2024春アニメ 5月18日視聴分 | アニメ視聴日記

アニメ視聴日記

日々視聴しているアニメについてあれこれ

2024年春アニメのうち、5月17日深夜に録画して5月18日に視聴した作品は以下の4タイトルでした。

 

 

アストロノオト

第7話を観ました。

今回は拓己が葵に誘われて町内会の昆虫祭りに出かけますが、イナゴ焼きそばとかサソリ焼きとか凄い料理が屋台で出まくってて拓己はドン引きします。しかし葵は昆虫食にすごく積極的です。実は葵は拓己がコックとして勤めていたホテルでホール係として働いていたのですが、その際に最初は仕事に慣れなくて落ち込んでいた葵に拓己が声をかけてエスカルゴのパイを食べさせてくれて、カタツムリも食べられるのを驚く葵と昆虫の食材の話で盛り上がったりした。また葵が聞いていたラジオ番組を拓己も聞いていると言ってくれて、葵は拓己のことを好きになった。でも拓己は葵の名前も認識していなくて、葵は仕事を頑張るようになり、拓己とは最初に喋って以来全く会話はしなかったが、葵は拓己の作った料理をちゃんと運べるようになろうという想いで仕事もミスしなくなり、拓己も聞いているというラジオ番組にメールを送り続け、自分のメールが読まれて景品のステッカーが貰えたら拓己に話しかけようと心に決めていた。そして遂にラジオでメールが読まれてステッカーも貰えて拓己に話しかけようと思って出勤したらホテルは倒産していた。

その後、葵はホームレス生活を送っていて先代大家の下高井戸に拾われて7号室に住むようになっていたのだが、拓己が引っ越してきて自分のことを覚えていないようなのでどうにかして思い出してもらえないかと思い、一度だけ話した時に盛り上がった昆虫食を一緒に食べたら自分のことを思い出してもらえるんじゃないかと思って昆虫祭りに拓己を誘ったのでした。しかし一緒に昆虫を食べても思い出してもらえず、ラジオ番組のステッカーを見せてもやっぱり思い出してもらえなかった。

そうしていると昆虫祭りのハチノコ大食い競争の景品が下高井戸の残したカギだと思ったミラとショーインも昆虫祭りにやって来た。それで話を聞いてミラの考えを察した拓己は自分が大食い競争に出てカギをゲットすると言い出し、ミラとペアを組んで大食い大会に出場する。そして近所のオバチャンのチームと激闘を繰り広げた末に勝利してカギをゲットするが、それはただの段ボールで作ったオモチャで、ミラの探すカギではなかった。そうして皆で楽しく帰ってきたのだが、葵は結局拓己に思い出してもらえる悲しくて1人涙します。またゴショ星のスパイのイカも未だアストロ荘に潜伏中というのが明らかになり次回に続きます。

 

 

変人のサラダボウル

第7話を観ました。

今回はまず惣助がサラが学校に行きたいと言っていたことを思い出して、弁護士のブレンダに戸籍を取得する方法について相談に行きます。しかし結局は非合法な手段ぐらいしか現実的な方法は無くて、とりあえず諦める。ブレンダの方はサラの素性を疑い、惣助のことを好きなので心配したりします。また、ブレンダが惣助に依頼していた離婚調停の仕事は分が悪くなってきたのでブレンダは春花に依頼して対象者を浮気させるように裏技を使わせる。実は春花も惣助のことを好きだったりする。

続いて惣助は不倫調査の仕事で、対象者を尾行していて、対象者は真面目に仕事しているばかりでどうやら不倫はしていない様子。サラは備考の便宜上、髪色を金色から黒に変えたりする。そして尾行3日目に対象者を尾行していると笠松競馬場に来てしまい、対象者がずいぶん競馬にハマっていることが分かり、不倫ではなくギャンブルにハマっていたことが分かった。それでもう仕事は終わったようなものということで惣助も馬券でも買おうということになり、サラも予想して惣助がサラの分の馬券も買ってやる。するとサラの馬券が大当たりを連発して大儲けする。帰り際に惣助は対象者に声をかけられて、対象者は惣助が探偵とは気づいていない様子で、惣助とサラを親子連れと勘違いしたようで話しかけてきて、対象者は子供が競馬ゲームにハマっているので話題を合わせるために競馬場通いをしているのだと言い、賭けているのも少額だけだった。そして惣助は帰り道で自分と黒髪になったサラが親子に見えることに気付き、サラに自分の子供にならないかと持ち掛ける。今回はここまでであり次回に続きます。

 

 

魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?

第7話を観ました。

今回は新ヒロイン登場回であり、しかもロリっ子ヒロインです。まず冒頭はシャスティルの話で、ザガンを庇ったことで聖剣所持者の権利を剥奪されてしまったシャスティルのもとに最強の聖剣所持者である残忍な男ラーファエルがやってくるという話が持ち上がり、シャスティルは自分は粛清されるのだと覚悟します。このラーファエルの件は今回はここまでであり、次回以降の話に繋がっていくのでしょう。

そして今回の本編の方は、ザガンは前回出現した「魔族」について書庫で調べようとするが成果は無く、元気が無い様子のザガンを元気づけようとするネフェリアは美味しい料理を作って2人は幸せな時間を過ごしていましたが、そこに侵入者がやってきてザガンを襲ってくる。魔王候補だった者の1人のようですが、ザガンは軽く倒します。ところがその正体は幼女で、ザガンはネフェリアの前で子供に暴力を振ってしまったことで狼狽する。

それで気絶している幼女を客用の寝室に運んで寝させて、目が覚めた幼女と話をしますが、幼女は竜の子供であり名はウォルフォレといい、自分は力が弱いのでザガンを倒して力を奪いたかったのだという。そこでザガンは子供相手なので罰を与えて反省させようと思い、屋敷で罰としてネフェリアの仕事の手伝いをさせることにしました。そして心を開こうとしないウォルフォレにネフェリアの作ったスープを与えてやるとウォルフォレは少し素直になりました。

そうしてウォルフォレはザガンの屋敷でネフェリアの手伝いをするようになり、ザガンは子供が苦手なので扱いに困りますが、ウォルフォレにはどうやら居場所が無いみたいなので昔の自分を見るように思えて同情します。一方で魔族について調べるために先代魔王のマルコシアスの居城を調べようと思ったザガンは素直になってきたウォルフォレも連れて行こうと考え、ウォルフォレはどうして自分をそこまで信用するのかと警戒しますが、ザガンはここではお前は子供なのだから好きにすればいいと言ってやる。するとウォルフォレは安心した様子になる。そんなザガンとウォルフォレを見てネフェリアが「まるで子供が出来たよう」なんて言うのでザガンもネフェリアも照れまくったりしてしまう。そんな感じで次回に続きます。

