第1200回「山田和樹&日フィルによる武満徹管弦楽曲集SACDハイブリッド盤」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんばんは🌇早かったような長かったような、本日「クラシック名盤ヒストリア」も第1200回を迎えました。毎回この節目に関しては現代音楽を取り上げていますが、今回取り上げていくのは武満徹の管弦楽曲集です。演奏は山田和樹さんと日本フィルハーモニー交響楽団です。今日までに様々な指揮者やオーケストラによる演奏、録音が行われてきましたが、録音時期としては比較的最近のものとなっています。同時に「Exton」から発売されたSACDハイブリッド盤の高音質盤となっているため、期待は十二分にできるといえるでしょう。


〜武満徹管弦楽曲集〜


「菊地和也(チェロ)、山田和樹指揮/日本フィルハーモニー交響楽団」

武満徹作曲:
オリオンとプレアデス


「上白石萌歌(ナレーター)、山田和樹指揮/日本フィルハーモニー交響楽団」

系図〜若い人たちのための音楽詩〜


「赤坂智子(ヴィオラ)、山田和樹指揮/日本フィルハーモニー交響楽団」

ア・ストリング・アラウンド・オータム


「扇谷泰朋(ヴァイオリン)、山田和樹指揮/日本フィルハーモニー交響楽団」

ノスタルジア〜アンドレイ・タルコフスキーの追憶に〜


「山田和樹指揮/日本フィルハーモニー交響楽団」

夢の時

星・島(スター・アイル)

弦楽のためのレクイエム



 私個人的な話をすると、武満徹作品はこれまであまり積極的に聴いてこなかった曲が非常に多い。シェーンベルクやウェーベルン、ベルクなどの新ウィーン楽派と同じような立ち位置に私自身が置いていたのかもしれない。しかし、大学時代は黛敏郎や西村朗、矢代秋雄、クセナキス、リゲティ、ペンデレツキなどの有名な現代音楽作曲家の曲はよく聴いてきたし、私自身そういう曲を書いていた。当ブログでもごくわずかの回数取り上げたことがあったくらいだったので、これを機に武満徹作品を一つでも多く楽しんでみようと思ったこともあって取り上げている。


 武満徹:オリオンとプレアデス、1984年に堤剛と尾高忠明&東京フィルハーモニー交響楽団によって初演されたチェロとオーケストラのための作品である。構成として「オリオン」、「と」、「プレアデス」の3曲からなる。菊地さんのチェロと山田和樹率いる日フィルの掛け合いが非常に美しく交差し、現代音楽ではあるもののチェロ、オーケストラそれぞれが奏でる音には確かな美しさに満ち溢れている。それをこのSACDハイブリッド仕様の高音質盤で聴くということでより理解に努めることができると言えるだろう。


 夢の時、2017年5月14日ライヴ録音

・・・1981年にネーデルランド・ダンス・シアターからの委嘱によって作曲され、1982年に岩城宏之&札幌交響楽団が初演を行なっている。「夢の時」とはオーストラリアの先住民アポリジニの神話で、「天地創造」に関わる神話全体が意味されている。曲としては前衛的な面が強いということもあって理解するのには少々難しいと言えるだろう。しかし、随所に他の作品とも共通的な武満徹作品の特徴的な和音構成があり、山田和樹率いる日フィルは理解した上で細部までこだわり抜いて演奏を行なっている。それもあって不協和音すら気持ち良いように聴こえると言っても良いくらいの素晴らしさがこの演奏にはある。いずれスコアを手に入れることができたら見直してみたいと思う。


 系図、2016年1月30日ライヴ録音

・・・1992年にニューヨーク・フィルハーモニック創立150周年記念として委嘱された。世界初演は1995年で、レナード・スラットキン&ニューヨーク・フィルハーモニック、サラ・ヒックスの語りで行われている(世界初演は英語)。日本初演は岩城宏之とNHK交響楽団、遠野なぎこさんによって同年行われている。曲は全6曲からなる。


第1曲「むかしむかし」

第2曲「おじいちゃん」

第3曲「おばあちゃん」

第4曲「おとうさん」

第5曲「おかあさん」

第6曲「とおく」


 語り手は12〜15歳の少女が好ましいとされている。録音されている数自体少なく、過去に語りを担当した人物をあげると夏菜、浜辺美波、のん(能年玲奈)や小沢聖良(小澤征爾さんの娘)などが該当する。今回は今様々な活躍をしている上白石萌歌さんが担当している。谷川俊太郎の詩集「はだか」にある詩から6篇を選出したものが今回の「系図」となった。演奏として、「Exton」から発売されたSACDハイブリッド盤ということもあり音質は非常に良い。私個人的な話をすると、武満作品の中で一番聴いている回数が多い曲であり、一番好きな曲こそこの「系図」だ。これまで武満徹が作曲してきた現代音楽作品とは違う美しさに満ち溢れており、和音の使い方はフランス音楽により近いようにも感じさせる。その神秘的な響きが重なり合い、美しい世界観を展開している。


