〜オスカー・フリートの芸術:Disc 9,10〜
[Disc 9]
「オスカー・フリート指揮/ソ連国立管弦楽団」
今回収録されているベルリオーズの「幻想交響曲」に関しては以前当ブログで取り上げたことのある録音と同じため、音質の違いが楽しめる演奏の一つでもある。しかし、個人的に気になっているのはそちらではなく、Disc 10のブラームスの交響曲第1番。アコースティック録音の歴史的録音としての価値が大いにある録音となっているので、このBOXを購入した際収録されていることが個人的に嬉しかった録音でもある。
[Disc 9]
・ベルリオーズ:幻想交響曲
録音:1937年
以前「KK-Ushi」でも取り上げた録音である。ラジオ放送との記載があるが、聴いている感覚として演奏を明確に聴き込むことができる良質な音質である。想像していたよりも割とオーケストラの演奏を聴き分けることができるようになっていたのでこれには驚かされた。激しすぎるわけではないがテンポの緩急が明確になっており、楽章によっては揺らぎがあったりするものの崩れるほどではないため違和感はそこまでない。現代における録音技術も素晴らしい仕上がりであることは間違いないが、この1937年録音も比較的に良い録音である。鐘の音も狂気的で、特に第5楽章に関してはどこか恐怖を感じることのような音色と響きをしているためさながらホラー映画かのようである。まさにワルプルギスの夜というべきだろうか。
・モーツァルト:交響曲第40番
録音:1937年
若干音がこもり気味ではあるが、比較的に聴きやすい演奏となっているモーツァルトの交響曲第40番。旧ソ連時代のオーケストラながらその重厚的で分厚いスケールを奏でることができる演奏となっており、まとまりのあるサウンドが尖りきった演奏ではなくなっていることもあって非常に聴きやすい。個人的に現代における高音質盤で聴くモーツァルトよりもこういった時代で聴くモーツァルト作品の録音の方が好みな部分はあるので、大分聴きやすかった。
[Disc 10]
・ブラームス:交響曲第1番
録音:1923or1924年
ピッチの不安定さやアコースティック録音ということもあって、音質の差は出てくるかもしれないが歴史的録音という観点から考えた時の重要性は非常に大きいものと考えて良い。他のレーベルからもオスカー・フリートによるブラームスの交響曲第1番は発売されているのだろうが、スクリベンダム盤は比較的に聴きやすい印象があった。オーケストラが奏でる輪郭のハッキリとしたサウンドやスリリングさからなるテンポの緩急、やや骨太にも思えるサウンド作りなど聴いていて興味がそそられる演奏だったことは間違いない。
・リスト:ハンガリー狂詩曲第2番
録音:1923年
比較的に年代の古い録音ということもあってどこか狂気的な音となって聴こえなくもないハンガリー狂詩曲第2番。それでもテンポの緩急が明確になっていることもあってエネルギッシュかつ推進力溢れる演奏を聴くことができるようになっているのは間違いない。特に木管楽器と弦楽器の一体感ある演奏からなる加速した演奏は聴きどころの一つであるといえる。
・ウェーバー:「舞踏への招待」(ベルリオーズ編)
録音:1923年
音の輪郭は確かに捉えづらいかもしれない。しかし、この年代の古さからなる弦楽器の音色には独特なものを感じる。優美さの奥にある歴史を物語るような凄みに触れたような感覚を味わえる「舞踏への招待」である。オーケストラが奏でるサウンドからも一体感の強い演奏を聴くことができるようになっている点も含めて聴きやすい演奏であったことは間違いない。
・グノー:「ファウスト」〜ワルツ
録音:1924年
先ほどのウェーバーの「舞踏への招待」を聴いた後に収録されているということもあって、どこか懐かしさも含めて楽しむことができた印象がある。木管楽器と弦楽器の一体感も素晴らしく、テンポの緩急からなるサウンドも曲にぴたりと当てはまるものを感じた。
・リスト:交響詩「マゼッパ」
録音:1925年
テンポの緩急を感じることのできるどこか混沌なサウンドを演奏となっているリストの「マゼッパ」。金管楽器の音圧が非常に素晴らしく、弦楽器群による統一されたスケールも聴きごたえがある。オーケストラ全体が奏でるサウンドには一貫性があり、最初から最後まで統一された凄みも味わうことができるようになっているので、歴史的録音の中でも楽しめる演奏となっているのではないだろうか?Disc 10の最後を締めくくるにふさわしい録音だった。