 

 

ガールズバンドクライ

第7話を観ました。

今回は新川崎と紅しょうがの合わせて5人組が諏訪のライブハウスに出演するという話でした。そのために5人で1台のバンに乗って中央道を走っていき、桃香の旧知の先輩ミュージシャンと出会ったり、仁菜の過去がちょっと明らかになったり、紅しょうがの2人の過去もちょっと明らかになったりするエピソードでしたけど、何といっても大きな出来事としては、桃香がバンドを辞めると言い出したことと、5人のバンド名が「トゲナシトゲアリ」に決まったこと、そして最後に仁菜が予備校を辞めると言い出して次回に続くことになりました。

また今回は最後にライブシーンを持ってくるエピソードであり、そこで演奏された曲が「名もなき何もかも」という曲で、ここまでのエピソードで劇中で演奏された曲は全部が新曲だったんですが、この曲だけは既存曲で、この作品内のトゲナシトゲアリの5人組のキャラの声を担当しているリアルバンドのトゲナシトゲアリの1stシングルみたいです。ただアレンジは別になっていて新録になっています。「名もなき何もかも」のもともとのPVと見比べて聴き比べてみると、今回の方が映像も音楽も洗練されておらず完成度は低めでした。まぁそれでも驚きのクオリティなのであり、荒々しさは勝っているぐらいではあり、やはりオリジナルPVが全体的にそれを更に超えてるというだけの話なんですが、それでもあえてクオリティが劣ったものを出してきたというのは勇気のある決断です。

今回の方が完成度が低かったというのは、オリジナルPVの「名もなき何もかも」を演奏しているトゲナシトゲアリは既にバンドとして完成されていてプロデビューしている設定であるのに対して、今回のエピソードのトゲナシトゲアリはまだプロになっておらず、バンド名も付いたばかりでありメンバーもまだバンドとして完成されておらずバラバラな状態だからです。特に桃香なんて辞めるって言ってる状態でステージに立っているわけで、こんな5人の状態でオリジナルPVそのまんまのパフォーマンスが出来たらそれはリアリティが無さすぎるでしょう。

ただ、そうはいっても、この作品はリアルバンドと連動したプロジェクトなのであり、2.5次元型のメディアミックスと言っていい。ソシャゲと連動している作品も同様ですけど、そういう企画の場合はアニメの内容はリアルやソシャゲの方の事情に合わせて作られがちになるものです。少なくとも、リアルバンドのトゲナシトゲアリのデビュー曲である「名もなき何もかも」を使う以上は、普通は「キメ」の場面でカッコよく使いたいものです。まぁ十分カッコ良かったけど、それでもストーリー的にはずいぶんスッキリしない場面でリアルバンドにとっての最重要曲を使ったものだと思います。

ここで「名もなき何もかも」を使ったということは、それは「ここが始まり」という意味なんでしょう。そして、それがスッキリしない場面になったということは、始まりをあえてスッキリしないものだとする描き方だからなのでしょう。つまり、この後これ以上に決定的なスッキリする場面があり、そこでは「名もなき何もかも」を超える曲が出てくるということなのでしょう。要するに泥臭いストーリー優先であえてリアルバンドのデビュー曲をイマイチな扱いにしたということであり、かなり攻めてる作り方だと思います。

それは今回の「トゲナシトゲアリ」というバンド名の決定の経緯の描き方にしても同じで、普通はなんかイイ話にまとめて意味のあるバンド名として「トゲナシトゲアリ」と命名したくなるところなのに、今回はものすごく雑な決め方をしました。しかしこれもストーリーの上ではしっかり整合性が取れている。そのためにリアルとも連動しているバンド名の扱いをここまで雑にするというのもまた相当に勇気のある描き方だと思います。このように、この作品はメディアミックス展開でありながらあくまでストーリー優先であり他にほとんど忖度しない、かなり攻めた構成になっていて、まさに作品そのものが「ロック」してるなぁと感心させられるのです。

まぁそういうわけでストーリー的には今回はモヤモヤしたものであり、前回もモヤモヤ気味でしたから、第5話ラストのライブ場面より後はずっとモヤモヤしてる。しかし全くイマイチ感は無い。ライブ場面や今回のバンド命名シーンなどが尖りまくっているからというのもあるが、話が普通にムチャクチャ面白いからです。こういうレベルの作品になると、もう「溜め回」とか「振り回」とか「決め回」とかいう区分自体があまり意味が無い。ストーリーが大河ドラマのように完全に1つに繋がっているからです。原作が長編の名作だったりしたらこういうケースはたまにあるんですが、それをオリジナルアニメでやっているところがなかなか凄いと思います。

今回の冒頭は仁菜たちがライブハウスで新川崎の物販をしている場面から始まりますが、さっぱり売れていないようです。どうやら仁菜が提案してTシャツとかタオルとかに新川崎のロゴを入れて売ろうとしているようですが、活動の足しにしたいとか言っており、資金を稼ぐというより、どちらかというと名前を売ってフォロワー数やライブの動員数を増やしたいという思惑なんでしょうね。それは前回ライブハウスのオーナーに助言されたやり方でプロデビューを目指す作戦の一環です。フォロワー数やライブ動員数が増えれば自然とプロデビューの話がやってくるという話を信じて、仁菜は地道な努力をしている。

新川崎というバンド名が仮の名前であって、新たに紅しょうがの2人も加わったことで新しい正式なバンド名を決めなければいけない時期に慌てて新川崎のグッズを作る意味があったのかという問題はあるし、現実問題として全く魅力的なグッズでないのでサッパリ売れていないという問題もあるが、それでも地道な努力自体は悪くはない。すばるなんかは積極的に協力してくれている。そもそも正攻法で桃香を説得しようとする仁菜を制止して「なし崩しにプロデビューしてしまえばいい」という作戦を立てたのはすばるなのですから、こういう小細工にはすばるは協力する責任というものがあります。

一方でこういう小細工よりもあくまで楽曲で勝負したい感じの智なんかはブツブツ文句を言っていますが、それでも何だかんだ一緒に売り子をやっていて割と付き合いの良いタイプのようです。まぁプロデビュー志向自体はもともと仁菜よりも強いわけですから、プロデビューに繋がることだと言われればとりあえずは協力ぐらいはしてくれるのでしょう。またルパもバンドの人気を高めるためにライブに来たお客さんとのチェキ写真の撮影なんかノリノリで協力してくれています。

