使わないけど使える刀が欲しい。

 

そんな所から色々調べて注文打ちで刀を作りました。

 

過去に書いた事も合わせて、一度まとめておきたいと思います。

 

刀身・鞘・柄について。

 

基本的にはすべて伝統的な素材・製法で、お金を払えば入手可能な範囲で。

 

 

今回は鞘

 

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柄や刀身は何かと気を付けるべき点が多いのですが、鞘は普通に刀を買った時についているものをそのまま使えばそれで必要十分だと思います。摸造刀流用の安い合わせ鞘でも特に問題ないようにも思います。ただし反りが合っていれば。

 

できればそれに軍刀風の革カバーをつけると良いと思います。

 

経験上、合わせ鞘は鯉口が緩むのが速いように感じたりもしますし、振ると少しカタカタしたりもしますが。

 

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軍刀修理官として成瀬関次が従軍した昭和初期の記録では、軍刀の故障割合は「柄6:刀身3:鞘1」との事。 鞘は最も故障が少なく、そのため記載も少ないです。

 

 

主に軍刀鞘について言及されています。

 

鉄鞘は重たいうえに曲がると刀が抜けなくなり修復不可能、吊環の取り付け部分が壊れやすい、と書かれている程度です。

 

鉄鞘の中の木鞘はボール紙のようで濡れるとなかなか乾かず錆の原因となる。

 

成瀬は通気と掃除のために戦地でコジリ金具を着脱できるように改造したと書かれたりしています。

 

しかしそれも鉄鞘だったから必要だった事のようです。

 

また駐爪というバネ式のストッパーが壊れやすく、これが鞘と柄の内部にあるために壊れると修理が難しく刀が抜けなくなってしまう例もあったと書いてあります。

 

 

成瀬の提言として、鞘は普通の木鞘を皮革でくるみ鞘走り防止のための装置は外部にとりつける方が良いと書いています。

 

成瀬の提言は大体が受け入れられて軍刀が改良されています。

 

 

 

 

成瀬の提言通り、木鞘を革カバーで覆い、外部に革ベルトで鞘走り防止ストッパーを取り付けています。ボタン式だったりベルト穴式だったりとバリエーションが豊富です。軍刀はあくまで私物ですので注文する「軍刀屋」ごとに細部が違ったのでしょう。

 

普通の日本刀をそのまま革カバーに入れて軍刀として使用される事も多くあったようです。

 

そういう私製の軍刀↓

 

 

私製軍刀鞘カバーのレプリカ↓

 

 

 

あくまでも普通の日本刀の鞘なので栗型があります。そして革カバーに吊環をつけて軍刀として吊れるようになっています。

 

これに近い形というか、これと同じ物を作りました。ただ吊環はつけませんでした。栗型がでているのでそのまま腰に差せます。吊環をつけると逆に腰に差しにくくなりそうです。

 

 

 

 

ストッパーは革ベルトの代わりにプラスチックバックルと平たい紐(リボン)で代用しています。この方が片手で取り外せて良いかと思いました。ただ、紐で蝶結びにしておくだけで十分な気もしますし、そもそもハバキ止めで十分かもしれません。

 

野戦に出たり戦場で鞘走りしたりする事を想定する必要は無いかなとも思うのですが、鞘に革カバーがあるとぶつけても塗鞘にキズがつかないので安心できます。また、刀を手入れしたり収納したりする時に鞘走りしそうになったこともあるので、ストッパーもつけておいて良かったと思います。手入れ・保管・収納・移動の時の事故防止におすすめです。

 

後日追記

 

 

紐で縛るだけにしました。この方が咄嗟に刀を抜きやすいので。

 

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軍刀風は好みに合わないという人も多いかと思います。

 

もっと昔スタイルの鞘だとどういうものが良いか。

 

成瀬の著書には江戸時代の古書からの引用として以下のような意味の事が書かれています。

 

鞘は糊付けされているだけのものなので長雨にうたれたり川越えの時に水に入ればたちまち鞘が割れてしまう。巻き鞘などが良い。ヒラオという繊維の布を巻いて漆で塗り固めれば良い。

 

ヒラオというのは現代では一般的ではない繊維なので、成瀬は「麻布を巻いて漆を塗れば良い」と書いています。

 

しかし、こちらも現代では例のない工作なので難しいのではないでしょうか。

 

現在依頼可能っぽい巻き鞘の工作は、鮫皮巻か藤巻くらいなのではないかと思います。

 

藤巻↓

 

 

 

鮫皮巻↓

 

 

鮫皮巻きの鞘は肥後拵の特徴で、強度が強いことで有名です。

 

しかし総鮫革巻きの鞘はプラス15万円前後。とても高額です。

 

超高級なカイラギザメになると価格は見当もつきません。

 

