使わないけど使える刀が欲しい。

 

そんな所から色々調べて注文打ちで刀を作りました。

 

過去に書いた事も合わせて、一度まとめておきたいと思います。

 

刀身・鞘・柄について。

 

基本的にはすべて伝統的な素材・製法で、お金を払えば入手可能な範囲で。

 

 

今回は柄

 

・目釘折れ

・柄折れ

・柄糸トラブル(切れる・ゆるむ)

 

↑私が調べた限りですが、日本刀が使用できなくなる理由のトップ3はこの3つです。この3つに対応した柄を用意することが「使える刀つくり」にとっての最重要事項だと私は考えます。

 

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軍刀修理官として成瀬関次が従軍した昭和初期の記録では、軍刀の故障割合は「柄6:刀身3:鞘1」との事。

 

刀で最も故障しやすいのは柄。

 

使える刀が欲しいなら刀身より柄の事を先に考えるべきなのでしょう。

 

 

最も多いのは「目釘折れ」

 

これを故障というかは微妙ですが、日本刀で最も多く問題のおこる箇所であろう事は想像にも難くありません。

 

単純に柄(茎)は二本目釘が良いようです。

 

歴史的には刀の目釘は大抵一つです。

 

目釘穴を2つにすると柄が割れやすくなるので良くないとも聞きます。しかし成瀬その他の記述を見る限りにおいては確実に2本目釘の方に利があります。

 

2本目釘にする場合、柄頭側の目釘は刀身に触れないようにするのが基本とのこと。ただし、理屈のうえでは柄材が竹よりも硬い木材であればさして気にする必要はないはずです。

 

 

 

鍔側の目釘は目釘の頭が右手の手のひらに、柄頭側の目釘は左手の手のひらにあたるように取り付けます。目釘が抜け落ちないようにという配慮です。特に指定しなくても柄作成を依頼すればそうなっているものと思います。

 

後日追記:柄巻師の方に教えて頂きました

目釘穴は固定で金具も決まっている場合、表裏どちらから目釘を入れるのかは糸幅で決まります。今回の場合は差し裏で糸の交差があるので、表側からしか入れられないですね。

 

 

目釘穴の位置に対しての鍔の厚さ・縁金具の厚さおよび柄糸の幅によって目釘をどちら側から入れるかは決まるようです。必ずしも目釘の頭が掌側にくるわけではないわけです。

 

 

助光刀匠からも以下のように教えて頂きました↓

 

目釘を挿すにはハバキ、切羽、鍔、縁金具の高さ、糸の幅によって決まる為、手のひら側にしたい時は、金具類から調整し直さないといけません。

なので、昔は茎に穴をあけ直してます。

新作刀では、そうした調整をする場合は、金具類を考慮して柄巻き師が穴の位置を決める必要があります。

 

 

 

目釘は竹が最良ですが、どういう竹が良いかは見る資料によって微妙に意見がわかれています。

 

とりあえず2本目釘にしておけば、市販の竹目釘で十分に最悪の事態を避けられると、個人的には思います。

 

目釘はどのみち消耗品なので使えば取り換えるのが正しいようです。

 

成瀬の目釘への記述↓

 

 

 

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本来的な意味での柄の故障として最も深刻なのが柄折れ。結構多いようです。

 

 

柄材は一般的に朴木ですが、現代では柄材に適した木目の詰まった朴木は存在しないか滅多に入手できないと聞きます。木目の詰まった朴木をしごいて押し固めて柄を作るのが本来の伝統的な作り方とのことです。朴木は柔らかくて吸水性もありそうですから押し固めた朴木で柄を作れば、時間とともに吸湿して膨張し茎を締め付けるようになって良さそうです。しかし、そんな方法も既に失伝しているとの事。

 

そもそも、柔らかい朴木で柄を作るようになったのは江戸時代の事で、それ以前はもっと硬い別の木材が使用されていた。

 

成瀬は柄材に良い木材の例として、柚木、梓(あづさ)、檀(まゆみ)、胡桃(くるみ)、樫そして桜をあげています↓

 

 

海部刀の柄は欅ケヤキだそうです。

 

私の大刀は梓(現代名だとミズメ)、脇差は桜で制作中です。

 

濃州堂でプラス1万円で柄材を桜にできました。ミズメの柄は刀剣店経由で依頼できるのかどうか不明なのですが、助光刀匠の知り合いの職人の方が「最強の柄」にふさわしい柄を作れるという事でお願いしたところこの木材との事でした。名前を出して良いのかわからないので書きませんが、コンクールで特賞の受賞経験もある方との事です。

 

木材の強度の指標の一つに気乾比重というものがあります。数字が大きいほど丈夫という意味です。この数字が大きいほど柄材に向くのかどうかは不明ですが、以下は柄材として名前があがる事のある木材の数値です。

