私個人的な話をすると、武満徹作品はこれまであまり積極的に聴いてこなかった曲が非常に多い。シェーンベルクやウェーベルン、ベルクなどの新ウィーン楽派と同じような立ち位置に私自身が置いていたのかもしれない。しかし、大学時代は黛敏郎や西村朗、矢代秋雄、クセナキス、リゲティ、ペンデレツキなどの有名な現代音楽作曲家の曲はよく聴いてきたし、私自身そういう曲を書いていた。当ブログでもごくわずかの回数取り上げたことがあったくらいだったので、これを機に武満徹作品を一つでも多く楽しんでみようと思ったこともあって取り上げている。
武満徹:オリオンとプレアデス、1984年に堤剛と尾高忠明&東京フィルハーモニー交響楽団によって初演されたチェロとオーケストラのための作品である。構成として「オリオン」、「と」、「プレアデス」の3曲からなる。菊地さんのチェロと山田和樹率いる日フィルの掛け合いが非常に美しく交差し、現代音楽ではあるもののチェロ、オーケストラそれぞれが奏でる音には確かな美しさに満ち溢れている。それをこのSACDハイブリッド仕様の高音質盤で聴くということでより理解に努めることができると言えるだろう。
夢の時、2017年5月14日ライヴ録音
・・・1981年にネーデルランド・ダンス・シアターからの委嘱によって作曲され、1982年に岩城宏之&札幌交響楽団が初演を行なっている。「夢の時」とはオーストラリアの先住民アポリジニの神話で、「天地創造」に関わる神話全体が意味されている。曲としては前衛的な面が強いということもあって理解するのには少々難しいと言えるだろう。しかし、随所に他の作品とも共通的な武満徹作品の特徴的な和音構成があり、山田和樹率いる日フィルは理解した上で細部までこだわり抜いて演奏を行なっている。それもあって不協和音すら気持ち良いように聴こえると言っても良いくらいの素晴らしさがこの演奏にはある。いずれスコアを手に入れることができたら見直してみたいと思う。
系図、2016年1月30日ライヴ録音
・・・1992年にニューヨーク・フィルハーモニック創立150周年記念として委嘱された。世界初演は1995年で、レナード・スラットキン&ニューヨーク・フィルハーモニック、サラ・ヒックスの語りで行われている(世界初演は英語)。日本初演は岩城宏之とNHK交響楽団、遠野なぎこさんによって同年行われている。曲は全6曲からなる。
第1曲「むかしむかし」
第2曲「おじいちゃん」
第3曲「おばあちゃん」
第4曲「おとうさん」
第5曲「おかあさん」
第6曲「とおく」
語り手は12〜15歳の少女が好ましいとされている。録音されている数自体少なく、過去に語りを担当した人物をあげると夏菜、浜辺美波、のん(能年玲奈)や小沢聖良(小澤征爾さんの娘)などが該当する。今回は今様々な活躍をしている上白石萌歌さんが担当している。谷川俊太郎の詩集「はだか」にある詩から6篇を選出したものが今回の「系図」となった。演奏として、「Exton」から発売されたSACDハイブリッド盤ということもあり音質は非常に良い。私個人的な話をすると、武満作品の中で一番聴いている回数が多い曲であり、一番好きな曲こそこの「系図」だ。これまで武満徹が作曲してきた現代音楽作品とは違う美しさに満ち溢れており、和音の使い方はフランス音楽により近いようにも感じさせる。その神秘的な響きが重なり合い、美しい世界観を展開している。
ア・ストリング・アラウンド・オータム、2016年2月27日ライヴ録音
・・・1989年に「パリの秋」フェスティバルの委嘱により作曲され同年に、今井信子とケント・ナガノ&パリ管弦楽団によって初演が行われた。後に細川俊夫によってヴィオラとピアノ用のアレンジが作られている。ヴィオラとオーケストラのために作られたこの曲は「糸の流れ」と呼ばれる「E,F♯,A,h,C,D,F,A♭」の動機を使用しており、自然的な美しさが演奏から感じられる。ドビュッシーやメシアンなどのフランスの人々に捧げるという言葉を武満自身が残したことも曲に大きく反映されている。幻想的で美しさが溢れたこのヴィオラ協奏曲は、技巧もそうだが曲全体の音色や響きが非常に神秘的なものとなっており、聴いているだけで心に安らぎを感じられる。ダイナミック・レンジの幅広さがあることによってヴィオラと日フィルそれぞれの音を明確に聴き分けることができるのはもちろんのこと、ダイナミクスのバランスも非常に良く取られているのでライヴの臨場感、生々しさなど全てを余すことなく味わえるようになっている。