2024年冬アニメのうち、3月4日深夜に録画して3月5日に視聴した作品は以下の3タイトルでした。
姫様”拷問”の時間です
第9話を観ました。
今回はまずトーチャーの出張の話から始まります。そもそも拷問官が出張とか何をするのだろうかと思うが、ごくごく普通のビジネスホテルに宿泊しており、相変わらず世界観がムチャクチャで面白い。ちなみに責任者のトーチャーが魔王城に不在ということで、姫様への拷問はお休みで、姫様は牢屋でダラダラと過ごしています。
そしてトーチャーのビジネスホテルでの過ごし方なんですが、これがリアルすぎて笑ってしまった。1人で出張で遠方に出かけて、仕事を終えて1人になり狭いビジネスホテルの部屋で他人の目に触れることなく隔離されて、仕事も終えて解放感に浸ってしまい、普段はやらないようなことをして羽目を外してしまうというのは出張あるあるです。ただ、羽目を外すといってもビジネスホテルでは大したことも出来ないので、普段は食わないようなジャンクフードを喰いまくるとか、そんな程度。そういう出張のリアルを魔族の拷問官のトーチャーが思いっきり満喫してるのが笑えます。
コンビニで買ってきたチーズハムブリトーを袋から出して、そのまま食べずに一旦開いて、そこにコンビニで買ったジャンボフランクフルトを置いて一緒に再び巻いてしまう。そうして特製のチーズハムフランクブリトーにして食べるという贅沢。あとはカップうどんを長めにフタをして麺を柔らかくして食べたり、お揚げに沁み込んだダシの味を堪能したり、ちょっと高めのプリンを食べたりする。なんともしょうもないんですが、こういうしょうもないことをする楽しみが確かに出張先のビジネスホテルにはあります。まぁ同時にささやかな空しさや背徳感もあるのだが、、それも含めての解放感で楽しい。
続いては、魔王様が負傷をしたという話。魔王様の防御魔法の前にはいかなる攻撃も無意味のはずなので部下たちは一体どんな強敵と戦ったのかと騒めきますが、まぁ大体オチは想像はつきます。それで、魔王様が負傷した時の状況がここから描かれるのですが、案の定、団地にある魔王宅が舞台となります。魔王様の娘のマオマオちゃんが初めてクッキーを手作りすると言って張り切っており、魔王様の妻でありマオマオちゃんの母であるルルンが一緒に作ってあげることになる。魔王様は大して手伝わないが周りをウロチョロして教訓めいたことを言ったりしていて、まさにリアルによくいるお父さんっぽいです。ただバターを溶かす時に魔力を使ったりして役に立とうと頑張ってもいます。
そうしてクッキー作りはやたら克明に描写され、とにかくこの作品は描写が細かい。魔王様は型抜きせずにやたら大きいクッキーを作ろうとしているマオマオちゃんを見てその強欲さに感服してクッキー作りでは魔王である自分を超えたなどと謎の親バカっぷりを示す。そうしてクッキーが焼き上がり、オーブンからプレートを出したルルンにマオマオちゃんが早くクッキーを見ようとしてまとわりついたせいでルルンがバランスを崩してしまい、プレートごとクッキーを放り上げてしまい倒れそうになります。そこに魔王様が駆け寄って、クッキーとルルンを守るため、ルルンを抱きとめて、プレートを手に掴みクッキーをそれで受け止めて全部床に落とさずに回収しました。
だが焼き上がったばかりのプレートは熱々で、そのせいで魔王様は右手に火傷を負ってしまったのでした。これが魔王様が負傷したという事情の真相だったのですね。まぁ大体そんなことだろうと思ってました。しかし魔王様は痛がったりせず平気な顔を見せてマオマオちゃんを「焦ってはいけない」と優しく諭して、マオマオちゃんも魔王様の手の火傷痕を冷やしたりしてくれて、その後3人で楽しくクッキーを食べたのでした。
そのマオマオちゃんの初めての手作りクッキーは姫様にもお裾分けされ、出張帰りのトーチャーによる姫様への拷問の前にトーチャーから姫様に手渡されます。姫様は拷問前だというのに相変わらずユルくて、トーチャーに一緒に食べようと誘うが、仕事に真面目なトーチャーは拷問の後で食べると言う。拷問が終わったら一緒にお菓子を喰ったりする前提というのが可笑しい。遊びじゃないんだぞ。そもそも拷問の前に菓子を渡しておいて何を言ってるんだという話です。
それで、今回の拷問は何なのかというと、トーチャーが取り出したのは紅茶の茶葉でした。高級で美味しそうな紅茶を見せて姫様がいつものようにそれを呑みたいという欲求が抑えられなくなり秘密を話してしまうだろうという、まぁいつものパターンの拷問です。そこでどうして紅茶なのかというと、魔王軍の情報部が姫様は紅茶が好きで、戦場に行かず王宮に居る時はよく他国の姫様たちを集めてお茶会をしていたのだという情報を入手して、姫様は紅茶の誘惑に弱いだろうと考えたからであるようです。
しかし姫様はそれを聞き「残念だったな」とほくそ笑む。姫様は実は外交的な建前として「紅茶好きな上品な姫」を演じていただけであり、姫様が本当に好きなのはコーラやサイダーなのだという。いや、そっちの方が姫様として残念なんですが。まぁこれまでの姫様の嗜好を考えると、ありそうな話ではありますが、やはり今回も「お稽古を頑張るとたまにジモチが駄菓子屋で飲ませてくれたので好きになった」というパターンでした。またジモチ、お前か。
しかし、そんな恥ずかしいことを自信満々に喋りながら、姫様は同時に妙に紅茶にも詳しくて、別に紅茶は紅茶で嫌いではなく、むしろ好きみたいです。紅茶よりも更に強烈にコーラやサイダーが好きなだけであり、紅茶のことも普通に好きだったようです。まぁ嫌いならわざわざお茶会なんてやらないでしょうし、魔王軍情報部の情報は別に間違っていたわけではないのです。それでトーチャーは姫様の話は無視してさっさと紅茶を淹れていく。しかし姫様は屈してなるものかと頑張り、紅茶欲を押さえるためにさっきマオマオちゃんから贈られたばかりのクッキーを食べ始める。クッキーで満腹になれば紅茶など欲しくなくなるに違いないと考えたのです。だが、その結果、クッキーがお茶請けになってしまい、無性に紅茶が飲みたくなってしまい、姫様は屈してしまったのであった。
