ルドルフ・ゼルキンの最晩年にアバド&ロンドン交響楽団、ヨーロッパ室内管弦楽団とそれぞれ録音をしたモーツァルトのピアノ協奏曲集。モーツァルトやベートーヴェン、シューベルトやブラームスなどの演奏が特に有名であり、今回のピアノ協奏曲集と同時期には小澤征爾とベートーヴェンのピアノ協奏曲録音を残していたりもする。
・モーツァルト:ピアノ協奏曲第8番
録音:1982年3月
ややコンパクトにも思えるダイナミクス変化やアタックなどを演奏から聴き取ることができるようになっているが、近年演奏されるような室内楽編成や古楽器演奏によるモーツァルト演奏とは違うアプローチが施されている。激しく変わるテンポの緩急や強靭な筋肉質からなる演奏ではなく、柔らかすぎるわけではないが優しさに包まれたかのようなゼルキンのピアノ演奏とバランスの取れたアバド率いるロンドン響との演奏が身軽に聴こえて没入することができる楽しいモーツァルトのピアノ協奏曲演奏を聴くことができるようになっている。
・ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」
録音:1981年11月
鮮明かつ透明度の高い音色と響きからなるスマートな演奏が展開されているピアノ協奏曲第9番。ゼルキンのピアノも、アバド率いるロンドン響もしつこさを感じることのない後味すっきりときたコンパクト寄りのアプローチとなっている。楽章感におけるテンポの緩急も明確になっており、バランスの取れた美しい演奏を楽しむことができる。弦楽器の音色がやや古風な音色とも言えるような作りになっているため、その美しさを聴くだけで充分とも言えるだろうか。
・ピアノ協奏曲第12番
録音:1981年11月
軽やかで親しみやすいキツさのないピアノタッチが絶妙な美しさを作り出している。それによってテンポの緩急に関しても優雅で上品さをより体感できるようになっているのは間違いない。弦楽器群に関してもそこまで分厚さが演奏から伝わってくるような演奏ではなく、やや室内楽寄りにしているようにも聴こえなくはない。しかし、木管楽器と弦楽器のバランスの良さがあることによってもゼルキンによるピアノ演奏のバランスが功を奏する形となっているのは間違いない。透き通るかのように明瞭な音色と響きはこの曲をより聴きやすい世界へと誘ってくれる感覚を味わえるだろう。
・ピアノ協奏曲第15番
録音:1985年2月
より鮮明であり、透き通るかのような美しさの溢れる演奏となっているピアノ協奏曲第15番。明確なピアノタッチによって木管楽器や弦楽器の音色がより一層明瞭感のある世界観を展開している。細部にわたって細かく作り込まれているのがよくわかる演奏となっており、ややコンパクトではあるが多少の響きが含まれた状態での演奏となっているというのも素晴らしいアプローチであるといえる。
・ピアノ協奏曲第16番
録音:1988年5月
今回の協奏曲集で唯一ヨーロッパ室内管弦楽団との演奏となっている。しかし、それほど強固であったり筋肉質な演奏とまではいかない。強いて言えば、クレッシェンドした際の盛り上がりは確かに引き締められたオーケストラサウンドを聴くことができるようになっているのは確かである。テンポの緩急が明確に分かりやすく作り込まれたことによって、楽章によってその印象を変えるモーツァルト演奏とも言える。時折りゼルキン?によるハミングも聴こえなくはないが、両者にとっても相性としては大分良かった演奏と言っても差し支えないのではないだろうか。
・ピアノ協奏曲第17番
録音:1981年11月
凝縮されたコンパクトなサウンドは、より強固さを求めたり筋肉質な演奏ではないにしても絶妙なスマートさを演奏から感じ取ることができるようになっている。音質が良い点も素晴らしいポイントで、ゼルキンによるピアノと弦楽器、木管楽器による調和的な音色による対話がくもりのない明瞭さを演奏から聴くことができる。特に第3楽章ではテンポの緩急にも優れた軽快さを聴くことができるので、優美さも最後まで忘れることなく楽しむことができると言える。
・ピアノ協奏曲第18番
録音:1986年11月
