「っひゃあああああ!」
跳び上がった瞬間息を止めていたタクトは、着地するなり悲鳴を上げる。
「情けないわね。タイミング遅れてたからよ!次はもっと早く反応なさい」
「いや無理です!頼むから岩はよけてください、跳ばないで」
「仕方ないじゃない、カマドウマは跳ぶ方が得意なの!」
「すまない、ライダーズハイだ。騎乗部隊にはこういうタイプが時々いるんだよ」
後ろからレイラが、大きな声で解説する。
「1時間くらいはこの調子よ、気絶しないでね弱虫君!」
ナオミは特に反省する様子もなく畳みかけた。
その言葉も空しく、タクトは半分魂が抜けたような顔でトロットの後頭部を見るともなく見ている。もう悲鳴を上げる元気もない。
その頃、すぐ近くの山の中で走る人影があった。
―どないしよう、迷ってもたわ。はよ追いつかなあかんのに―
走り慣れていないのか、足取りは重い。やがてがっくりと膝をつく。
―もう嫌や。神様―
荒い息をしながら、やっとのことで空を見上げる。木の梢が風に吹かれてザワザワと音を立てた。
「もう半分くらいは来ただろう?休憩しよう、タクトが限界だ!」
レイラが叫んだ。
その声を聞いたクリスがセルウィンに「休憩だって!」と言い、2匹はゆっくり減速して停止する。
「仕方ないわね、水分補給も大事だし」
ナオミもしぶしぶトロットを停止させた。
レイラに続いてナオミが鞍から滑り降りる。タクトは足元がおぼつかなくなっており、後ろにいた2人に助けられながら着地した。
「お疲れ様です。しっかり水を飲んでおいてくださいね。汗かきますから」
ナオミはそう言った後、トロットを曳いて近くを流れるせせらぎまで連れて行く。
「はあ、生き返った。ナオミさん、元に戻ってますね。乗っている間の記憶がないのかな」
タクトは水筒からコップに注がれた水を飲むと、そう呟いた。
「いや、それはさすがにないはずだが」
レイラが水を一口飲んで答える。
「兄ちゃーん」
セルウィンとクリスもオンブバッタを連れせせらぎの方に行ってしまったので、残されたガクが走り寄って来た。
「お前、大丈夫か?バスではさんざん酔ってたくせに」
「うーん。ボク、多分酸素があれば平気みたい。フーちゃん乗り心地いいし楽しかったよ」
ガクの言葉を聞き、タクトはため息をついた。
水を飲んでいたフィアンセがふと顔を上げる。せせらぎの上流に向かって歩き、茂みを覗き込む。
「きゃあああ!」
〈おまけ〉
流れている水を見ていると、落ち着きますよね。私、ホースから出ている水や、二槽式洗濯の中でぐるぐる回る水とかを、何分でも眺めていられる人です。え、珍しい?
せせらぎとかのそばに行くと、やっぱりずっと見ちゃいますね。福岡の母の実家は、家のすぐ横(家の下をややえぐるように川が流れていた)が川だったので、川の音が子守歌がわりでしたし。
鎌倉によく行くのですが、市内を歩くとあちこちにこんな小川というか水路というか、ささやかな流れがあるのが好きです。柵も何もないので、落ちたらずぶぬれになりそうですが。
寺の中にあった、こんな水路もいいですね。苔が好きなのです。見るとムダにテンションが上がります。誰にも分かってもらえません。
ちなみに、母の実家にあった小川は現在コンクリートでかためられています。昔は岩がごろごろしていたんんですが。その時は魚もたくさんいて、風情あったんですけどね。治水を考えると仕方ないんでしょうか。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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