そうして姫様が話した秘密は「王家の墓に神秘の秘宝が隠されている」というもの。この秘宝を魔王軍が手に入れれば国王軍の防御魔法を突破可能になるとのことで、かなり重要な秘密です。もう最近はロクな内容の秘密しか喋らなくなってたので、姫様はもう重要な秘密は全部喋ってしまったのかと思っていたんですが、意外にマトモな秘密がまだ残ってたんですね。それを紅茶ぐらいで話してしまう姫様も姫様ですけど、魔王様はこの情報を聞いて「お墓を荒らすのはダメだろう」と言って却下してしまう。まぁ確かに正論であり「ですよねー」と言うしかない。魔王様が常識人で良かったです。
続いては前回の話で初登場したバニラが再登場して姫様を拷問する話となります。今回はバニラは牢屋にやってくるとケーキを出してきます。前回はジェットコースターで姫様を怖がらせようとして失敗したバニラであったが、今回は恐怖を与えるタイプの拷問ではなくて、トーチャー流の欲望を刺激して誘惑するタイプの拷問にしたみたいですね。つまり姫様を美味しいケーキを食べたいという欲求で屈服させようという作戦みたいです。
だがバニラは単純に美味しいケーキというだけでは弱いと思い、手作りのケーキを用意してきた。それもバニラ自身が手作りしたケーキです。念入りに美味しく作ったケーキにバニラは自信満々でした。といってもケーキを手作りするのは初めてのことであったのだが、魔族の中でも特に高貴な家柄の娘である自分の作ったケーキが美味しくないはずがないとバニラは自信満々で、勝利を確信していた。
しかし、そのケーキを見て、エクスは不格好で美味しくなさそうだと言う。形が歪なので市販のケーキや職人が作ったケーキではなく素人が手作りしたケーキなのだろうということはエクスにも分かったようですが、クリームが多すぎて形が崩れていて不味そうだと酷いことを言う。更にケーキの上にはバニラが作ったペンギンのお菓子も載せてあったが、エクスにはそれはペンギンには見えないようで「変な物体」などと言う。
ちなみにバニラは自分の手作りだとはまだ伝えていなかった。それでエクスは言いたい放題でボロクソに言っているのだが、こんなことを言われてしまうとバニラも今更自分の手作りだと言い出すことが出来ず、エクスの言葉を聞いてバニラはショックを受けてしまう。初めての手作りケーキなので形が不格好になってしまったのは失敗であったと反省したが、もともと初めてなので味の方も本当に美味しいのかどうかも自信が無くなってきた。別に家柄が高貴だからケーキの味が良くなるわけもなく、精一杯作ったつもりであったが自信が無いので家柄に逃げていたに過ぎなかった。
そもそも、この拷問は本当に美味しいかどうかは大事ではなく、姫様に「美味しそう」だと思わせることが出来なければ意味が無いのに、バニラは美味しいケーキを作ることばかり考えていて「美味しそうなケーキ」を作るという考えが抜け落ちていた。いや全く考えていなかったわけではなかったが、その技量が不足していた。精一杯の気持ちで美味しいケーキを作れば相手に伝わると勝手に思い込んでいたのが甘かった。そもそもそんな程度の認識の者が作ったケーキが本当に美味いかどうかも怪しい。そう思ってバニラは絶望的な気持ちになった。
ところが姫様は「何を言うか、エクス」と言ってエクスをたしなめて、「誰が作ったものかは知らないが、このケーキからは愛情を感じる」とフォローする。ケーキの形は不格好だがクリーム自体は崩れておらずしっかりしており、念入りに泡立てられて作られた美味しいクリームに違いないと姫様は鑑定する。なんか急に姫様がグルメみたいになってて笑えますが、まぁ一応は姫様ですから、ジャンクフード好きな一面もありますが、ちゃんとグルメな一面もあるのでしょう。
そして姫様は、ケーキの形が崩れてしまっているのはクリームの乗せすぎが原因であり、それはせっかく美味しく作れたクリームを出来るだけ多く食べてもらいたいという作り手の愛情が大きすぎたゆえの失敗なのであり、ケーキの形が不格好であるのは、むしろケーキが美味しい証拠なのだと主張する。これを聞いてバニラは感激する。実際にそうだったからである。まぁ「秘密を聞き出すため」という大前提はあるものの、バニラはそのために姫様が美味しいと思ってくれるケーキを作りたい一心で、クリームを懸命に泡立てて、そのクリームを盛りに盛ってしまったのだ。その結果、ケーキは不格好になってしまったが、バニラはずっと姫様がケーキを美味しく食べてくれる姿を心に描いて作り続けていたのだ。その想いが報われたように思えてバニラは感激したのでした。更に姫様がエクスが「変な物体」と切り捨てたお菓子についても「ペンギンだ」とちゃんと言い当ててくれた。よく分かったなと驚きますが、これを聞いて更にバニラは感激します。それにしても、どうしてバニラ回の時の姫様はいつも男前なのでしょうか。
そうして姫様は「確かに美味しそうなケーキだが、私はこんな拷問には決して屈しない!」といつもの負けフラグ的なセリフを吐くのですが、これがトドメになってしまいバニラは感激して、絶対に姫様に自分の手作りケーキを食べてもらいたいと思い、号泣し「秘密は喋らなくていいですから食べてください」と姫様に懇願してしまう。姫様は驚くが、結局バニラと一緒にケーキを美味しくいただき、秘密は喋らなかった。エクスがケーキを斬るナイフ代わりに使われてたのは笑った。
このようにバニラは二度も続けて拷問に失敗してしまったわけですが、そのことを問題視した部下が魔王様に報告して対処を求めたところ、魔王様はバニラに罰を与えるかと思いきや「こういう時こそ周りがしっかりサポートしてやらねばな」と理想の上司みたいなことを言い出して爆笑しました。この後、Cパートでは魔王様がマオマオちゃんの幼稚園の親子昼食会に今年は自分が行きたいとルルンに主張して出席し、嫌いなピーマンを頑張って食べるマオマオちゃんと見守り、魔王様自身が嫌いなピーマンを勧められてしまうという話で今回は終わり、次回に続きます。