まとまりのあるピアノタッチではあるが、スピーディでコンパクトなゼルキンのピアノが光る演奏となっている。テンポの緩急が明確になっていることによって非常に聴きやすい演奏で、伸びやかな弦楽器と木管楽器の音色がピアノとの相性も抜群となっていて非常に優れている。
・ピアノ協奏曲第19番
録音:1983年3月
良質なサウンドからなる上品で美しさ溢れるアバド率いるロンドン響の音色と響きもそうだが、ゼルキンによる軽やかなピアノの音色が抜群に良い。特に第3楽章に入った瞬間の空間が広がるような感覚は中々味わえないような美しさと気品に満ち満ちており、充実した時間をたっぷりと楽しむことができることに間違いはない。テンポの緩急も明確に変化しており、それに伴うダイナミクス変化も見事である。
・ピアノ協奏曲第20番
録音:1981年11月
モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも特に有名であり、頻繁に演奏されることの多い名曲である。今回の演奏では、やや固めのサウンドとピアノタッチから輪郭が明確に、はっきりとしたテンポの緩急がよくきいた演奏を聴くことができる。付け加えればしつこさがないと言おうか。溜めもそこまでなく、あっさりとしたスタイルというようにも聴こえなくはない。しかし、それが意外とこの曲の演奏にぴたりと当てはまる感覚を覚えた。
・ピアノ協奏曲第21番
録音:1982年10月
スピーディであると同時に軽やかなピアノによって演奏されているため、オーケストラとのバランスが非常に良い。残響に関してもそこまで感じられないような仕様となっているので多少引き締められた感覚を味わえるのもポイントとなっている。透明度の高い透き通るようなサウンドがなんと言っても美しいため、その個性的な音色からなる演奏を細部まで細かく聴き込むことができるようになっている。
・ピアノ協奏曲第22番
録音:1984年10月
いきいきとした快活的なエネルギーを感じ取ることのできるバランスの取れたピアノ協奏曲を聴くことができる。その際も筋肉質や研ぎ澄まされた感覚を味わうことができるようになっているわけでもなく、非常にシンプルである。濃厚でもなければしつこさ自体もそこまで感じられない演奏と言える。良質な音質からなる明るさと特徴的な音色からなる名演である。
・ピアノ協奏曲第23番
録音:1982年10月
室内楽編成寄りの、コンパクトなサウンドだからこそ実現できるようなやや固さを感じ取ることのできるような輪郭を明確に聴くことができるモーツァルト演奏となっている。そのため、筋肉質とまではいかないがピアノとオーケストラそれぞれの音色は比較的にハッキリとしている印象に近いかもしれない。ダイナミクス変化に関しても効果的にアプローチが展開されているため聴きやすいモーツァルト演奏と言える。
・ピアノ協奏曲第24番
録音:1985年10月
今回のピアノ協奏曲集の中でも個人的に好みであるような演奏の一つだった演奏の一つで、短調による作品ながら自然と聴きやすく、親しみやすいピアノのオーケストラによる一体感のある演奏となっている。押し寄せてくる勢いの良さや軽快さもありつつ、豪快な面もみせる演奏となっているため聴いていて非常に面白い演奏というように解釈することもできる。テンポの緩急からなるダイナミクス変化も功を奏しているので、何回でも聴きたくなるような演奏だったことは間違いない。
・ピアノ協奏曲第25番
録音:1983年3月
他のピアノ協奏曲と比べても多少音の広がりに余裕が出たと言おうか。ややコンパクト寄りな音色は変わることなく安定感からなるゼルキンによるピアノ演奏が展開されている。木管楽器の音色や響きに関してもみずみずしさも加わった状態であり、特にフルートの音色が芯をとらえられたサウンドとなっているようにも聴こえるため、聴いていて非常に心地良く、豊かな演奏だった。細かいダイナミクス変化も各楽章ごとに聴くことができるようになっているため、濃厚なピアノ協奏曲を楽しむことができるだろう。
・ピアノ協奏曲第27番
録音:1982年3月