そんな中で桃香はそういう仁菜の動きには関わっていないようです。そもそも桃香はプロデビュー自体に反対だからなのでしょう。フォロワー数が増えたりライブの動員数が上がること自体はバンドにとって良いことなんですが、仁菜がそれを主導しているのはプロデビューを目指してであることはミエミエなので桃香は協力しないのでしょう。智やルパみたいに真っ当にプロを目指しているのならまだマシなんですが、特に仁菜の場合は「ダイヤモンドダストに勝つため」という目的のためだけにプロを目指している。そういうところが桃香は特に気に入らないのでしょう。そうした仁菜に引っ張られているすばるに対しても桃香は気に入らないのだと思われます。

ただ、以前のように桃香はハッキリとそういうプロを目指す動きに対して文句をつけてくるわけでもない。この冒頭の場面は、前回のラストシーンで新川崎と紅しょうががとりあえず合体して音楽フェスを目指すと決まった場面から少し時間が経過していて、あれから何回か5人編成でライブハウスに出演した後みたいなんですが、その間、桃香は以前に仁菜とぶつかった時みたいに真っすぐ仁菜たちの動きに反対はしてきていない。かといって協力するわけでもなく放置しているようです。

いや、もともと桃香は仁菜のやることにいちいち干渉するようなタイプではなかった。以前は仁菜がいちいち自分がやろうと思ったことを桃香に許可を取ろうとして伺いを立ててきたので、それに対して桃香はダメ出しをしていたのです。しかし今は「どうせ桃香にプロになりたいと言っても反対されるだけだから勝手に進めよう」とすばるが言うので仁菜は桃香に伺いを立てず勝手に進めている。それで桃香は何も文句を言ってこない状態になっているわけだが、それにしてもこんなバンドにとっての重大事を勝手に進められて桃香の心中はどうなっているのか、仁菜は心配で仕方ない。

仁菜は本当はちゃんと桃香に話を通してプロを目指したいのに、すばるが勝手に進めた方がいいと言うので不本意ながらそれに従っている。すばるは「桃香さんは良い音楽になら流されるはずだ」と言う。色々とプロデビューに反対していても、音楽には逆らえない性分だから、5人になって奏でる音楽が良い音楽になれば桃香はその誘惑に抗えずズルズルと流されてくれるんじゃないかというのがすばるの見立てでしたが、自分を無視して勝手に色々進められて桃香がキレやしないかと仁菜は心配している。

しかし桃香は仁菜の勝手に進めていることに対して放任しているように見える。そして特に怒っていないように見える。スマホで誰かと連絡を取り合っていたかと思ったら、知り合いに長野の諏訪のライブに出演するよう誘われていると言い出し、誘われているのは桃香だけなので、桃香は1人で行ってもいいんだがどうするかと仁菜たちにも打診してくる。勝手に1人で行くわけではなくこうやって仁菜たちも誘ってくるのだから、別に仁菜たちに対して腹を立てているというわけではないようです。そういう桃香の態度を見ていると、仁菜はやっぱりすばるの見立てが正しくて、桃香も5人の音楽が気に入ってズルズル流されつつあるようにも見えてくる。

ただ桃香は仁菜に予備校の勉強もあるだろうから忙しいんじゃないかとか言ってくるので、仁菜はプロを目指したいという自分の気持ちは伝わっているはずなのに桃香に子供扱いされて嫌味を言われたように感じてムッとして「行きます!」と即答する。智はまだ演奏がガタガタだからと乗り気ではない様子だったが、ルパが場数を踏んだ方がいいと言うとそれに従い、すばるも賛成して、結局5人で諏訪に向かうことになった。ただ、桃香は諏訪のライブに行く際にそろそろ自分たちの正式なバンド名を決めておくべきだと言い出し、仁菜たちに決めておくようにと言い渡す。

それで桃香を除く4人でルパと智の家に集まってバンド名を考えることになる。桃香は用事があるとか言って来ない。バンド名を考えるようにと言うところを見ると、桃香もこの5人でこれからやっていくことに前向きだとも思えてくる。ただ自分だけその話し合いに加わらないところは何かやはり距離を感じる。仁菜がプロになりたいと言っていることにも無反応のままだし、いちいち仁菜に予備校の勉強の話などで嫌味を言ってくるし、やはり桃香は仁菜が勝手に色々進めていることに怒っていて、それで拗ねてバンド名を決める話し合いにも来ないんじゃないかとすばるは言い出す。しかし、もともと勝手に進めようと言い出したのはすばるなので、今さらそんなことを言われても困ると仁菜は怒り出す。そして、理不尽に自分に対して怒りを向けてくる桃香に対しても腹が立ってきて、言いたいことがあるなら嫌味ばかり言わないでハッキリ言ってくればいいのだと不満を言う。

しかし、そうした仁菜とすばると桃香の新川崎組の揉め事は智とルパの紅しょうが組には単に迷惑な話みたいであり、智はそうやってずっと仁菜たちが揉めているのなら自分たちは抜けると言い出す。智は「私たちには時間が無い」と焦っている様子であり、とにかく早くプロになりたいという切実な事情があって、そのために新川崎に声をかけたのだから、新川崎の3人が揉め続けて前に進めないのならもう一緒にはやっていけないというスタンスのようです。

それでとにかくまずはバンド名を考えようということになり意見を出し合うが、全員ネーミングセンスが最悪でロクな案が出ず、何も決まらなかった。そうやって1日をムダに過ごしてしまい、仁菜は疲れ果てて帰宅しますが、自分のマンションの部屋の前に着くと、ドアの前で姉が半ギレで待っていた。熊本から出てきて仁菜に会いに来たようだが仁菜の帰りが遅くてずっと待っていたようです。仁菜は部屋の中に姉を入れて、姉のお土産のドーナツを一緒に食べますが、帰りが遅かった理由を問い詰められて、変なバイトをしてるのかと姉が疑うので、このまま誤魔化したら余計に面倒なことになると思い、正直にバンドをやっていることを打ち明けた。

しかし意外に姉は怒ったりせず、面白がって笑ったがバカにしたりもしなかった。そもそも仁菜も姉が頭ごなしに怒ったりする人間じゃないと分かっているからすんなりバンドのことを打ち明けたのでしょう。写真が無いのかと姉が言うので仁菜は「不登校」と書かれたTシャツを着て熱唱する自分の恥ずかしい画像も見せたりする。それも姉がそれを受け入れてくれることが分かっているからなのでしょう。仁菜は熊本に居場所が無くて川崎に出てきたみたいな印象だったんですが、どうも本当はそういう感じではなくて、少なくとも姉は仁菜の理解者だったみたいです。

