【報告】清水雅彦講演「殺し殺される」自衛隊へ~解釈改憲が戦争につながるカラクリ
集団的自衛権で「殺し殺される」自衛隊へ~解釈改憲が戦争につながるカラクリ
清水雅彦講演
6月7日、講演会 集団的自衛権で「殺し殺される」自衛隊へ~解釈改憲が戦争につながるカラクリを行いました。講師は清水雅彦さん(日本体育大学教授)。安倍首相が今国会中の「集団自衛権行使」の閣議決定を指示したことが報道される中での開催。
清水さんは「安倍政権の下で、「戦争する国」への道が着々と進んでいる。昨年は国家安全保障会議設置、秘密保護法制定、国家安全保障戦略の決定などが行われた。
自民党の集団的自衛権行使解禁論には明文改憲、立法改憲、解釈改憲がある。
明文改憲は「日本国憲法改正草案」(12年4月)。9条の2を新設し国防軍が個別的自衛権と集団的自衛権を区別しない自衛権を行使する。
立法改憲は自民党の「国家安全保障基本法案」(12年7月)。第10条に集団的自衛権行使の規定がある。
解釈改憲が「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書。
同懇談会は第1次安倍内閣が07年設置、4類型についての解釈改憲の報告書を08年に出した。米国を攻撃するような国があるとは考えられないし、米本土攻撃のミサイルは日本上空を飛ばない。荒唐無稽な想定。
安保法制懇は第2次安倍政権で再開、5月15日に報告書提出。日本近隣での有事の際の臨検・米艦等への攻撃排除など、できなかったことを憲法解釈変更でやろうとしている。
◎ゴールは自民党改憲案
政府は、与党協議会に追加事例(全体15事例)を提示。5月28日・29日の国会で安倍首相は、邦人不在の米艦・米国外の艦船も防護可能性、武力行使の一体化論の見直しの姿勢を示し、「あらゆる事態に対して対応できる可能性、選択肢を用意するのは当然」と答弁した。
閣議決定後、実際に集団的自衛権を行使するために、臨時国会以降に16の法律と2の協定を「改正」しようとしている。
解釈改憲のゴールは自民党改憲案。主語が「日本国民は」から「日本国は」へ変えられ、人は個人として尊重されず、義務規定が拡大され、平和的生存権は削除される。
9条解釈についての憲法学界の多数説は、9条2項による全面放棄説で、1項と2項によって自衛隊は違憲だという説。少数説には、限定放棄説、つまり自衛隊は合憲だという説もある。
私などは9条1項全面放棄説。そもそも9条1項で、自衛隊は違憲だという学説に立つ。
政府解釈は、2項の「戦力」とは「自衛のための必要最小限度の実力を超えるもの」で自衛隊は「軍隊」ではないと解釈。安倍政権は、長年の集団的自衛権行使は憲法上許されないという解釈を解釈改憲で変えようとしている。
国連憲章と日本国憲法の平和主義には相違点がある。国連憲章51条の考えは集団的自衛権。NATOやワルシャワ条約機構など軍事同盟が成立することになった。国連憲章42条の考えは集団安全保障。国連軍により国際社会が軍事力で平和を守る考え。
国連憲章2条4項は武力による威嚇と武力行使を「慎まなければならない」。
本国憲法9条1項は、武力による威嚇と武力行使を「永久にこれを放棄する」。
アメリカによる1958年レバノン、1965年ベトナム、1988年ホンジュラス、1990年ペルシャ湾地域。ソ連・ロシアの、1956年ハンガリー、1968年チェコスロバキア、1980年アフガニスタン、1993年タジキスタンという集団的自衛権行使の実態を見れば、主に大国が小国へ侵攻・侵略を正当化するために「行使」されている。
◎集団的「自衛」権は「侵略」権
安倍首相は「最高責任者は私だ。選挙で国民から審判を受けている」(2月12日)と発言。政府による解釈変更は立憲主義の否定。
1954年参議院では自衛隊海外出動禁止決議があり、解釈改憲は憲法41条の国会の国権の最高機関性にも反している。
しかも、自民党は2013年参議院選挙は集団的自衛権は公約していない。
解釈改憲は憲法96条、「人類普遍の原理」(前文1段)、基本的人権の永久不可侵性(11条、97条、99条(公務員の憲法尊重擁護義務)に反している。
安保条約上も問題がある。日米安保6条=アメリカへの基地提供規定は5条のアンバランスを補う規定。NATO、米韓相互防衛条約、米比相互防衛条約などは集団的自衛権を規定している。日米安保条約を改正しないと日本は集団的自衛権行使ができないはず。
集団的「自衛」権とは、実際は「他衛」権、「侵略」権。
