イム・ドンヒョクはショパン国際ピアノコンクールをはじめとして多くのコンクールで活躍を残しているピアニストである。中でも12歳でショパンのピアノ協奏曲第2番を演奏した際は大きな衝撃を与えたと言われている。アルゲリッチから高い評価を受けており、18歳の時にアルゲリッチのプロデュースで初アルバムをリリース、「アルゲリッチ音楽祭」にも出演するなどもしている。そんな彼が弾くラフマニノフ、購入してから3年ほど経ち久しぶりに聴いたが私自身の耳が肥えてきたこともあってピアノ協奏曲、交響的舞曲それぞれを非常に楽しむことができたと最初に述べておきたい。
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、2018年9月19,20日録音
・・・ラフマニノフの代表的な作品の一つであり、多くのピアニストが名演を残してきた名曲である。技巧もさることながらドンヒョクのピアノとヴェデルニコフ率いるBBC交響楽団のサウンドが統一されているためこれまで聴いてきた同曲録音と比べても非常に良い演奏と言えるだろう。通常CD盤ながらその音質は非常に素晴らしく、ダイナミック・レンジの幅広さは正直言ってSACDハイブリッドを超えていると言えるだろう。ピアノのタッチはもちろんのこと、オーケストラを細部まで味わい尽くすことができるのは非常に嬉しい。今回の演奏では技巧やキレ味がメインというよりもしつこいくらいにたっぷりと幅をとった濃厚なアプローチをしている。それが功を奏しているのかテンポの緩急からくる変化や溜めが絶妙なバランスを生み出している。そのため個性的な演奏とも言えるかもしれないし、一つの映画音楽を聴いているかのような壮大なスケールを味わえる。後に良いスピーカーを買った時にはこの曲をまず聴きたいと思うくらいに今私はこの演奏に虜となっている。
交響的舞曲、2018年12月6,7日録音
・・・ラフマニノフが作曲した最後の管弦楽曲である。オーケストラ版の初演はオーマンディがフィラデルフィア管弦楽団と演奏しているが、今回は2台ピアノ版である。オーケストラ版よりも前に完成し、ラフマニノフとホロヴィッツによって初演が行われている。また、自作自演という形ではラフマニノフによる「交響的舞曲」の断片演奏が残されている。先ほど聴いたピアノ協奏曲第2番と打って変わり、技巧的な部分が全面的に押し出された演奏である。アルゲリッチとの2台ピアノというためそれが大きいと言えるのだが、それが素晴らしいと思える演奏であることに間違いはない。オーケストラ版の難易度も非常に高く、それをピアノで再現しているとなると難易度も自ずと上がる。各楽章ごとのテンポの緩急やダイナミクス変化も明確かつ明瞭となっているので非常に聴きごたえのある「交響的舞曲」となっている。ダイナミック・レンジの幅広さもあるため、より一層豪快かつ太めの音を全身で体感することができる。この演奏を聴いて衝撃を受けない人など誰もいないだろう。
今回収録されていた2曲はいずれも十二分に楽しむことができた。気づいた時にはどちらかの録音を聴いているような状態となっているので、ドンヒョクのCDが他にもあるのであればまたそれを探したいと思う。また、すでに廃盤扱いになっているため手に入れづらいのだがラフマニノフによる自作自演の「交響的舞曲」の断片演奏を探したいところ。
https://tower.jp/item/4934555/ラフマニノフ:-ピアノ協奏曲第2番、交響的舞曲