だが姉も頭ごなしにバンドをやっていることを否定しないだけであり、手放しでバンド活動を認めるという立場でもないようです。何故なら、そもそも姉がこうやって仁菜のマンションまでやって来た理由は、予備校から熊本の実家に連絡が来て仁菜が予備校を休みまくって成績も急降下していることを知らせてきたからだったのです。それで心配して父親が上京して仁菜に会うというので、それでは喧嘩になると心配して姉が父を説得して思いとどまらせて、代わりに自分が上京して仁菜に会って事情を聞くと言って、それで姉がここにやって来たのです。そして仁菜からバンドをやっていることを聞いた姉は、それが予備校の勉強が疎かになっている原因なのだと理解しました。そうなればバンド活動に寛容になるというわけにはいかない。

姉は父にどう伝えるのかと仁菜に問いかける。仁菜は「家を出る」と答えます。バンドを辞めさせられるぐらいなら実家とは縁を切るという強い決意を示したつもりであったのですが、姉は仁菜の本心がそんなに強い決意ではないことを見透かしたように、床に座っている自分の太腿を軽く叩いて仁菜を誘うと、仁菜は姉の膝枕に頭を預けて寝転んでくる。そんな仁菜の頭を姉は優しくなでてあげながら「それってもう二度と家に帰れなくなるってことだよ」と諭す。その言葉を聞きながら仁菜は不安そうな顔で姉の膝に顔を埋めており、本当は仁菜も実家と縁が切れることや大学に行けなくなることは不安みたいです。ここでの仁菜の甘えた態度はかなり意外な印象で、ひたすら実家と折り合いが悪くて家を飛び出してきたように見えていた仁菜ですが、実際はかなりの甘えん坊みたいです。

ここで姉のセリフで仁菜が実家を出るに至った経緯が明かされたのですが、仁菜の父親は熊本ではカリスマ教師として有名な人で、教育論の著書なんかも出してる人だったみたいです。第2話で仁菜が実家が由緒正しい良家なんじゃないかと桃香に言われた際に、由緒正しいわけじゃないけど地元では厳格で有名な家で家訓なんかもあると言っていましたが、それはこういうことだったんですね。別に金持ちで良家というわけではないが、そういう特殊に教育熱心で厳格な父親だったわけです。

それで、そういうカリスマ教師の娘である仁菜が学校でイジメに遭って不登校になってしまった。そのことは仁菜の父親にとってかなり世間体の悪いことであって、父親は仁菜のイジメ問題に正面から向き合うことが出来なかったようです。精神的にもかなりプライドが傷つけられたというのもあるでしょうし、実際にそのことが世間に広く知られてしまえば仕事上もかなりの不都合が生じたはずです。だから仁菜の父親は事態の隠蔽を図ったようです。

ここで姉の話においては、そもそも仁菜がどうしてイジメを受けるようになったのかの経緯は説明されていない。ただ姉の話の全体的なニュアンスからすると、どうも仁菜がもともとイジメられっ子であってずっとイジメを受けて不登校であったというわけではなさそうです。もともと仁菜は普通に学校に行っていて成績も(上京後の仁菜を見ていると信じられないが)良かったようです。ところが何かの出来事がきっかけで学校内のボス的存在の女生徒の敵意を受けるようになりイジメを受けるようになり、学校に居づらくなって不登校になったようです。このあたりは断片的に仁菜自身によっても語られており、その学校のボス的な女生徒というのがおそらく現ダイヤモンドダストのボーカルのヒナであり、しかももともとヒナと仁菜は親しい友人だったのがその出来事がきっかけで仲違いして絶交したみたいであり、回想シーンでヒナが「仁菜が悪いんだよ」と言っていることから、仁菜にも原因はある揉め事がイジメの発端だったようです。

もちろん仁菜は自分が悪いとは思っていない。いや内心ではヒナに謝りたいという想いもあるようですが、そう素直になれないぐらいに意地を張るだけの「私は間違ってない」という強い想いは確かにある。それに経緯がどうであれ手下みたいな仲間を使っての集団イジメなんて許容されるものではない。だが仁菜の父親は自分の世間体を守るためにイジメの事実そのものを隠蔽しようとして、どうやら「手打ち」を持ちかけたみたいです。「仁菜がヒナに詫びを入れればヒナは仁菜へのイジメを止めて元通りの良好な関係に戻る」という手打ちが成立すれば仁菜の父親は娘の受けたイジメの件は不問として学校やヒナやその家族の責任も追及しないという、一種の脅迫をしたのでしょう。

それは父親自身の社会的な立場を守るためでもあったのでしょうけど、仁菜自身のためでもあった。そうやって手打ちを成立させることで仁菜の父親は学校側に貸しを作り、不登校期間中の仁菜の出席日数不足なども不問にさせて大学への推薦も取り付けさせる予定だったのだという。つまり仁菜はヒナに形ばかりの詫びを入れるだけで実益を取ることが出来たのです。だから仁菜の父親は決して悪人ではなくて、仁菜のことを大切に思っていたのです。だが同時にそのために不正規な手段を使っているという負い目もあり、教育者である自分が娘をそんなやり方でしか救うことが出来ない情けなさもあったと思われます。回想シーンで仁菜と話をする時にタバコの火を消す優しさはありながらも、娘に向き合って言葉を発することも出来ないという父親の姿は何だか奇異な印象だったのですが、こういう経緯を知るとそれも納得できます。

そして父親も娘の顔を見ることも出来ないほどの後ろめたさのある「手打ち」を仁菜が受け入れるはずもなく、仁菜は「私は間違ってない」と言いヒナに詫びを入れるのを拒否して手打ちを受け入れず、学校に戻ることも拒み、学校を脅して大学推薦を得ることも不正だと言って拒否した。それで父親とも折り合いが悪くなり、地元でこれ以上悪い噂が立って父親に迷惑をかけてこれ以上父親との関係が悪化するのを避けるため、仁菜は地元を離れて上京して1人暮らしをすると言い出したのでしょう。ただ父親は自分が用意していた大学推薦を拒んだ以上は自力で大学に入学することを上京の条件として仁菜に要求したので、仁菜はそれを呑んで予備校に通って大学に合格してみせると約束し、それで父親は仁菜の生活費や学費の支援をして川崎に送り出したのです。これで「そもそもどうして仁菜とヒナが絶交したのか」という謎を除いては大体の事情は分かりました。