安倍首相が提唱する「積極的平和主義」は日本国際フォーラム(安倍首相が参与)2009年提言で提唱されたもの。狙いは対米追随から日米対等・対米自立へいくこと。
日本国憲法には、二つの平和主義がある。憲法9条は「消極的平和」の追求、暴力(戦争)のない状態をめざす。憲法前文は「積極的平和」の追求、構造的暴力(国内外の社会構造による貧困・飢餓・抑圧・疎外・差別など)のない状態をめざす。2つの平和主義を追求していく。
そのためにも、安倍政権の「集団的自衛権」の閣議決定にさせない運動をしていかなければならない。
質疑応答では、「戦争をさせない1000人委員会」の事務局長代行を務める清水さんは昨年の秘密保護法反対運動と比較して、統一集会がまだ実現できてないことなど反対運動の課題を指摘。
仮に閣議決定されても法律を制定しなければ、実際に行使はできないので、運動はこれから。86年ダブル選挙で300議席を取った中曽根政権も、反対の声によって国家秘密法制定、靖国参拝はできなかったと、いろんな形で声を上げていく必要性を強調。
12日、17日など予定されている集団的自衛権反対の一連の行動への参加を呼びかけた。
講演記事は新聞テオリア第22号=2014年7月10日に掲載予定。
講演会 集団的自衛権で「殺し殺される」自衛隊へ
国連・憲法問題研究会講演会
集団的自衛権で「殺し殺される」自衛隊へ
解釈改憲が戦争につながるカラクリ
講師 清水雅彦さん(日本体育大学教員、憲法学)
日時 6月7日(土)午後6時半~9時
会場 文京区民センター3階C会議室
(春日駅・後楽園駅)
http://www.cadu-jp.org/notice/bunkyo_city-hall.htm
参加費 800円(会員500円)
連絡先 東京都 千代田区内神田1-17-12勝文社第二ビル101研究所テオリア
TEL・fax03-6273-7233
email@theoria.info
集団的自衛権解禁を内閣の最大の政治課題と位置づける安倍政権は、集団的自衛権行使を「合憲」とする解釈改憲をめざしています。安倍の「お友達」ばかりを集めた私的諮問機関に過ぎない安保法制懇の報告を根拠に、「限定行使は合憲」という詭弁で集団的自衛権行使に踏み切ろうとしています。
集団的自衛権行使とは、海外での紛争・戦争に自衛隊が参戦することを意味します。石破自民党幹事長は集団的自衛権によって自衛隊が「地球の裏側」まで行く可能性を否定していません。理由として挙げられるミサイル対処などの集団的自衛権の事例に対しては、改憲論の学者、政治家の中からも現実離れした想定として疑問の声が上がっています。
集団的自衛権解禁とは、日米安保が米英型の軍事同盟に変わることを意味します。安倍政権は「集団的自衛権解禁」に続いて、年末には日米の新ガイドライン(防衛協力指針)を決定し、米軍と共に戦争する体制をつくり上げようとしています。「大量破壊兵器の存在」というでっち上げの理由で起こされたイラク戦争では10万人以上のイラク民衆が殺され、米軍と共に戦争してイラクの国民・軍人を殺傷した英国など多国籍軍は兵士数百人が戦死しました。集団的自衛権行使とは、海外まで「敵」を殺しに行くことによって自らも殺される関係になるということです。「専守防衛」を掲げてきた自衛隊が海外で「敵」の民衆・軍人を殺傷する「殺し殺される」軍隊へと変質することを意味します。
安倍はこれほど重大な決定を「最高責任者は私だ」「私が決めます」と、閣議決定のみで決定しようとしています。立憲主義を完全に空洞化し、「法の支配」から人治の政治へと変えよしているのです。
「解釈改憲が戦争につながるカラクリ」について、清水雅彦さんに話していただきます。
清水雅彦(しみず まさひこ) 日本体育大学教授、憲法学。著書に『憲法を変えて「戦争のボタン
」を押しますか?』(高文研)『秘密保護法は何をねらうか』(共著、高文研)『21世紀のグローバ
ル・ファシズム-侵略戦争と暗黒社会を許さないために』(共著、耕文社)『治安政策としての「安
全・安心まちづくり」』(社会評論社)『「改憲」異論⑤ 住民自治・地方分権と改憲』(共著、現
代企画室)『戦争する国へ有事法制のシナリオ』(共著、旬報社)、ほか
報告・表現の自由を守るためヘイトスピーチ処罰を
講演会「表現の自由を守るためヘイトスピーチ処罰を」
5月10日、国連・憲法問題研究会講演会「表現の自由を守るためヘイトスピーチ処罰を」を行いました。
講師は前田朗さん(東京造形大学教授)。
1月の安田浩一さん講演会「レイシズムと安倍政権」での「ヘイト・スピーチは言葉の暴力ではなく、暴力そのもの。規制が必要」という提起を受けて、「ヘイト・スピーチ処罰」を取り上げました。
