井上さんが録音したマーラーの交響曲は第1番、第4番、第5番、第6番、第9番が「キャニオン・クラシックス」及び「Exton」から発売されている。私はすでに「キャニオン・クラシックス」と「Exton」から発売されていたそれぞれの第6番を所有していたこともあり、そのうち当ブログでも比較をしつつ取り上げようと考えていたのだが、なんと「キャニオン・クラシックス」に残された第4番、第5番、第6番の3曲がSACDハイブリッド仕様となって発売されたのでそれを購入し今回取り上げている。実際問題、「キャニオン・クラシックス」での上記3曲に関しては中々市場にも出回ることがないため、少々手に入れづらいところがある。第6番だけでも購入できたのは奇跡に近いくらいだ。そんな希少価値の高いマーラーが今回こうして高音質盤となって発売されたのだから購入しない理由などないだろう。
マーラー:交響曲第4番、1989年4月3,5日録音
・・・今回収録されている交響曲の中でも一番エネルギッシュかつ推進力が全体から感じることができた演奏だったと思う。「緩→急」や「急→緩」といったような変化はもちろんのこと、ダイナミック・レンジの幅広さが増したこときより曲全体のスケールが大分良くなっている。打楽器の深みある音や柔軟でスケールのある弦楽器群、決めどころを逃すことない金管楽器や牧歌的で美しい音色と高いアンサンブル力を楽しむことができる木管楽器など、SACDハイブリッド仕様となったことにより、曲全体を隅々まで余すことなく楽しめるようになっているのは今回のマスタリングで一番良かった点だと聴き終えた今は感じている。また、第4楽章でのソプラノ歌手であるイヴォンヌ・ケニーの伸びやかでまったりとした心に染み渡るかのような美しい歌声には感動すること間違いなしだ。
交響曲第5番、1990年5月9日ライヴ録音
・・・ライヴ録音ということもあるのだろう、「緩→急」へ変化した際の畳み掛ける感覚には勢いを強く感じる。SACDハイブリッド仕様となったことによるダイナミック・レンジの幅広さも功を奏しており、演奏されたロイヤルフェスティバルホールでの臨場感をたっぷりと味わえるようになっている。また、第4楽章アダージェットでの弦楽が奏でる美しい旋律をスケールたっぷりに演奏されているため、より上質な空間美を味わうことができる。そしてなんといっても冒頭のトランペットソロには荘厳的な趣からくる力強さがあり、これから始まる交響曲の全体像をうまく感じ取ることができるような仕上がりとなっている。
交響曲第6番「悲劇的」、1988年5月3,4日ライヴ録音
・・・バルビローリや晩年のマゼール、ギーレンほどではないが全体的にやや重心低めの演奏となっており、その分ロイヤル・フィルが奏でるサウンドもどこか重さを感じるものとなっている。マーラーが作曲した交響曲の中でも合唱を使わない部類としては特に長大な編成ということもあり、演奏を聴くとなおのことそれが良くわかると思う。マスタリングによってダイナミック・レンジが幅広くとられており各楽器を細部まで細かく聴くことができるようになっている。第4楽章で登場するハンマーの衝撃も非常にインパクトのある打撃となっている。今回の第6番に関しては他の2曲と比べてもロイヤル・フィルのボルテージも非常に高いテンションで演奏されているのか、ボリュームを上げすぎると少々うるさいくらいの破壊力を有している。スピーカーで聴く分には良いと思うが、イヤホンやヘッドホンで聴く際にはご注意いただきたい。
今回こうして過去に発売された録音がマスタリングを施されてSACDハイブリッド仕様の高音質盤となって復刻されたことは非常に嬉しい内容だったと聴き終えた今は感じている。同時に今後はエソテリック盤やタワーレコード企画の「ヴィンテージSACDコレクション」、「Definition SACD Series」だけでなく視野を広げて多くの復刻盤をみていく必要があるとも私は感じた。賛否両論わかれるかもしれないが、今後もこのような高音質盤は一つでも多く復刻してほしいと思う。
https://tower.jp/item/5429111/マーラー:交響曲-第4番、第5番、第6番「悲劇的」
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