「すごいよ、カニのほぐし身丼1,950ウィングだって!」
ガクは興奮気味にメニュー表を読み込んでいる。
無事に店にたどり着いた2人は早速メニューの選定に入っていた。
「じゃあ、それ2つ頼むか。ご飯は減らしてもらうか?」
「うーん、そうする」
てきぱきと店員に注文を伝える兄の横で、ガクは少し悲しそうな顔をしていた。
「なんか元気ないな。もうホームシックなのか?」
からかうタクトの言葉に、ガクは首を振る。
「違うよー。いやね、なんていうかね……。港が想像したのと違ったなあって」
「なんか、さびれてたな」
ガクはポケットから小さめのタブレットを取り出す。
「夏休みの社会の宿題なんだけどね、旧日本国の地図を覚えなくちゃいけなくて」
「ああ、47都道府県なんて多すぎるとかぼやいてたやつな」
「ほら、ここに写真があって。きれいでしょ海岸とか」
ガクが写真を拡大すると、景勝地とおぼしき海岸と青い海とが見える。
「全然、こんな感じじゃなかったなあ」
「仕方ないんだよ。海の水が増えて国も狭くなったし」
「お待たせしました」
店員が、山盛りのカニ丼をテーブルに置いた。
「ほらほら、さっさと食うぞ。味が落ちないうちに食え」
「うわあ、すごくおいしい!」
一口食べたガクは顔をほころばせる。
「来てよかっただろ」
「安心しろ、曽利国(そりこく)はもっと栄えてるはずだから」
タクトは食べながら呟いた。
丼の中身は、もう半分近くなくなっていた。
翌日の昼。
ガクは少し船酔いしたらしく、宿題もやらずにベッドに寝転がっている。
「具合は大丈夫か?そろそろ曽利国に着くぞ」
タクトが飲み物片手に船室に戻って来た。
「え、もう?意外と早かったね」
ガクはがばっと跳ね起きた。
「ぎりぎりまで寝てていいんだぞ」
タクトの言葉にガクは首を振った。
「外の空気吸ったら治る気がする。ちょっとだけデッキ見てくるね!」
意気揚々と部屋を飛び出すガクを見送り、タクトはため息をついた。
「先に荷物まとめとけよな」
ガクのベッドの上は勉強道具や着替えで散らかり放題だったのだ。
幾重にも重なる波の向こう側に、深緑色の陸地が見えてきた。
「もうすぐ会えるんだね」
海に反射する光に照らされて、ガクの大きな瞳はいつもより輝いていた。
〈おまけ〉
前から聞き慣れない国名が出ていて何のことやらと思っている方、多いかもしれません。
これまで、「波都国(はとこく)」「曽利国(そりこく)」「亭斯国(てしこく)」「希羅国(きらこく)」の名前が出てきています。
そして「旧日本国」という呼び方がされているように、日本列島はすでに国の体制が変わっているという設定。
地理が超苦手なので、日本列島をうまく書けなくてすみません。
でも、形が変なのには別の理由があります。
「気候変動によって地形が変わってしまった」というものですね。
それゆえ、東京都の下町付近や北海道の石狩川流域などは海に沈んでしまっています。
なんか、地図を描くセンスがなさすぎて呆然としていますが許してやってください。
誰か代わりに描いてほしいです。
そのうちもう少し綺麗に描きなおすかもしれません……。
時代設定は今から約250年の未来だから、予想がつきにくいのですけどね。
こうなっていないことを切に祈るばかりです。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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