 

樫(アカガシ):0.87

 黒檀コクタン 1.16

 白檀ビャクダン 0.95~0.99

 紫檀シタン 0.82~1.09

欅:0.69(0.47~0.84)

楢(ナラ): 0.67(0.45~0.90)

胡桃(ウォールナット?):0.64

梓あずさ(ミズメ):0.60~0.72

桜(ヤマザクラ):約0.60

朴(ホオ): 0.48

 

なお目釘に使用する竹は0.60

 

 

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茎が短い刀身だと柄折れが起こりやすいと成瀬は多く記載しています。

 

これは物理的に考えて当然ですね。

 

柄材を丈夫なものにする他、鮫皮を漆塗りして一枚巻きにしたものは若干の補強効果があると記載しています。反対に鮫皮は短冊だと全く役に立たないわけです。

 

また茎の短い刀には大目貫をつけると良いとも書いています。

 

しかし、そもそも茎が短い刀を選ばない事が最良でしょう。

 

末古刀などに多い茎の短い刀は、おそらく片手用のものなので当時の柄は片手分の長さしかなかったのかもしれません。

 

柄の適切な長さには色々と意見があるかもしれませんが、茎の長さに合わせて柄を作るのが最も理にかなっていると思います。刀身を注文打ちで新作するのであれば、柄長にこだわりや考えがある場合は茎の長さもそれに合わせて作ってもらうべきでしょう。

 

柄が8寸なら茎は7寸が適当と書かれています↓

中村泰三郎氏が推奨する斬れる刀 | 刀好きの右往左往記 (ameblo.jp)

 

 

 

 

↑濃州堂のカタログから

 

注文打ちの場合、希望の柄長を伝えてそれに合う茎長にしてもらえば良いと思います。

 

濃州堂のカタログには店舗HPにない情報もあるため、注文打ちを考える時は事前に取り寄せて内容を確認する事を強くおすすめします。

 

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柄巻きについて

 

成瀬は「革は滑るから良くない」という意味の事を書いています。また、成瀬は柄糸に漆塗したものも滑るので良くないよ書いています。幕末の兵学者にして講武所頭取の窪田清音も著書に「革の柄巻きは濡れると固くなるので良くない。組み糸が最上」と書いています。

 

軍刀には「くるみ」という木綿を絹で包んだ柄糸が多用されており、それはちぎれやすいと書いています。正絹は「摩損もすくなく」と書いています。

 

しかし、歴史的には戦国時代までの柄巻きは普通は革で、さらに柄糸ごと漆や膠で塗り固めたものであったようです。滑りやすいかもしれませんが強度は革の方が強いでしょうし、防水面でいうと漆で柄ごと塗り固めた方が良いでしょう。

 

江戸時代以前の柄↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸時代に入り柄に漆を塗る事が禁止されたと何かで読みました。また、江戸時代以前は絹の組み紐は高級品であり上級武将の「糸巻き立ち」にしか使用されていませんが、江戸時代に組み紐が量産されて安価になり革の柄巻きにとって代わられたものと思われます。歴史的には桃山時代には組紐の柄巻きが一般化していたとのこと。それ以前は革巻きが主流のようです。糸巻き太刀は鎌倉時代に実戦用の太刀に使用されて流行したのがはじめとの事。

 

 

正絹が良いか革が良いかは意見のわかれる所かなと思われます。

 

好みの問題程度かもしれません。

 

正絹と革だと革の方が少し厚くなるようなので、手が小さい人は正絹の方が良いかもしれません。微差かもしれませんが。

 

木綿が良いとの記述もあるのですが、機械的強度は絹の方が強いはずです。

 

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柄糸の巻き方

 

古書からの引用で、太刀巻き(平巻)片捻り巻きなどが良いと書かれている箇所があります。軍刀はほとんどが捻り巻きだったようですが、成瀬の工夫として一線巻きと名付けたとする現在でいう一貫巻き・片手巻きのような巻き方をしたようです。

 

武道家のなかには一貫巻(片手巻)は菱がないために滑りやすくて好かんという人がちょくちょくいるようです。

 

グリップがしっかりしている事と、摩擦が少なくて柄糸の摩損しにくい事は両立できないと思います。これもどちらが良いのかは考え方による違いがありそうです。

 

現代的な素材でいうとテニスラケットのラバーを巻くのが一番良いそうです。見た目を気にしないなら良いかもしれません。私はそういうのは好きではないですが・・・

 

金額的には最も一般的な捻り巻きが一番安くて、それ以外の巻き方は追加料金が必要な事が多いようです。コンクールに出品されている柄巻は大抵が摘み巻きなので、格式としては摘み巻が一番高いのだと思います。

