「毒であろうな」
セルウィンはさらりと言った。
「ええっ!?」
ガクとタクトは一瞬固まり、顔を見合わせる。
「微かだが甘い芳香がある。おそらく有機溶媒で抽出したアルカロイド系の毒であろう。この辺りはトリカブトなど、毒草にこと欠かぬ」
セルウィンは話しながら瓶の蓋をきつく締めた。
「せやったな。山ん中にもトリカブト生えとったわ。庭にヒガンバナとかあったしな」
疲れた様子だった文子が興味深げに瓶の中を見た。毒に関心があるらしい。
「オレ達を殺そうと?……いや、死のうとしたのか」
タクトは体をしたたかに打ち付けてまだ起き上がれないでいる老人を見下ろし、ようやく状況を理解した。
「くそ、返せ!こんな老い先短い人間の1人や2人、死んだところで何の問題がある?」
老人は床に転がりながらも、絞り出すように憎まれ口を叩いた。
「やれやれ、であるな」
セルウィンは老人の腕にきつく絡みついたままの鞭を外し、両脇を抱えて上半身だけ起こした。片膝をつき、老人の目を見て言う。
「残りの人生の長さなど、何の関係もなかろう。生まれたばかりの赤子でも、余命わずかな病人でも、明日という1日は同じく24時間なのであるぞ」
老人の目に涙が滲む。溢れ出た涙は、老人の肌の皺という皺に入り込みつたっていった。
「どうします?」
タクトが口を開く。
「どうするって、何が」
クリスが軽く首を傾げる。
「放って帰ったら、また自殺しようとするかも……。毒だってまだあるかもしれないし」
タクトは、カゴにまとめられた夥しい薬の瓶に視線を移した。
「問題ない。さっきの山岳警備隊の連中にまた来てもらおう。拠点は近くにあると聞いた。連絡先も交換したからな。警察より手っ取り早いさ」
レイラがそう言いながら、スマートフォンを操作して耳に当てる。
「小賢しいベトナム女め」
座り込んだままの老人が小声で言うのを、レイラは冷ややかな目で一瞥する。相手が出たのだろう、何事もなかったかのように話し始めた。
本当に近くにいたらしい。5分と経たないうちにドアチャイムが鳴った。老人は全てを諦めたかのように呆然と座っている。レイラとセルウィンが山岳警備隊を迎え入れようと玄関に向かった。入れ替わるように、ガクが老人に近付く。
「長生きしてね、チャンさん」
〈おまけ〉
毒というものは推理小説の中だけの存在ではありません。青酸カリといった人工的な化学物質の場合は入手困難ですが、毒を持つ植物というのはたくさんあるのです。
トリカブトやヒガンバナはよく知られているものの1つかもしれません。トリカブトは山の中などに自生していることがあるようです。薬として利用できるので、栽培することも。毒は薬にもなりますからね。ヒガンバナも毒を利用してきた植物。田んぼのあぜ道に植えられていたのは、害獣よけの意味があったとされています。
寺にも多いですね。墓が動物に荒らされないための工夫だとか。こちら近所の寺のヒガンバナですが、赤だけでなく白の花もあるところが珍しいです。
栽培種の花だけでなく、雑草にも注意が必要。そのへんでもよく見かけるセンニンソウを紹介しましょう。
白く可憐な花が特徴です。思わず摘んで家に飾っておきたくなるほど綺麗な花ですが、触るのはやめてください。汁が手についただけで、かぶれて水ぶくれになることがあります。
少し引くとこんな感じ。つる性の植物です。葉の形も特徴がありますね。
公園などに普通にあるのに猛毒なのがキョウチクトウ。本当にやめてほしいです。下手すれば心臓麻痺で死ぬそうです。葉が細長く葉脈が魚の骨みたいに見えます。
この葉の形が変わっていたので、幼い頃むしって遊んでいた記憶が。口に入れなくて本当に良かったと思っています。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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