2017年に「未来の年表」の本を出した「河合雅司(かわい・まさし)」さんの著作「縮んで勝つ」の本が発行されました。私は、彼の一連の著作はほぼ読んでいます。「人口減少の日本でこれから起きること」のテーマは一貫して変わりません。
2017年に彼の人口減少に対する危機感、その処方箋は、今でも変わりません。一層深刻化したと言っていいでしょう。
まず、最近の新聞記事から。
(8月31日 日本経済新聞)
「出生数最少、5.7%減35万人」
~年70万人割れの恐れ~
「厚生労働省が8月30日発表した1~6月の人口動態統計によると、出生数が前年同期比 5.7%減の 35万74人だった。3年連続で 40万人を下回り、上半期として比較可能な1969年以降で最少を更新した。24年は年間の出生数が初めて 70万人を割り込む可能性も出てきた。」
次は、2017年9月17日「朝日新聞」読書欄・「未来の年表」の書評から(抜粋)。
「砕かれる楽観 明快な処方箋」
「少子高齢化社会で日本の人口は減っていく。今さら改めて言われなくても、日本人なら誰でも知っている話だ。とはいえ、そうは言っても何とかなるだろうと楽観的に考えている人も少なくないのではないか。」
「ところが本書を読むと、そういう楽観の数々は徹頭徹尾、ことごとく打ち砕かれる。著者は”今後の日本の高齢化社会とは、『高齢者』の高齢化が進んでいく社会でもあるのだ”と書く。」
「現状は都市に人口が集中し、地方の過疎化が問題視されているが、東京でさえも25年をピークに減少に転じる。そして地方のひとり暮らしの高齢者が東京に流入するようになり、東京の福祉は崩壊に瀕する。」
「このような数字が次々と提示され、頭がクラクラとしてくる。・・・最後に明快かつリアリティーを持った処方箋が提示されている。サービス過剰な”便利過ぎる社会”から脱し、非居住エリアをきっちり定めてコンパクトシティー化を進める。遠く離れた自治体の大規模合併も考え、市町村単位の生き残りは求めない。国際分業を徹底し、よけいな産業は捨てる。都市と地方を移動しながら暮らすライフスタイルを定着させる。」
※「未来の年表」は、ブログ2017年10月2日「未来の年表」(テーマ別:書評)を参照にしてください。関連して、2023年1月26日「未来の年表 業界大変化」・2018年6月9日「未来の年表2」(テーマ別:書評)も参照にしてください。
この「縮んで勝つ」は、基本的に一連の「未来の年表」と変わりがありません。
「縮んで勝つ」 ~人口減少日本の活路~
河合雅司(かわい・まさし)著。2024年8月6日発行。小学館新書。950円+税。
本の紹介から(「小学館」のHPより)。
「”直近5年間の出生数は毎年 4.54%ずつ減少”ー。このペースで減り続ければ、日本人人口は 50年で半減、100年後は8割減となってしまう。もはや少子化を止めることはできず、日本社会の激変は避けられない。”不都合な現実”に対し、われわれはどうすべきか。」
「日本社会が目に見えて崩壊を始めている。要因は、言うまでもなく人口減少だ。 ところが、政府も地方自治体も対応がことごとく後手に回っている。的を射ていない対策が幅を利かせ、効果が表れるどころか、むしろ状況を悪化させる政策も目につく。 もはや、日本の人口減少は止めようがない。100年もすれば日本人は8割近くも減る。本来、政府が取るべき政策は、この不都合な現実を受け入れ、人口が減ることを前提として社会を作り直すことである。 日本という国家が残るか消えるかの瀬戸際にあるのだ。われわれは大一番に打って出るしかない。」
「答えは、人口減少を前提とした社会への作り替えだ。」
「独自の分析で四半世紀前から警鐘を鳴らし続けてきた人口問題の第一人者が”縮んで勝つ”という『日本の活路』を緊急提言する。」
この本の巻頭に折込の図があります。衝撃シミュレーションです。
第1部「100年で日本人8割減」は、この図を参照にしてください。
第2部「見えてきた日本崩壊の予兆」は、これまでの「未来の年表」を総括したものとなっています。例えば・・・、
「過疎化の進む地方では、ローカル線の利用者が減って赤字が深刻化しているが、これは日本崩壊を警告するシグナルの典型だといえよう。」(p44)
「鉄道と並び、地域の足として最も身近な存在である路線バスも廃止や減便が広がっている。これも日本崩壊の始まりを端的に示している。」(p51)「路線バスが縮小に追い込まれている根本原因は人口減少による利用者不足であり、運転手不足は二次的な理由だ。」(p58)
「いまの航空業界はパイロット、整備士、空港業務従業員のすべてが不足する”三重苦”にある。」(p65)
「人口が激減する日本においてはユニバーサルサービスの維持は極めて困難である。人口は全国一律に減るわけではなく、減少が激しくなるほど地域偏在は拡大する。すなわち、郵便事業が採算割れする過疎エリアは拡大の一途ということだ。」(p81)