藤巻に関しては好みではないので問い合わせした事がないので料金は不明です。鮫皮巻よりはだいぶ安いとは思いますが。

 

他にも半太刀拵にして濡れても鞘が割れないように金具で巻いて固定するという方法も有りかもしれません。

 

 

↑半太刀拵

 

濃州堂で太刀金具が販売されています。ばら売りも可能との事なのでその金具で半太刀拵を作れば良いとも思います。濃州堂で半太刀拵えを作れるのかを誰かが問い合わせていましたが、作れるとの事でした。価格は聞いていないので不明です。

 

ただ、成瀬の著書の古書引用では、この半太刀拵のように金具を鞘につけると重たくなって鞘尻が下がってしまい見苦しい。今風の刀(江戸時代の刀)は身が厚くて重たいのでこういうものは不向きである、、、というように書いています。

 

しかし、差し方の問題のような気もするのですが、いかがでしょうか。

 

歴史的にみれば濡れても鞘が割れないように太刀の鞘は金具で巻いていたのではないかと思いますし、打ち刀が主流になっても野戦の機会があった戦国時代~江戸時代初期はこういった半太刀拵が多かったのではないでしょうか。

 

ただ、洋服にベルトで半太刀拵の刀を差すと金具がベルトに引っ掛かりそうな気もします。

 

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その他の金具について。

 

鞘につける金具として、鯉口金具・シトドメ・栗型金具・コジリ金具があります。

 

鯉口とコジリは水牛角製のものが一般的ですし、すべて付けなくても良いものでもあります。

 

実用性という事だけでいうと、鯉口だけは金具の方が割れにくくて良さそうな気もします。角製だと、何かのひょうしにパキっと割れてしまいそうな気がしないでもありません。

 

 

ただ、鯉口は一般的に角製が標準ですので気にするほどの事ではないのかもしれません。それに鯉口金具は種類が少ないので縁金具とサイズを合わせるのが少し難しいかもしれません。

 

コジリに関しては角製にするか金属にするかは好みの問題程度でしょう。

 

栗型金具も飾りなのでどちらでも良いと思うのですが、金具をつけた方が腰に差す時に滑り落ちにくくなりそうにも思います。

 

唯一、栗型につけるシトドメは付ける方が一般的です。武道の流派によってはシトドメをつけないそうですが、特に理由がなければつけておく方が良いと思います。

 

私自身は、金具をつけない方が見た目がすっきりしていて良いように思ったので、シトドメ以外は鞘に金具をつけていません。

 

 

後日追記

コジリや鯉口は金属製のものは角製よりも外れやすいそうです。接着剤との相性の関係で。ただし工作精度との関係もあると思われますので一概には言えないかもしれません。

 

 

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返り角について。

 

戦国時代~江戸時代初期頃までは大刀も脇差も短刀も鞘に返り角をつける方が一般的だったと思います。雑兵物語には鞘に返り角がついていなかったせいで組み打ちの際に鞘ごと刀がぬけてしまい不覚をとった話も記載されています。しかし江戸時代に入るとつけれられなくなります。おそらく破損しやすいからだと思います。また返り角があると帯なりベルトなりに抜き差ししにくそうです。

 

特別なこだわりがあるのであれば取り付けても良いかもしれませんが、返り角をつけると鞘が革カバーに入らなくなってしまうこともあり何かと不便そうなので私はつけていません。優先順位を考えると、返り角がある事よりも革カバーをつける事の方が良さそうに思います。

 

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鞘塗について

 

もし将来的に大小の拵を合わせたいのであれば鞘塗のメーカーごとの塗料の色合いの違いについて意識しておいた方が良いです↓

 

 

 

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長々と書きましたが、冒頭に述べた通り鞘は刀を買った時についている普通の鞘をそのまま使えば良いだけで、できれば革カバーで巻いておけば良いと思います。もちろん鯉口が緩ければ経木を貼って調節してください。

 

反りが合っていれば摸造刀流用の合わせ鞘でもさして問題ないとも思います。そういう合わせ鞘を予備で購入して、防水が気になるようであれば防水テープで巻いても良いかもしれません。革カバーをつければ見た目にもわかりません。合わせ鞘は2万円くらい、革カバーは私が頼んだ時は1万5千円くらいでした。

 

鞘カバーはさして高いものではなかったので作っておくと何かと良いのではないかと思います。

 

塗り鞘にキズがつくと心も傷つきそうなので・・・

 

成瀬とは別の人の記述ですが、上海事変に参加した軍人の言葉として

実戦の場合、鞘の皮(ママ)被覆は必要欠くべからざるものなり

 

などとも書かれています。

 

写真の私の鞘カバーは群馬県高崎市のホップというお店で作ってもらいました↓

 

 

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後日追記

美術研磨の刀身は白鞘で保管する方が良さそうです↓

 

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