そういう経緯である以上、仁菜が父親との約束を破って「バンドをやるから予備校も辞めて家と縁を切る」なんて言われても、それは父親は受け入れないであろうし、姉としてもさすがに仁菜を擁護することは出来ない。姉は父親が世間体を気にして仁菜のイジメ問題を不正規な手段で誤魔化そうとしたことには反対しており、その結果、仁菜が家を出ることになったことについては仁菜に同情的でした。だから仁菜が東京で予備校に通って大学を目指すのが現状では最良の選択肢だと思っており、その道を守ってやるために父親の説得もやってくれる人ではあるのだが、さすがに予備校を辞めてバンドをやって、実家とも縁を切ると言われては賛同できるわけがない。

それに、そもそも仁菜自身が本心ではそんなことを望んでいないということを姉は分かっているのでしょう。仁菜が本当は甘えん坊であり、家族のことを大切に思っているということを姉は知っている。こうして上京しているのだって、自分が地元にいることで家族に、特に父親に迷惑をかけたくないという想いゆえだということは姉は理解していた。だから仁菜に「家を出る」なんて言われても姉は本気だと受け取って狼狽えたりはせず、膝枕で甘えさせてやると仁菜は可愛くそれに応じて甘えてくる。つまりはまだ子供なのだと姉は思い、バンドに夢中になっているのも所詮は子供のお遊びのようなものであり、突き放してやればすぐに熱も冷めるだろうと思った。それで姉は「さすがに擁護できないよ」と突き放して帰っていった。

仁菜自身、父親の手打ちを拒否して自分で選んだ道なのだから、その約束は守らなければいけないと思っている。そうしていずれは約束を果たした上で実家に笑顔で戻って、家族と昔みたいに仲良く暮らしたいと思っている。本気でそう思っていたから、桃香にバンドに誘われた時も予備校に行かなければいけないと言って必死で拒んだし、ネタにされるぐらいずっと「勉強しなくちゃ」と言い続けていたのです。最近は全く予備校に行かなくなって、もうさすがにネタにも出来ない上京となったので「勉強しなくちゃ」とは言わなくなりましたけど、姉に突き放されて不安になってしまい、諏訪に出発する時も久しぶりに参考書類を持参していこうとするが、桃香に荷物を少なくするようにと言われて結局置いていく羽目になってしまいました。

ただ、そこまで上京当初は予備校に通って父親との約束を果たすことを重視していたはずの仁菜がこんなふうにバンドにハマってしまった理由は、やはりそういう自分が地元を離れて上京する羽目になってしまった根本的な原因であるヒナとの確執についての「私は間違ってない」という怒りがずっと心の中で燻っていたからなのでしょう。そして、そのヒナとの確執の出来事の中でダイヤモンドダストの「空の箱」という曲が大きな意味を持っていて、その曲を川崎に着いた時に桃香によって聴かされ、そこで桃香との縁が生まれて、その中で「空の箱」の作り手である桃香が「私は間違ってない」という想いを曲げて去っていこうとしているのを見て、それをどうしても引き止めたくなって歌を唄い、そこからバンドにハマってしまったのです。仁菜の中では「約束を果たして家族の絆を取り戻したい」という想いと、「自分は間違っていないという気持ちを大切にしたい」という想いが心の中でせめぎあっており、前者は「予備校に行って大学に進学しなければいけない」という想いとなり、後者は「バンド活動を諦めたくない」「プロになってダイヤモンドダストに勝って、正しいのはヒナや現ダイヤモンドダストではなく自分や桃香なのだと証明したい」という想いになっているのです。

そうして桃香が知り合いに借りたというライトバンで5人は中央道を走って諏訪に向かいます。そして途中で談合坂のSAに寄った際に仁菜は修学旅行と思われる高校生の集団と遭遇して嫌な気分になります。自分と同年代の子たちが自分と違って普通に学校に行って楽しそうにしているのが羨ましくて腹立たしかったのです。仁菜は別に学校を嫌っているわけではない。むしろ学校は好きだったといえる。だからこそ、その学校に行くことが出来なくなった原因となったヒナとの確執やイジメが腹立たしい。そういう怒りを抱いて車に戻ると、車酔いで1人だけ気分の悪い智が1人で残っていて、仁菜は智と2人きりになった。

智が実は自分よりも1歳下の16歳だということは既に聞いていたので、仁菜は智も高校を辞めたのだと気付いていた。それで仁菜は智も高校で嫌なことがあって辞めたのだろうと思い、智も自分と同じような気持ちなのではないかと思い、智に「なんで学校辞めたの?」と問いかけてみる。智となら学校に行けなくなった悔しさで共感し合えるんじゃないかと期待したのです。ところが智は「あんなところでモタモタしている時間は無かったから」と言う。智は母親が男に走って家庭が崩壊してしまい、親に頼らずに1人で生きていくために早くミュージシャンとして成功しようと思い、それですぐに上京してバンドのメンバーを集めたのであり、学校は単に通う意味が無くなったから辞めたのだそうです。

つまり、智は仁菜みたいに学校で嫌なことがあったから学校に行けなくなったわけではなく「本当は学校に通っていたかった」という後悔があるわけでもなく、学校そのものに意味を見出しておらず、智の方から学校を捨てたのです。智は仁菜みたいに「学校に行かないといけない」という想いと「バンドをやりたい」という想いで葛藤などはしておらず、智の中にあるのは「1人で生きていくためにバンドで成功したい」という強い想いだけなのです。そして、それは出来るだけ早くである方が望ましいので、それで智は「私たちには時間が無い」と言っていたのです。

とにかく早くバンドで成功したいと思って智には迷いは無い。仁菜は自分はそんなふうに考えることは出来ず迷ってしまうので、智の真っすぐさを羨ましく思うが、智は「頼る人が1人もいないってなったら誰でもすぐそれくらい考える」と言う。そして、ルパも家族が事故で亡くなった時にそう考えて、それでバンドで成功しようと頑張っているのだと教えてくれた。つまり、智もルパも家族を失っていて1人で生きていくしかないし、帰る場所など無い。そもそも選択肢など無いのであり、自分で生きる道を切り開いていくしかないのです。だから必死でバンドでプロになって成功しようとしている心の強さを持っている。それに比べて自分は甘えられる家族がいて、その家族が用意してくれる逃げ道がちゃんとあって、そっちの道とバンドを天秤にかけて悩んでしまう。こんなダメダメで弱い自分が智やルパと一緒にプロを目指す資格などあるのだろうかと仁菜は落ち込みます。

