ぼんぼり祭、黒地蔵縁日の日以来、久しぶりに鎌倉市内に出て、カレー南蛮を食べた。市内に行くと必ず、本屋さんによって鎌倉の歴史、エッセイ、ガイド本をチェックする。鎌倉に来てちょうど三ヶ月が過ぎ、ようやく生活にも慣れてきた。昔から読書は好きで、就寝前には、一時間くらい毎日本を読んでいた。あらゆるジャンルの本を読んできたが、鎌倉に来てから二ヶ月ほど全く読む気になれなかった。環境の変化、一人生活の不安、掃除洗濯、御判の準備、生活の快適性など色々と考えたりしているうちに眠ってしまう。疲れていたのだ。
梅雨入り後、次第に慣れて来たのか、森下典子さんの「好日日記」を読み始めた。十年ぐらい前「デジデリオ―前世への冒険―」を読み、初めて森下さんを知った。その後、渡辺健さんの娘さんの、杏さんがテレビドラマで主演して、すごく面白かった。他に作品はないか調べると、「日日是好日―『お茶』が教えてくれた十五のしあわせ」を読み、また、まったく別のジャンルで、まったく別の意味で感動し、お茶にも興味を持った。映画にもなったが、映画の方は私自身、そう良い作品ではなく感じた。この作品の大きな特徴として、お茶の先生が、そんなに美人ではないが、こぎれいな人で、人には群れない、お辞儀の仕方に筋が通り、あんな綺麗なお辞儀をする人はいない、只者ではないという感じを耐える設定である。人それぞれ感じ方が違うと思うが、この本の面白さは、この先生であると思う。普通の人であるが、お茶の先生、礼儀作法について厳しく、また人に対し、細やかな優しさがある。
「好日日記―季節のように生きる」が出ていることを知り、買い求め読みだした。これもお茶を通し二十四節気ごとに森下さんの感じたことを書いたものである。一日ごと迎えることの喜び、一日ごと良い日と感じる事、そして月、年を迎える喜びを感じさせてくれる作品である。お読みになっていない方は一度読まれてはと思います。私のお茶は鎌倉在住であった小説家の立原正明さんのように、茶碗に茶杓で抹茶を入れ、やかんからの湯を茶碗に入れて、茶筅で点てる立原流である。
この様にお茶の話を記載すると甘いものを食べたくなる。酒も飲むが、甘いものも大好きな人間で、カレー南蛮を食べた後、和田塚の無心庵に行ってクリームあんみつが食べたくなった。以前、妻と来たが、男一人で入るのも恥ずかしく、だけど美味しい物には負けてしまい店に入った。鎌倉在住の方はほとんど知られている店で、江ノ電の線路を渡って入らなければならない店であり、甘味を味わっているときに江ノ電が通過する。それに違和感がなく、鎌倉らしい店であることが面白い。
お品書きは、豆かん、みつまめ、安美津、おしる粉、白玉ぜんざい、黒ごまきな粉、いそべ・あべ川、アイスクリーム、抹茶、夏場はかき氷もある。軽食もあり、窯上げ桜エビ御膳、山菜御膳、じゃこ御膳、ひじき御膳などがある。クリームあんみつがを食べながら、小さな庭に赤い日傘が置かれ、その向こうに江ノ電がゆっくり通っていく。いつまでも見ている私にもゆっくり時間が通り過ぎて行った。