SYNDUALITY Noir 第2クール
第21話を観ました。
今回を含めてのこり4話となり、いよいよ物語もクライマックスに突入していくのだと思います。まぁオリジナルアニメですから先の展開は分からないのであり、3期がある可能性もゼロではない。普通はオリジナルアニメは1期で終わるものですが、こうして2期が作られている作品なので、2期があるなら3期がある可能性もある。確かに物語のスケールは結構大きくなっていて、2期はイデアールとの決着まで描いて、3期でイストワールに乗り込むという構成であるという可能性も無いこともないでしょう。ただ、ソシャゲ原案のオリジナルアニメで3期まで作る可能性は低いだろうと思うので、2期で物語は完結するという前提で今は考えることにします。
ソシャゲ原案のアニメの場合によくあるパターンとしては「物語の続きはゲームで」という感じで中途半端に終わるというやつですが、この作品の場合はそれは可能性は低いでしょう。何故ならソシャゲの方の内容は、このアニメ本編でも重要キャラとして登場しているアルバとそのメイガスであるエイダの2人をメインとしたストーリーであり、カナタ達の居る現時点の物語時点より20年前のアメイジア崩壊時期を舞台としたストーリーだからです。カナタ達の物語を途中でぶった切って終わったとしても、ソシャゲのアルバ達の20年前のストーリーにおいてカナタ達のストーリーの結末が描かれるということにはならない。だからカナタ達の物語はアニメ本編で完結させるしかないわけです。まぁ「サクガン」とか「アルスの巨獣」みたいな酷いぶった切りエンドで終わる可能性もゼロではないですけど、この作品はそんなことはしないと思うし、思いたいですね。
だから、今回も含めて残り4話で、カナタ達がイデアールと決着をつけてイストワールに到達して世界の謎を解明して物語が完結するのだろうと期待しています。かなり詰め込み過ぎで尺が足りなさそうにも見える。オリジナルアニメが苦手な人というのは、この終盤の「尺が足りなさそう」という感じが苦手みたいですね。とにかく今のアニメ視聴者というのは、アニメを見る人自体が増えたせいなのかもしれないですけど、ストレスを感じるのを嫌う人が多い。ノンストレスでアニメを見たいんですね。だから終盤不安になるオリジナルアニメは苦手で、苦手だから低評価して、原作付きアニメを原作既読の安心しきった状態で見て楽しみたいという人が多い。私から見れば「そんなもん何が面白いんだ」としか思わないですけどね。
確かにオリジナルアニメは「サクガン」とか「海賊王女」とか「ひぐらし卒」みたいに酷い終わり方をする作品も多いですけど、それはそれで原作付きアニメでは得難い経験でもありますし、オリジナルアニメが綺麗に終盤に物語を畳んで完結させたのを見た時の感動は、原作付きアニメを原作既読で見た時の最終話の感動とは比較にならない良さがあります。というか、大部分の原作付きアニメは完結すらしませんしね。ストレスに負けてオリジナルアニメを嫌う人はアニメを楽しむという意味で勿体ないことをしていると思いますよ。
この作品が今回を終えて残った3話で物語を畳めるかどうかはまだ未知数です。しかし「Do It Yourself!」も「恋愛フロップス」も「BIRDIE WING」も「16bitセンセーション」も、残り3話時点では物語を畳めるかどうか全く分からなかったが、結果的には綺麗に畳んでくれました。「サクガン」とか「海賊王女」とか「ひぐらし卒」みたいな悪い結果に終わったオリジナルアニメというのは、だいたいこの残り4話ぐらいの時点ではとっくに評価は下がっていましたから、ダメな作品というのは早い時期から馬脚は現しているものなのです。一方で、最後綺麗に畳んで終わることが出来た上記の「Do It Yourself!」「恋愛フロップス」「BIRDIE WING」「16bitセンセーション」などは一貫して高評価していた作品でしたから、そういうちゃんと作ってあるオリジナルアニメは終盤も上手く纏めて完結させることが出来る場合が多いのです。この「SYNDUALITY Noir」も、特にこの2期はそういう作品であるという感触はあります。また今期だと「勇気爆発バーンブレイバーン」も同じ印象ですね。一方で「メタリックルージュ」は「サクガン」に近いものは感じますが、そこまでの惨事にはならないようにも思う。綺麗に完結さえすればそんなに低評価にもならないと思います。とにかく残り3話分というのは別にそんなに短い尺ではない。1クールの4分の1もあるのであり、色んな事が出来る余地は十分あるのです。
そのクライマックス3話分を前にした今回のエピソードですが、ちょっと幕間の話という感じでした。思えばこの2期は序盤からずっと怒涛の展開が続いていて、どうせこの後のラスト3話分も怒涛の展開でしょうから、このあたりでちょっと休息を入れたという感じですね。ただ幕間の話にしてはかなり出来が良かったです。作品の根幹に触れるようなテーマが一貫して色んな側面で描かれていて、普通に神回だったと思います。
ノリとしては、やたら怒涛のシリアス展開ばかりで1期とは全く別の作品になってしまったかのような2期とは違い、むしろ1期の明るくバカバカしい青春ロボットアニメのノリが戻ってきた印象でしたね。そう考えれば確かに今回のエピソードは1期の最終話であったとも言えると思います。1期から続いていたロックタウンの元気で自由なドリフター達の物語が今回で完結したように思う。それは2期のイデアールの物語との対比になっており、この後のラスト3話でイデアールとの決着をつけるための伏線ともなっているのでしょう。そして同時に、今回は1期から続いていたシエルの物語の真の最終話でもあった。
