パルボシクリブは2017年9月27日承認、同年12月15日に発売になった世界で初めてのサイクリン依存性キナーゼ阻害薬です。
この薬FDAによりブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)に指定されて優先審査、迅速承認がされました。
以前に当ブログでファースト・イン・クラス(画期的新薬)の説明をしました。
その際、この分類の薬はこれからいくつも登場すると予想されますが、その最初の薬ですと紹介しました。
実は現在開発が進んでいる多くの薬がこれにあたると考えられています。
(PhRMA 世界で開発中の新薬の74%にファースト・イン・クラスの可能性 ミクスOnline)
ブレークスルー・セラピーはさらに革新的な新薬が対象となります。
どちらも開発ステージが進めば迅速な審査を受ける対象となりますが、ブレークスルー・セラピー指定を受けると発売後もメリットを受けることができます。
乳がん治療薬はすでに
分子標的薬 (その8) ベルツズマブ(パージェタ™)HER2陽性 乳がん治療薬
分子標的薬 (その8) トラスズマブ(ハーセプチン™) 乳がん治療薬
市販の抗体医薬(その20)キメラ抗体→ヒト化抗体 抗体薬物複合体 トラスツズマブ エムタシン
市販の抗体医薬(その19)キメラ抗体→ヒト化抗体 ペルツズマブ
市販されている抗体医薬 (その8) キメラ抗体からヒト化抗体へ トラスツズマブ
上記を紹介しています。 (注重複しています)。
さて
本題に戻ってサイクリン依存性キナーゼ阻害薬の説明ですが、細胞は
G1⇒S⇒G2⇒M
からなる細胞周期を回転させて増殖を行います。 細胞周期の回転においてエンジンの役割を果たすのがサイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼです。
細胞の分裂が進む周期において無限に細胞が増殖しないようにG1期で抑制がかかっています。 しかし、サイクリンDの過剰発現した細胞はこの抑制がかからずにがん化してしまいます。
サイクリン依存性キナーゼ(CDK4/CDK6)はサイクリンDと複合体を形成して、細胞のがん化を促進します。
バルボシクリブはこのサイクロン依存性酵素である、CDK4/CDK6を標的分子とすることでサイクリンDとの複合体活性を阻害し、がん化を抑制すると考えられています。
適応症は現在のところ、手術不能または再発乳がんのみです。
バルボシクリブは、両極性(PKa1=3.9、PKa2=7.4)を有する化合物ですが、塩とはせずに結晶化された、分子量447.53の低分子化合物です。
作用機序
パルボシクリブはサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4及び6に対して阻害活性を有する低分子化合物です。
パルボシクリブは、CDK4/6とサイクリンDの複合体の活性を阻害し、網膜芽細胞腫(注Rb)タンパクのリン酸化を阻害することにより、細胞周期の進行を停止し、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。
注Rb遺伝子は別名がん抑制遺伝子と呼ばれており、網膜芽細胞腫ではその機能に異常が生じています。
臨床試験
国際共同第Ⅲ相試験
HR陽性かつHER2陰性であり、手術不能又は再発閉経後乳癌患者666例を対象に、
本剤+レトロゾール併用投与
と
プラセボ+レトロゾール併用投与
の有効性を比較検討することを目的とした、無作為化、二重盲検、並行群間、国際共同第III相試験が実施されました。
本剤は、開始用量として125mgを1日1回3週間連続経口投与後1週間休薬
し
レトロゾールは25mgを1日1回連続投与しました。
主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、
本剤+レトロゾール群で24.8ヵ月
プラセボ+レトロゾール群で14.5ヵ月
であり、本剤+レトロゾール群で統計学的に有意な無増悪生存期間の延長が認められました。
副作用
本剤が投与された444例中428例(96.4%)に副作用が認められました。 主な副作用は、好中球減少症348例(78.4%)、白血球減少症171例(38.5%)、脱毛症140例(31.5%)、疲労134例(30.2%)、口内炎103例(23.2%)、悪心96例(21.6%)、関節痛87例(19.6%)、貧血85例(19.1%)、感染症85例(19.1%)、ほてり79例(17.8%)、下痢66例(14.9%)、血小板減少症65例(14.6%)、無力症55例(12.4%)、発疹48例(10.8%)等でした。
重大な副作用には骨髄抑制があり、好中球減少(80.2%)、白血球減少(46.8%)、貧血(22.9%)、血小板減少(18.4%)、発熱性好中球減少症(1.5%)等が報告されています。
骨髄抑制については重大な基本的注意として、本剤の投与開始前及び投与中は定期的に血液検査を行い、患者の状態を十分に観察することとされています。
製剤
イブランス™カプセル25mg バルボシクリブ25mgを含む1カプセル90mgのキャップが赤褐色、ボディが灰色のカプセル
イブランス™カプセル125mg バルボシクリブ125mgを含む1カプセル450mgのキャップもボディも赤褐色のカプセル
パルボシクリブとして1日1回125mgを3週間連続して食後に経口投与し、その後1週間休薬します。 これを1サイクルとして投与を繰り返します。 なお、患者の状態により適宜減量して用います。
薬価
イブランス™カプセル25mg 5576.4円/カプセル
イブランス™カプセル125mg 22560.3円/カプセル
1日1回125mgを3週間服用、1週間休薬として計算した場合473,766.3円/月
最後に
もう遠い過去のように感じますが、医薬品業界には2010年問題というものがあり、2010年を境にいわゆるブロックバスターが次々と特許切れを起こし、さらにそれを埋める有望な新薬はないと考えられていました。
そして現在、世界で開発中の医薬品の74%がファースト・イン・クラスの可能性があるとの記事。
もちろん開発に成功すればのことですが・・・・・・・・・・・・
私のような古い人間は、スピードの変化の速さに戸惑ってしまいます(・・;)。
最後の最後に乳がんは現在でも女性の死亡原因の上位で、患者数は増加し続けています。
コメントまたはいいね!ボタンをよろしく