シェルヘンによるマーラー交響曲集の後半に入る。第一弾、第二弾に収録された曲目をみていると、第4番と「大地の歌」以外の交響曲は録音しているため、交響曲全集まですぐそこだったことがわかる。決定盤や名盤としてはあまりあがることがないとは思うが、爆演で知られるベートーヴェン交響曲全集ライヴとセットで一度は聴くのも面白いのではないだろうか?幸い「Memories」から発売されている第一弾、第二弾の交響曲集は比較的金額もお安いのでコスパ的には良い代物と言えるだろう。
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」、1960年10月ライヴ録音
・・・この時代にしては珍しく第2楽章にアンダンテ楽章、第3楽章にスケルツォ楽章が置かれている。また、第3楽章と第5楽章で斬新なカットを行い賛否両論を巻き起こした交響曲第5番だったが第6番もスケルツォ楽章にあたる第3楽章をカットしている。第1楽章のリピートも行われていないため演奏時間は1時間を切っており本当に忙しい時にすぐ聴ける演奏となった。第1楽章の速さはネーメ・ヤルヴィ、パーヴォ・ヤルヴィ、ジョージ・セルによるテンポを思い出させる推進力とエネルギーのある前向きなものとなっており、それがアンダンテ楽章にも若干の影響を及ぼしながら衰えることなく進んでいく。途中演奏にズレなどがあるものの、勢いに満ち溢れた破壊力抜群の演奏と言えるだろう。また、第4楽章の「運命の打撃」であるハンマーに関してはほとんど聴こえることがなく、シンバルが強い印象を残している。
交響曲第7番「夜の歌」、1950年6月ライヴ録音
・・・今回の第7番に関してはそれほど爆演、熱演といった演奏ではない。これに比べるとクレンペラーが晩年に残した大分遅い演奏の方が衝撃的である。とはいえ、テンポの緩急が明確なものとなっていることには変わらない。全体的に前向きでぐんぐん進んでいく姿にはブレーキなど存在しないと思われる。シェルヘンは現代音楽も大変多く指揮をしているため、この近現代寄りの複雑な第7番をより理想に近い形の安定感あるアプローチで演奏している。ある意味今回の交響曲集の中で一番安心して聴くことができたような気がする。
交響曲第8番「一千人の交響曲」、1951年6月ライヴ録音
・・・「一千人の交響曲」に関してはそれほど頻繁にテンポを変えるといったことはないが、ライヴ録音ということもあってその熱量は非常に高いものとなっている。合唱とオーケストラのボルテージが最高潮に達した際の大きな衝撃はこの録音以降に演奏された名盤や名演に匹敵するような強いインパクトを残してくれるであろう。録音状態もあるのだろうが、高音域に達した際に音が耳に痛い点があるものの同時期に録音された第8番の中でもずば抜けて大きな存在感を印象付ける名演だ。他の交響曲のような爆速のテンポなどはないものの、ダイナミクスの盛り上げ方や溜めなどは中々のものとなっている。
交響曲第9番、1950年6月ライヴ録音
・・・晩年のバーンスタインやクレンペラーが残した第9番はテンポが遅く、重いたっぷりとした演奏だったが、シェルヘンは真逆のスタイルと言っていいくらいにスッキリとしていてしつこさを感じさせない。それが全楽章共通している。そのため演奏時間も70分を切る勢いとなっており、いつも聴くものよりも短く感じた。演奏として、弦楽器は特に壮大なスケールを持って演奏され、金管楽器はエネルギー溢れる爆発力を感じさせる素晴らしさがある。
交響曲第10番、1960年10月ライヴ録音
・・・第10番は今日までに複数存在する補筆版や第1楽章のみの演奏など取り上げ方も分かれているが、今回は第1楽章のみとなっている。私個人としてこの曲は非常に重々しく暗い陰鬱とした印象を持っていたが、シェルヘンによる演奏はその真逆をいっていると考えられる。ライヴということもあるのだろうがダイナミクスも一段階あげられた形で演奏され、テンポの緩急も頻繁に変わり時には異常な爆速をみせたりする。そのため、たっぷり弦楽器のスケールを味わえるわけではないが、やや鋭めの時に攻撃的にすら感じるオーケストラのサウンドを聴くことができるため第10番の新しい姿を見ることができたと言えるだろう。
昨日今日とシェルヘンによるマーラー交響曲集を二日間連続でみてきた。私自身シェルヘンのマーラーは以前から数回聴いていたが、今回こうしてじっくり聴いているとシェルヘン以降に録音したバーンスタインやアバド、テンシュテットなど名だたるマーラー指揮者と同じ解釈もあれば、シェルヘン独自に突き進んでいる解釈もある。そういったものを聴き、テンポが頻繁に変わるのと常にテンションの高い演奏となっているため多少の疲れは覚えたが、非常に面白いと感じることができた交響曲集だった。
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