に応援された人が過労になって倒れてしまう事態を続発しているのだ。

このままよるむんの暴走を放置しておけば、いずれは過労死する人も出てくるかもしれず、既によるむんに標的にされた人はずっとよるむんの過剰な応援によって苦しみ続けることになるでしょう。だからよるむんは止めなければならない。しかし、それは「画霊」としての想いを果たす使命を放棄させるということであり、そうなれば「画霊」としてのよるむんは消えて、よるむんはただの何も言わない絵やデータに戻る。つまり、「姫魚よるむん」が今度こそ本当にこの世界から居なくなるということです。そして、それを可能にする方法はあると蓮は言う。ただし、そのためには美甘とファンの人たちの協力が必要なのだとのことなのですが、それを聞いたのどかは「私は協力しない」と言う。

のどかはさっきの美甘の過去の話を聞いて、美甘が真剣な想いでVTuber「姫魚よるむん」をやっていたということは分かった。難病に苦しむ身の上も気の毒だとは思った。でも、「みんなを応援したい」という想いを途中で断念したのは事実であり、その想いを画霊のよるむんが引き継いでいる以上、今ののどかにとっての「姫魚よるむん」は画霊の方のよるむんだった。画霊のよるむんは「みんなを応援したい」と懸命になってくれていて、それが行き過ぎていたとしても、それだけ真剣に自分やファンの皆のことを想ってくれているのだから、よるむんは何も悪くないのだとのどかは思った。何も悪くないよるむんを消すなんて間違っている。そんなことに自分は協力したくない。自分はずっとよるむんに応援してもらいたいのだ。途中で居なくなって応援を止めた美甘なんかよりも、ずっと傍に居て応援してくれるよるむんを自分は守りたいとのどかは思った。

そんなのどかの「よるむんは貴方みたいに居なくなったりしない!」という非難を聞いて、美甘は「私ね、もうすぐ居なくなっちゃうんだ」と言う。難病が進行してもうすぐ喋ることも出来なくなり、死を迎えることは医者に告知されているのです。それを聞いて、のどかは自分は何て酷いことを言ってしまったのだろうかと真っ青になるが、美甘は「でも後悔は無いよ」と真っすぐのどかを見つめて言う。そして「よるむんのおかげでアイドルになる夢を叶えられたんだから」という美甘の言葉を聞いて、のどかはあのライブ配信の時に自分のアイドルになりたいという夢を自分の夢と同じだと言って応援してくれた「姫魚よるむん」は目の前にいる美甘だったのだと改めて実感した。

あの時、自分を応援してくれたのは画霊のよるむんではなく美甘だった。その美甘がもうすぐ死んで居なくなってしまう。自分の「姫魚よるむん」は居なくなってしまうのだとのどかは思った。もう自分のアイドルになるという夢を応援してくれる「姫魚よるむん」は居なくなる。それが寂しいから自分は画霊のよるむんに縋ろうとしている。でも、その美甘自身は「よるむんのお蔭でアイドルになれた」とは言っているが、よるむんに励まされてアイドルになったのではない。自分自身の「みんなを応援したい」という強い意志を実現するための「姫魚よるむん」を作り上げて演じることを心の支えにして自分の力を奮い立たせてきたのです。そうして全力で生き抜いて、もうすぐその命を燃やし尽くそうとしている。

自分が憧れた「姫魚よるむん」はそういう人だったのだと実感したのどかは、いつまでも励まされることだけ求めている自分が恥ずかしく思えた。そんな自分がアイドルになれるはずがないとも思えた。だから、せめてこんな自分が胸を張ってアイドルを目指すためには、今まで励ましてもらった分のお返しを何かしなければいけないと思ったのどかは、「私のせいでよるむんが悪く言われていることだけが心残りなの」「だから、まだ動けるうちに何としてもよるむんを止めたい」と言う美甘の言葉に対して、涙をぬぐいながら「何をすればいいの?」と問い返す。こうしてのどかが協力してくれることになり、蓮はのどかに「ファンを集めてください」と言う。

蓮の言うには、現在よるむんが画霊となっている状態は疑似的な「神降ろし状態」なのだという。つまり「怪異」というものは人間の意識が実体化したものであり、神や悪魔も同種の存在ということすから怪異が顕現している状態というのは神が顕現している状態と同じなのであり、特に「物体に神が宿る状態」を「神降ろし」というので、アバターのデジタル画像が怪異化している現在のよるむんの状態は一種の「神降ろし状態」というわけです。それで、神道では「神降ろし状態」を解消するための儀式が「神上げ」として規定されていて、その「神上げ」の儀式を踏襲すればよるむんの画霊状態を解消して、画像は単なるデータに戻り、怪異としてのよるむんは神が天に上がっていくように、昇天してこの世から消えることになるのだという。まぁきさらぎ駅から電車に乗せてこの世界から追放するのと同じようなことなんでしょうけど、そういうのを神道では昔から儀式化してやっていたんでしょうね。

