「ちょっと失礼。奥見させてもらうよ」

クリスが部屋に入って来て言う。

「いかがした」

セルウィンは手前にあった事務室のような白い部屋で、紅茶を飲んでいる最中だった。ガクの手にはオレンジジュース。おおかた、白髪の老人に頼んで出してもらったのだろう。

 

「全く、のんきだなあ。手伝ってくれよ。向こうの部屋で探したいものがあるんだ」

クリスが言い、もぬけの殻となっている飼育部屋の扉を開ける。だいぶ片付いてはいるが、飼育用具などは残っている。壁際にはいくつかの棚が置かれていた。

タクト達がぞろぞろと部屋に入る後ろから、老人は不安げに様子を窺っている。

―この部屋に何かしかけでもあるんだろうか?がらんとしているし、隠しようもない気が…―

タクトはそう思いながら、天井辺りを入念に見た。もしかしたら屋根裏に通路があるという仕組みなのかもしれない。逆に、背の低いガクは床を見ていた。何か面白いものが落ちていないかな、とでも思っているのだろう。

 

クリスが棚の前で足を止める。裏板のないオープンシェルフだ。そこをしばらく観察してから、口を開く。

「俺、インテリアにはこだわりがある方なんだよね」

横目で老人の表情を確かめながら、さらに続けた。

「両端の棚はまあいいんだ。必要なものしかないし。問題は真ん中だね」

そう言って3つ並んだ棚の中央を指さす。両端にある棚には、主に下の段に石灰の袋、中段や上段に小さめの掃除道具や網やカゴなどの小道具類が置かれていた。だが、真ん中の棚は少し様子が違う。

 

「瓶がやたら多いよね。あとビーカーとか漏斗とかガラス管とか」

「それは動物実験用ですが」

老人はおずおずと答えた。

「いや、こういうのがあってもいいんだけど。扉のついていない棚に、やたらたくさん置くのは危なっかしいよね。薬の瓶なんて、ちょっとぶつかって揺れただけで落ちそうだ。ここに置くんなら、ケースに入れるとかしないと」

「はあ」

釈然としない表情の老人を前に、クリスはさらに言葉を重ねる。

 

「どうして棚の一番上に本ばかり置くかなあ。下の段の方がスカスカしてるんだけど。バランス悪いよ。なんで洋書なの?俺英語読めるんだけど。文学書とか、いる?」

タクトは目を凝らして背表紙のタイトルを読んでみた。なんとなく長編小説っぽい。休憩時間に読むにしては重厚過ぎる気もする。

「考えられる答えは1つだね」

 

 

 

 

〈おまけ〉

「オープンシェルフって何だっけ」って思った人もいるかもしれないので書いておきますね。

裏側に板のない棚です。

 

 

CANVAに頼んだら、やたら可愛い画像出してきました。こんなに乙女チックなパステルカラーのイメージではないですけど、形はこれ。あともう少し高さと幅がある感じですね。

 

 

洋書のイメージはこれ。実はこれ、我が家のマンションにあります。自由に読んでいいやつなんですけど、今のところ誰も借りて行っている気配はありませんね。

まあそりゃそうです。読むの大変そうですもの。

 

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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