ヒナタは派手に転んでいた。階段の下に落ちていたのはステンレスの水筒。さっきの金属音の正体はこれのようだ。

「大丈夫ですか?」

振り返ると同時にタクトが問いかけると、ヒナタはゆっくりと顔を上げる。と同時に何かを確認するように目を動かした。口元にふっと微かな笑みが浮かぶ。

―しまった!―

タクトは慌てて向き直り階段を駆け上がろうとしたが、時すでに遅し。けたたましい金属音の残響が耳に新しいうちに、静かにカイトがタクトを抜き去っていたのだ。

 

カイトはもう階段の最上段にいる。タクトが懸命に駆け上がっても間に合いそうにない。

「くっ……!」

タクトの脳裏にガクの笑顔が浮かんだ。タクトも最上段に辿り着く。一縷の望みをかけて手を伸ばす。

その時、ガチャリと音がしてドアが開いた。プレハブ小屋の簡素なドアのノブを握っていたのは、カイトの手だった。

「お疲れ」

カイトは無表情のまま横目でタクトを見やり、そのままするりと室内に入った。小屋の中から、わずかに人の話し声が聞こえる。

「くそっ、間に…合わなかった……」

はあはあと息を切らしながら、タクトはドアノブを回す。

―それにしても、さっきのヒナタさんの表情は何だったんだ?―

タクトはちらりと下を見やる。ヒナタはまだずいぶん遠くにいる。諦めたのか、下を向いたままゆっくり上がってきている様子だ。

 

「ねえ、不公平だと思わないかしら?」

時間は勝負を開始したばかりの頃にさかのぼる。楽しげに去っていくガクとタクトを見送りながら、ヒナタはまだ近くに残っていたカイトに話しかけた。

「どういうことだ?」

「あの子達は兄弟なんだから、どっちが2万ウィングとっても似たようなものでしょう?多分、タクトの方がガクに譲ると思うの。それか、2人でおいしいものを食べに行くとか」

「使い方は自由だろ」

カイトは面倒そうに遠くを見やった。

「でも、得する確率が2倍なのよ。……ねえ、取引しない?」

 

タクトは部屋の中に入った。部屋にいる3人が、ねぎらいの拍手をした。テーブルには、セルウィンのいれた紅茶がティーカップに入って並べられている。

 

「これで、リオールの最新アイシャドウパレットが買えるわ。1万ウィングで充分よ」

ヒナタの出した提案は、ひそかに互いを手助けし、どちらが賞金を取っても平等に山分けする、というものだった。

 

 

 

 

〈おまけ〉

ヒナタは化粧大好き女子の設定。コスメは大量に持っていて、メイクポーチは重量級。以前、クリスと鉢合わせした時驚いてメイクポーチを落としてしまったのですが、その時にチークやアイシャドウにひびが入ってしまいショックだったようです。

 

ちょっと崩れたアイシャドウももったいないから押し固めてなんとか使っている様子ですが、やはり新作を手に入れたらテンションが上がる模様です。

 

リオールのアイシャドウはラメが細かく発色が上品で、大人女子にも使いやすいと人気の海外ブランド。比較的値段が安いようで、幅広い年代層のオフィスレディが購入するそうです。

 

 

ヒナタが狙っているのは新作の秋冬用カラー。大人らしいツヤ感のあるメインのカラーやハイライトや引き締め色などをそろえた4色セットです。パレットの表面にはリオールのロゴが入っています。

 

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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