ベルリオーズといえば今回取り上げる「幻想交響曲」が非常に有名となっている。チェリビダッケは1960年代にスウェーデン放送響、トリノRAI響との録音が存在しているが、今回は1986年のミュンヘン・フィルとの「幻想交響曲」を聴くことができる。この時代になるとチェリビダッケのアプローチはブルックナーなどを聴くとよくわかるようにテンポに重みが加わり重厚的な演奏が多数見受けられる。今回の「幻想交響曲」は高音質盤で聴くと整われたマスタリングによってライヴであることを忘れてしまうかのような名演を楽しむことができるようになっている。
・ベルリオーズ:幻想交響曲
録音:1986年6月28日(ライヴ)
・・・第1楽章よりテンポに関しては遅めであるが、非常に重々しい演奏というほどではない。確かに重さが伝わってくる重量感はあるがミュンヘン・フィルにおける金管楽器や木管楽器、弦楽器それぞれが奏でる音色からは重みを感じないというのが面白いと言えるだろう。テンポの緩急に関しても楽章によって体感できるようになっており、特に「緩→急」へと変化した際の盛り上がりからなるダイナミクス変化の効果が凄まじいエネルギーとなって聴くことができるようになっている。その点はやはり第4楽章と第5楽章において金管楽器が生き生きとした咆哮を奏でている。また、第5楽章における「怒りの日」がパワープレイで演奏されているのではなく豊かで神秘的な音色によって統一されながら演奏されるアプローチは類を見ない演奏となっていることもあり、初見では鳥肌が立ってしまった。古楽器や室内楽編成による演奏と比べると演奏時間も長ければアプローチも全く違うためチェリビダッケが作り上げる世界観は独特にも聴こえるかもしれないが、素晴らしい名演であることは間違いない。
チェリビダッケによるロンドン響とのライヴやフランス国立放送響とのライヴを聴き終えた上で聴くミュンヘン・フィルとのライヴはまた一つ面白い演奏であるようにも思える。当盤が発売されたのはもう4年も前のことになるがそれ以降も同レーベルからはチェリビダッケのライヴが何種類か発売されている。今回の演奏が少しずつそれらの録音を聴いてみたくなるような名演だったことは間違いない。