「今後は、給水人口や人口密度の低い事業体ほど(水道)料金の値上げ率は高くなりやすい。・・・給水人口規模が小さくなるほど 50%以上の高い率での値上げが求められると予想している。」(p89)
「日本全体として出生数が激減するのに、(学校は)他地域の生徒を奪い合っても長続きしない。自治体が”消滅”の危機にあるのだ。高校だけを残しても意味がない。」(p97)
「(2023年10月時点で)国内の住宅総数に占める割合(空き家率)も過去最高の 13.8%を記録した。・・・空き家は今後、さらに増える見通しである。野村総合研究所は 2043年には空き家率が 25.3%に上昇すると試算している。」(p112,123)
「今後まず取り組むべきは、空き家を必要以上に生み出さないよう家の建てすぎをやめることだ。税制をはじめ供給過剰の解消を促す仕組みづくりが急がれる。」(p129)
「人口減少社会においては、空き家の増大やマンションの老朽化といったひとつひとつの課題への対応だけでなく、”住宅弱者”である高齢者の住まいをどうしていくのかという視点を持って根本的な対策を考えなければならない。」(p137)
「日本の2022年度の食料自給率はカロリーベースで 38%、生産額ベースでも 58%に過ぎない。・・・世界人口は爆発的な増加を続けており、各国の食料争奪戦は激化している。一方、人口減少が続く日本の購買力は低下してきており、すでに一部の商品では外国に”買い負け”する場面が見られるようになった。」(p139)
「日本農業の最大のウイークポイントは農業従事者の先細りである。担い手の激減という難題を解決することなしに、日本の食料安全保障は見えてこない。農業の担い手不足は危機的だ(2023年の基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳)。・・・多くの人は意識していないだろうが、日本人は”飢餓”と隣り合わせなのである。」(p142)
「70代後半や80代の人にとって買い物をめぐる『環境』がどんどん悪化してきている。悠々自適な老後のつもりが、食料を求めての“サバイバル戦”を余儀なくされる。そうした人々が増えるのも人口減少社会のリアルだ。」(p152)
「現役世代への過度な『しわ寄せ』は是正すべきではあるが、どの年齢層もゆとりのある人は多くはない。その中で世代間の負担の押し付け合いをしても根本解決にはつながらない。・・・『資産運用立国』を否定するつもりはないが、日本社会は少し年を取りすぎた。社会保障制度改革の本筋は経済成長である。」(p171,172)
長くなって申し訳ございません。ここまで書いてきて、日本の人口減問題がいかに深刻かが分かりました。悲観的な問題が多くて嫌になります。
第3部「人口減少を逆手に取る」では、処方箋が述べられています。
「人口減少が進んでも日本が豊かさを維持するには、世界と『勝負』できる分野において”圧倒的な優位性”と”存在感”を示し続けることだ。(これを”戦略的に縮める”という成長戦略)」(p177)
「人口減少が止まらない中で、地域を生き残らせるにはどうすればよいのか。最大のポイントは、暮らしていくのに必要な商品やサービスを提供する事業者が立地し続けられる程度の商圏規模(消費者数)を維持することだ。・・・エリアごとに人口を寄せ集めて、いくつもの『生活圏』をつくる”多極集住”の国土形成が求められる。」(p181)
具体策として、「七つの活路」を示しています。ここでは見出しだけを紹介します。
1.外国人依存から脱却せよ
2.女性を「安い労働力」から「戦力」に転換せよ
3.「従業員1人あたりの利益」を経営目標とせよ
4.商品を高付加価値化せよ
5.中小企業も独自に海外へ進出せよ
6.全国に 30万人規模の「独立国」を構築せよ
7.「地域」を戦略的に縮めよ
「活路の先にあるのは『戦略的に縮む』という成長モデルの成功である。人口が激減する日本は、このままでは国家として存続できないほど縮小する。そうした状況下でいま以上に豊かな社会を築くためには、もはや『縮んで勝つ』という起死回生策しかない。」(p234)
著者が言っていることは分かります。でも、正直、できる具体策がありません。個人・個人でどうしたらいいのか? 現役世代でない私にできることはあるのか? 人様に迷惑がかからないように生きていくしかないのか?
政府を変えるしかないのか。その政府は「結婚を機に東京23区から地方へ移住する女性に最大60万円を支援する制度を検討したが、事実上撤回された」という。何を考えているのでしょうか。自民党総裁選、立憲民主党の代表選があるけど、相応しいリーダーは見当たりません。