「さよか?渡りに船とはこのことや。案内してくれへん?」

仏頂面だった文子の顔が、ぱっと輝いた。

「えーと」

答えを出しかねたガクは周りの大人に視線を送る。ナオミが頷いた。

「レイラさんの傷、まだ痛みますよね。少し休んでいてください。その間に、新しい編成を考えます」

そう言った後は、クリスと肩を並べてあれこれと相談し始めた。

 

「良かったねえ。連れて行ってもらえるみたいだよ」

ガクが笑いながら近くの切り株に腰をかけた。タクトも同じように座り、文子も戸惑いながらそれに続いた。

「あ、オレ、タクトって言います。こいつの兄です」

「まあ、それは分かるわ。仲ええんやな」

文子はあまり興味がなさそうな顔で、兄弟を見るともなく見た。

 

少し距離を取って、レイラが座っている。フィアンセを地面に伏せさせて、その体に寄りかかる形だ。セルウィンが傷の状態を心配しながら、近くに控えている。

レイラがセルウィンに、小声で話しかけた。

「あの子、雇えないかな。あれだけ器用なら、医療班で働ける。うちのチームに入れたい」

「さすれど、彼女は未成年であろう。厄介であるぞ」

ターコイズ・プラネットでは未成年の就労が認められているが、外回りの仕事に際しては厳しい制限がある。安全を期すためだ。未成年1人あたり、成人の社員が少なくとも2人以上一緒に行動する必要があるのである。

 

「ねえねえ、好きな食べ物は何?ボクはハンバーグ。お菓子ならポテトチップスだよ」

ガクはなぜか、好物の話題を振っていた。

「うちは肉は食べへんのや」

「へえ!ベジタリアンってやつ?」

「どっちかいうたら、ヴィーガンやな。卵も食べへんし」

「大変だねえ」

「せやけど、食べられる物は意外とあんねん。甘い物好きやな。くずきりとか、知っとるか?吉野葛いうのがあってな。うまいねん」

無愛想に見える文子だが、話し出すと饒舌だ。

「えー知らない!食べてみたい」

「甘い味のところてんみたいなもんだよ、ガク。ちょっと材料が違うけど」

 

「取り込み中のところ、まことに申し訳ない。失礼千万なのは承知の上なのであるが」

セルウィンが近付いて文子に話しかけるが、聞きづらいらしく口ごもる。折しも、ナオミとクリスが戻って来た。

「あんた、年はいくつだ?だいぶ若いようだが」

レイラがその後ろから声をかける。

15、16、良くて17。その場にいる誰もが、そう思った。

「……27や」

 

 

 

〈おまけ〉

くずきりというものを食べたことがある人はいるでしょうか。名前は聞いたことがあっても、食べたことがない人もある程度いそうですね。

 

秋の七草の1つでもある葛の根からでんぷんを取り出した葛粉を生地にして薄くのばして加熱して切ったようなやつです。きしめんみたいな太さのものが多いですが、うどんのようなものも見かけますね。

 

私が今まで食べたことのあるくずきりで一番おいしかったのが、京都で食べたもの。漆塗りの桶みたいなのに入っていました。二段重ねで、氷水の中にひたしてあるくずきりを黒蜜が入った器の中にひたして食べる形式でしたね。これ食べたらもう他のくずきり食べられないんじゃないかと思いました。

 

市販のくずきりは、葛粉の他に馬鈴薯でんぷんやこんにゃく粉が混ぜてあることが多いです。

 

 

こちらは、この夏に食べたくずきり。京都のくずきりを忘れたわけではありませんが、100円ちょっとで買えるリーズナブルなくずきりも案外いけると思うようになりました。人は順応するものなのです。

 

ちなみに、メインキャラクターや何人かのサブキャラクターにはそれぞれ好きな食べ物が存在します。いつか書く機会があるといいなあと思っています。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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