第1822回「オオサカ・シオン創立100周年記念、J.バーンズ交響曲全集」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日ご紹介していくのは、オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラの創立100周年記念として2023年に9月、10月に行われた「バーンズ・チクルス」ライヴを収録したジェイムズ・バーンズ交響曲全集です。元々は2023年10月8日に予約開始された全集で、初回300セットには特典として世界初演となった交響曲第3番のライヴCDが収録されました。その後12月には通常盤が発売され、多くの吹奏楽ファンに衝撃を与えました。今回はそのバーンズ交響曲全集を取り上げていきたいと思います。指揮はポール・ポピエル、演奏はオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラです。



「ポール・ポピエル指揮/オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ」

J.バーンズ作曲:
交響曲第1番 作品35

交響曲第2番 作品44

交響曲第3番 作品89「悲劇的」

交響曲第4番 作品103b「イエローストーン・ポートレイト」

交響曲第5番 作品110「フェニックス」

交響曲第6番 作品130

交響曲第7番 作品135(交響的葬送曲)

交響曲第8番 作品148「シンフォニー・フォー・ヴァンゲン」

交響曲第9番 作品160




 吹奏楽を知っている人にとってJ.バーンズを知らない者はいないと言っても良いくらいに有名な作曲家である。今回の全集にも収録されている交響曲第3番や「アルヴァマー序曲」、「パガニーニの主題による幻想変奏曲」など数多くの名曲を残しており、毎年多くの団体が吹奏楽コンクールや演奏会で盛んに取り上げている。今回は2023年9月、10月に行われた「バーンズ・チクルス」でのライヴ録音を収録した誰もが待ち望んだ名演揃いとなっている演奏を楽しむことができる。

・バーンズ:交響曲第1番
録音:2023年9月16日(ライヴ)
 今回の交響曲全集の中でインパクトが強く、より現代的な要素が色濃く反映されている曲であると感じ取れた交響曲第1番。今回演奏されているのは改訂版である。不規則で機械的なリズムや不協和音の数々が交差する中他の交響曲と比べても多少の複雑さが増しているため、好み分かれる作品とも言えるかもしれない。しかし、構成としては「急→緩→急」のシンプルなものとなっているため、明確さやコンパクトさもあって細かく細部まで作り込まれた感覚を味わうことができるようになっていて面白い作品に仕上がっている。個人的にはあまりコンパクトな演奏は好まないのだが、この交響曲第1番に関してはリズミカルでありテンポの緩急から細かく、ダイナミクス変化も細かく演奏されているのが功を奏することを再認識させてくれた名演と言えるだろうか。第3楽章にあるティンパニの長いソロに関しても吹奏楽曲では滅多にない貴重なソロというようにも思えるし、類を見ない演奏であることは間違いない。

・交響曲第2番
録音:2023年9月16日(ライヴ)
 交響曲第1番と同じく3楽章からなる交響曲ではあるが、難解さの強かった第1番と比べると第2番は幾分か分かりやすい形になっていることがよくわかる。特に第3楽章に関しては映画音楽的な要素が盛り込まれているようにも聴いている感覚として味わえることもあり、コンパクトさというよりはスケールを一貫して聴くことができるようになっている。もちろん第1楽章や第2楽章でも不規則的なリズムなどはあるが、キャラクターが乗っかった上で演奏されているためキャッチャーな音色が加わるため細かさはあるが聴きやすさが優っている。オオサカ・シオンの豊かな音色と響きが演奏に乗せられているため、交響曲演奏にぴたりと当てはまる演奏である。

・交響曲第3番「悲劇的」
録音:2023年10月8日(ライヴ)
 バーンズを代表とする作品であり、今回収録されている交響曲の中で一番有名な曲であることは間違いない。難易度もそこまで高いわけではなく、ベートーヴェン由来の「暗→明」へと向かっていく親しみやすい構成となっている。特に第3楽章、第4楽章は有名である。第3楽章は生後半年で亡くなったバーンズの娘ナタリーへの追悼の意が込められ、「ナタリーがもしも生きていたら」という世界観や別れの言葉がホルンによって美しくもはかなく奏でられる。チャイコフスキーの交響曲第5番に匹敵する美しさでありこの演奏を聴くと感情が込み上げてくる。第4楽章では息子ビリーの誕生が描かれており、ナタリーの葬儀で歌われた賛美歌「神の子羊」が引用されている。演奏では全体としてバランスの良さとまとまったサウンドと奥深い豊かな音色が功を奏しており、吹奏楽というよりはオーケストラに感覚が近いくらいの幅広く取られた親しみやすい音色が素晴らしい。この曲を初演したオオサカ・シオンだからこそこの曲における想いの強さは他に引けを取らないことを今回の演奏で知らしめたと言っても過言ではないだろう。

