第56集 歴史認識の欠如した改憲はアジアの緊張を高める
国連・憲法問題研究会報告第56集
歴史認識の欠如した改憲はアジアの緊張を高める
内田雅敏
2014年2月発行
500円
■秘密保護法を制定し、「戦争する国」へ突進する安倍政権は、憲法全面改悪にさきがけ、立憲主義を否定する96条改悪、解釈改憲による集団的自衛権行使を目指している。戦後補償、靖国問題に取り組んできた内田雅敏さん(弁護士)が安倍自民党の異質な改憲論の危険性、改憲をストップするための課題について講演。
◎目 次
改憲が政治日程に/中曽根演説と日中共同声明/安倍自民党の異質な改憲論/韓国憲法に対応する憲法前文/戦死者の独占が靖国の生命線/ソウル高等法院決定をどう考えるのか/死者への思いと歴史に向き合う目/同級生からの手紙/理念を捨てるのか近づけるのか
○質疑応答
○資料
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【報告】講演会「レイシズムと安倍政権-なぜ隣人を「憎む」のか」
1月18日、講演会「レイシズムと安倍政権-なぜ隣人を「憎む」のか」を行いました。
講師はジャーナリストの安田浩一さん。
「在特会」を取材した『ネットと愛国』(講談社、12年)で知られる安田さんは最初に結論として、「ヘイトスピーチは犯罪。言葉の暴力とは言わない。暴力そのもの。規制が必要」と強調した。
安田さんは「18日昼、在特会の日韓断交・在日朝鮮人を追い出せ六本木デモを取材した」
「これに対してカウンターの人たちが抗議したが、機動隊がヘイトデモに近づけさせない。
一部からは、在特会と同じように口汚く相手を罵っている見られるカウンターだが。同じようなデモを一緒に取材したフランス人ジャーナリスから『日本のカウンター行動はおとなしい。フランスなら物が飛んでいる』と言われた」
「いま機動隊が在特会のデモを囲んで、カウンターをデモに近づけさせない。社会を守るべき警察が在特会を守っている。守られるのは、傷つけられる人、社会であるべき。どっちもどっちではない。不均衡な状態」
「外国人労働者(中国人実習生)の取材を長年している。日本の地場産業は彼らの労働なくして成り立たないのに、彼らは時給250円300円で働かされ、労働者としての権利が保障されていない。
警官による中国人労働者射殺事件の宇都宮地裁での裁判(06年)で、「不逞シナ人を射殺せよ」と叫ぶ「ネット右翼」(その後在特会に合流)を初めて見た。
その後、「在特会」が結成され、韓国人を追い出せとデモを始めた。
雑誌に載せてもらおうと持ち込んだが、右の雑誌からも左の雑誌からも断られた。左派・リベラルと見られている雑誌の編集者から『あいつらはバカだから、取り上げると認知することになる』と言われた。保守雑誌からは『あいつらは保守じゃない』
メディアが放っている間に、発足時500人だった「在特会」の会員が現在1万5千人まで拡大している。メディアの責任は大きい」
ヘイトスピーチの動画を5分間上映した後
安田さんは「朝鮮人を殺すと鶴橋大虐殺の演説をしていた女性は中学2年生。
鶴橋のデモを取材した後、一緒に取材をしていた在日の女性ライターに『あなたの映像や名前が出なくよかったね』と言った。
彼女は泣き出し『ずっと私のことが言われていた。「朝鮮人を殺せ」「朝鮮人は出て行け」「朝鮮の女はレイプせよ」というのは全部私のことや』と。私は鈍感だった。」
「ヘイトスピーチは憎悪表現と訳されているが、差別煽動表現だ。
私はネット上で「死ね」とたくさん書かれていて、私は言い返すことが出来る。
だが、マイノリティは「死ね」と言われたら、沈黙を強いられる。
安田さんは在特会が主張する「在日特権」がいかに根拠のない荒唐無稽な主張かを説明した後
「民族教育では、日本の行政エリートが在特会に呼応して、朝鮮学校への自治体補助金打ち切りを行っている。民族教育のために税金が使われるのは当然。在特会でも、我々の税金で教育を受けているのだから。
