第1640回「ブルックナー没後127年、新時代の名盤である若杉弘&N響のブルックナー交響曲全集」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日10月11日はアントン・ブルックナーの命日です。今年で没後127年となります。そんな本日ご紹介していくのは、若杉弘とNHK交響楽団によるブルックナー交響曲全集です。2020年8月に発売された全集で、「Altus」創立20周年記念盤となっています。2020年は若杉弘の生誕85年という年でもあり、この全集は非常に多くの人々に愛された代物であることは間違いないでしょう。3年前に発売された時からまだ聴いていなかったので、今回このタイミングで取り上げていきたいと思います。


「若杉弘指揮/NHK交響楽団」

ブルックナー作曲:
交響曲第1番 ハ短調 WAB101(第1稿:リンツ稿、ノヴァーク版)

交響曲第2番 ハ短調 WAB102(第2稿、ノヴァーク版)

交響曲第3番 ニ短調「ワーグナー」WAB103(第3稿、ノヴァーク版)

交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」WAB104(1878,80年稿、ノヴァーク版)

交響曲第5番 変ロ長調 WAB105(原典版、ノヴァーク版)

交響曲第6番 イ長調 WAB106(ノヴァーク版)

交響曲第7番 ホ長調 WAB107(ノヴァーク版、第2版)

交響曲第8番 ハ短調 WAB108(第2稿、ノヴァーク版)

交響曲第9番 ニ短調(ノヴァーク版)



 「Altus」は国内、国外におけるライヴ録音を数多く発売しており、「ライヴこそ生きた音楽」というのがモットーとなっている。往年の時代における歴史的録音から現代における名演の数々が発売されており、新譜が発売される度に目が離せないレーベルである。そんな「Altus」創立20周年記念盤として、2020年8月に発売したものこそこの若杉弘&NHK交響楽団によるブルックナー交響曲全集である。


 ブルックナー没後100年、サントリーホール開館10周年記念、NHK交響楽団創立70周年記念だった1996〜1998年にかけて3期9公演に渡って行われたブルックナー・チクルスを収録したのが当盤である。このうち第3番「ワーグナー」と第7番はすでにCD化されていたが、ついに交響曲全集登場となった。構想18年という企画のこともあって力の入れようが半端ではないことは聴いていただくとよくわかるはずだ。今回取り上げるのは通常CD盤だが、後にSACDシングルレイヤーが発売された。また、ブルックナー・チクルスの同日にはメシアンの管弦楽曲が演奏されており、それらのメシアン作品をまとめた管弦楽作品集も「Altus」から2021年2月に発売されている。


・ブルックナー:交響曲第1番

録音:1998年2月28日(ライヴ)

・・・これまでに聴いてきたどの交響曲第1番よりも強靭的かつ圧倒的な音圧からなる分厚いスケールを感じ取ることができる演奏となっている。ダイナミック・レンジの幅広さが増しているのもそうだが、N響による一体感のあるサウンドと鬼気迫るものを感じることのできるライヴならではの臨場感は聴いているだけで鳥肌が立つほどと言えるだろう。安定感のある弦楽器による土台が作り込まれており、その上で金管楽器や木管楽器が演奏していることもあって、まとまりある音色と響きが出来上がっている。演奏中には若杉弘?のハミングが聴くことができるようになっており、世界観を味わうにはじゅうぶんすぎる名演と言ってよいだろう。個人的にはこれまでに聴いてきたどの交響曲第1番の中でも一番好みだったかもしれない。


・交響曲第2番

録音:1997年1月13日(ライヴ)

・・・固い堅実なブルックナーというようにもとらえることができるかもしれないが、分厚いスケールからなるサウンドと、濃厚さたっぷりな演奏を味わえる交響曲第2番となっている。なんといっても弦楽器群のまとまりあるサウンドから奏でられる分厚いサウンドが非常に素晴らしく、ダイナミクス変化した際の衝撃は非常に大きく、素晴らしい。テンポの緩急も備わっており、明確かつ細部まで細かく聴き込むことができるような明瞭さも持ち合わせている演奏となっている。


・交響曲第3番「ワーグナー」

録音:1996年2月26日(ライヴ)

・・・ここからよく聴かれることの多いブルックナーの交響曲が登場してくるわけだが、オーケストラ全体のまとまり具合も非常に良く、木管楽器、金管楽器、弦楽器と分厚いスケールを増しながら演奏が展開されていく。細かいダイナミクス変化と、テンポの緩急に優れており、やや重量感のある演奏も含めて聴きやすさのあるライヴだったと言える。通常CD盤とはいえ、ダイナミック・レンジの幅広さが増しており、非常に素晴らしいスケールと圧倒的な金管楽器の音圧を楽しめるようになっている。


