文子が怪訝な顔をする。

「なんや、臆病なんやなあ」

その言葉が言い終わらないうちに、セルウィンがフィアンセの手綱を強く引いた。

「騎乗用昆虫達を遠ざけよ!早く!」

クリスはサーヤに跳び乗って走らせる。ナオミは手綱を片手に全速力で走って行った。

「何…だ…?」

視線を文子の側に戻したタクトは凍り付いた。

 

巨大なカマキリが茂みの中に身を潜め、獲物を狙っている。これまでに見た人工変異種の中でも一番の大きさだ。体長は3メートル近いだろうか。あんなのに捕まったら、人間などひとたまりもない。

レイラは見るなり反射的にかがみ込み、刀を抜いた。そのまま茂みを突き抜けてカマキリの正面へ、と見せかけて素早く方向転換する。

 

レイラの狙いは柔らかくて長い腹部だ。カマキリは咄嗟の動きについていけない。まごついている間に腹部の太い部分を一刀両断する。驚いて振り上げた前脚と頭部をレーザー光線が貫いた。煙が上がる。

「ガク、助かる!」

レイラは腹部を切った後、そのまま走り抜けて距離を取っていた。

 

「なん…や?」

立ちすくむ文子の腕を、タクトが掴んだ。

「痛い!何するんや!」

「逃げましょう。あの鎌が相手じゃオレは戦えない。この小川の岩を跳び移りますよ」

タクトが文子を引っ張り、せせらぎの向こう側に渡る。

 

「ガク!木に登るんだ。そこから狙え!」

タクトは振り向きながら、あらん限りの声で叫ぶ。

「ナイスアイデア、兄ちゃん!」

ガクは言うなり、近くの木にするすると登った。木の上からだと、人工変異種のオオカマキリとて小さく見える。恐怖心がいくぶん和らいだ。切られた腹部を引きずりながら歩くその左前脚の関節を、正確に狙う。1撃、2撃、3撃。鎌状の部分が、ぽろりと落ちた。

先に撃ち抜いていた右前脚を再度狙う。こちらは皮1枚残して繋がったままとなったが、もう使い物にはならない。

 

「あとはあたいが!」

レイラはそう叫ぶと、左側に回り込み、腹部と胸部の境目を切りつける。薄い羽がばらばらと落ちた。短くなった前脚で何とか体を支えようとするカマキリに、容赦なく何度も刀を振り下ろす。

 

「もう動かれへんのに。可哀想や」

「オレの弟と同じこと言うんですね。でも仕方ないんですよ」

文子の心を宥めるように、タクトは静かに答えた。

 

 

 

 

〈おまけ〉

カマキリムシは、結構男の子が好む昆虫というイメージがあります。

カマキリ先生なんてキャラクターもありましたね。あの方は男の子じゃなくておじさんかしら。

やっぱり、細長い脚やシュッとした逆三角形の顔とか、曲線を感じさせる腹部とかなかなかにデザインが凝っていますからね。特にあの鎌部分は魅力的なのでしょう。

 

カマキリが威嚇する姿もいいですよね。あれ、幼虫のカマキリもやっているの見かけたことあります。小さな体で必死なのが可愛かったです。

ただし、今回は小説の中でも最大級となるであろうサイズ。人工変異種でないとこの大きさは不可能です。

 

体が緑や褐色で、じっとしていると案外目立たないので待ち伏せ型の狩りをするんですよね。狩猟スタイルは猫に似ています。

 

 

以前、福岡のせせらぎのすぐわきで見つけたカマキリ。これで隠れているつもりなんでしょうかね。バレバレなんですけど。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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