まず冒頭はロックタウンに戻ってきて1週間後、デイジーオーガの改修作業をしているカナタのもとをエリーとアンジェが資材を持って手伝いに来る場面から始まります。カナタは前回改めてイストワールを目指すことを決意し、一旦ロックタウンに戻ってデイジーオーガを改修することを決意したようです。理由は、カナタのイストワール行きを阻止してノワールやミステルを奪おうとして再びイデアールが襲ってきた時に対抗出来るだけの装備を用意しておくためです。もちろん、あの黒仮面マハトとの戦いも想定しての改修です。搭乗者としての技量ではやはりマハトの方が上ですから、カナタとしてはせめて装備だけでも充実しておきたいというところでしょうし、一度全力でマハトと戦いましたから、どういう補強をすれば良いかもだいたい分かる。
エリー達はカナタがイデアールと戦って死にそうになったことも聞いていましたから心配ではありましたが、それでもあくまでカナタが本気でイストワールを目指していること、その夢を目指すことが死んだシエルとカナタの最期の約束であったこと、またミステルと前のマスターのパスカル博士との約束であることなども踏まえて、たとえイデアールと戦う危険を伴うものであったとしてもカナタの夢を応援することにしたのでした。ロケットに乗れる人数は限られているのでエリー達はカナタと共にイストワールには行けないが、せめてデイジーオーガの改修は手伝おうということで、アヴァンチュールの溜まり場からコフィンのパーツなどをくすねて持ってきてくれています。
一方でミステルの方はマリアと共に再びカルタゴに向かいました。チュニス宇宙港に結構たくさんのロケットの残骸や資材が残っており、燃料も残っていた。どれも古くて実際に使えるかどうか分からなかったが、何せ実際に宇宙空間にロケットを打ち上げていた時代の資材ですから、仮に使えなくても大いに情報源として参考になるはずです。ミステルやカナタが見ても価値が分からないようなものでもマリアが見れば何か分かるかもしれない。それでミステルはマリアと2人で再びチュニス宇宙港に向かったのでした。今回はシエルによる情報漏洩も無いですからイデアールに襲われる心配も無く、2人旅ということになりました。
その2人旅の途上で、ミステルはマリアに質問をする。それは、イストワールの実在を知る以前からマリアがロケットの開発をしていた理由を問う質問でした。パスカル博士が宇宙を目指そうと考えたのは、そこにイストワールがあるからでした。しかしマリアはイストワールが宇宙にあるということは知らなかった。それなのに以前からずっとロケットを開発していた。それがミステルには不思議だったのでした。その質問に対してマリアは「誰も見たことが無いてっぺんからの景色を見てみたかったから」だと答える。
そのマリアの回答を聞いてミステルはバカみたいだと思った。そして、そのマリアのバカみたいなところが、一緒に地上世界を冒険していた時のパスカル博士のバカみたいな言動をミステルに思い出させた。パスカル博士もアメイジアの誰も見たことがない地上世界をただ単に見て回りたくてブルーシストに汚染された地上世界を転がり回って喜んでいて、ミステルはそんなパスカル博士を見てバカみたいだとよく思っていた。
そしてミステルと同じようにパスカル博士をバカみたいだと見なしていた連中がいた。それがアメイジアの指導層の知識人の連中だった。彼らは「旧文明のロストテクノロジー解明による文明の復興こそが人類の幸福なのであり、そのためにパスカル計画は存在する」と考えており、その計画を曖昧なまま進めようとしているパスカルを軽蔑していた。ミステルも彼らアメイジア上層部と同じ考え方であり、あくまで目指すべきは「文明の復興」と「人類の幸福」なのであり、自分はその使命を果たすために存在していると思っていた。あくまで大切なのは「使命のために行動すること」「自分に与えられた使命を果たすこと」「自分に出来ることで皆に貢献すること」なのだと思っていた。だから地上に出た後、パスカルが自分が地上世界を冒険するために皆を騙していたということを知った時、ミステルは呆れてパスカルを軽蔑した。そしてアメイジア上層部の連中はこのことを知れば、さぞかしパスカルを軽蔑するだろうとも思った。
だが、ミステルが正しいと信じていたアメイジアはその後あっけなく崩壊してしまった。その後ミステルも休眠してしまったので、その後の詳細なことはよく分からないが、20年後に目が覚めると人類は地上にコロニーを作って生活しており、その住人たちはマリアみたいにバカな連中ばかりだった。マリアに限らず、どの連中もアメイジア上層部の連中みたいな感心するような立派なことは何も言わない。自分がやりたいことをただやっているだけで、使命感のようなものは見受けられない。なんという俗物たちだろうかとミステルは軽蔑したが、彼らがみんなパスカルに似ていることに気付いて、懐かしい気持ちにもなり、彼らがパスカルの後継者のようにも思えた。
ただ、当のパスカルが自分を置き去りにして姿を消してしまったことで腹立たしさを覚えていたミステルは、パスカルに対する複雑な感情を抱えたまま、ひとまずイストワールに行けばパスカルの消息の手掛かりを掴めるのではないかと思ってカナタと共に行動していたところ、今回色々なことがあってパスカルの遺言を聞くことが出来た。そうして心に整理がついてパスカルを赦すことが出来て、改めてパスカルの夢であるイストワール行きを引き継いだミステルであったが、その上で落ち着いて考えてみると、パスカルを否定していたアメイジアは滅び、あの頃は誰もいなかった地上世界には今はパスカルみたいな連中がたむろしている。それが人類の辿るべき運命であったとするのなら「人間は世界と対話しながら成長する」と言っていたパスカルの言葉の方が正しかったのではないかと、マリアの答えを聞いた上でミステルはますますそう思えてくるのであった。人間は閉ざされた世界を守ったり過去を取り戻すために使命を果たして生きるのではなく、自分のやりたいことをやり、自分の見たいものを見て、そうして自分の知る世界を拡大していくことによってのみ成長するのではないか。前者には未来は無く、後者にだけ未来は開くのではないかとミステルは思った。
