「……27?」
そこにいる誰もがそう呟き、お互いに顔を見合わせた。
「本当なのか?」
レイラが信じられないという顔で聞く。
「働いとるんやで?まあ、よう言われるけどな」
「看護師さんなんですね」
文子が見せたマインナンバーカードを確認し、タクトが言った。
「せや。ほんまは薬剤師になりたかってん。せやけど、時間かかるからやめたんや。看護師の方がなりやすいからな。ほんで、知識と腕を買われてこの会社に来たっちゅうわけや」
―なるほど。化粧品って薬品と似てるからな。開発や管理とかには向いているのかも。絶対に販売向きではないけどな―
文子の話を聞きながら、タクトはそんなことを考えた。横に目をやると、ガクが文子を見つめながら、頬を紅潮させている。
「大人…!」そう小さく呟くガクを見て、タクトは帰国の途がまた遠のく気配を感じた。
セルウィンがレイラに目配せし、レイラが頷く。そのタイミングを見計らったかのように、ナオミが口を開いた。
「では、そろそろ行きましょう。トロットに乗せると心配なので、レイラさんはフィアンセに乗ってもらいます。フィアンセの負担が増えてしまいますが」
ガクは自分を指さしながら「ボクは?」と聞く。
「トロットに乗ってもらうことになりますね」
ナオミは少し申し訳なさそうだったが、ガクはむしろ嬉しそうに目を輝かせた。
「あれ、アヤコさんはどうするんですか?一緒に行くんですよね。歩かせるわけには…。まさか、トロットに4人乗り?」
タクトは自分で言っておきながらその様子を想像し、軽いめまいを覚える。
「大丈夫だよ。サーヤに乗れるようにしといたからさ、ほら、見てごらん」
クリスがサーヤの背を軽く叩く。どこから取り出したのか、簡易の折り畳み鞍を広げ、新たに手前に装着していた。
「良かった、そこなら安全ですね」
タクトはほっと胸をなで下ろす。
「ううむ。いかがであろうか」
セルウィンは少し浮かない顔をした。
「どういう意味ですか?」
クリスは早速文子の手を取り、自己紹介を含め何かと話しかけている。低身長ゆえ騎乗に手間取る文子の右足を、手に受けて支えるようにしながら鞍に跨らせた。
「髪の毛、綺麗な色だね。自分で染めてるの?シャンプーは何使ってるんだろう。いい匂いだ」
後ろの鞍に座るやいなや、文子の三つ編みを手に持ち顔に近付ける。その光景を、トロットに乗ったばかりのガクが睨んでいた。
〈おまけ〉
前から読んでいる人で勘が良い方は気付いていたかもしれません。クリスはレズビアンの設定です。
キャラクターの中に1人でいいからレズビアンの人を入れたいと思っていて。どうせなら魅力的な人を、と思っていたらクリスができあがりました。
彼女はトランスジェンダーではないようです。少しではあるけれど化粧もするし、たまになら長いスカートを履くことも。性自認はあくまで女性。恋愛対象が女性であるにすぎません。
ただ、女性にモテたいという隠れた欲求があるので、意識的に男性っぽくふるまっているようです。一人称が「俺」であること、本名は「クリスティーヌ」(女性名)なのに周囲に「クリス」(男性名)と呼ばせることなどがそれにあたりますね。
どうやら、文子のような可愛らしい顔立ちがタイプのよう。レズビアンとて好みがありますから、女性なら誰でもおかまいなしではありませんよ。クリスのことが大好きなヒナタに関しては「仕事ができるお姉さん」という目で見ているっぽいです。
文子の髪に触れているので、今回は髪飾りについてご紹介。オオムラサキを模した飾りがあるヘアピンです。文子の推し昆虫はオオムラサキというわけですね。小説の中で説明がありましたが、オオムラサキは純日本人の象徴。このモチーフのついたものを持つのが、純日本人の間で一時期流行し、自治体が積極的にグッズを配布していたことも。ガクの同級生の髪飾り、社長のネクタイピンにもオオムラサキがついています。ただし、文子の持つものに比べると色合いが地味で少し小さいらしいですよ。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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