今注目すべき若手ピアニストであるトリフォノフ。すでに彼はラフマニノフのピアノ協奏曲チクルスを完成させているが、今回は自身の師と共にラフマニノフによる2台ピアノの世界を切り開いた。トリフォノフの師であるババヤンはモスクワ音楽院でミハイル・プレトニョフやヴェラ・ゴルノスタエヴァ、レフ・ナウモフに師事、クリーヴランド国際ピアノコンクール、浜松国際ピアノ・コンクール共に第1位に輝いている。その後多くのオーケストラにソリストとして招かれ素晴らしい演奏を行なっている。今回はそんな2人による素晴らしいラフマニノフ作品の数々を楽しむことができるようになっている。
・ラフマニノフ:交響曲第2番より第3楽章
録音:2023年5月〜7月
あの感動的なオーケストラ演奏が2台ピアノによる演奏によって再現される。これほどに感動的であり至福な時間はないだろう。テンポ設定は原曲よりもより自由性の高いものとなり、細かい緩急からなる溜めやそれに伴うダイナミクス変化などを余すことなく味わうことができる。それがダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこそピアノの音色や響きが伸びやかなものとなり、聴き手を包み込むような存在感のある演奏を楽しむことができるようになっている。
・2台のピアノのための組曲第2番
録音:2023年5月〜7月
各曲ごとによってその情景や感情を揺さぶるような凄みを感じ取ることのできる演奏となっており、テンポの緩急が非常に明確に演奏されている。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることもあって2台のピアノによって奏でられる圧倒的な音響もそうだが「緩→急」や「急→緩」における曲間の変化が美しく変化していきながら、後味もしつこさがなくスッキリとしているのも聴いていて聴きやすく受け入れやすいというのも特徴の一つである。
・2台のピアノのための組曲第1番「幻想的絵画」
録音:2023年5月〜7月
「舟歌」、「夜、愛」、「涙」、「復活祭」と各曲ごとにエピタグラフが添えられている。一つの交響曲のような長大なる姿には聴いているだけで圧倒されてしまうかもしれないが、それはダイナミック・レンジの幅広さがあるからこそであり、ピアノのタッチもそうだが響き的にも素晴らしい空間として音響が出来上がっているので非常に聴きごたえがある。それはトリフォノフとババヤンだからこそ味わえる世界観があるのだろうと聴いていて感じるところがある。
・交響的舞曲
録音:2023年5月〜7月
まさに自由自在かつ変幻自在という感覚を味わうことができる世界観となっており、私個人として2台ピアノによる「交響的舞曲」を聴くのはこれでおそらく2度目?となるが躍動的であり、疾走感とパワフルさのある演奏であったことは間違いない。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこそ味わえる音響的空間もありつつ、テンポの緩急から生まれる鋭く研ぎ澄まされた感覚を聴くことができる点でいえば素晴らしい演奏である。ここまで躍動的すぎるとどこか清々しさすら感じる部分もあるが、普段ここまでの高いテンションで演奏されている作品は他にも類を見ないだろう。
トリフォノフによるラフマニノフ作品の録音はピアノ協奏曲を以前聴いているが、改めてそのピアノ協奏曲録音を聴きたくなるような凄みとインパクトを持ちあわせた演奏であることは間違いないだろう。トリフォノフにはぜひこのままラフマニノフ作品を突き詰めてほしいと思っていると同時に、今後どのような曲を演奏していくのか非常に気になるピアニストであることは変わりない。