鎌倉散策 扇ガ谷を歩く 海蔵寺 | 鎌倉歳時記

鎌倉歳時記

定年後、大好きな鎌倉での生活に憧れ、移住計画や、その後の鎌倉での生活の日々を語ろうと思います。家族を大阪に置き、一人生活を鎌倉の歳時記を通し、趣味の歴史や寺社仏閣等を綴っていきす。

  岩船地蔵堂で両手を合わせ、再び歩き出した。JR横須賀線の高架をくぐり、閑静な住宅街の緩やかな坂道を歩く。途中、化粧坂、銭新井弁天方面の道標を横目で見ながら、真直ぐ参道へと足を進めた。

海蔵寺(かいぞうじ) 

宗派:臨済宗建長寺派。 山号寺号:扇谷山(せんごくざん)海蔵寺。 建立:応永元年(1394)。

開山:心昭空外(源翁禅師:げんのうぜんし)。 開基:上杉氏定。 本尊:薬師如来。

寺宝:嘉元四年銘(1306)銘の阿弥陀三尊来迎図板碑、木造大形故位牌、狩野探信筆 雲流・山水の図、藤原義信筆 牡丹唐獅子図

 建長五年(1253)宗尊親王の命で藤原仲能が本願主となり、七堂伽藍を持つ規模の大きい真言宗の寺があったと伝えられているが、鎌倉幕府滅亡時にその多くが焼失した。その後、海蔵寺は、応永元年(1394)に鎌倉公方足利氏満の命で、上杉氏定がその真言宗の寺であった跡地に心昭空外を招いて再建され、扇ガ谷上杉氏の菩提寺となり保護を受けて栄え、天正五年(1577)、建長寺に属し現在に至っている。

 空外は「那須の殺生石」の伝承で有名で、鳥羽天皇が那須で殺させた鳥羽天皇が奇怪な病気に悩まされた原因が寵妃玉藻(たまも)の前に化けた白狐に仕業と解り、白狐は東国下野に逃走し、三浦義明により那須野原で成敗させた。その白狐は石となり、この石に触ったものは死んでしまうという祟りで恐れられていた。空外こと源翁禅師が経を唱え、持っていた杖で石を叩くと砕け散り、白狐の霊は成仏したという。金槌を別名、玄能と言うのは源翁に由来すると言われている。

 また、この寺院にも伝承があり、仏殿に安置された薬師如来像、別名「啼薬師」「児護(こもり)薬師」と呼ばれている。創建当時、寺の裏山から毎夜悲しげな赤ん坊の泣き声が聞こえ、啼き声を源翁禅師がたどっていくと、金色の光と甘い香りが漂う古い墓石があった。経を唱え、墓石に袈裟をかけたところ鳴き声はやんだ。翌日その墓石を掘ってみると、地中から薬師如来像のお顔が現れ、新たに作った薬師如来像の胎内にそれを収められた。体内の蔵を拝観できるのは六十一年ごととされている。

 源翁禅師は越後に嘉暦四年(1329)生まれ、五歳で越後の陸上寺(真言宗)で小僧となり、十六歳で得度し、他宗の教義も得たいと考え諸国行脚、十八歳で曹洞宗に改宗、能登の總持寺二世、峨山韶碩に師事する。四十七歳の時に福島会津の真言宗の慈眼寺を曹洞宗に改宗して示現寺と改め、その後諸国寺院の曹洞宗改宗を行う。建長寺の大覚禅師に参禅・就学、その後海蔵寺再建のおり開山に迎えられた。この件につき年齢年譜を見て疑問を持つ点が多い。心昭空外は蘭渓道隆(大覚禅師)五世の孫と言われる。一方、殺生石伝説の源翁禅師は曹洞宗の僧で、大覚禅師に帰依して臨済宗に改めたと言われ、大覚禅師に送られた諡(おくりな)が空外だったという説がある。源翁禅師は応永七年(1400)に七十七歳で入滅され、墓は曹洞宗、示現寺にある。

 海蔵寺は鎌倉有数の花の寺で、春には境内の海棠の花が咲き、秋には参道を覆う紅白のハギが見事に咲く。一年を通し花が絶えることなく、季節ごと花の盛りを迎える事が出来る。また、江戸時代に建てられた茅葺の庫裡は、鎌倉の寺院の庫裡建築を代表するもので、歴史的価値が高い。本堂の裏にはよく手入れされた心字池の裏庭があり(非公開)山肌から湧き出る清水が注ぎ込まれている。門前には、「千代能が、いただく桶の 底抜けて 水たまらねば 月もやどらず」と歌われたと伝えられる「底抜けの井」や、鎌倉時代の遺跡である「十六の井」もあり、現在もきれいな水がわいている。水の寺とも言われている。底抜けの井は、鎌倉十井の一つです。中世の武将の安達泰盛の娘・千代能が、ここに水を汲みに来た時、水桶の底がすっぽり抜けたため、「千代能が、いただく桶の 底抜けて 水たまらねば 月もやどらず」と歌ったことから、この名が付いたと言われています。井戸の底ではなく、心の底が抜けて、わだかまりが解け、悟りが開けたという投機(解脱)の歌である。千代能は悟りを開き無着如大と言う尼僧になった。また、上杉家の尼僧が修行中に同じような体験をし、「賤(しず)の女がいだく桶の底抜けた身にかかる有明の月」と歌っている。有明の月とは陰暦十六日以降、夜が明けても、空に残っている月。ありあけづき、ありあけづくよ、ありあけとも言う。季語は秋を指す。また、本堂左手道筋の崖下には、鎌倉期様式のやぐら(洞穴)に清水をたたえた「十六の井」があるまさしく水の寺でもある。

 もう海蔵寺に来たのは何回目だろうか、春の初めて見た海棠の花、夏の京鹿子(きょうがのこ)、桔梗と芙蓉、秋に紫に咲く竜胆(りんどう)とハギ、冬の水仙。何度訪れても飽きない。庭に置かれた赤傘がいつ来ても咲く花と同じように咲いている。