今や熱量の多いマーラーといえばバーンスタインが代表的となっているが、バーンスタインが録音するよりも前に型破りなマーラーの録音を残していた指揮者こそシェルヘンである。交響曲全集とまではいかなかったものの、有名な交響曲第5番の一部楽章におけるカットや異常なまでに加速したテンポなどマニア間で非常に人気の高い録音として知られている。当ブログでは随分前にベートーヴェンの交響曲全集を取り上げているが、今回のマーラー交響曲集もそれに引けを取らない熱演となっている。
マーラー:交響曲第1番「巨人」、1954年9月録音
・・・ロイヤル・フィルとの録音である今回の「巨人」は、第1楽章と第3楽章は比較的重く重厚的なテンポで演奏され、第2楽章と第4楽章はテンポの緩急が細かく変化する豪快なアプローチとなった演奏となっている。テンポがゆったりとしている場面ではたっぷりと濃厚に歌い上げ、それが終わると振り落とされるかと思うくらいに速い爆速なテンポの追い上げをみせる。残響がそれほどない分各楽器の音色を細かく聴くことができるというのも特徴的で、特に金管楽器の音の鳴りは非常に素晴らしい。木管楽器は全体としては統一感があり、個々ではキャッチーで愛らしい音色を奏でている。そして弦楽器は素晴らしい機動力と推進力があり、まとまったサウンドからなるスケールは凄まじいエネルギーを発している。
交響曲第2番「復活」、1958年6月録音
・・・基本としては重心が低く、重めのテンポで進んでいくのだが大胆なカットを行なって賛否両論を巻き起こした交響曲第5番のように自由度の高い「復活」となっている。「緩→急」や「急→緩」の差が非常に激しく、やや暴走気味にも感じるかもしれないが、合唱、バンダ、オーケストラという大編成作品であるこの曲をより一層楽しめる豪快な仕組みが大変多く設定されている。第1番はモノラル録音だったが、今回からステレオ録音となり音の広がりも豊かなものとなった。オーケストラ全体のサウンドとしてはやや攻撃的な尖りがかったサウンドとなっているが、第5楽章後半で合唱及び歌手が加わってからは非常に美しい慈愛に満ちたサウンドとなって壮大なフィナーレを迎える。
交響曲第3番、1960年10月ライヴ録音
・・・自然と美しさが目立ったこの第3番もシェルヘンのアプローチによってこれまで聴いたことがないくらいのテンポの緩急と自由度、壮大なスケールを持ってして演奏を聴くことができる。6楽章からなる交響曲ということと、第1楽章が30分超えるため普段は非常に演奏時間も長く感じやすいのだが、今回の演奏ではむしろ短く感じた。実際短縮されているかと言われればそうではないのだが、頻繁に変わるテンポと推進力、エネルギーのある演奏となっていることによるためだと私は考えている。活気のある金管楽器に若干木管楽器と弦楽器が押され気味ではあるが、弦楽器や木管楽器が主体となった瞬間に美しい世界観が展開されるようになっている。ステレオ・ライヴの中でも比較的良い演奏と言えるだろう。
交響曲第5番、1964年10月ライヴ録音
・・・シェルヘン改訂版とでもいうべきか、第3楽章、第5楽章のカットだけでなくよく聴きながらスコアを見てみると他の楽章でも部分的に違う箇所が多々ある。そして演奏は暴れ馬そのもの、基本的に第4楽章アダージェット以外はうるさいくらいにかっ飛ばしたテンションで聴いていて若干疲れを覚える。短い時間の間に聴きたいのであればこの録音を聴くのもいいかもしれないが、普段から積極的に聴きたいかと問われればそうとはいかないかもしれない。ただ、この熱量はバーンスタインやライヴ時のテンシュテット以上であることは間違いない。
シェルヘンのマーラーに関しては好き嫌いが分かれると思う。しかし、ものによってはマニア以外にもヒットするような素晴らしい名演があると私は考えている。今回でいえばそれは第1番「巨人」や第2番「復活」が該当したと思う。さて、本来はまた後日に第二弾の交響曲集を取り上げる予定だったが、演奏時大分煽りに煽っているシェルヘンのアプローチを受けたためか明日第二弾を取り上げたいと思う。収録されているのは第6番〜第10番までの交響曲だ。「大地の歌」は収録されていないが、熱量の高いマーラーを楽しむことができるだろう。
https://tower.jp/item/3814973/Mahler:-Great-Symphonies-Vol-1---No-1,-No-2,-No-3,-No-5