第1852回「東京藝大ウィンドによる吹奏楽第1弾、A.リード&C.T.スミス」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃4月25日に「ブレーン」より満を持して発売された東京藝大ウィンドオーケストラ6枚目のアルバム「P.グレイアム&P.スパーク」。今回からそれを記念して以前まとめて取り上げた藝大WO(東京藝大ウィンドオーケストラ)のCDを1枚ずつ取り上げていきたいと思います。1日目となる本日は、記念すべき1枚目のアルバムとなった「A.リード&C.T.スミス」を取り上げていきます。吹奏楽好き必見の名盤となっています。


「山本正治指揮/東京藝大ウィンドオーケストラ」

A.リード作曲:
序曲「春の猟犬」

アーデンの森のロザリンド

エルサレム讃歌

ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲、A.リード編曲:
主よ、人の望みの喜びよ


C.T.スミス作曲:
華麗なる舞曲

ルイ・ブルジョアの讃美歌による変奏曲

フェスティヴァル・ヴァリエーション



 吹奏楽のCDは今日において1年間にそこまで多くの種類が発売されるわけではない。そう考えると、この藝大WOシリーズが2015年という約10年前に発売されたということが信じられないくらいである。4月に発売された6枚目のアルバムも気になるところだが、まずはアルフレッド・リードとクロード・トーマス・スミスの作品が収録された第1弾を改めて振り返りたいと思う。


・リード:序曲「春の猟犬」

録音:2015年3月28〜30日

 軽快な始まりで、構成もシンプルな序曲となっている。リードの作品の中でも頻繁に演奏される定番曲の一つだ。私も中学生の時に演奏したことがある。ジョン・L・フォースター・セカンダリースクール・コンサートバンドと同団の指揮者であるジェラルド・A・N・ブラウンから委嘱され、献呈された。1980年5月8日に作曲者自身によって世界初演されている。今回の演奏では、コンパクトで全体としても統一された寸分の狂いのないような演奏となっている。個人的にはそれがこの曲にぴたりとあてはまる解釈と言っても良いくらいのアプローチとなっており、自然的な美しさもそうだがくもりのない音色と響きによって演奏がされているため誰が聴いても親しみを持つことのできる「春の猟犬」に仕上がっている。


・リード:アーデンの森のロザリンド

録音:2015年3月28〜30日

 曲は、シェイクスピアの喜劇「お気に召すまま」の舞台となっているイギリス中部の森で主人公ロザリンドが騎士のオーランドーとお互いに一目惚れし結ばれるストーリーとなっている。ロザリンドが1人でアーデンの森を歩く情景と愛の物語を描いている。演奏ではその美しい調和的な世界観を余すことなく体感できるものとなっており、特に木管楽器の音色と響きが抜群に美しく奏でられるようになっている。演奏時間もさほど長くないため、短い時間で聴くことができるのも良いポイントと言えるだろうか。


・リード:エルサレム讃歌

録音:2015年3月28〜30日

 「アルメニアの復活祭の賛歌による変奏曲」というサブタイトルが付いている。曲の構成は、序奏、5つの変奏曲、フィナーレからなる。7世紀ごろのアルメニアの古い聖歌を主題とした変奏曲となっており、同じくリードの代表作の一つとして知られる名曲である。現代における吹奏楽曲と比べても技量を求める作品というよりも古き良き時代における厳格な吹奏楽曲という印象が強く、各楽器ごとに細部まで細かくアプローチを追求したような演奏というようにも思えなくはないかもしれない。各変奏ごとにテンポの緩急やダイナミクス変化も見事なまでに変化させているため、中々聴きごたえのある世界観となっているのは間違いない。


・バッハ作曲、リード編曲:主よ、人の望みの喜びよ

録音:2015年3月28〜30日

 バッハの代表的な曲の一つである。教会カンタータ「心と口と行いと生活で」の終曲のコラール「イエスは変わらざるわが喜び」。幻想的で美しさに満ちた木管楽器による演奏が非常に美しく、吹奏楽で演奏される編曲をリードが行っている。当盤におけるリードの締めくくりがこの曲であるというのが意外にも思えるかもしれないが、この後にC.T.スミスの曲が始まると考えると一種の休憩とも言えるのかもしれない。