さて、一方でノワールはロックタウンに残っていたが、どうも塞ぎこんでいる様子です。前回、パスカルの遺言を聞いた後、ノワールはシエルは何処に行ったのかと質問してきました。ノワールはシエルが死んだことや、シエルの身体に自分のデータが移されたことも知らなかったのです。ノワールはてっきり別の0型メイガスの素体が手に入ってそこに自分のデータを移したのだろうと思っていた。だからシエルが居ないことは不思議に思っていた。20年前に自分の中にノワールが入ってきて身体を乗っ取っられて容姿まで変わったことをおぼろげに覚えていたミステルはカナタ達がシエルの身体がノワールに換わったことで騒いでいるのを聞いて20年前の出来事を思い出して事態は察したようであるが、ノワール自身は自分のそうした特殊な性質なども知らないので、まさか自分がシエルの身体を自分の姿に換えたなどとは思わず、自分がシエルの身体に入ったなどとは想像もつかなかったようです。だからシエルは別に居ると思っていた。
それでカナタはノワールにシエルが死んだこと、そしてシエルの身体にノワールのデータを入れたのだということを教えた。その際にカナタはシエルの死の経緯について説明したのだろうとは思いますが、その内容のほとんどはノワールには理解出来なかったのだろうと思います。そもそもカナタ自身がほとんど理解出来ていないことなのですから当然です。カナタはイデアールという組織のことも総裁のヴァイスハイトのこともほとんど何も知らないので、シエルがどうしてイデアールのスパイをしていたのか、どうしてイデアールを裏切って自分と一緒に逃げようとして、どういう経緯で死を覚悟したのかも詳しくは知らない。だから、そのあたりの事情についてはカナタも分かる範囲でノワールに説明はしたが、ノワールにもよく分からなかったと思います。ただカナタに明確に分かっていたことは、シエルがカナタと一緒にロックタウンに帰ろうとしていて、カナタが夢を叶えるのを見たがっていたこと、カナタに新しい曲を聴かせてくれるという約束をしていたこと、だがカナタを逃がすために自らの身を犠牲にして死んだということだけだった。だからカナタの説明を聞いたノワールがちゃんと理解出来たのはそれぐらいだったのでしょう。
そのシエルの死はもちろんノワールには何の責任も無い。ただヴァウスハイトがシエルを初期化して再契約してカナタを殺させようとしていたという話はあくまでカナタ達から見れば仮説でしかなく、そもそもヴァイスハイトという人物のことを全く知らないノワールにはピンとくる話ではなかった。そうなると、シエルが死を選んだ動機としては、死の前にシエルが「0型メイガスの素体が手に入る」と言っていたように、ノワールのデータを入れる身体を提供するために自死したという印象の方が強くなる。ノワールの立場ではそう思ってしまうのは仕方がない。
そうなると、ノワールの認識としては、シエルは本当はカナタと一緒にいてカナタが夢を叶えるのを見届けたかったし、もっと歌も唄いたかったのに、ノワールとカナタを救うために自分を犠牲にして死んだということになる。いや、まぁ結果的にはこれが事実だと言ってもいいでしょう。つまりノワールは自分のせいでシエルが死んだように思ってしまい、シエルが死んだ代わりに自分が生かされたとも思ってしまう。自分はシエルの身代わりとして生きているとも思ってしまう。
特にノワールの場合、もともと自分は役立たずのポンコツだと思って、ミステルのデータの修復による死を受け入れようとしていた。それがどうしても死にたくなくて、カナタ達と一緒に居たいという想いが湧き上がってきて、その結果ミステルを壊しかけてしまったわけで、その事態はノワールのデータをシエルの身体に移すことで危機を脱することは出来たわけですが、そうして復活したからといってノワールが有能になったというわけではなく、相変わらずポンコツのままでした。
これは未だ謎のままの部分なんですが、ノワールは20年前にイストワールからミステルの身体に降りてきた時も、カナタに発見されてミステルの身体で再起動した時も、今回シエルの身体にデータを移した後も、とにかく一貫してボーッとしていて戦闘時はまだマシだがそれ以外はポンコツのままです。一体ノワールとはどういう存在なのか、これは今後のラスト3話で解明されるべき謎の1つといえます。
とにかく未だポンコツのままだと自覚しているノワールは、そんな自分がシエルの代わりに生かされてもいいのだろうかと悩むことになった。かといってシエルが生き返るわけではないので、シエルの代わりに生きていかねばならないのだが、シエルが自分を犠牲にしてまで生かそうとしたに相応しい存在でなければならないとノワールには思えた。だがポンコツの自分には到底そんな価値は無いとも思えた。シエルはロックタウンの歌姫であり、カナタの身の回りの世話もテキパキこなして、戦闘でもしっかりサポートしていた。自分にはそこまで色んなことは出来ないと思ったノワールは、自分はシエルの代わりに生かされるべき存在ではないと思えて途方に暮れてしまった。
そうしてノワールはシエルの写真を見ようとしてカメラを取り出すが調子が悪くて、シエルが電撃でカメラを動かしていたのを思い出して真似してみると同じことが出来た。それでノワールはやはりこの身体はシエルのものなのだと実感する。その後、ロックタウンの中心部にあるライブ会場に行くとシエルのライブの中止が告知されていて、どうやらシエルは急に旅に出て居なくなったということになっているようだった。
そこでシエルのファンだという百合の花束を持った少女に出会ったノワールは、少女が楽しみにしていたシエルのライブを見れなくなって残念がっていると聞き、ノワールはポンコツの自分がシエルの身体を奪ってしまったので少女がシエルのライブを見ることが出来なくなったように思えて申し訳ない気持ちになる。そして少女が「もう一度シエルの唄を聞きたかった」と言ってシエルの唄を口ずさむのに合わせて、ノワールもシエルのことを思い出して、シエルの真似をして同じ歌を唄う。すると少女が喜んでくれて「また貴方の唄を聞きたい」と言ってくれたので、ノワールはこの身体はシエルの身体だから唄が上手く唄えるのだと気付き、自分がシエルの代わりに歌を唄うことなら出来ると考えた。そして、それがシエルの代わりに生かされた自分が果たすべき使命なのだと思った。