そうして5人は諏訪に到着して、桃香が駆け出しの頃に世話になったというミュージシャンの女性のミネさんに出迎えられる。今回、桃香を諏訪のライブに誘ったのはミネさんであり、ミネさんは諏訪の花火大会に絡んだライブハウスでのイベントで前座で演奏するのだが、そこにゲストで桃香を誘ったところ仁菜たち4人もついてくることになったわけです。それでミネさんはセッションもやろうとか言って仁菜たちにも親切にしてくれます。

そうしてリハーサルも順調に進みますが、リハーサルが終わると桃香がいきなりとんでもないことを言い出す。これが自分の最後のライブだと言うのです。仁菜たちは耳を疑いますが、桃香は冗談を言っているわけではなく本気みたいであり、前座でも一歩も退かず歌で戦っているミネさんこそがロックなのであり、ミネさんとのセッションが自分の最後のライブにふさわしいとか言う。そして、明日のライブ本番で自分はこのバンドを抜けると言う。

どうしてなのかと仁菜が理由を問うと、桃香は自分の曲ではプロの世界では通用しないから自分はこのバンドを背負ってプロを目指すことは出来ないのだと答える。そして、仁菜が自分の曲を好きになってくれたこと、仁菜が歌に本気になってくれたことへの感謝の言葉を残して立ち去ろうとする。仁菜がその背中に「それでいいんですか?」と問いかけると桃香は「それでいいんだ」と答えて立ち去っていった。

仁菜は桃香がプロデビューを目指すことに反対なんだろうとは思っていたので強く反対されることは覚悟していた。しかし桃香だけが辞めるというパターンは想定していなかったので困惑した。つまり桃香は自分はプロになる気は無いから辞めるから残りの4人で勝手にプロを目指せばいいだろうと言っているようです。しかし、智やルパはもともとプロ志望だから良いとして、仁菜は桃香の曲でダイヤモンドダストに勝ちたくてプロを目指しているのだから、桃香が抜けてしまい、しかも桃香自身が「自分の曲はプロの世界で通用しない」と言って暗に自分の曲の使用を禁じるようなことを言ってしまっては、仁菜としてはプロを目指す意味が無くなってしまう。

仁菜は決して桃香の曲がプロの世界で通用しないなんて思わない。実際、現ダイヤモンドダストはお披露目ライブで1曲目で桃香の作った「空の箱」を唄ってウケていた。確かにアレンジは全然違っていたし、桃香の目指す音楽性はプロの世界ではあまりウケが良くないのかもしれない。それでも曲自体は通用しているのだから、やってみなければ分からないだろう。智やルパだって同じように音楽性が合わなくてプロデビューに失敗しても諦めず頑張っているのだから、桃香だって頑張れるはずだ。どうしてそんな弱気なことを言い出すのだろうかと仁菜は悲しくなった。

その夜はミネさんが桃香たち5人を居酒屋に誘ってくれて、ミネさんと桃香とルパの成人3人組はカウンターで酒盛りとなり、桃香はずいぶん呑んでベロベロに酔ってしまった。一方で仁菜とすばると智の未成年3人組は別の個室のテーブル席でお茶を飲みながらツマミを食べていたが、仁菜が桃香の爆弾発言からずっと沈んだままなのですばるも智も気を遣わされる。すると、そこにミネさんがやってきて何か揉め事でもあったのかと聞いてきます。桃香がやけに悪酔いしているのと、仁菜がずっと不機嫌な顔をしているので、何かあったのかと察したようです。

それで仁菜はミネさんに「ミネさんは音楽、辞めようとしたことあります?」と質問する。それでミネさんは桃香が辞めると言ったのだと察して「嫌なんだろうね、結論が出るのが」と言う。まだ失敗したわけでもないのに辞めたいと言い出す人間の心理というのは、頑張って続けた末にダメだったという結論が出るのが怖いので、結論が出る前に辞めてしまいたくなる、人間というのはそういうものだとミネさんは言う。つまり桃香はどうせ上手くいかないから早めに見切りをつけようとしているんじゃないかとミネさんは言っているわけだが、仁菜はそんな考え方には納得出来ない。

「上手くいくって信じられないんですか?」と仁菜は問い返す。どうして自分の好きなものをやるのに上手くいくと信じることが出来ずにそんなふうに悲観的に考えるのか、仁菜には理解できなかった。だがミネさんは軽く溜息をついて「そりゃあ信じたいよ」と苦笑する。好きなものなんだから上手くいくと信じたいに決まっている。しかし、それでも結果は残酷なもので、上手くいかないことの方が多い。その場合、信じていた分、期待していた分、上手くいかなかった場合に深く傷つくことになる。音楽が本当に好きだから、本気で上手くいくと信じてしまうし、それで失敗した時はより傷が深くなって立ち直れないほどのダメージを負ってしまう。好きなもので失敗するというのはそういう怖いことなのだと、音楽を心から好きで一度挫折したことがあるから桃香は知ってしまっている。一度その怖さを知ってしまった桃香が二度目の挑戦に臆病になるのは仕方ないことなのではないかとミネさんは言うのです。

ミネさんにそんなふうに言われて、仁菜は確かにそうかもしれないと思えてきた。仁菜自身、自分が正しいと信じた道を貫いた結果、不登校に追い込まれてしまい地元にいられなくなって単身上京してくることになった。だから信じた末に挫折した時の怖さは理解できた。また、だからこそ二度目の挑戦に臆病になるという気持ちも理解できるような気がした。仁菜自身が「バンドを続けるために予備校を辞めて実家と縁を切ってもいい」なんて言いながら姉の膝枕でウジウジしてしまったのは、やはり熊本の不登校の時みたいに信じたことを貫いてまた挫折したらどうしようと怖がっているから安全策を手放したくないという心理が働いているからなのだと思えた。

そう考えると、仁菜は桃香が音楽を辞めようとしている気持ちが理解できるような気がしてきて、おそらく桃香は最初から自分は身を引こうと思っていたからバンド名を決める会議にも顔を出さなかったのだろうと思った。諏訪のライブで辞めると決めていたから、諏訪のライブまでに自分以外の4人に話し合いでバンド名を決めさせておいて、その上で自分が辞めると伝えれば、自然に残った4人で新バンド名のもとに結束が固まり、バンド名を決める時に居なかった自分のことなど最初から居なかったものとして忘れていくだろうと桃香は考えていたのだろうと仁菜は思った。想定外に良い案が出なかったので未だ新バンド名は未定のままだが、とにかく辞めていく桃香には新バンド名など無関係なのだろう。そう考えると仁菜はますます寂しくなった。

