パーヴォとフランクフルト放送響によるブルックナー・チクルスは交響曲第7番から始まった。2008年5月に交響曲第7番が発売されて以降交響曲第9番、第5番、第4番、第6番、第2番、第1番、第3番が発売された後今回の交響曲全集が発売された。その際交響曲第8番、第0番が初出音源として収録された。全集が発売されてから交響曲第8番と第0番が単品で発売された。フランクフルト放送響といえば、2月に取り上げたエリアフ・インバルともブルックナーの交響曲全集を完成させている。今回使用されている楽譜は、ブルックナー全集クリティカル・エディション(国際ブルックナー協会・音楽学出版社/オーストリア国立図書館監修)。ブルックナーの没後125年となった2021年に発売された交響曲全集となっている。
・ブルックナー:交響曲第0番
録音:2017年3月
演奏的なアプローチからしても後期三大交響曲でみられるようなブルックナーと同じアプローチが採用されているようにも聴こえるストイックな演奏で、特にスケルツォ楽章である第3楽章が非常に印象的であると言える。SACDハイブリッド仕様だからこそ音の広がりもそうだが、細かいテンポの緩急からなるダイナミクス変化が明確となっているため、細部にわたって聴きごたえのある演奏を楽しむことができるようになっている。やや筋肉質ではあるが、そのサウンドからなるスケールと伸びやかな演奏には思わず驚かされることは間違いない。
・交響曲第1番
録音:2013年2月6〜8日
テンポの緩急が非常に激しいダイナミックな演奏となっている。これは楽章が進んでいくと特にその傾向にあり、骨太なサウンドからなる圧倒的な演奏は推進力も加わってエネルギッシュな演奏が展開される。常にパワーで押し切る演奏なのか?と問われればそういうわけではなく、「急→緩」になるとしつこさのない芯のある音から透明度の高い美しい演奏を聴くことができるようになっている。その際のアンサンブルに関しては言うことがないくらいに息を呑む美しさがあると言える。
・交響曲第2番
録音:2011年3月30、31日&4月1日
固めの骨太なブルックナーは一貫して貫かれた状態で演奏は続く。テンポの緩急における強打のダイナミクス変化が非常に功を奏しており、スケルツォ楽章は特に筋肉質でカッコよく聴こえる。鬼気迫る感覚はブルックナーというよりもショスタコーヴィチの交響曲並みに攻撃的な音色と響きを生み出しているとも言える。弦楽器群の一体感も凄まじいインパクトとなっており、「緩→急」になった瞬間のダイナミクス変化などたっぷりと味わえる効果的なアプローチとなっている。
・交響曲第3番
録音:2014年3月19〜21日
第3番に関してはそこまで筋肉質で強固な演奏というわけではなく、透き通るように美しい音色と響きが駆使された透明度の高い明瞭なブルックナーとなっている。ダイナミクス変化に関しても細かく演奏されているのもそうだが、テンポの緩急は比較的に鋭いとまではいかないが明確さと研ぎ澄まされた感覚を持ち合わせているのは聴いていてよくわかるとも言える。その点はベースとなる弦楽器群が統一されたサウンドから柔軟性のある変化を行なっているということに繋がるのだろう。
・交響曲第4番「ロマンティック」
録音:2009年9月3〜5日
普段聴き慣れた濃厚さというよりも躍動的でありやや機動力を体感できるような凄みを感じることのできる演奏となっている。それとしてもオーケストラ全体が同時に演奏した際の圧倒的な音響は素晴らしい音圧となっており、まろやかではないとしても濃厚さのある分厚いスケールをたっぷりと味わえる。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこそ味わえるような弦楽器群のまとまりあるサウンドからなる濃厚な音色と響きは、両者による演奏だから味わえるものがあると言えるだろう。
・交響曲第5番
録音:2009年4月2〜3日、5月28〜30日
ブルックナー作品の中でも複雑性がさらにあがった交響曲ではあるが、その長大さもさることながら細部まで細かく突き詰められていることによって非常に濃厚かつ濃密な演奏を聴くことができるようになっている。非常に完成度の高い名演とも言える仕上がりで、爆発的なエネルギーと活発的なテンポの緩急による勢いの良さが凄まじい。金管楽器による圧倒的な音圧も後期三大交響曲における名曲に匹敵する演奏と言えるだろう。最初から最後までその内容の多さに驚かされるため、まるで一本の映画を見ているかのような感覚に陥ることになるだろう。
・交響曲第6番
録音:2010年5月20〜22日
普段聴き慣れた交響曲第6番よりも一音一音の力強さが凄まじい今回の演奏。特に金管楽器によるパワーが段違いであり、テンポの緩急からなるダイナミクス変化に関しても申し分ない演奏となっている。統一された音色と響きが重なることによってこれまでに聴いたことがないような世界観が展開され、分厚く強靭なスケールを聴くことができるようになったとも言える。やや固さの目立つ演奏となっているため、好みが分かれるかもしれないが聴き続けたい名盤であった。
・交響曲第7番
録音:2006年11月22〜24日
今回の交響曲全集はここから始まった。以前当ブログでも取り上げているが、大分前のことなので今回このタイミングで取り上げるのはある意味正解とも言える。第1楽章と第2楽章は比較的にテンポは遅めでたっぷりとした演奏が行われており、第3楽章と第4楽章ではテンポの緩急が激しく変化する推進力や分厚いスケールを堪能することができるような演奏となっている。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることもあって功を奏する形となっており、弦楽器は特に繊細な音色と響きによって演奏され金管楽器は決めどころを逃すことない圧倒的な音圧をきかせている。オーケストラ全体として音色も柔軟に変化しているため、ある意味濃厚な演奏であると言えるだろう。
・交響曲第8番
録音:2012月2月27,28日
比較的にテンポの速い演奏となっており、演奏時間に関してもそれがしっかりと反映されているのがよくわかる。かといって演奏時間が短く感じるのかと問われればそういうわけでもなく、むしろいつもどうりとも言えるかもしれない。テンポの緩急が明確かつ活発でエネルギッシュな演奏となっていることもあり、聴いていて十二分に楽しめる機動力のある演奏であることは間違いない。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこそ豪快さが増しているということであり、その圧倒的な音響と凄まじい金管楽器の音圧と分厚い壮大なるスケールは聴いていて誰もが惚れ惚れしてしまうだろう。
・交響曲第9番
録音:2008年2月27〜29日
ここまでの交響曲第0番〜第8番まではこだわり抜かれたアプローチからなるブルックナー演奏が多かったが、交響曲第9番に関しては比較的にスタンダードかつシンプルなアプローチによる演奏を聴くことができる。後味がスッキリとしていることもあってしつこさを感じることのない演奏となっており、やや筋肉質寄りのテンポの緩急がきいた演奏を最初から最後まで聴くことができる。特にスケルツォ楽章に当たる第2楽章の怒涛の音圧は凄まじいもので、オーケストラ全体が奏でるトゥッティのサウンドに関してはエネルギーをたっぷりと味わえるようになっている。そして第3楽章での透明度の高い音色によって奏でられる壮大なスケールもダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこその演奏と言えるだろう。
パーヴォは現在チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団とブルックナーの後期交響曲録音を第7番、第8番と発売している。おそらくこの流れで第9番が発売されるのだろうが、それはぜひ今回の交響曲全集を聴いた後に聴くとより一層楽しめるのではないかと私は考える。チューリッヒ・トーンハレ管とのブルックナーに関してはまた後日取り上げるとして、当分はパーヴォとフランクフルト放送響によるブルックナーで酔いしれたいと思う。
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