・C.T.スミス:華麗なる舞曲

録音:2015年3月28〜30日

 今回収録されている3曲の中で一番最後に作曲された「華麗なる舞曲」。アメリカの吹奏楽において高い技術力を誇るアメリカ空軍軍楽隊に挑戦する形で、アメリカ空軍軍楽隊と当時の隊長であるジェイムズ・M・バンクヘッド中佐からの委嘱を受けて作曲された。スミスの3曲の中で最も難しいと言われているが、吹奏楽コンクールをはじめとして中学生や高校生、一般団体やプロなど幅広い層に演奏されている。今回の演奏は比較的にコンパクトな演奏であるが、テンポの緩急に左右されることのないブレのない演奏となっている。それも高度な技術力を持ちあわせた演奏だからそのものである。なおかつ限界を感じさせることないサウンドの変化や圧倒的なソロの演奏には、聴いた誰もがシビれてしまうに違いない。


・C.T.スミス:ルイ・ブルジョアの讃美歌の変奏曲

録音:2015年3月28〜30日

 アメリカ海兵隊バンドと隊長ジョン・ブージョワーの委嘱によって1984年に作曲された。冒頭よりトランペットに高度な技術を要求する名曲である。私自身この曲のスコアは持っていないが、パート譜のフルセットはディスクユニオンでなぜか発売されていたので購入したため手元にある。値段は確か5000円しなかった。冷静になって楽譜を見ながら聴いてみると、確かにトランペットに対して高い技術を要求しているものの、それは冒頭くらいで後はスタミナが持つかどうか。というのがトランペットを演奏する私自身感じた感覚である。そして今回の藝大WOの演奏は「華麗なる舞曲」同様にコンパクトで細部にわたって細かく演奏されている高い技術力とアンサンブル力を聴くことができる。そして、全体の音色は非常に神秘的で美しく、パワーよりもまとまりが重視されているので後味はスッキリとしていて聴きやすい。


・C.T.スミス:フェスティヴァル・ヴァリエーション

録音:2015年3月28〜30日

 アメリカ空軍ワシントンバンドと当時の隊長アーナルド・D・ゲイブリエル大佐の委嘱によって作曲され、同バンドにて初演されている。スミス自身ホルン奏者であったということと、大学時代のライバルでもあった当時のワシントンバンド首席ホルン奏者であるジョニー・ウッディー最上級曹長に対する仕返し的な意味もあってホルンは特に難しくされている。また、カデンツァにチューバとユーフォニアムがあるのは、チューバ奏者のロバート・ダニエル曹長、ユーフォニアム奏者のブライアン・ボーマン最上級曹長とスミスが親しかったこともあり、カデンツァが書かれている。今回取り上げているスミスの作品の中でも特に演奏される頻度があり、知名度も高い。今回の演奏は冒頭のホルンによるファンファーレこそコンパクトではあるが、演奏が進んでいくとたっぷりと演奏している箇所が非常に多く見受けられる。そのため、非常に理想的な演奏と言っても過言ではないほどのスケールやダイナミクス変化、アンサンブルなどを楽しむことができるようになっている。私自身この曲は2回演奏したことがあるため、それなりに思い入れがある。故に何種類も同曲録音を集めては聴き比べているが、この藝大WOの演奏は決定的な名盤と言えるだろう。


 よく考えてみるとリードは20世紀後半の吹奏楽において盛んに演奏され、スミス作品は現在までに多くの楽団が演奏してきている。現代の難易度が高い吹奏楽曲の到来はスミス以降流れが出来上がったと言っても過言ではないだろうが、当盤の組み合わせは非常に面白いものだったことは間違いない。また、リードに関して言えば「アルメニアン・ダンス(全曲)」や「エル・カミーノ・レアル」などまだ収録されていない曲でも名曲がいくつかあるので、今後藝大WOでぜひ取り上げてもらいたいところである。明日は2枚目のアルバムとなった「P.スパーク&J.ヴァンデルロースト」を取り上げる予定だ。



https://tower.jp/item/3883642/A-リード-&-C-T-スミス