一方、デイジーオーガを改修しているカナタのもとに突然トキオが戻ってきて現れる。カナタは驚いて、どうしてアメイジアにトキオが居たのかとか、どうしていきなり敵側になって攻撃してきたりしたのかと問い質す。それに対してトキオはシルバーストームとの戦いの際に約束していた「昔話」をすると言って、自分がアメイジアの出身で、黒仮面マハト達と元は仲間であったことを説明する。そしてアメイジアに行った理由はマハトを説得するためだったと打ち明ける。
この「昔話」の内容を聞く限り、トキオがカナタと過去に因縁があったという私の想像は外れだったことが分かりました。トキオがこの「昔話」をカナタに打ち明けることを躊躇っていたことには特別な理由があったわけではなく、そもそも自分の過去については誰にも打ち明けるつもりは無かったということなのでしょう。実際、トキオはカナタ以外にも誰にも自分の過去の話はしていませんから、誰にも言いたくなかったのでしょう。
ただ、アメイジア出身だとかマハトの元仲間だとか言ったところでロックタウンの連中がトキオを非難したりすることもないでしょうから、別にトキオは自分の身を案じて過去を隠そうとしていたわけではないのだと思います。おそらくトキオにとってはマハト達と過ごしたアメイジアでの日々は「思い出したくない過去」だったのでしょう。つまりトキオにとっては「汚点」「黒歴史」の類なんでしょう。ヴァイスハイトの暴走を止めることも出来ず、マハトを救い出すことも出来ずに、ただ尻尾を巻いて逃げることしか出来なかった自分をトキオは心から恥じていたのでしょう。トキオはヴァイスハイトに対してもマハトに対しても何だ噛んだ言って仲間意識を持っていて、彼らがおかしくなっていくのを止めることが出来なかった自分を情なく思い、特にマハトのことを相棒だと思っていたトキオはそのマハトを救うことが出来なかった自分を恥じ、自分は相棒など持つ資格は無いと思い、地上に逃げてドリフターになった後も孤高のドリフターであり続けた。カナタのことも単に弟分として世話を焼いていただけであり、対等な相棒だなどとは思っていなかった。自分の相棒は生涯マハト1人であり、マハトを救えなかった自分には相棒など不要なのだという心境であったのでしょう。
だがシルバーストーム戦でカナタの成長を感じて、カナタを「相棒」と呼んだことでトキオの心に変化が生じて、自分もそろそろ過去に縛られるのを止めて前に進まなければいけないと思い、その第一歩としてケジメの意味でカナタに自分の過去を打ち明けようと考えるようになったのでしょう。ところが、その矢先にロックタウンに忍んできたマハトの姿を見て、マハトがヴァイスハイトと共に何かを企んでロックタウンに手を出そうとしているのではないかと警戒し、アメイジアの現状を探り始めることになり、カナタに昔話をする話は後回しになってしまった。
ちなみにトキオとマハトは1期のカジノ回でニアミスしているが、あの時は2人は直接顔は合わせておらず、マハトの操縦するギルボウが戦う姿はトキオは観客として眺めていましたが、マハトが操縦していることは気付かなかった。それはおそらくトキオがアメイジアを脱出するまでトキオもマハトもシミュレーターでの訓練ばかりしており、実際にコフィンに乗ったのはトキオも脱出時が初めてだったのであり、トキオはマハトがギルボウを操縦している姿は見たことがなかったからでしょう。
その後、アメイジア跡地にヴァイスハイトが「イデアール」という組織を作ったことや、マハトがそこで黒仮面とか名乗って活動していることも独自に情報を入手したトキオは、マハトがチュニス宇宙港にカナタを襲うために向かったことを知ってチュニスに急行して、そこでカナタの危機を救ってマハトと対決した。マハトは10年ぶりのリヒト(トキオ)との再会に驚いて逃げていき、トキオはそれを追いかけていき、マハトにこんなことを止めさせようと説得しようと考えてアメイジア跡地に行きイデアールに戻ったようです。
もちろんイデアールに本気で戻るつもりはなく、マハトを説得して連れ出そうと考えていたのだが、普通に説得しても無理だろうと考えて、頭ごなしに説き伏せるのではなく、まずマハトの気持ちを理解しようとトキオは考えたようです。それで、マハトが奇妙な黒仮面なんてものを被るようになった理由は、自分の本当にやりたいことを封印してイデアールの使命のために生きるためなのだろうとトキオは理解し、元相棒として自分のやるべきことはそうしたマハトの想いを理解することだと思った。10年前はマハトの想いを理解しようとせず頭ごなしに否定することばかりで対案を示すこともなかった。そんなやり方だから失敗したのだと反省したトキオは、まずマハトの気持ちを知ろうと思い、マハトと同じことをやってみようと思った。それで白仮面を用意して被り、本心を隠してイデアールに忠誠を誓う演技をしてみた。
しかし、そんなことをしても全くマハトの気持ちは理解できず、ヴァイスハイトもマハトも急に戻ってきたトキオが急に変なことをやりだしたと思って内心かなり困惑したことだと思います。特にマハトはトキオがふざけて自分をおちょくっていると思ったのは激怒して全く話を聞いてくれず、トキオの説得は失敗に終わり、イデアールに潜入して得た成果といえば、ヴァイスハイトの本音が聞けたことと、間が悪くやってきて捕まったカナタの脱走をサポートすることが出来たことぐらいでした。
そうしてイデアールから脱出してロックタウンに戻ってきて、トキオはカナタに会って殴られるのを覚悟していた。いきなり居なくなった挙句に敵として現れて攻撃したりしたのですからカナタが怒っていても当然だったからです。しかしカナタはいきなりトキオが戻ってきて驚き、とりあえず冷静に昔話や事情を聞き、トキオが白仮面を被って見せると、トキオの白仮面姿を初めて見たカナタは鼻で笑い、トキオが白仮面をかぶることで黒仮面マハトの気持ちを理解しようとしたのだと説明するとカナタは呆れて「いつものトキオさんらしくない」と指摘する。