しかし居酒屋を出て、すばる達が酔い潰れた桃香の介抱をしている間、仁菜はそういえばミネさんに質問に答えてもらっていなかったことに気付いた。仁菜はミネさんに最初に「ミネさんは音楽、辞めようとしたことあります?」と質問したのだが、その後は桃香の話になってしまい、ミネさん自身はどうだったのかという答えを聞かせてもらっていない。ミネさんが仁菜に話してくれた内容は「好きなものを上手くいくと信じて失敗する怖さを知っていれば辞めたくなるのは仕方ない」ということであったが、それを教えてくれたミネさんは当然その怖さを桃香と同じように知っていることになる。しかしミネさんは辞めずに音楽をずっと続けている。それは矛盾だった。

それで仁菜は「明日よろしく」と言って帰ろうとするミネさんを呼び止めて「ミネさんは怖くないんですか?」と質問する。するとミネさんは「そりゃ怖いよ」と笑い、今でも音楽で上手くいかなくなるのが怖くて眠れなくなるし食べられなくなると打ち明ける。そのうえでミネさんは「本当に好きなものを仕事にするというのはそういうこと」と言う。好きなものを仕事にするというのは、常に好きだから信じたのに上手くいかずに心に深く傷を負い続けて、その怖さと常に戦い続けるということなのだ。

ミネさんは音大に通っていたそうだが、その時にこのまま学校の先生にでもなって歌は趣味で続けるのが一番賢い生き方だと思ったのだという。プロの演奏家や歌唱家になったりしたら、いつも好きな音楽で挫折して自分には何も残らないという恐怖と戦い続ける人生になってしまう。それに比べて、好きでもない教師を仕事にしていれば仕事で失敗しても大して心にダメージを負うことはないし、嫌な気分になっても趣味の音楽の世界で大好きな音楽に安全に浸っていればいくらでも自分を慰めることが出来る。プロの音楽家になったとしても自分の才能では世界の頂点に立てるわけでもないし、絶対に挫折や失敗の方が多いに決まっている。だから、どう考えても後者の方が安全で快適な人生のはずだった。

しかし、ミネさんはそうはしなかった。絶対に怖くて苦しいに決まっている音楽の仕事を選び、今でも怖い想いばかりしているのに辞めたいなどとは言っていない。それはどうしてなのかと仁菜に問われて、ミネさんはそう決断した時のことはよく覚えていないと言う。おそらく、それぐらい自然にその道を選んでいたのであり、大して葛藤も無かったのだろう。絶対にその生き方が賢い生き方ではないことは理屈では分かっていた。それでも大して悩まなかったというのはよく考えれば不思議だが、ミネさんのような人種にとってはそれはあまりにも自然体の決断だったのでしょう。「私にとってステージは言いたいことが言える場所、大好きな場所、だからいくら怖くても苦しくてもしょうがない」と多分その時そう思ったのだろうと、ミネさんは昔を思い出すようにそう言うと悪戯っぽく仁菜に向かって照れ笑いする。

つまり、どうしても言いたいことがある人間というのはそれを言うことが出来る本物のステージがどうしても必要なのです。その本物のステージというのは「本当に好きなことを仕事にするということ」であり、そこには必ず怖さや苦しさが伴う。言いたいことを捨てられる人間にはそんなステージは必要ないのでそんな怖さや苦しさを甘受する必要は無い。だがミネさんは自分の言いたいことを捨てられるような人間ではなかった。だから本物のステージが必要だったのであり、好きなことを仕事にしてそれに伴う怖さや苦しみと戦う人生を選ぶしかなかった。それがミネさんの場合は「音楽」だったわけだが、これは他の多くの人にも当てはまる話でしょう。本当にどうしても曲げられないことがあって、それを発信したい人間にとっては、それは趣味の場などではなく、あくまで全てを失う危険と隣り合わせの仕事の場でなければいけないのです。

ミネさんはそうやって音楽を仕事に選び、全てを失う怖さと戦いながらステージに立ってメッセージを発信し続けた。それはまさに「ロック」だといえる。そして桃香はそんなミネさんを「ロック」だと認めて、自分の最後のステージの相手に相応しいと言った。それは桃香もまたミネさんと同じ「ロック」な精神の持ち主だということを意味する。しかし、それならば桃香がステージに立つ怖さを知ってしまったために臆病になって辞めたがっているというのはおかしな話となってしまう。おそらく桃香はそんあことを怖がってはいない。自分の歌がプロの世界で受け入れられないというぐらいの理由で音楽を辞めるような人間ではない。それなのに桃香は音楽を辞めると言っている。これは矛盾であり、桃香は何かを隠している。

そこで仁菜はリハーサル室を去る間際に桃香がやけに自分に感謝していたことや、寂しそうに「これでいいんだ」と言っていたことや、やたらと自分の予備校の勉強のことを最近気にしていたこと、それはおそらくプロになりたいと自分が言い出してからだということにも気づいた。そして仁菜自身が予備校とバンドの間で葛藤しており、予備校を逃げ道にしようとしていたことに思い至り、桃香が守ろうとしていたのは桃香自身ではなく、自分のことだったのではないかと仁菜は気づいた。

つまり、桃香は好きな音楽を仕事にして失敗した時に深く心に傷を負う怖さを知っていたので、仁菜がそれによって傷つくことを心配していたのだ。桃香が仁菜を誘ったのはあくまでアマチュアバンドの世界であって、深く傷つくことのない世界だった。甘えられる家族がいて、ちゃんと逃げ道が用意されている人生を生きる仁菜にはそれぐらいがちょうどいいのだと思って桃香は仁菜を誘った。すばるも同様だった。だが仁菜がダイヤモンドダストに勝つためにプロになりたいなどと言い出して、桃香は危機感を覚えた。まずプロになるというのが怖さや苦しさを伴うことであり、しかもちゃんとプロになる心構えも無く「ダイヤモンドダストに勝つため」などという不純な動機でプロになろうとしても挫折するに決まっている。だから何とかして説得して止めさせたかったのだが、どうも仁菜は自分と一緒にいる限り、どうしてもダイヤモンドダストに勝つという執念を捨てないようだということが分かった。それで桃香は自分がいなくなれば仁菜はダイヤモンドダストと戦うという目的を見失い、自然にプロになるという無謀な夢も諦めて、無難に予備校に通いながらアマチュアバンドを楽しんでくれるのではないかと思った。そのためなら自分は音楽を辞めてもいいと桃香は思った。何故なら、仁菜の歌声こそが桃香がいつの間にか見失っていた「ロック」そのものであり、それはプロの世界なそではなくアマチュアの世界で輝くものだと思ったからです。

