鎌倉の浄明地区にある松久寺のイワタバコを見た後、北鎌倉に戻り東慶寺の山門の階段を上がった。晴れているが、日差しも柔らかく、気温も二十三度くらいで湿度も高くなく快適な日である。北鎌倉に来るとやはり人は多い。東慶寺は毎年五月下旬にイワガラミの拝観をしていただいている本堂裏に咲くイワガラミは見事であり、北鎌倉では東慶寺の風物詩になっていた。少しイワガラミの方が先に咲き、イワタバコはその少し後に咲く。同時期に咲くこともあるが、珍しい。
東慶寺の石段を上り山門をくぐると鐘楼がある。手前に八十センチくらいの石垣があり、ここに毎年数株のイワタバコが咲く。今年は、まだ咲いていないのかと思うと、なんと白い花のイワタバコが咲いていた。浄明寺の松久寺の管理人さんが言っていたことは事実であったのだ。数枚写真に収めているとカメラを持った人が、素通りしていく。一人のカメラを持った初老のご婦人に、「白いイワタバコをご存じですか」と尋ねると、「いいえ」と答えられたので、「ここに咲いていますよ」とお声がけさせてもらった。そうすると、来る人、来る人に尋ねられ、「白いイワタバコは珍しいですよ」と答えた。実際、野生種の白い花のイワタバコは珍しいが園芸種では購入できるようである。また、ピンクの花もあるらしい。園芸種のイワカガミは日陰と湿度を絶やさなければ、毎年花を見ることができるらしい。調べてみると鎌倉では長谷寺で見られる年もあるとの事だ。そして、本堂に上がり、本尊釈迦如来坐像に手を合わせた。
紫陽花が花をつけだしており、もう梅雨時を感じさせるが、関東地方は、まだ梅雨入り宣言がされていない。関東の気象庁も五月の十六日の週に出さなかったことで言いそびれてしまったようである。参道の傍に、どくだみ草の花も咲いていた。よく見ると八重のどくだみ草も、所々に見られた。八重のどくだみ草の花も可憐である。そして、墓地に行く道の右手の岩肌にイワタバコが多く咲いている。満開といってもよい状態だ。星形の花は、ふちが丸みを持ち可憐な表情を現してくれる。かなりの株がここ一か所に群生しており、良い形の花を選んでは写真に収めた。開花を見られるのは、後一週間ぐらいだと思う。浄明寺の松久寺は、後十日少しは、咲き続けると思われる。
北鎌倉の東慶寺、浄明寺の松久寺のイワタバコは、趣が違うので、どちらも、この時期の風情を感じさせてくれる可憐な花である。
この時期、東慶寺ではイワカガミの特別拝観があるが、今年はその気配がない。調べてみると、この拝観が無期限停止となった。理由は東慶寺のホームページより引用させていただく。
「 「イワカガミ特別公開の取りやめについて 2021年05月15日」約十五年前より続けてまいりました「イワカガミ特別公開」を、以下の理由により、本年より無期限で取りやめることにしました。
・コロナ禍により、仮設通路の設置費用が捻出困難となった
・気候不順により、開花時期の予想が難しくなった
・見学と撮影目的で来山し、本尊を参拝せず帰られる方、見学料を納められない方が毎年散見された
毎年楽しみにしておられた方々には申し訳ございませんが、何卒ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。また、草花の開花状況の問い合わせについてお願いがございます。前述の通り、気候不順で全ての草花の開花時期について、例年通りという言葉が通用しなくなってきております。五月に入りますと特にイワタバコ、紫陽花、花菖蒲について、「見ごろはいつか」「満開はいつか」と問い合わせが多くなります。涼しくなったり、暑くなったり、雨が続いたり、一週間先の状況すら我々には予想ができません。何より、この地球環境を身勝手に破壊し、気候不順をもたらしたのは誰なのか。「予想と違った」「せっかく来たのに見頃じゃなくて損をした」そのような気持ちで寺院をお参りするのではなく、お参りしたときに咲いている草花を愛でる、楽しむといった、心の余裕、穏やかさをお持ちになっていただきたく存じます。」
東慶寺としても、コロナ禍をきっかけに、「自然と人」「寺と人」との関係性を見直すことができればと思い、色々と工夫をしております。お互いに意識を高め、より良い関係性を築いていきたく、ご協力をお願い申し上げます。なお、開花した草花については、Instagramにてお知らせしております。ご参考にしていただければ幸いです。 住職 」
これを読み、本当に残念だ。しかし、ご住職の言われることは、全くその通りだと思う。いつも山門の門前に立札が置かれ、門前には当寺院は観光寺院でなく宗教施設の為、御本尊に手を合わせて、お参りくださいと記載があった。そして、昨年令和二年六月二十三日、「鎌倉散策 東慶寺 拝観無料」で記載さえていただき、昨年のコロナ禍において「杜の学校」代表矢野智徳氏の指導の下、境内の土壌と水脈の改善(大地の再生)に取り組んでおられている。「あえて雑草や落ち葉などを放置されている個所もあり、見苦しく存じますが、上辺だけ美しい庭園作りではなく、本当に豊かでたくましい自然館環境作りのための処置であり寛大な心で見守っていただければ幸いです」と、ご住職は述べられ拝観料を無料にされた。宗教施設でありながら、本尊に参拝もせず、観光地のように来られる人が多いのが目立つ。東慶寺では、本堂まで上がることができて釈迦如来坐像を間近くで参拝することができる。家族の事や自身の事、亡くなられた方がおられるなら手を合わせ、今の自分がこうして暮らしていける事に感謝を祈るべきである。また、コロナ禍において早く終息することを祈願するのも大切だと思う。またイワカガミの特別拝観が行われることを願いたい。