第1858回「東京藝大ウィンドによる吹奏楽第6弾、P.グレイアム&P.スパーク」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日はついに、満を持して東京藝大ウィンドオーケストラの「P.グレイアム&P.スパーク」を取り上げていきます。6枚目のアルバムはこれまでの藝大WO(東京藝大ウィンドオーケストラ)とは違う凄みを確かに感じ取ることができます。指揮は大井剛史さんに変わりましたが、強いこだわりを演奏から聴くことができるようになっています。





「大井剛史指揮/東京藝大ウィンドオーケストラ」

グレイアム作曲:
サモン・ザ・ドラゴン

ハリソンの夢

巨人の肩にのって


スパーク作曲:
ドラゴンの年(2017年版)

ダンス・ムーブメント

陽はまた昇る



 吹奏楽で大井さんの存在は今大きく注目されている。それは東京佼成ウインドオーケストラ常任指揮者に就任したことも大きいな影響の一つと考えて良いだろう。コンパクトながらにバランスの取れた音作りをするため、吹奏楽のサウンドとしてぴたりと当てはまるものがあるのは間違いない。そういう意味では今回取り上げるピーター・グレイアムとフィリップ・スパークの作品は難曲かつリズムが独特な作品が多いので、相性としても良いのではないだろうか。


・グレイアム:サモン・ザ・ドラゴン

録音:2023年12月25〜27日

 トランペットとトロンボーンがこの曲における核を担う。元々はブラスバンド曲であり、後に吹奏楽版が作られた。ジョン・ウィリアムズを意識して作曲されており、短いファンファーレを演奏から聴くことができる。まさに演奏会の始まりにふさわしい作品と言っても過言はないだろう。トランペットの音色がキツさもなく華麗に、美しさと研ぎ澄まされた感覚を充実したサウンドから味わうことができるようになっている。この後に収録されている2曲と比べても難易度はそこまで高くないので、演奏される頻度が高いのも頷ける。


・グレイアム:ハリソンの夢

録音:2023年12月25〜27日

 アメリカ空軍ワシントン軍楽隊の委嘱で作曲され、2002年3月のABA総会にてABA-オストワルド作曲賞に選ばれた。初演は2002年3月8日に同バンドが行っており、その後吹奏楽版が作られた。イギリスの時計技術者だったジョン・ハリソンの精密機械に関する夢となっており、「A,B,A」のシンプルな構成ではあるが「A」での高速なテンポと繰り返される変拍子と不規則なリズムが奏でられる。「B」の中間部では航海にて行方不明になった人々への音楽がオーボエによって奏でられ、再び「A」に戻る。演奏として、テンポ設定や全体におけるアンサンブル、変拍子やリズムなどが正確に細かく演奏されているのがよくわかる。過去にこのような演奏は聴いたことがない。まさに度肝を抜かされた演奏といえる仕上がりとなっておりコンパクトではあるが、それだからこそこの曲の個性を見失うことなく演奏されているともいえるだろう。大井さんのこだわりを強く感じた演奏と言っても過言ではない。


・グレイアム:巨人の肩にのって

録音:2023年12月25〜27日

 曲名は、アイザック・ニュートンがロバート・フックに宛てた手紙に書かれている「もし私が遠くを見ていたとするなら、それは巨人たちの肩の上にあったからだ。」という一節からとられている。今回の「巨人」は、シカゴ交響楽団のブラス・セクション、マイルス・デイビス、トミー・ドーシー、ハーバート・L・クラーク、アーサー・プライアー、シモーネ・マンティア達のことを指している。初演は2009年5月2日に開催された「ヨーロピアン・ブラスバンド選手権」の選手権部門でロバート・チャイルズとコーリー・バンドによって演奏された。第1楽章「ファンファーレ」、第2楽章「エレジー」、第3楽章「ファンタジーブリランテ」の全3楽章からなる。第1楽章ではブルックナーの交響曲第8番より第4楽章冒頭の金管楽器群によるファンファーレが演奏される。スコアを見てみると木管楽器や打楽器に関しては全くと言っても良いくらいに別のリズムが演奏されている。「ハリソンの夢」を聴いた後にこの曲を聴くと相当細かく細部まで細かくこだわり抜かれた演奏に仕上がっているように感じる。第2楽章ではジャズの要素も多少加わり、金管楽器のパワーだけではない美しさを再認識できる儚い音色と響きを味わえる。そして第3楽章ではソロをはじめとして、全体としても寸分の狂いを感じさせることのないエネルギッシュなテンポの緩急を味わえるようになっているので、ラストは圧巻と言えるだろう。


・スパーク:ドラゴンの年(2017年版)

録音:2023年12月25〜27日

 ウェールズのブラスバンドであるコーリー・バンド創立100周年記念委嘱作品として、ウェールズ芸術カウンシルの基金を得て作曲された。初演は1984年6月2日に同バンドの100周年記念演奏会にてH・アーサー・ケニー少佐の指揮によって演奏されている。その後吹奏楽版が作られており、その都度改訂版が誕生している。「トッカータ」、「間奏曲」、「終曲」の3曲からなる作品。冒頭より金管楽器とスネアドラムによる強烈な16分音符が奏でられ、複雑なリズムが駆使される。今回の演奏は正確かつ細かく細部までこだわり抜かれた演奏ということもあって、テンポの緩急からなる変化によって見事に演奏され分けられている。圧倒的なキレ味と残響すら感じさせることのないサウンドを体感するには充分な演奏である。


・スパーク:ダンス・ムーブメント

録音:2023年12月25〜27日

 アメリカ空軍バンドの委嘱により作曲され、1996年2月に初演された。1997年には「サドラー国際作曲賞」を受賞している。全4楽章からなる作品で、第2楽章は木管楽器のみ、第3楽章は金管楽器のみで演奏される。全体として基本重々しい感覚はなく、軽やかでキレ味の良さが光っている。演奏からはバランスの良さが明確に聴き取ることができるようになっており、各楽章ごとにテンポの緩急を感じながら演奏されている。また、スパークらしい独特なリズムが功を奏する形となっており、変拍子となってもそれが余すことなく発揮されているというのが多くの人々がこの曲に魅力を感じるポイントなのかもしれない。


・スパーク:陽はまた昇る

録音:2023年12月25〜27日

 東日本大震災の復興支援のために自身のブラスバンド曲である「カンティレーナ」を吹奏楽版に改編し、曲名も「陽はまた昇る」とした。思い出したが、東日本大震災翌年にマーチングで私はこの曲を演奏演奏している。当時高校1年生だった。短い作品ではあるが、その美しさ溢れるメロディと響きからは感動という言葉が真っ先に出てくる素晴らしい名曲となっていることには変わりない。当盤で唯一充実した幅広さからなる濃厚な響きを味わうことができる演奏となっている。木管楽器を筆頭として美しい音色と響きが奏でられ、それが全体へと反映されていく。聴き手に対して安らぎを与えてくれる素晴らしい演奏であることには変わりなく、スパーク作品の中でも人気曲で多くの楽団が取り上げる理由もわかるはずだ。


 前回の5枚目のアルバムから年月が経っているが、藝大WOのサウンドをこうしてまた聴くことができて非常に嬉しく思っている。今後もこのシリーズに関しては続いて欲しいし、より多くの作曲家作品を藝大WOによる演奏で聴いてみたい。今後もCDが発売されるのか気になるところである。