・交響曲第4番「イエローストーン・ポートレート」
録音:2023年9月24日(ライヴ)
 3楽章からなる交響曲で第1楽章「イエローストーン川を下る」、第2楽章「かもしかのスケルツォ」、第3楽章「インスピレーション・ポイント」となっており、作品103bは吹奏楽版で作品103aはオーケストラ版を意味している。吹奏楽というよりも元々がオーケストラ作品である面が強く、伸びやかで広大なスケールを全楽章共通してたっぷりと味わうことができる。個人的には第1番と並んで好みにも思える世界観で、ダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこそ楽しめる凄みのあるサウンドと美しい響きが功を奏していると感じる。

・交響曲第5番「フェニックス」
録音:2023年9月24日(ライヴ)
 交響曲第3番に並ぶ大作である交響曲第5番「フェニックス」。戦後の疲弊と灰塵と化した街並みとなった日本の現代における繁栄が不死鳥伝説となぞられた。この曲に関しても吹奏楽らしい部分もあるが、オーケストラ寄りのオーケストレーションとなっている印象が非常に強い作品となっており独特なリズムよりも各楽器ごとにおけるまとまりの良さや明確化されたテンポの緩急からなるダイナミクス変化、ダイナミック・レンジの幅広さが素晴らしい。第4楽章におけるフルートの技巧も素晴らしく、「君が代」が引用されていることによって日本人としても親しみやすいのではないだろうか?個人的にはこういう面白さもありだなと感じた作品である。

・交響曲第6番
録音:2023年9月16日(ライヴ)
 こうして考えてみるとバーンズの交響曲は3楽章からなる交響曲が多く作曲されている印象を持ちやすいのかもしれない。今回の構成としては吹奏楽での交響曲という形が明確に作り上げられており、オーケストレーションや各楽器ごとによるアンサンブルなど細かく聴きやすさがある。第2番などで見られたキャッチーでユーモアさもここで再び垣間見える感覚があり、重心がやや低めに作り込まれていることもあって濃厚で安定感を持って聴きやすい演奏である。

・交響的葬送曲(交響曲第7番)
録音:2023年10月2日(ライヴ)
 「南北戦争」がこの曲における重要な世界観となっており、第1楽章:プロローグ(1862年4月、シャイローの戦い)、第2楽章:メアリーズハイツ(1862年12月、フレデリックスパーグの戦い)、第3楽章:ロングストリートの戦い(1863年7月、ゲティスバーグの戦い3日目)、第4楽章:アポティアシス(1865年アポマトックス・コートハウスの戦い)となっている。各楽章の戦いについては今回省略するが、バーンズ作品でこのような曲があるとは思いもしなかった。特に第3楽章におけるショスタコーヴィチの交響曲を思わせるようなスネアドラムとオーケストレーションからなる攻撃的な旋律とサウンドには思わずしびれた。吹奏楽曲で久しぶりに大きな衝撃を受けた曲であると言って良い。圧倒的なまでの打楽器の数、拡大された編成はこの曲だからこそ成せるものであり壮大なるスケールからなる世界観はまさに聴き手を圧倒させるものがあると言える。これはライヴでぜひとも聴きたかった。

・交響曲第8番「シンフォニー・オブ・ヴァンゲン」
録音:2023年10月2日(ライヴ)
 ドイツの町であるヴァンゲン市による委嘱によって作曲された交響曲第8番。ヴァンゲン市1200周年記念を受けての作曲だった。作風もここまでに聴いた交響曲とは違い、奥深く豊かな音色と響きを確かに感じ取ることができる。厳格な長大なる交響曲としての姿を見せてくれる演奏となっているため、ここまでの交響曲作品とはまた違う印象を強く持たせてくれることに間違いはない。細かいリズムというよりもどっしりとした重心の低い演奏からなる重厚的な演奏が功を奏しており、吹奏楽というよりもオーケストラに近い解釈のもと演奏を楽しむことができる。第4楽章のファンファーレでは特に注目して聴きたい。

・交響曲第9番
録音:2023年10月8日(ライヴ)
 バーンズは交響曲第9番を最後の交響曲であると述べ、自身が50年間に及んで作曲、採譜して学んだ全てを集約した作品と書いている。交響曲第3番との構成における類似点は見受けられるが、オーケストレーションの細かい変化やダイナミクス変化などが細部にわたって作り込まれており骨太なオオサカ・シオンの音色と響きが非常に濃厚で聴きやすい。コンパクトにおさまることなくダイナミック・レンジの幅広さがある状態で演奏が進んでいき、個々の楽器における音色も聴きやすい感覚を覚える。

 バーンズの交響曲全曲は今回初めて聴いたが、個性的であり衝撃的に感じた作品はいくつか存在した。考えうる中でも吹奏楽のCDで今回のような全集は非常に少ないため、貴重であることは間違いない。8800円ではあるがその値段に見合った内容を楽しむことができた。ライナーノーツに関しても今回全集とセットで楽しむことができる内容が多く記載されているので、吹奏楽ファンの方にとっては必聴盤となるだろう。

https://tower.jp/item/6248133/Osaka-Shion-Wind-Orchestra-ジェイムズ・バーンズ:-交響曲全集