ケルテスとウィーン・フィルによるモーツァルトの「レクイエム」とロンドン響との「フリーメーソン音楽集」が1枚のCDになった。しかもそれがSACDハイブリッド盤となり、2023年最新マスタリングが施されているのだから誰もが注目すべき代物となっていることに違いない。
・モーツァルト:レクイエム
録音:1965年10月8〜11日
当時まだ30代だったケルテスがウィーン・フィルと共に演奏したモーツァルトの「レクイエム」である。ダイナミック・レンジの幅広さが増したことによる壮大なるスケール感もそうだが、神秘的かつ神々しく美しい演奏を今回余すことなく堪能することができる。近年演奏される古楽器や室内楽編成による演奏とは違う豊かな音色からなる美しさあふれる響きは聴いていて非常に素晴らしい演奏である。歌手や合唱とのバランスも絶妙に良いため、透き通るような響きもそうだが明確かつ的確なダイナミクス変化が功を奏している「レクイエム」となっているのは間違いないだろう。
・カンタータ「フリーメーソンの喜び」
録音:1968年5月18日〜11月13日
テノールであるヴェルナー・クレンと共にロンドン響が演奏を行う「フリーメーソンの喜び」。明るさのある軽快な演奏と伸びやかな歌声を聴くことができるようになっており、ロンドン響の力強さを感じ取ることのできる芯のとらえたサウンドも功を奏する形となっている。何より弦楽器と木管楽器の演奏がテノールとぴたりと当てはまる瞬間を繰り返しみることができたのが非常に大きいと言えるだろう。
・フリーメーソンのための葬送音楽
録音:1968年5月18日〜11月13日
厳格な葬送音楽が始まるが、悲観的な木管楽器の音色に対して重厚的で分厚い音圧を繰り出してくる金管楽器には思わず驚かされた。暗い音楽とも印象がついてしまうかもしれないが、どっぷりと暗いイメージが演奏から感じられるわけではない。暗さの先に一筋の光をみることのできるような演奏となっているようにも聴こえなくはなかった。
・フリーメーソンのための小カンタータ「高らかに僕らの喜びを告げよ」
録音:1968年5月18日〜11月13日
ダイナミック・レンジの幅広さが増していることによる空間的な美しさが極まった演奏となっており、聴いているだけで自分自身がその空間にいるかのような心安らぐ音色と響きをたっぷりと味わうことができた。ウィーン・フィルとの「レクイエム」とはまた違う濃密かつ荘厳的なスケールを味わうには充分な演奏だったと言えるだろう。
ケルテスによるモーツァルト録音、以前タワーレコードから発売されたSACDハイブリッド盤を思い出すような素晴らしい演奏だったことは間違いない。まだ同時発売されたケルテスのSACDハイブリッド盤として、コダーイ作品を取り上げていないのでこちらも忘れないうちに取り上げたいところである。