ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルは1960年に「ドイツ・グラモフォン」でチャイコフスキーの後期三大交響曲を録音を残している。それ以降も交響曲第5番などはライヴ録音も多数収録されているが、今回はムラヴィンスキー晩年の貴重なライヴがSACDハイブリッド盤となって復刻されている。
[Disc 1]
・チャイコフスキー:交響曲第5番
録音:1983年3月19日(ライヴ)
金管楽器による圧倒的な音圧はそのままに、弦楽器群のストレートながらスマートな演奏が展開されている。それをダイレクトに聴くことができるようになっているため、聴き手としては最初から最後まで終始しびれてしまうかのような感覚となる。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることによって、オーケストラ全体における音色や響きの変化をより細部まで細かく聴き込むことができるようになった。第2楽章における美しいホルンソロも若干クセのある演奏となっているように聴こえなくもないが、他の楽章における攻撃的なサウンドと比べるとまだ慈愛に満ちた演奏であることは間違いない。常に音楽が止まることなく流れていくかのようにスムーズであり、聴いていて非常に爆発的なエネルギーをたっぷりと味わうことができる名演であることは間違いない。これを聴いた後無性に「ドイツ・グラモフォン」に録音された同曲録音が聴きたくなったのは言うまでもないだろう。
・グラズノフ:組曲「ライモンダ」
録音:1969年12月28日(ライヴ)
今回唯一のモノラル音源となっている。全3幕からなるバレエ音楽であるが、今回は組曲版となっているため抜粋された曲が演奏されている。モノラル録音ではあるものの、そのパワーとスケールは申し分ない迫力を確かに聴くことができている。ダイナミック・レンジに関しても2023年最新マスタリングが施されたことによって、想像している以上のスケールを味わうことができるようになっている。弦楽器の研ぎ澄まされた音色とキレ味や金管楽器の特徴的なサウンドなど、モノラル音源だからといって侮ることができない名演である。
[Disc 2]
・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
録音:1982年10月17日(ライヴ)
第1楽章こそ音割れがよくわかるくらいの爆発っぷりからなる豪快なダイナミクス変化や強烈なアタックなどが目立つものの、楽章が進んでいくとそのパワーも薄まり意外と冷静な演奏に様変わりする。相変わらずレニングラード・フィルの音が直接的に感じられる演奏となっているが、ダイナミック・レンジの幅広さが増しているのと2023年最新マスタリングが施されている効果が大きな影響をもたらしいているのがよくわかる。そうとしても、金管楽器の特徴的な音色からなる独特なサウンドが聴き手に対してダイレクトに流れ込んでくるあたりムラヴィンスキーとレニングラード・フィルによる演奏らしいものを感じるだろう。
・チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
録音:1983年3月19日(ライヴ)
各部ごとにテンポの緩急が明確に演奏されており、場面によってはこれまでの直接的で冷酷さすら感じたレニングラード・フィルの音色が優美さをもった美しさ溢れるサウンドとなっているように聴こえなくもなかった。そしてなんと言っても金管楽器のロシアらしい特徴的な音色からなるインパクトは、何回聴いてもしびれてしまうかのようなものが感じられる。今回の演奏では特に弦楽器が大きな影響を受けていたことに間違いはなく、その統一されたサウンドからなる変幻自在で柔軟性のある音の変化は誰が聴いても魅了されてしまうものがあると言える。
さて、ムラヴィンスキー生誕120年を記念して復刻されたSACDハイブリッド盤も第2弾まで聴き終えたこととなる。この後の第3弾では、ついにショスタコーヴィチの交響曲に入ることとなる。ムラヴィンスキーによるショスタコーヴィチのライヴ録音は多数存在しているが、その中でも聴きごたえのある仕上がりとなっていることは間違いないだろう。今から聴くのが楽しみで仕方がない。
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