前田朗さん講演
前田さんは「在特会現象と『表現の自由』をどのように考えるか。日本の政治決定エリート自身がレイシスト。レイシズムが近代日本史に構造的に組み込まれている。
多くの憲法学者が憲法第21条の表現の自由を理由にヘイト・スピーチに反対している。問題設定が間違っている。表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを処罰する必要がある。
浦和レッズ事件の報道を滞在していたジュネーブで見て笑ってしまった。あれが世界の常識。億単位の損失になる無観客試合は重い処罰。
表現の自由を理由にヘイト・スピーチ処罰に反対している憲法学者はなぜこれに黙っているのか。
「Japanese Only」は『朝鮮人ぶっ殺せ』より穏やか。Japanese Onlyという横断幕がいけないのなら、なぜ『朝鮮人殺せ』というのが許されるのか。
ヘイト・スピーチはヘイト・クライム(憎悪犯罪)。ヘイトスピーチは差別・扇動・迫害。
人種差別撤廃条約は人種差別の定義を定めている。
人種差別撤廃条約第1条1
「この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。 」
マスコミは日米にはヘイト・スピーチ処罰がないという。欧米にはいずれもヘイト・クライム法がある。アメリカは「暴力を伴うヘイト・クライムを処罰」。英国・欧州諸国は「暴力を伴わないヘイト・スピーチ」も処罰している。全く法律がないのは日本だけ。
ヘイト・スピーチという言葉は条約や法律にはない。
ヘイト・スピーチはヘイト・クライムの一部。「人種的憎悪の唱道」(国際自由権規約20条2項)「人種的憎悪の流布、人種差別の煽動」(人種差別撤廃条約4条)がヘイト・スピーチに当たる。
日本の人種差別が国連人権機関で問題になったのは、2000年の石原「三国人発言」。
知事の差別扇動に関して差別撤廃を求める国連に対して、日本政府は「知事に差別の意図がないから差別ではない」と、今も国連勧告を受け入れないまま。
「憎悪のピラミッド」
「憎悪のピラミッド」の一番下が偏見。その上に偏見による行為、差別、暴力行為。一番上はジェノサイド。
人間が偏見をなくすのは至難。しかし、差別を放置することは暴力行為、ジェノサイドにつながる。憎悪のピラミッドを積み上げさせないために、差別を処罰する必要がある。
ヘイト・クライムには差別表明型、名誉毀損型、脅迫型、迫害型、ジェノサイド扇動型、暴力付随型がある。
処罰できなければジェノサイドにつながる。戦前の日本は朝鮮半島でたくさん朝鮮人を殺している。
ヘイト・クライムは直接のターゲットだけが被害を受けるのではない。経済的被害、PTSDもある。
民主主義国家ではヘイトピーチを処罰する。私は100カ国以上の法律を調査したが、50カ国以上に処罰法がある。EU諸国は全て処罰法を持っている。その多くは刑法典に規定された基本的犯罪。
国際人権法はヘイト・スピーチ処罰を要請している。国連人権機関(国連人権委員会、人種差別撤廃委員会、国連自演権理事会、社会権規約委員会など)からは何度もヘイト・スピーチ処罰の要請が日本政府に行われている。
「表現の自由」を口実に処罰を拒否する日本政府、それを支える憲法学者がいる。
表現の自由とヘイト・スピーチ規制は二者択一ではない。憲法13条、14条に基づけばヘイト・スピーチを処罰すべき。
ナチスドイツ、ルワンダ、コンゴでは「表現の自由」で虐殺が行われた。
人間の尊厳を守るため、表現の自由を守るため、ヘイト・スピーチを処罰する必要がある。
ヘイト・スピーチ法制定を
ヘイト・スピーチ対策としては、包括的な人種差別禁止法、市民的対抗と抑止、ヘイト・スピーチ規制法が必要。
日本では、そもそも差別禁止法がない。何とかしないといけない。女性差別撤廃条約を批准したときも、女性差別禁止法を作らず、均等法でごまかした。
現在ヘイト集団と同じことを言っている連中が政権の座についている状況で法律制定の見込みはない。ヘイト団体の禁止も難しい。
当面は刑罰抜きのヘイト・スピーチ法を制定させて、民事訴訟・行政訴訟がやりやすくなるようにしなければいけない。
もうひとつは、公共施設を人種差別団体の集会の会場に貸さない。人種差別団体に行政が便宜をはかるのをやめさせることが必要。
質疑応答では参加者から、なぜ憲法学者はヘイト・スピーチ規制反対なのか、在特会と公安との関係などの質問、私たちはどうするべきかについての意見などが出された。