もともと「神降ろし」というのは神の宿る「依り代」に神をお迎えすることであり、神社などにあるご神体というのはそういう役割を果たす「依り代」です。その「依り代」に神を迎え入れるためには神と会話できる「巫女」と神を信仰する「信者」の力が不可欠となります。つまり「依り代」「巫女」「信者」が揃えば「神降ろし」は出来る。ということは、現在よるむんが画霊となり付喪神化して暴走している状態になったのも「依り代」「巫女」「信者」が揃っていたからだといえる。この場合、「依り代」はアバターであり、「巫女」は「中の人」である美甘であり、「信者」は配信の視聴者であるファンの皆だということになる。そして、神道における「神降ろし」を解消する「神上げ」にも同じように「依り代」「巫女」「信者」が必要であり、同様に今回のよるむんを止めるための「神上げ」もまた「依り代」であるアバター、「巫女」である美甘、「信者」であるファン達が揃わねばならないということになる。だから蓮はのどかにファン達を集めてほしいと言ったのです。

その「神上げ」の儀式の手順は「神を迎えて」「もてなして」「送り出す」という形で進むのだそうで、日本古来の祭事というのはだいたいこういう手順で行われています。だから今回の「神上げ」も基本的には同じ手順で進められる。怪異であるよるむんをお迎えして、もてなして、別の世界にお帰りいただく。つまり丁寧に説得すればいいのだが、説得役は巫女である美甘です。ただ信者たちが揃っている場所でなければ神はお迎えすることが出来ないので、その前に信者を集めなければいけない。今回の場合はネット世界における怪異が相手ですから「神上げ」の儀式もネット空間で行われる。だから「ファンを集める」といってもリアルで集めるのではなく「よるむんの卒業配信ライブをやります」という嘘の告知を拡散して配信ライブ会場にファン達を集めるのであり、その拡散の呼びかけをのどかが担当したのです。

そうして「信者」であるファン達が大量に集まって準備は整い、のどかの自宅に集まった蓮と乙と董子と真奈美はタブレット画面を見つけてスタンバイし、「巫女」である美甘も一緒にスタンバイする。そうなるとあとの問題は「依り代」であるアバターがこの配信会場に現れるかどうかです。つまり、画霊となったよるむんがファン達の集まるこのネット空間の会場にやってくるかどうかです。しかし、のどかは「よるむんは絶対来る!よるむんはいつもファンを見てるんだ!」と強く確信している。すると、配信ライブ会場によるむんが現れ、よるむんが暴走して画面から飛び出してきて蓮たちは大量の水に飲まれてよるむんに襲われてしまう。そこで真奈美がスカーフを外して塵輪鬼の呪力を使ってよるむんの放出した水を舐めると、熱気で水がすべて蒸発し、熱気でダメージを受けたよるむんは暴走状態が解消して大人しくなってタブレットの中に戻る。

そうしてようやく冷静に会話が出来る状態となったので、美甘がタブレット内のよるむんに向けてコメントを打ち込む。それは普段は美甘が「姫魚よるむん」としてコメントを打ち込んでいるパソコンから打ち込んだコメントなので、コメント欄には「姫魚よるむん」からのコメントとして表示される。画面上には画霊のよるむんが居て、そこに本物の「姫魚よるむん」からのコメントが来るという奇妙な状態となり、集まっていたファン達は困惑しますが、画霊のよるむんは、このコメントが美甘からのものだと気付き、むしろ大喜びで「私頑張ったんだ!ちゃんと皆を応援してるよ!」と美甘に向かって報告してくる。自分が美甘の想いを引き継いでみんなを応援したことを美甘も喜んでくれるものだと思っているようです。

そんなよるむんに向かって、美甘は自分もよるむんと話が出来て嬉しいと言いつつ、よるむんに数々の昏倒事件のニュース画像を見てもらう。それを見てよるむんは自分のせいで多くの人が昏倒したのだということを初めて知ったようで、ショックを受けて「私、迷惑だった?」と美甘に問いかける。美甘は慌てて、そんなことはないと答えようとするが、それよりも早くファン達からの多くのコメントが寄せられる。それは「自分が辛い時に頑張ることが出来たのはよるむんのお蔭だ」「だからよるむんが迷惑なんてことはない」というコメントばかりでした。そしてのどかが涙をこらえなかがら「ありがとう、だから私たちは1人でも歩いていけるよ」とコメントを打ち込む。

