台峯の山道の途中、山崎小学校の生徒により「キンランを守りましょう」と書かれた十数枚の看板が設置された場所がある。絶滅危惧種のキンランの生息場所だ。昨年は、四月の十九日に開花していた。今年は観察するために三月末からここを三日ごとに訪れている。
ブログで前回は、これだろうかと思った蕾がキンランではないようだ。そして、四月の中旬になっても開花は見られず、四月十四日からの四日間は、雨の日が続き、例年の気温よりも下回った。二十日になり、訪れると、十五センチくらいの茎に黄色の蕾が付いた三・四本が目に付く。よく見ると、正しくキンランである。細い木や竹を使って踏まれないように目印の囲いを作った。その周りを見ると何株かが同じように蕾を見せるキンランが目に付き、キンランであることを知らせるため細い木の枝や竹で覆った。周りをよく見ると誰かが同じように踏まれないように目印として囲いを造られた形跡に気づく。同じように思う人がいることに満足しながら、キンランの発芽前の姿も見ることが出来、合わせると二十株くらい見つけることが出来た。
(四月二十日撮影)
この台峰のキンランは通常よりも少し小柄で、ニ・三十センチの茎の上に七・八ミリほどの黄色の花弁をつける。二十二日に観察に出かけると、たまたま同じようにキンランに目印の囲いをされている高齢の男性にお会いして話をすることが出来た。地元の人で犬の散歩に通られ、キンランの希少性を御存じで、踏まれないようにと構じておられた。昨年より四五日遅い開花のように思われ、
(四月二十日撮影)
キンランは低山や山地の林の中に咲くラン科キンラン属の多年草である。大きさは三十センチから七十センチで、茎先に総状花序という柄のある花が花茎に均等につくりだす。三輪から十輪くらいの黄色の花をつけ、花径は二センチぐらいで花の色は鮮やかな黄色で可憐な様相を示す。花は平に開かず上向きに開花し、下から上へと咲き、唇弁は上の唇と下の唇と分かれる。上唇には赤い斑が入り、縦長の筋がある。下唇には浅い円錐状の距になり、四月、五月、六月が開花月で、現在は絶滅危惧種に登録されている。花言葉は「眠れる才能」である。
(四月二十二日撮影)
キンランの人工栽培は非常に難しくその理由としてキンランの菌根(きんこん:菌類が植物の根に侵入して形成する特有の構造を持った共生体)への依存が高いためと言われる。菌根によりキンランの栄養分が供給されるが、その菌種は限られており、共生関係を成立する事が出来る菌がなければ生育させる事が出来ないからだ。
この台峯も平成三十一年の九月の台風により倒木など、かなりの被害を受けた。倒れた木の伐採などが冬場に行われ、少しずつ整備がなされ、昨年の秋くらいから遊歩道も整備されて以前よりも歩きやすくなった。しかし、倒木などにより日当たりが良くなり、台峯の生息場所の土壌に変化が訪れたのかもしれない。大変微妙な生育環境であるため、平成二年度には咲くキンランを見る事が出来なかったのかもしれない。
(四月二十二日撮影)
二十四日、午後から雨と言うことで、午前十時に生息場所を訪れると、その上部で十数人の声が聞こえた。キンランは先日以上に花が開いており花弁の内側にオレンジ色の模様が見える。また、目印として、細い竹枝で三角錐の様に囲まれていた。蕾が出ただけたキンランには、まだ囲まれておらず、私が目印にと囲んでいると、ヘルメットを着け作業着の老人がおりと来られ、キンランに目印をつけていたのを聞かれ、お礼を言われた。「ぷらっと台、山崎(鎌倉市山崎地区)』という名称で地域活動をされており、山崎地区の場所、お店、活動、防犯・防災等身近な話題を共有するグループである。今日は二十人ほどで、キンランの保護作業と枯れ木の伐採、雑草の刈り取りに来られていると言う。
(四月二十四日撮影)
私自身も、家族を大阪に置き、鎌倉で中世の歴史を勉強し、鎌倉の歴史や、風物詩などをブログで配信していることを伝えると、キンランの話やこの山崎の歴史についてしばらくの間、話をした。私のブログも見たいと言われたので『鎌倉散策、鎌倉歳時記』で検索を掛けると見ることが出来ることを伝えると、代表の方が、その場で携帯電話を開かれ、確認された。今日の事や、ブログに関してのことをFaceBookで出してよいかと聞かれ、支障が無い事を伝えた。このような地域活動は、核家族化、高齢化社会が進む中での地域のコミュニケーションとして有用で、災害時などで地域の共助にも役立つ。雨がそろそろ降りだしそうだったので挨拶をして住居に戻った。
(四月二十四日撮影)
昨年は、一株のギンランを見つけた。ギンランはキンランより一回り小さく、白い花弁を持つためキンランに対しギンランと呼ばれるが、キンランと同じくラン科キンラン属の多年草である。開花期は五月から六月で、唇弁の基部は筒状になっており短い距となり、先は三裂し、二個の側裂片は三角状、中裂片は舌状になり五個の淡黄褐色の蜂起線がある。
今年のキンランは昨年よりも株数が増え、まだ蕾の付かない物を合わせると三十株ほどになっており、来週の日曜日までは十分に楽しむ事が出来ると思う。ギンランを探し、また訪れるだろう。
(四月二十四日撮影)