・交響曲第4番「ロマンティック」

録音:1997年2月24日(ライヴ)

・・・重厚的ではないが、骨太で濃厚かつ分厚いスケールを味わえるようになっている「ロマンティック」であることには変わりない。ダイナミック・レンジの幅広さが通常CD盤とは思えないほどに存在しており、圧倒的なスケールを身をもって味わえるようになっている。その中でも第1楽章冒頭のホルンソロやまとまりあっている弦楽器群の演奏など、それぞれの楽章でベストな美しさを誇る瞬間が数多く隠されていることは聴いていただくとよくわかる。


・交響曲第5番

録音:1998年1月27日(ライヴ)

・・・演奏として、確かに重量級の部類に組み込まれる演奏であることは間違いない。しかし、N響が奏でる全ての音が重々しく感じるのかと問われればそうではない。後味は意外にもスッキリとしていてなおかつ、ヴァイオリンなどの弦楽器と木管楽器を中心として軽快な演奏を行っているのでそれほど重みがあるとは感じられない。また、テンポの緩急に関しても優れた演奏で、細かいテンポチェンジやダイナミクス変化を繰り返し各楽章で随所に渡り確認することができる。ダイナミック・レンジの幅広さが増していることもこの曲における神秘的な音色と響きをより大きくさせているのだと聴いていて感じさせられる。また、金管楽器の音色もキツさもなく、まろやかで太めな印象を受けるため、この曲に適した音色と言えるだろう。


・交響曲第6番

録音:1997年3月18日(ライヴ)

・・・比較的に重さもなく、推進力からなるエネルギーを感じ取ることのできる快活な演奏となっている印象を受ける今回の交響曲第6番。透き通るような音色と響きを聴くことができるようになっているのに加えて、オーケストラ全体のバランス良い感覚も非常に素晴らしい。個性的なアプローチはそれほど大きくされてはいないが、テンポの緩急も細かく聴き込めるような抜群の安定感も演奏から聴くことができるようになっているので、普段聴き慣れた第6番とは違う感覚で楽しめるのは間違いない。


・交響曲第7番

録音:1996年1月29日(ライヴ)

・・・多少なりともたくましさを感じることのできるような強靭なるスケール、テンポの緩急を利用した細かいダイナミクス変化などが功を奏する形となっている。これまでに聴いたことがないような美しさと圧倒的で全てを包み込むような弦楽器の存在感と、第2楽章やその他でも聴くことのできる濃厚な金管楽器の音色などがただただ素晴らしい。テンポを落とすべき楽章、場面でテンポを落としていることもあって、深みあるサウンドを聴くことができるようになっているのは大きなポイントと言える。


・交響曲第8番

録音:1996年3月31日(ライヴ)

・・・ブルックナーの交響曲の中でも有名であり、長大なる交響曲である第8番。N響はこれまで数多くの指揮者たちとこの曲を演奏してきたが、今回の演奏ではたっぷりと音の広がりをとられたスケールであったり、濃厚さのある金管楽器の音色と重厚的な弦楽器群の素晴らしい演奏を楽しむことができるようになっている。調和的であり、美しい響きを奏でていることもあって演奏時間はそれほど長く感じないかもしれないが、素晴らしいブルックナーを聴くことができるようになっているのは間違いないだろう。


・交響曲第9番

録音:1998年3月13日(ライヴ)

・・・最後の交響曲ということもあるのだろうか、テンポに関してはやや重ために演奏が進められていくようになっている。しかし、N響が奏でるサウンドとしてはまとまりがあるため、非常にスッキリとしていて聴きやすい。金管楽器の音色も豊かさのあるまろやかな音色、響きによって演奏されているため、キツさもない。それぞれの楽章における特性を失うことのないアプローチが行われているため、明確なダイナミクス変化やテンポの緩急を聴くことができるようになっている。その点に関しては比較的にスタンダードなものと聴こえなくもないかもしれない。


 若杉弘&N響によるブルックナー交響曲全集は、確かに発売当初から好評を博していた理由が今になってよくわかる。来年はブルックナーのアニバーサリー・イヤーということで、益々ブルックナーに対する熱量は非常に大きくなっていくと思うのだが、朝比奈隆やヴァント、カラヤンなどの交響曲全集とはまた違う新しいブルックナーを体感させてくれた名演、名盤として今後も多くの人々に愛される代物となるだろう。


https://tower.jp/item/5073058/ブルックナー:-交響曲全集