そしてカナタはトキオに、自分が見習いドリフターだった頃にトキオから教えられた大事な言葉として「何が出来るかじゃない、何がやりたいかだ」「ドリフターは本当になりたい奴だけが自分で勝手になるんだ」を挙げる。カナタはそのトキオからの教えを受けてドリフターとなり、その教えを今でも忘れておらず大事にしているという。だからカナタはイストワールに行くという夢を抱いているのであり、その夢を叶えるためにドリフターをやっている。イストワールに行けるとか、イストワールに行って自分に何が出来るか、何かが出来るから自分がイストワールに行く意味があるとか資格があるとか、だから自分はイストワールに行く使命があるのだとか、そういうことは大事ではないのです。ただ純粋に「イストワールに行きたい」その気持ちが大事なのです。そういう生き方をする者がドリフターなのであり、それはマリアが宇宙に行きたいという気持ちと同じであり、パスカルが地上に行きたかったという想いと同じなのです。
逆に、ヴァイスハイトの思想に率いられたイデアールは「イストワールに行って人類を救う」という崇高な使命を持っている。そんな崇高な使命を持っているから自分たちこそがイストワールを独占する資格があると考える。自分たちならイストワールに行って人類を救うことができる。だからイストワールに行くのであって、純粋にイストワールに行きたいわけじゃないのです。アメイジアの上層部の連中も同じで、自分たちこそが文明を復興することが出来るからイストワールのロストテクノロジーを開く資格があると考えてパスカル計画に踏み切り地上世界を目指した。純粋に地上世界に行きたかったわけではない。
しかし、崇高で遠大な理想を実現するためには非常に大きな困難が立ちはだかるものなのです。そんな困難に直面した時、本当にやりたいことでないと挫けてしまうのです。普通に諦めてしまえればいいのですが、崇高な理想だから簡単に諦めることは出来ない。だから歪めていってしまうのです。理想や使命感だけで突っ走ると、必ず人間は歪んでしまうのです。アメイジアはそれで滅び、そういう意味でイデアールも非常に危うい組織といえます。現実世界でも、例えばとっくの昔に滅んだ大帝国を復活させようと考え、それがどうしても成し遂げねばいけないことであり、自分たちにはそれを実現する力があり、だからそれが自分たちの使命だとかいう思想に凝り固まって戦争を繰り返している愚か者たちがニュースを賑やかしています。そんなことは人々が本当に「やりたいこと」でも何でもないのです。だからどんどん歪んでいく。もちろん、ただ「やりたいこと」をやっていても過ちは冒すし挫折もします。人間は完璧じゃないですから。でも、そういう「やりたいこと」の失敗はトライ&エラーの範囲内でいくらでもやり直しは利く。しかし「出来ること」「やるべきこと」の挫折は歪みを生じやすいのです。
これはおそらくこの作品の根幹のテーマなのでしょうけど、カナタはそこまで難しいことをここでは言っているわけではなく、自分にその考え方を教えてくれたトキオらしくない行動だと指摘しているのです。トキオは自分ならばマハトを救えると思い、だから自分がマハトを救わなければいけないと使命感を持っている。そして、そのために自分が出来ること、やるべきことは白仮面をかぶってマハトの気持ちを理解することだと思っている。しかしカナタから見れば、そんなのはドリフターらしくない行動なのです。むしろマハトたちイデアールの行動原理に近い。カナタはマハトと問答して、マハトが常に自分の真にやりたいことを封印して使命に生きようとしていることを知っていた。トキオがそんな気持ちを理解して何か意味があるとはカナタには思えなかった。トキオはそんなイデアールの思想が嫌で逃げ出してドリフターになったのだから、もっとドリフターとしてマハトに対するべきであり、自分の「やりたいこと」を主張すべきだとカナタは思った。マハトのために何かをやってやろうとして回りくどいことをするのではなく、純粋に自分がやりたいことを示すべきだということです。
そのカナタの言いたいことはトキオにも伝わり、トキオはむしろ10年前も今もマハトやヴァイスハイト達に対しては自分にはその覚悟が足りず中途半端だったのだと気付いた。もっと強く具体的に自分のやりたいことを主張して皆を引っ張れば良かった。そのためにヴァイスハイトやマハトと正面切ってぶつかって殴り合えば良かった。だが自分は決定的な衝突を恐れて、中途半端な批判勢力という立場で居続けて、確固とした対案も示さないまま対立だけを深めていき説得の機会を失った。その覚悟の欠如が自分の失敗だったのだと反省したトキオは、今からでもまだやり直しは出来るはずだと思い、「ありがとうよカナタ、その通りだ、俺も肚が決まったぜ!」と言い、気合を入れてもらうためにカナタにぶん殴ってもらった。そして、ヴァイスハイトやマハト達とはもう今となってはこんなふうに殴り合って解決というのは無理なのだろうとは思いつつも、それでも自分をぶつけてみようとトキオは覚悟を決めるのであった。
そうしていると、そこにノワールが戻ってきて、シエルの代わりにライブで歌を唄いたいと言い出す。それでトキオがマネージメントをして急遽、翌日にシエルのライブをやる予定だった会場で「シエルの想いを受け継ぐ新人歌姫」という触れ込みでノワールに1日限りのステージでシエルの唄を歌うという企画でライブをやらせることになったが、宣伝期間が短くて、開演が近づいても客席はガラガラだった。そこでマイケルやクラウディアたち皆がやってきて更に通行人たちに宣伝をしてくれた。
そうして少しは客が増えたが、まだまだ客席はまばらなままでライブ開始直前となり、ノワールは初めて緊張という感情を知ります。しかし、そこにシエルのファンの例の少女が楽屋にやって来て励ましてくれるとノワールの緊張はほぐれた。それでノワールは、緊張したのも、ファンの励ましで緊張がほぐれたのも、シエルの身体だからなのだろうかと考えたりする。
