ネルソンス&ボストン響によるショスタコーヴィチの交響曲はこれまで交響曲第10番、第5番&第8番&第9番、第4番&第11番、第6番&第7番、第1番&第14番&第15番という形で5回に分けて発売されてきた。第6弾となる今回は、第2番&第3番&第12番&第13番の4曲を収録して全15曲の交響曲を録音し終えたこととなる。ゲヴァントハウス管とのブルックナー交響曲全集がSACDハイブリッド盤で発売されたようにショスタコーヴィチ交響曲全集としてBOX化されるかは不明だがまずは上記4曲を堪能したいと思う。
・ショスタコーヴィチ:交響曲第2番「十月革命に捧げる」
録音:2019年11月
冒頭より地鳴りのような低音と各楽器ごとに違う音価からなる演奏が展開されている。これもSACDハイブリッド盤だからこそ細部まで細かく聴き込むことができるようになっていると言っても過言ではないだろう。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているからこそ合唱が加わってからの世界観や「ウルトラ対位法」に関しても難解ながらに聴きやすいようなダイナミクス変化となっている部分がある。サイレンの音も生々しく聴くだけで鳥肌が立つような音となっている。このような音はこれまでに聴いたことがないようなものとなっているので、恐怖すら感じたのは言うまでもない。
・交響曲第3番「メーデー」
録音:2022年10月
第2番「十月革命に捧げる」と同じように単一楽章からなる交響曲であるが、複雑さはなくなり他の交響曲と同じような部分が出てきたこともあって多少は聴きやすくなっている第3番「メーデー」。この曲に関しても最後に合唱が加わる。トロンボーンやトランペットといった金管楽器の音色は独特なものとなっているが聴きづらいというわけではなく、非常にベストな音色によって旋律が奏でられていると言える。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることもあってテンポの緩急からなる細かいダイナミクス変化も功を奏する形となっており、合唱とオーケストラのバランスも非常に良い状態で演奏されている。
・交響曲第12番「1917年」
録音:2019年11月
ムラヴィンスキーやコンドラシンなど往年の時代における演奏を想像しながら今回の演奏を聴くと、テンポの遅さに意外性と驚きが生まれるかもしれない。しかし、交響曲としての長大なる姿や最初から最後まで一貫性ある音色や響きからなる演奏を聴くと、これまで抱いていたこの曲に対する考えも変わってくるというもの。それもあって今回の演奏では攻撃的な感覚はそこまでなく、明確なダイナミクス変化からなる演奏ということもあって聴きやすいようになっている。また、テンポが速くない分演奏の軸が安定しており個々の楽器による主張よりもオーケストラ全体のバランスが整われているのが功を奏する形となっている。それもダイナミック・レンジが幅広いからこそ味わえる部分も大きいと言えるだろう。
・交響曲第13番「バビ・ヤール」
録音:2023年5月
ネルソンス&ボストン響のショスタコーヴィチ交響曲全集最後を締めくくるのがこの「バビ・ヤール」というのが今の世の中からすると非常に印象深く残る録音であるとも言える。陰鬱な空間からなる世界観は常に暗い印象を受けなくもないが、ショスタコーヴィチの交響曲の中でもメッセージ性の強い作品であり第5番や第7番以上に重要な交響曲であると考えることもできなくはない。これまでコンドラシン&バイエルン放送響による演奏が決定盤として君臨してきたが、今回のネルソンス&ボストン響の演奏は豊かな音色と伸びやかなサウンドからなるどこかゆとりのある演奏となっており、切り詰めた空気観のもの演奏されているわけではない。その分この曲における世界観を理解するには充分なほどに透明度の高い演奏となっているため、理解しやすい感覚を覚えた。歌手、合唱ともにオーケストラのバランスは良くなっているのではじめて聴くという分にもベストな演奏と言えるかもしれない。