在特会の中には、生活保護費3兆円のうち2兆3千億円が在日に支給されているなどという『在日特権』がデマであることを知りながら、拡散しているのもいる。それを読んで、『正義感』から活動に加わるのもいる」
「彼らは、自分たちは奪われてきたと考えている。
彼らの攻撃対象は左翼、メディア、公務員。運動ができるのは、余裕があるエリートと思っている。
取材を始めた頃、秋葉原の在特会本部で広報担当は『私たちの運動は階級闘争だ』と言った。労働運動やマスコミは特権階級。自分たちは左翼のエリートの運動とは違うと。
在特会支部関連団体の預金通帳を見たが、5百円、8百円というカンパが毎日振り込まれている。財政的には理想的。労働組合で講演すると、必ず『金の出所はどこか』と聞かれる。そう考えているかぎり、この運動の根幹はつかめない。
背景として言うなら、わたしたちの社会の抱える右傾化と排外主義的な気分。彼らは自分たちが被害者だと思い込んでいる。
彼らが敵としているのは在日コリアンではなく、戦後民主主義という空間。
在日の次の敵はメディア。
11年8月、フジテレビデモに6500人が集まった。彼らにとって、3大アカ・メディアはフジテレビ、NHK、朝日。彼らにとってのメディアはインターネットしかなかった。
国連人種差別撤廃委員会が京都朝鮮学校襲撃事件を『由々しき事態』とする見解を出した。これに対して在特会は直ぐに英文で、自分たちはアパルトヘイト体制で権利を奪われた原住民で、少数派の在日コリアンに奪われている文書を出した。
参政権すらない在日コリアンがどうして、特権者なのか。
このような差別は新しい現象ではない。朝鮮人に対する差別と偏見を日本社会はずっと抱えてきた。差別はリニューアルを繰り返して、このような形になった。
在日などマイノリティに対する『上から見下す差別』は昔からある。
在特会は『下から見上げる差別』。彼らは差別の新しいスタイルを生み出した」
安田さんは、在特会会員の若者として2人の例を紹介。1人は、格差・貧困問題への関心から新左翼党派のシンパになり、学習会しかしないので、在特会広島支部に入り、原発容認に疑問をもらしたら、追い出された青年。
「在特会は醜悪な組織だが、在日コリアンも外国籍もいる。貧困問題に関心を持つ青年を受け入れている。今日も明日も新しい会員が入っている。
在特会に入っていく彼らを引き入れていくようなところが他にあったのか。日本社会の怠慢だ」
「ヘイトスピーチは規制すべき。あれは言葉の暴力ではない。ただの暴力」
質疑応答では
(安倍政権との関係については)
「彼らは草の根的運動だが、朝鮮学校補助金打ち切りなど支えているのは国家権力。
一部の国会議員がヘイトスピーチの問題に取り組んでいるが、大部分の議員は無関心。票にならないから。
町田での防犯ブザー配布からの朝鮮学校児童排除を決めたのは市教委。そのような空気が作られている。
車内の吊り広告を見ると、『強い日本、醜悪な中国・韓国』と偏見と差別を煽る週刊誌の記事が毎週発行されている。
安倍政権がやっていることで一番は秘密保護法。この法律は非常に差別的な法律。特定秘密取扱者の親族の帰化情報・国籍情報を収集する。そこには外国人は国益に反した存在だという決定的な偏見・差別が政権にある。
差別は上から作られる、しかし、下からも作られる。上と下から呼応して、日本では新しい排外主義・レイシズムが作られている。
「インターネットは貧者の核兵器。
ネットでは、『差別してもいい』と言うような言説がカッコイイとされ、権威に対する挑戦としてもてはやされる」
韓国のネット右翼=イルベ(ユーザー30万人)について
安田さんが韓国の大学で在特会について講演したら、教室の前で講演を聞いていた学生たちから、在特会が韓国を攻撃しているのは許せないが、外国の文化侵略に対して戦うのは当然、我々も外国の侵略と戦っていると言われた。