そうしてライブが始まり、ノワールはシエルのファン達のためにシエルの代わりに歌おうと努めた。それがシエルの身体で生かされた自分の果たすべき使命だと考えたのです。そして同時に、ステージの袖でノワールの唄声を聞いて驚き目を輝かせているカナタを見て、カナタもやはりシエルの唄を聞いてシエルを懐かしんでいるのだと思ったノワールは、自分はシエルの代わりにカナタの傍に居るべきだとも思った。
しかし1曲歌い終わって観客からの歓声を受けると、ノワールは何故か胸の奥が熱くなり、シエルの代わりを務めるという使命感よりも、ただ純粋にもっと歌を唄いたいという気持ちが湧き上がってきた。そうして何曲も唄っていくうちにノワールの歌声に引き寄せられて客は増えていき、いつしかロックタウン中の人々が集まって満員御礼となる。そうして最後の曲はシエルが遺した最後の曲、カナタに歌っている姿を見せると約束して果たせなかった新曲となります。
この新曲「YOUR SONG」はシエルからカナタへの最期の想いを綴ったような唄ですが、この歌をノワールが唄い始めると、ステージ上にシエルの姿が現れて、シエルも唄い始めて、ノワールとシエルのデュエットの形となります。これは目の錯覚とか霊現象というわけではなく、観客全員の目にも見えておりシエルの唄声も聞こえていた。おそらくシエルが死の前にあらかじめ仕掛けていたのでしょう。この曲をステージ上でノワールが唄うと自動的に一度だけ自分のホログラムと歌声が出現して流れるようにしていたのだと思われます。それはカナタとの約束を果たすためでした。そしてシエルはノワールが自分の代わりになろうとして歌うことも見越していたのでしょう。そしてそんな必要は無いのだと諭すためにも、ノワールと全く違う自分の唄声を流す仕掛けを残していたのだと思われます。
そうして2人の一度限りのデュエットとなり、カナタはシエルとの約束を果たすことが出来た。そうして歌い終わると、万雷の拍手の中、例のシエルのファンの少女が近づいてきてノワールに百合の花束を渡し、ノワールが「シエルの代わり、出来たかな?」と問うと少女は「全然違ってた」と首を振り「シエルの代わりじゃなくて、ノワールの唄が私、大好き」と言う。それを聞いてノワールは、シエルの代わりじゃなくて自分も価値があるのだと知ることが出来た。自分がシエルの代わりではなくて、ただ純粋に唄いたいと思った、その唄を大好きだと言ってくれた少女がいて、歓声を送ってくれる人々が居る。それは自分がシエルの代わりになろうとする使命感よりも、自分が自分のやりたいことをしたいという気持ちの方が価値があるということなのだとノワールは思った。ならば自分がシエルの代わりとしてではなく、たとえポンコツでも純粋にカナタの傍にノワールとして居たいと思う気持ちにも価値があるということだとノワールは思った。そして、自分にも観客にもそのことを気付かせるためにシエルが最後に姿を現してくれたのだと悟り「ありがとうシエル、私はノワールとしてカナタの傍に居ます」と別れの言葉を呟き、花束を抱えて「マスター」と呼びかけてステージ袖のカナタの方へと歩み寄っていったのでした。
道産子ギャルはなまらめんこい
第9話を観ました。
今回はまずホワイトデーの話から始まります。美波と沙友理にバレンタインデーのお返しをしようと思っていた翼でしたが、クラスメイトの松尾に相談をされます。松尾はバレンタインデーの時に美波が手作りチョコをダメにしてしまったので買ったチョコをクラスの男子に配った時、手作りチョコではないことを残念がって美波を傷つけてしまい沙友理にキツく注意されてしまった。松尾はそのことを申し訳なく思っていて、ホワイトデーを機会に美波と沙友理と仲直りしたいと思っているらしい。それでどうしたらいいか翼に相談したのでした。
それで翼がちゃんと美波に謝れば2人とも赦してくれるはずだと励ましてくれて、ホワイトデー当日、松尾は自分の好きなご当地菓子を買って2人にプレゼントしてバレンタインデーのことを謝り仲直り出来ました。そして翼も祖母の得意な手作り菓子である牛乳せんべいを祖母に作り方を教えてもらって手作りしてきて、美波と沙友理と松尾にプレゼントしました。その後、美波が牛乳せんべいのレシピを欲しがったりしたので祖母にレシピを貰ったりしました。
その後、松尾がホワイトデーの時のお礼がしたいと言って、網走湖にワカサギ釣りに誘ってくれました。松尾の父親も一緒に行きましたが、翼はワカサギ釣りは初めてで、松尾が自分が翼にワカサギ釣りを教えると言って2人で別行動していると、たまたま親と一緒にワカサギ釣りに来ていた美波と出会い、美波の親も釣れないので遊びに行ってしまっていて、3人で一緒にワカサギ釣りすることになる。
だが全然釣れないので、松尾が一旦父親のところに戻って状況を見てくると言って席を外し、その間、翼と美波は久しぶりに2人きりになる。そこで美波が将来はメイクの仕事をしたくて留学なんかもしたいと考えているという話を聞いたり、美波が翼にメイクしてみたいと言って顔を近づけたり、リップクリームで間接キスしそうになったりしますが、松尾が戻ってきて3人はポイントを移動してワカサギがたくさん釣れて、ワカサギの天ぷらを美味しく食べます。
しかし調子に乗り過ぎたせいなのか、翼はその後カゼをひいて寝込んでしまった。そして祖母が出かけて家に1人になって心細くしていると美波が見舞いに来て看病してくれた。やたら距離感が近くて照れてしまう翼であったが、熱が上がって意識が朦朧としてしまい、何かしてほしいことはないかという美波の質問に「ずっと傍にいてほしい」と答えて、美波は翼の手を握ってずっと付き添ってあげたのだが、翼がカゼがマシになって目が覚めたら美波はもう帰っていて、翼も美波との会話の詳細は覚えていなかった。だが美波は翼に「ずっと傍にいてほしい」と言われたことを強く意識して照れていました。今回はだいたいそういう感じのお話でありました。これで残り3話ですが、このまま淡々と終わるのか、何か山場があるのか、どっちなんでしょうね。