しかし仁菜はそんな桃香の考え方は間違っていると思った。それはミネさんに「本当に言いたいことがある人は怖さや苦しみと戦い続ける」ということを聞いたからです。それで真っ先に気付いたのは智とルパに関する矛盾でした。智とルパは1人で生きるために真っすぐ頑張っている強い人であって、自分のように家族に甘えている弱い人間とは根本的に違うと仁菜は思っていたが、よく考えたらそれは違うのだと思った。そもそも1人で生きていけるようになることを最優先するのなら、仕事を音楽にする必要は無いはずです。智とルパがあえて音楽を仕事にしたのは、2人もミネさんと同じく音楽を通じて言いたいことがあるからなのであり、それによって怖さや苦しみと戦っているのです。また2人がそんなに早くプロになりたいのならば、すでに何度もプロデビューの誘いはあったのだからすぐに飛びつけば良かったはずです。しかし2人が何度もプロデビューの誘いを断って迷走しているのは、2人が自分たちの本当に言いたいことを伝える音楽にこだわっていて、そのこだわりによって怖さや苦しさを余計に抱え込んでいるということを意味します。そういうふうに見てみると、智やルパは決して家族がいないので選択肢が無くて迷いのない強い人間などではなく、ずいぶん迷い葛藤している弱い人間に見えてくる。

それは桃香も同じなのであり、ダイヤモンドダストを脱退せずにそのままプロになるという逃げ道はあったのに、それを拒んで自分の言いたいことや音楽性にこだわって怖さや苦しみを抱え込んで葛藤している。また、すばるも同様であり、祖母の言うとおりに女優になればたとえ大成はしなくとも安易な人生が約束されるはずなのに、あえてその逃げ道を拒否しようとしている。まぁそれに関してはすばるは完全に捨て去ろうとしていたところを仁菜が止めたので中途半端な状態は残ってはいるが、すばる自身はもうほとんどその逃げ道は潰して怖さや苦しみを引き受ける覚悟は出来ている。

そんな中で、確かに仁菜だけが家族や大学進学という逃げ道を残して甘えているように見える。だから桃香も仁菜にはプロの道は無理だと心配したのです。しかし仁菜もまた自分の言いたいことを貫くことで怖さや苦しみを甘受することは既に経験済みであり理解もしている。熊本でヒナに詫びることを拒んで自分が間違っていないということを貫いた結果、逃げ道を全て失って故郷を出る羽目になったのです。そこまでは仁菜は確かに「ロック」だった。智やルパや桃香やすばる、ミネさんと同じくちゃんとロックを貫いていた。だが上京するにあたって父親を安心させるために予備校に通って大学進学を目指すという約束をしてしまい、それがいつしか仁菜自身の逃げ道のようになってしまっていた。

だから、そこの甘えを断ち切らなければいけないと仁菜は思った。それが出来て初めて自分も智やルパやすばるや桃香と同じ土俵に立って、同じように自分の言いたいことを言うために怖さや苦しみと戦う弱くて強い人間になり、皆と同じものを目指せるようになる。そんな自分を見せることが出来れば、桃香だって自分を心配して身を引こうともしなくなるはずだと気付いた仁菜は、諏訪湖に向かって1人で走り出し、打ちあがる花火を見上げながら決意を固める。そうして初めて仁菜は自分も智やルパやすばるや桃香と同じになれたと思い、清々しい笑顔となる。

そして翌日のライブ本番、仁菜は1人だけ早くステージに上がると勝手にMCを開始して、最前列の客の着ているTシャツのプリントに書かれた文字「トゲアリトゲナシ」を見て、その場で勝手に「私たちはトゲナシトゲアリです」とバンド名を決めて告知してしまう。そうやって仁菜の思い付きで勝手にバンド名を決めてしまうことで、「桃香以外の4人でバンド名を決めて桃香抜きの体制を自然に定着させる」という桃香の思惑を台無しにして、桃香脱退を認めないという意思を示したのです。

そして仁菜はMCを続行し、自分が最近音楽を始めて、どうしてやっているのかよく分かっていなかったけど、人生で初めて夢中になれて楽しいということを伝える。そうしていると桃香たちもステージに出てきてスタンバイを始めて、仁菜は「人生で一番感動した歌」の話をする。それは「空の箱」のことなのだが、仁菜はその「人生で一番感動した歌」が自分の背中を押してくれたから、その歌が間違ってないと証明したいと語る。それはいつも仁菜が桃香に語っていることであり、桃香はもうそれを聞いても表情は変えず黙々とギターの準備をしており、仁菜とも目を合わさない。いや他のメンバーとも目を合わすことなく、もう自分はこのステージで終わりだと心に決めている様子です。

しかし仁菜はそのままMCを続けて「その歌で人の心を動かして、どうだ凄いだろって言いたいんです」と言うと、「すばるちゃんと、ルパさんと、智ちゃんと、桃香さんと」と、桃香も含めた5人でこれからもやっていくのだと宣言し、「みんな、きっと似たようなこと思ってるんです。だから本気で頑張ってるんです。怖いけど信じて頑張ってるんです」と言い、「だから私は」とこの5人で一緒にプロを目指したいのだと言おうとしますが、もう十分だろうとばかりにルパのヒップで突き飛ばされ、ルパが笑顔で「ウザいですよ、自分語りは」と言うので仁菜も「はい」と応じて、こうしてトゲナシトゲアリとしての初ライブの演奏開始となり、「名もなき何もかも」のライブシーンとなります。この演奏シーンが仁菜がまるで悪の怪人みたいな決意の赤いトゲトゲ全開大放出祭りとか凄いし、やっぱりベースとキーボードが入るとムチャクチャ格好いいんですが、その最中、桃香はずっと浮かない表情であり、他のメンバーとも目は合わせようとはせず、仁菜のMCを聞いても、アツいライブを体感しても、それでも脱退の意思は変わらない様子です。だが曲が終わり、仁菜が4人に向かってMCで「私、予備校辞めます」と宣言すると、初めて桃香の表情が少し歪む。そして次回に続きます。