第三十三条、強竊二盜罪科事付放火人事:強・窃二盗の罪科の事強盗と放火犯の罪について)。これまでの決まり通りに強盗犯は断罪(首をはねる)とする。放火犯も強盗犯と同じ扱いとし、これらの犯罪をなくすこと。
第三十四条、密壞他人妻罪科事:他人の妻を密懐(みっかい:密通)する罪科(他人の妻と密懐する事の禁止)。人妻と密会した御家人は所領の半分を没収する。所領が無い場合は遠流とする。相手方の人妻も同じく所領の半分を没収し、ない場合は遠流とする。また、道路の辻にて女性を誘拐する事を禁止する。それを行った場合、御家人の場合は百日間の停職とし、郎従以下の一般武士は頼朝行からの先例にしたがい、片側の髪を剃る。僧侶の場合は、その時々の状況に応じて決める。
※この条については、独立してこの条項だけで表面化する事は少なかった。だいたい当時の常識として、妻の密会現場を押さえた夫は、その場で相手の男を切り捨てても良いと思われていた時代だったのだ。
第三十五条、雖給度々召文不參上科事:度々の召し文(裁判への召喚状)を給うといえども、参上せざる科の事(裁判所の呼び出しに応じない場合の扱いについて)。呼び出しを三回無視した者は、原告だけで裁判を行う。原告が負けた場合は、争っている財産や領地は他の御家人に分け与える。牛馬や下男などは数を調べて返却されるが、呼び出しに応じなかった者は、神社や寺の修理のために寄付をしなくてはならない。
第三十六条、改舊境、致相論事:旧き境を改めて相論を致す事(以前の境界線を持ち出して裁判することについて)。自分の有利な境界線を申し出て、領地を広げようとする者がいる。仮に、裁判に負けても、今の領地が減らないと思うからである。今後は、この様な訴えがあった場合、現地に調査官を派遣し、厳密に調査して訴えが不当な場合は、奪おうとした領地と同じ面積の土地を、訴えられたものに与える。
第三十七条、關東御家人申京都、望補傍官所領上司事:関東の御家人、京都(公卿)に申して、傍官の所領の上司を望み補せらるる事(朝廷の領地を奪う事の禁止)。右大将家(源頼朝公)の時に禁止されたにもかかわらず未だに上皇や法王、またはその女御(奥方たち)の荘園を侵略する者がいる。今後もこの事を行う御家人は、その所領の一部を没収する。
(写真:ウィキペディアより引用 御成敗式目)
第三十八条、惣地頭押妨所領内名主職事:惣地頭、所領内の名主職を押妨する事(惣地頭が、荘園内の他の名主の領地奪い取る事の禁止)。地頭の中でも特別に広い所領を持つ者は、「将軍から頂いた領地内だから、全部が自分の勢力範囲」と言って、名主が権利を持っている土地を支配する事は出来ない。名主は正式な証明書を持っているからである。しかし、名主が集めた税を地頭に預けない場合は、その名主を替えてしまう。
第三十九条、官爵所望輩、申請關東御一行事:官爵(かんしゃく)所望の輩、関東御一行(幕府の推挙状)を申し請くる事(官位、職位を望む場合の手続きについて)。勤勉に働き、その功が認められた者は、公平に吟味した後、幕府の推挙によって朝廷から官位をもらう事が出来るが、自ら昇進を願って直接朝廷に申し出る事は、誰であっても絶対に禁止する。但し、受領や検非違使(二つとも朝廷側の役人)については、幕府の推挙なしに職位をもらっても良い。また、年功により官位をもらう者も今まで通りに制限しない。※この事は、頼朝と義経の時以来、幕府としても御家人の統率のかなめであった。後白河の幕府分裂を狙う陰謀と頼朝は考え、それに気づかぬ弟の義経を責めた。御家人は皇室と結びついているのではなく、幕府の郎従(部下)と、しっかり位置付けたのは以上のようなわけがあったからである。
第四十条、鎌倉中僧徒、恣諍官位事:鎌倉中の僧徒、恣(ほしいまま)に官位を諍う事(鎌倉在住の僧侶が官位を望む事の禁止について)。年少だったり、低位の僧侶がかってに官位をもらって年長者や高僧を跳び越すようなことは、寺の秩序や仏の教えに背くものである。これは幕府付きの僧侶も同じである。
第四十一条、奴婢雜人事:奴婢(ぬひ;日本古代の賤民制度における奴隷的な賤民)や雜人の事について。右大将の時に定めたように、十年以上使役していない奴婢や雜人(身分の低い人々。下人・所従)は自由となる。次に、奴婢の子については、男子の場合は父に、女子の場合は母に属する。※今後人身売買の禁止にを延べている。泰時の、人々を見る目がわかる(人を人として扱う心意気。)しかし、現実には、寒気の飢饉の青い理による経済恐慌化では、身売りでもしなければ飢え死にする事を考える庶民が多く発生し、一時的に人身売買を許可してしまう。
第四十二条、百姓迯散時、稱逃毀令損亡事:百姓逃散の時、逃毀(ちょうき)と称して損亡せしむる事(逃亡した農民の財産について)。領内の農民が逃亡したからといって、その妻子を捕まえ、家財を奪う事はしてはならない。未納の年貢がある時には、その不足分のみを支払わす事。また、残った家族がどこに住むかは彼らの自由に任せる事。
第四十三条、稱當知行掠給他人所領、貪取所出物事:当知行と称して他人の所領を掠(かす)め給わり、所出物(年貢)を貪(むさぼ)り取る事。理由もなく他人の領地を奪い、年貢を奪う事の罪について。年貢や財産をとることは法(道理といってもいい)に違反している。年貢はすぐに返却する事。これを行った物の所領は没収する。所領を持たない者は遠流とする。また、間違って発行した土地の証明書は、以後認めない。※式目八条の『二十年たてば知行権公認』が曲解される例が頻繁に起こっていたための措置だ。罪は重くしてある。
第四十四条、傍輩罪過未斷以前、競望彼所帶事:傍輩の罪科、未断以前の所帯を競望する事(他人が裁判中の所領を望むことについて)。裁決が出る前に、敗訴しそうな者の土地を欲しがり、当事者の不利になる事を言って罪に陥司入れようとすることは許されない。裁判ではこのような、当事者以外の申し状は取り上げない。
第四十五条、罪過由披露時、不被糺決改替所職事:罪科の由、披露の時、糺決(きゅうけつ:審理を究明して、物事の正邪をただし定めること)せられず、所職を改替する事(判決以前に被告を免職することについて)。判決が出る前に被告の現職を免職してはならない。有罪・無罪を問わず、極めて不満を残すことになるからである。十分に調べてから判決を出す事。※現代の法律と同じであることに驚く。
第四十六条、所領得替時、前司新司沙汰事:所領得替(交換)の時、前司・新司、沙汰の事(国司交代時の信認国司と前任国司に関する事)。徴税は新国司の仕事であるが、その際、前任国司の私物や牛馬・家来を没収したり、恥をかかせてはいけない。但し、以前の領主が罪を犯し、解任された者である時は別である。 ―続く―