 ア・ストリング・アラウンド・オータム、2016年2月27日ライヴ録音

・・・1989年に「パリの秋」フェスティバルの委嘱により作曲され同年に、今井信子とケント・ナガノ&パリ管弦楽団によって初演が行われた。後に細川俊夫によってヴィオラとピアノ用のアレンジが作られている。ヴィオラとオーケストラのために作られたこの曲は「糸の流れ」と呼ばれる「E,F♯,A,h,C,D,F,A♭」の動機を使用しており、自然的な美しさが演奏から感じられる。ドビュッシーやメシアンなどのフランスの人々に捧げるという言葉を武満自身が残したことも曲に大きく反映されている。幻想的で美しさが溢れたこのヴィオラ協奏曲は、技巧もそうだが曲全体の音色や響きが非常に神秘的なものとなっており、聴いているだけで心に安らぎを感じられる。ダイナミック・レンジの幅広さがあることによってヴィオラと日フィルそれぞれの音を明確に聴き分けることができるのはもちろんのこと、ダイナミクスのバランスも非常に良く取られているのでライヴの臨場感、生々しさなど全てを余すことなく味わえるようになっている。


 ノスタルジア〜アンドレイ・タルコフスキーの追憶に〜、2016年3月26日ライヴ録音
・・・スコットランド郵政局の委嘱で、1987年エディンバラ音楽祭であのユーディ・メニューインがヴァイオリンを演奏し、ピーター・マックスウェル=デイヴィス&スコットランド室内管弦楽団によって初演された。映画監督だったアンドレイ・タルコフスキー追悼のために作曲され、タイトルの「ノスタルジア」はタルコフスキーによる映画で武満自身が愛した作品の一つである。技巧というよりも一つの線をヴァイオリン独奏とオーケストラが作り上げているといった印象で、不気味に近く幻想的な世界観が展開される。それはまさに映画のような物語性を感じさせるような響きを演奏から感じることができる。

 星・島(スター・アイル)、2017年6月4日ライヴ録音
・・・1982年に創立100年を迎えた早稲田大学への100周年記念として作曲、委嘱された。初演は岩城宏之&早稲田大学交響楽団によって行われている。早稲田のアルファベットからなる「As,E,D,A」のモチーフが使用されている。現代的な不規則なリズムはもちろんのこと複雑な和音構造などが駆使されており、今回の管弦楽曲集の中でも一番興味を持った曲と言っても良いだろう。3管編成ながら大オーケストラというよりはどちらかといえば細部までこだわられた部分もあり、日フィルによる個々の技量、アンサンブルや音色の良さなどが非常に光っている演奏だった。この曲はぜひともライヴで聴きたかったと聴き終えた今は感じている。

 弦楽のためのレクイエム、2017年6月25日ライヴ録音
・・・武満徹作品の中でも代表的な作品の一つであり、この曲がきっかけでその後の武満徹自身の人生を変えるきっかけとなった曲と言っても差し支えないと思われる。当時結核を患っていた武満が早坂文雄の死を悼むとともに自身の死を意識しながら作曲をしたとされている。1957年に上田仁&東京交響楽団によって初演されたもののそれほど大きな評価はされず、1959年にストラヴィンスキーが来日した際の演奏を聴いたコメントによってその評価が高まったとされている。演奏として、トラック順でいえばこの曲が一番最後にきているというのもなかなか味なものと感じる。フランス音楽からの影響も感じられるが、前衛的な面が強くスコアなど詳しい説明がないと理解できない可能性が高い。しかし、今回の演奏から感じることとしては弦楽としての美しさはダイナミック・レンジの幅広さがあるので和音からなる響きやダイナミクスなど細部までこだわられているということが十二分に伝わってくる名演と言えるだろう。

 第1200回なんとか投稿できました。今回はいろいろと調べつつ書き進めていったこともあって久しぶりにこの時間に投稿することとなりましたが、こうして何日もかけて武満徹作品を聴いたのはおそらく初めてではないかなと思います。まだまだ武満徹作品のCDで聴けていないものがいくつもあるので、この調子で今後も少しずつ聴けていければいいなと感じることができた現代の素晴らしい録音でした。現代音楽のネタもそろそろ尽きそうなので次の第1300回までには何種類かCDをストックしておきたいと思います。