それらのコメントを見て、よるむんは自分の役目は果たされたのだと悟り、もう自分はこの世界からお別れしなければいけないのだとも悟る。そして少し寂しそうに満足そうな表情を浮かべると、タブレットの画面の向こうにいる美甘の方に両手を伸ばし、美甘も両手を伸ばして、2人はタブレットの画面のところで両手を固く握り合う。そして、よるむんが「私たち、頑張ったよね」と言うと、美甘も「そうだね、ご苦労さま。みんなはもう大丈夫だから」と伝える。「本当に?」と問いかけるよるむんに美甘は「本当だよ」と安心させると「私もきっと、すぐそっちに行くからね」と言って、この世界を去っていくよるむんを自分が孤独にはさせないと言って安心させようとする。自分も近いうちに命が尽きて、よるむんが旅立つ先の世界に行くはずだと美甘は言うのです。しかし、よるむんはニッコリ笑って「それは違うよ」と返す。そして「貴方にも、まだまだ良いことがあるんだよ」と言うと、よるむんはタブレットの外側に出てきて美甘の唇にキスをすると、唖然としている美甘の顔をしばし見つめてから笑って動き出し、部屋の中を長い尻尾を引きながら泳ぐと、のどかの顔を見て笑顔で別れを告げると、そのまま窓ガラスをすり抜けて外に飛んでいった。そうして夜の東京の街の上空を飛び回り、皆にエールを贈る歌を唄いながら、ビルの壁面や川の水面や街頭ビジョンや電気屋のテレビ画面など、ありとあらゆる画面に自分の姿を映しだして、全ての人々に応援のエールを送っていく。

まるで東京の街全てがよるむんの姿で溢れたかといえる異様な状況に、一体何が起きたのかと驚いて董子たちがベランダに出て東京の街を唖然と眺めていると、どういうわけか美甘がベランダに出てくる。車椅子ではなく、1人で立ち上がってベランダに出てきた美甘の姿を見て董子たちは驚愕して声をかけるが、美甘はとにかくよるむんに別れの言葉をかけるために必死であり、思わず自力で立ち上がってベランダに出てきたのであり、そのまま街中に広がるよるむんの姿に向かって「よるむん!!」と叫ぶ。すると、立って自分を呼ぶ美甘の姿を見て安心したように笑ったよるむんは、そのまま天に昇っていき、街は何事も無かったかのように元の姿に戻っていった。

そうしてベランダで唖然としている皆に向かって、蓮がようやく謎が解けたと納得したように語る。姫魚よるむんの「姫魚」は人魚の妖怪の名前だが、その別名は「神社姫」といい、疫病退散の神なのだという。そもそも「姫魚よるむん」というキャラを設定する段階で「みんなを励ましたい」「みんなを元気にしたい」「みんなを癒したい」という美甘の想いを反映するキャラだから、そういう疫病退散の神、つまり病気を癒す神、病気を治す神のイメージが採り入れられたのです。そういうイメージのキャラだったから、怪異化した際にもそういう特性を持った怪異となった。だから皆を元気づけて癒そうとしたのです。それももともとは「みんなを元気にしたい」という美甘の夢を実現したキャラ特性だったわけだが、そうして生まれたよるむんという怪異が一番元気にして救いたいと思っていた相手が美甘だったのです。よるむんが一番治したいと思っていた病気が美甘を冒している進行性の難病だったのです。

そして、最後まで理由が不明だったよるむんが人気配信者の動画を乗っ取りまくっていた理由がようやく蓮にも納得できたのでした。神社姫やアマビエのような疫病退散の人魚型の妖怪や神は「自分の似姿を増やすことで疫病を退散する力を増す」という信仰が伝統的にあり、江戸時代には人々は神社姫やアマビエの写し絵を大量に刷ってバラまいたりしていました。それと同じことをよるむんもやっていたのです。人気配信者の動画を乗っ取ればより多くの人に自分の画像が拡散されていくことになる。よるむんの運営サイトを乗っ取ったのも、そうしてあちこちで乗っ取り騒動を起こせば運営ページを閲覧する人が増えることが分かっていたからです。全ては自分の似姿を拡散して増やして、自分の持つ治癒のパワーを上げるためでした。トドメは東京じゅうの画面をジャックしたことで、これでよるむんは美甘の難病までも治癒して天に昇っていったのです。美甘の「みんなを元気にしたい」という夢が生み出した姫魚よるむんというアイドルが、最後は美甘自身を救ったのです。