旧来の韓国右翼は反北朝鮮だったが
韓国のネトウヨは「外国の侵略」が韓国文化を脅かしていると、中国の朝鮮族、中国人労働者、農村のフィリピン人妻、ベトナム人農業労働者を攻撃対象にしている。
カウンター行動については、昨年から起きたカウンターの動きを紹介し、旧来の左翼とは違う点を高く評価。
「日本を取り戻すと言っている在特会こそ日本社会をぶち壊している。
カウンターは『お前らの敵は在日ではなく、俺らだ』と言っている。
対決構図は『在特会対日本社会』。
たまたま通りかかったサラリーマンがレイシストのデモを見て『うるせーバカ』と言えるような、普通の人が抗議できる社会が健全な社会」
そして、「在特会のメンバーと酒飲んだり、話したりしているが。改心させた例はない。
憎悪、戦争は解決ではないと愚直に訴えていくしかない。
この社会で一番特権を持っているのは日本人」
講演記事はテオリア2月号に掲載。
【日程変更】レイシズムと安倍政権-なぜ隣人を「憎む」のか
※日程・会場が変更になりました
国連・憲法問題研究会講演会
レイシズムと安倍政権-なぜ隣人を「憎む」のか
講師
安田浩一さん(ジャーナリスト)
日時
2014年1月18日(土)午後6時半~9時
※12/15から変更になりました。
会場
文京シビックセンター地下1階学習室 ※変更になりました。
(後楽園駅・春日駅・水道橋駅)
http://www.city.bunkyo.lg.jp/sosiki_busyo_shisetsukanri_shisetsu_civic.html
参加費 800円(会員500円)
国連・憲法問題研究会
連絡先 東京都千代田区内神田1-17-12勝文社第二ビル101研究所テオリア
TEL・FAX 03-6273-7233
http://www.winterpalace.net/kkmk/
peaceberryjam@gmail.com
レイシズムと安倍政権-なぜ隣人を「憎む」のか
■いま日本社会では在日外国人を攻撃する言動・ヘイトスピーチが、インターネット・街頭にあふれています。「憎悪」の対象として攻撃されるのは、隣国(中国・韓国・北朝鮮)、公務員、生活保護利用者、沖縄、「反原発」などへ拡大しています。
安倍は「ヘイトスピーチ」について、「他国の人々を誹謗(ひぼう)中傷し、まるで我々が優れていると認識するのはまったく間違い。結果として自分たちを辱めている」(5月7日)という認識を示しました。
だが、隣国との軍事対決を想定して「戦争ができる国づくり」を進め、領土問題などで隣国との緊張・対立を煽り立て、朝鮮学校の無償化からの排除など在日外国人への差別を続け、侵略戦争・植民地支配を正当化し続けているのは、安倍を筆頭とする政治家たちです。昨年「復活」した安倍政権は「ネット右翼」の強い支持を集めています。
10月ヘイトスピーチを人種差別で違法とする判決が京都地裁で出されました。だが、判決を批判するヘイトスピーチがインターネット上であふれているのが、日本社会の現実です。
安倍自身さえ認めざるを得なかったように、ヘイトスピーチは許されないものであり、レイシズムそのものです。なぜ日本社会でレイシズムが拡大してきたのでしょうか。そして、安倍政権との「共犯関係」をどう見るのか。レイシズムを克服するヒントはどこにあるのか。「ネット右翼」・「在特会」を取材してきた安田浩一さんのお話をうかがい、共に考えたいと思います。
安田浩一さん。やすだ・こういち。ジャーナリスト。著書に『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)、『雇用崩壊』〈共著、アスキー新書〉、『ネットと愛国――在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)、『安倍政権のネット戦略』 〈共著、創出版新書〉。『ネットと愛国』で日本ジャーナリスト会議賞及び講談社ノンフィクション賞を受賞。