フルトヴェングラーがローマ・イタリア放送響と演奏した貴重な記録がSACDハイブリッド盤となって発売された。フルトヴェングラーがベルリン・フィル、ウィーン・フィル以外のオーケストラで指揮を振っているというのも貴重であることに変わりないが、以前取り上げたオリンピック原盤からのベートーヴェン交響曲全集にも収録されている3曲が素晴らしいマスタリングでさらに楽しめるようになったことは多くのファンにとっても嬉しいことになるだろう。
・ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」
録音:1952年1月10日(ライヴ)
SACDハイブリッド盤となった効果もあるのだろう、伸びやかかつ穏やかな木管楽器と弦楽器によって形作られた安定感のある演奏を聴くことができる。テンポに関してもそこまで遅いわけではなく、緩やかで聴きやすい。ある意味安全運転で進められているようにも聴こえなくはないが、こういう穏やかな演奏こそこの「田園」の世界観にぴたりと当てはまるのではないか?と考えたりする。ノイズもそこまでないため聴きやすさに関しても以前より増している感覚を覚えた。
・交響曲第5番
録音:1952年1月10日(ライヴ)
楽章によってはテンポが遅い場面もあるが、どこか余裕すら感じる伸びやかな第5番となっている。重厚的なベルリン・フィルの音色とは違う高音域にフォーカスが当てられたかのような弦楽器群を中心として演奏が進められていくこともあって普段聴き慣れたフルトヴェングラーによるベートーヴェンの交響曲第5番とはまた違う新しいジャンルが展開されているとも言えるだろうか。若干音割れしている部分もいくつか見受けられるが、正直なところそれに関しては気にもならないくらいの安定感からなるバランスの良い演奏を聴くことができるようになっているので一種の名演であることは間違いない。
・交響曲第3番「英雄」
録音:1952年1月19日(ライヴ)
テンポは全体的に遅めで重い印象を受ける形となっており、多少ノイズもあるため明瞭な演奏であるとは言えないかもしれない。しかし、最初から最後まで明るさが一貫として貫かれた演奏であるというのは非常に面白い「英雄」であると言えるかもしれない。それもあって体感時間としてはそこまで演奏を長く感じるようなことはなかった。何よりも木管楽器と弦楽器による柔軟性の高い音色と研ぎ澄まされた感覚は非常に美しく聴きやすいスッキリ感が功を奏する形であったことは間違いない。