私はこれまで3度刀を購入したことがありますが、いずれも直刃です。
直刃が好きなのと、安かったのと、なにより偶然縁があっただけなのですが、乱刃の刀を手に取った事がありません。
乱刃の刀は刃文が裏と表で揃っているものと、揃っていないものがあるようです。
なんとなく、刃文が裏と表で揃っている方が手間がかかっていて優れているものだと思っていたのですが決してそうではないようです。
↑水心子正秀が書き残しているのですが、刃文が表と裏で同じというのは刀が折れる原因になるとの事です。
表側が焼き幅が広い箇所であれば、裏側は焼き幅を狭くしないと折れてしまう。古刀はそのようになっている。直刃でも表と裏で焼き刃に浅深の差がある。
という意味の事が書かれています。
単純に物理的な問題なので正しいはずです。
昭和初期の軍刀の研究で、乱刃の方が直刃より大きな刃こぼれができにくい事が解明されたりもしています。古刀の刃文が表と裏で揃っていない事も意味があってのものなのでしょう。
ただ、私は乱刃の刀を手に取って一つも見た事もありませんし、裏表の刃文を揃えたものと違うものがどの程度の比率で存在するのかも知らないのですが。
裏と表で刃文が揃っていない刀を「片出来なり」と嫌うは大いなる誤りなり~愚かなる事と言うべし。
と水心子正秀が書き残しているくらいに、江戸時代の半ば頃にはもう「刃文の裏表が揃っていないからきっと安物だな」というような、私と同じような感覚が広まっていたのかもしれませんね。
じゃあ表裏が揃っている乱刃の刀が全部ダメなのかというと、たぶんそうでもないのだとも思うのです。そういう刀もたくさんありそうですし、ダメではない刀もあるのでしょう。何でも素人の浅い知識で判断してはいけないのだと思います。
たくさん勉強してわかったつもりになった素人が、一番みっともないと思う今日この頃です。
・・・・・
以下、水心子正秀の原文
【古刀は全て焼刃にその意を用いし事、実に感ずるに余りあり。例えば直刃の剣なりとも、表裏に浅深あり。乱刃なればその意専らにして、ことごとく乱れ足表裏喰い違うなり。闘いを交え堅甲に当たる時は、刃深く冴えある太刀は折れることあり。故に表に深く乱れ込めば、裏は足置き地鉄となりて、刃紋に表裏大小浅深あって、地刃を交え焼くゆえ、この持合を持って折れさせじの心得なり。その意味をしらぬひとは片出来なりとて、嫌うは大いなる誤りなり。古人の心を用いしことを知らざるは、愚かなる事なりと言うべし。】