デニス・ブレインは若くしてこの世を去った20世紀を代表するホルン奏者である。以前ペーター・ダムのリヒャルト・シュトラウスホルン協奏曲第1番、第2番他と一緒に収録されていたプーランクの「ホルンとピアノのためのエレジー」はブレインを追悼して作曲された。譜面台に車の雑誌があるほどの車好きだったブレインだが、アレクサンダー社のトライアンフTR2に乗っている時に運転を誤り樹木にぶつかり即死してしまった。トライアンフTR2を車好きの友人に聞いたところ、クラシックカーであることを教えてもらった。
・モーツァルト:ホルン協奏曲第1番
録音:1953年11月12〜13日
モーツァルトのホルン協奏曲の中でも一番有名な作品であり、私個人としても好きなホルン協奏曲である。1953年という時代を感じさせることのない美しい音質となっている。2011年リマスターが施されたSACDハイブリッド盤となっており、Apple Music Classicalで別レーベルの音源を直前に聴いているが圧倒的に違う美しいホルンの音色となっていたのでこれには大分驚かされた。2楽章のみ収録となっているが、その完成された演奏からなる音楽の前では全ての人を魅了する素晴らしい仕上がりとなっている。
・ホルン協奏曲第2番
録音:1953年11月12〜13日
軽快かつ重々しさを感じることない真っさらな透明度の高いブレインのホルン。幅広い音域や美しい旋律を奏でている中でも全て均一の美しい音色と響きを聴くことができる。目から鱗が出るというのはまさにこのことのようにも思える音で友人が「この録音を知らずしてホルン奏者を語ることはできない」と言っていた言葉の明確さが浮かび上がったと言えるだろう。聴き終わった今でもなお改めて聴こうと思ってしまう。カラヤン率いるフィルハーモニア管とのバランスの良い対話からなる演奏も見どころである。
・ホルン協奏曲第3番
録音:1953年11月12〜13日
濃厚かつ聴いた者に強く頭の中に残る美しいホルンの音色が何回聴いてもたまらなく良いブレインのホルン。カラヤン&フィルハーモニア管の音色もブレインのホルンに合わせるかのように研ぎ澄まされた感覚からなる非常に美しい音色が功を奏している。細部までこだわり抜かれたダイナミクス変化や細かい音色の変化が絶妙であり、第3楽章は特に聴いていて面白い上に鳥肌が立ってしまうような圧倒的な演奏である。
・ホルン協奏曲第4番
録音:1953年11月12〜13日
今こうしてモーツァルトのホルン協奏曲集を聴いているのもここのところ会うたびにホルン協奏曲第4番の第3楽章を歌うためである。それ抜きにしてもこの曲は非常に素晴らしいのだが、ブレインとカラヤン&フィルハーモニア管が演奏しているのだからより一層段階を踏んで聴きごたえのある演奏としてくれる。研ぎ澄まされた弦楽器群からなる透明度の高い音色が非常に素晴らしく、古楽器や室内楽編成とは違うコンパクトさがこの演奏にはある。ただコンパクトに収められているのではないというのもポイントなのは忘れないでおきたいところだ。
今回はブレインによる代表的な録音であるカラヤン&フィルハーモニア管とのモーツァルトホルン協奏曲集を取り上げたが、これ以外にも数こそ多くないが他の作品もいくつかブレインは録音を残している。いずれそれらに関しても聴いてみたいと思うので、BOXがあれば購入して聴いてみたいところである。