 

濃州堂のカタログから↓

 

 

特別なこだわりがあるのでなければ、とりあえず捻り巻にしておけば良いのではないかと考えます。私はそうしました。

 

私の刀の柄↓

 

 

 

 

 

↑軍刀の最終形態たる三色軍刀。一貫巻(片手巻)に柄糸は漆塗。多くの戦訓をうけて改良されたものなので強度的にはこれが一番なのかもしれません。

 

 

↑柄巻き師の技量がわからない時は捻り巻きにしておく方が良さそうです。上手い人でなくでも一番固く巻けるようです。柄糸が緩んでしまうのが一番いけないわけです。

 

 

 

 

 

柄糸の色

「茶色」とか「紺色」と表記されていてもメーカーごとに色合いが異なるようです。将来的に大小の拵を合わせたいと思う場合は注意が必要です↓

 

 

 

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縁金具について

 

古書からの引用で、縁金具は鉄か銅が良いと書かれています。

 

ただ、素材よりもっと大切なのは新品である事でしょうか。

 

 

↑このように柄木が見えるようだと木に直接負荷がかかり変形しやすい。

 

刀身の茎の幅よりも縁金具の茎穴の幅の方が大きい場合、斬撃の衝撃がすべて柄の木材の部分にかかります。そうなると柄木の変形が速くなり、鍔のぐらつき・鍔鳴りの原因にもなります。

 

新物の縁金具を茎の形状に合わせて削っていくのが正しいわけです。もちろん古い物でも未使用品であったり茎よりも金具の茎穴が小さい状態であればそこから削れば良いわけですから大丈夫だと思います。

 

 

基本的に縁金具の大きさは刀身の元幅に合わせる必要があります。

 

理想は元幅プラス1cm、最低でも7mmはないと柄の作成が難しいし実用強度がなくなるようです。

 

鞘の太さとの兼ね合いもあるため、見た目も不格好になります。

 

 

 

 

 

 

縁金具のサイズによって柄の太さが変わります。

 

刀の元幅が広く縁金具が大きければ当然柄の太さは太くなる。

 

つまり刀身の元幅や縁金具のサイズは手の大きさに合わせるべきだという事になります。

 

ただし、柄材を細くしたりする事で「ある程度」そこは調節可能です。

 

言うまでもありませんが、木を細くすれば強度は落ちるので「ある程度」です。

 

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柄の太さ

 

 

↑どちらも41mmの縁金具で頭金具も同じものですが柄の太さが結構異なります。木の削り方である程度までは柄の太さは調整可能。手が小さい場合は細めにした方が良いかもしれませんが、基本的に柄が太い方がテコの原理で力が入りやすいです。茎が短い刀だと柄木を細くすると柄折れしやすくなりそうです。

 

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ハバキ

 

銅一重ハバキが基本です。二重ハバキは全てこわれていた、というような事を成瀬は書いています。

 

銀はどうか。銀の価格が安くなって銀ハバキが一般化したのは戦後の事なので実用性はよくわかりません。シルバー925や950であれば強度的にも大丈夫な気もするのですが、どうでしょうか。

 

過去に助光刀匠が、銀ハバキの刀で試斬を繰り返すと切羽とハバキが接する部分が微細に変形していって固定が不安定になり、柄木の変形を速めて鍔鳴りしやすくなるのでハバキは銅の方が良い、、、というような事を書かれていたと思います。ただし、銅でも変形はするので程度の差ということです。

 

とりあえず銅一重ハバキが基本です。

 

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鍔について。

 

鍔は表面が平滑なもの。軍刀鍔は太刀風の透かし彫りが皮膚を傷つけるので良くないと書かれています。

 

重い刀には重い鍔を、軽い刀には軽い鍔を、というのが基本と聞きました。

 

 

 

個人的には、タクティカルグローブのような手袋を装着すれば透かし彫の鍔でも支障ないように思います。ミリタリー的な視点では素手で武器を扱うよりその方が正しいと思うのですがどうでしょうか。

 

 

 

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以上です。

 

 

刀身と異なり柄は木材なので劣化します。古い物は使えません。

 

虫食いで予想以上にスカスカになっている場合もあるそうです。

 

他にも、売られている古い刀はハバキや柄が合わせの別物であったり、摸造刀の柄を合わせてつけてあったりする事も珍しくないそうです。成瀬が多く書いているように軍刀の柄などは新作の時点で欠陥だらけなわけですから、全く安心して使えません。

 

 

「使わなくても、使える刀が欲しい」と思った場合、まず柄を新作する所からはじめなければならないかもしれません。

 

もちろん、はじめから武道用として売られている刀はそんな必要はないかもしれませんが。

 

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