荷造りしながらガクが言う。

「カブ太とカブ子、どうしよう。持って行っていい?」

「ダメに決まってるだろ。国境越えるんだぞ。生き物なんて持って行ったら話がややこしくなる」

 

タクトの言葉に、ガクは明らかにふくれた。

「せっかく幼虫から育てたのに」

「成虫になったの見られたからいいじゃないか。自然に戻してやった方が喜ぶぞ、こんな狭いところ可哀想だろ」

 

「それもそっか」

ガクは腐葉土の詰まった飼育ケースを手に、家の外に出た。

「とりゃー!!」

オスメス1匹ずつ入っていたカブトムシはいきなり寝床と一緒に放り出され、地上に落下した後パニックになり飛び立って行った。

 

ガクは満足して玄関に引き返したがふと何か思い出したように振り返る。

「いっぱい交尾していっぱい子ども作って帰ってきてねー!」

無邪気に空に向かって手を振る。

 

「そういうこと、外で言うな」

「え、なんで?」

「いいから言うな!」

タクトはズカズカと奥の部屋に入ってしまった。

 

次の日の夕方。

水面に反射する日の光がまぶしい。

「海、はじめて見た!」

「そうだなあ。遠いから海行かなかったもんな」

タクトも少し興奮気味に目を見開いている。

 

2人はバスと電車を乗り継ぎ、波都国(はとこく)唯一の港に着いたのだ。

すでに船があるのが見える。

―船って大きいんだな―とガクは思った。

 

深夜に出港した船は次の日の午後、亭斯国(てしこく)の港に停泊したと連絡があった。

今夜は海が荒れるから朝までこのまま待つという。

「どうせなら希羅国(きらこく)から行きたかったなあ。太平洋ならこんなに荒れないよ」

ガクが文句を言った。

「そんなことしたら旅費が倍近くなる」

船室のベッドに寝転がっていたタクトは体を起こした。

 

「せっかくだから亭斯国に上陸してみようぜ。トランジットエリアにおいしいカニ丼の店があるらしい」

「えーっ、カニ?本当?食べたい!」

「ベテランの船員さん情報だから、確かかな」

 

地上に降り立つと、港の周りは閑散としている。

「なんか寂しいね。思ってたのと違うなあ」

「このあたりは高波が来ると危ないからな。店は少し歩くぞ」

タクトは振り返った。荒々しい日本海。

この海の底にはかつて街があったのだと思うと、胸が締めつけられる思いがした。

 

 

 

〈おまけ〉

カブトムシって飼ったことありますか?

私は小学生の頃飼っていました。

幼虫2匹を腐葉土で育てて無事に成虫になり喜んでいたのですが、数日後に逃げられました。

カブトムシって1kgくらいの力でものを引きはがせるらしいですよ。

つまり、おもちゃみたいな飼育ケースでは簡単に開けられてしまうわけです。

うっすら蓋が開いたもぬけの殻の飼育ケースを見て「育ててもらった恩を忘れたのか」と幼心に思いましたよね。

そんなわけでカブトムシ運(?)がないと思われていた私のところに、一昨年幸運が舞い込みました。

 

 

我が家にメスのカブトムシ来訪。連れて来たのは夫です。

と言っても捕まえたわけではなく、深夜に帰宅した夫の肩に勝手にとまった状態で家に入って来たのでした。
夫は虫嫌いなので、自分の肩に得体の知れない昆虫がいることに気づくやいなや低い悲鳴をあげて家中を走り回り、挙句の果てにすっ転んで震えておりました。
仕方なく殺虫剤片手に近づいたらこの子がちょこんといたわけです。
しばらく手に乗せて可愛がった後、箱に入れた状態で夫に手渡し外の木のあるところで離してもらいました。
 
さらに昨年はオスのカブトムシ来訪。今度はなんと新聞と一緒に郵便受けに投函されていました。
 
 
新聞を手にした瞬間、何か上に石のようなものがごろっとあるのが動いて下に落ちたのでとっさに一歩後ずさりましたがすぐカブトムシとわかりましたね。
あわててポケットからスマートフォンを取り出して撮影したのが上の写真。
 
 
こちらは子どもに見せたら喜ぶだろうと思い、菓子缶の中に入れて砂糖水を与えつつ丸一日飼育しました。
娘が興味津々でしたね。
次の日、近くの公園でお別れしたかと思います。
小学生時代に行き別れた2匹が生まれ変わって会いに来てくれたのかもしれませんね。
 
 
 
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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