夏は好かれ、冬は避けられ | ~心のやすらぎ~

~心のやすらぎ~

高野山真言宗の僧侶による法話ブログです。
毎月1話掲載してまいります。

 皆さまは、まわりの人たちとうまくやれているでしょうか。人付き合いとは、おそらくこの世で最も難しく、いつもいつでも、うまくいくわけではないと思います。

 かくいう私も、未熟者であるためか、自分の思いが相手に伝わっていないような、さびしい気持ちになることも多いのです。

 特に相手が、家族や親しい友人ですと、お互いに甘えが出てしまうのか、他人さん相手ならば我慢できることが全く我慢できず、言いすぎてしまい、時にはケンカになることもあります。

 

 今日はそんな自分自身の頭を冷やすつもりで、お大師様のお言葉をご紹介いたします。

 

“夏月の涼風、冬天の淵風、一種の気なれども嗔喜同じからず”

 

 風という自然現象ひとつをとっても、夏頃に吹く涼しい風は有り難がり、冬の日の寒い風は嫌がられてしまうものだ、ということです。

いつでも風はただ吹いているのでしょうが、季節、すなわち周りの状況ですとか、受け取るタイミングによって、私たちの人間側の反応は、ずいぶんと変わるようです。

 

お大師様は、ある方に宛てたお手紙のなかで、こういった事例をたくさん挙げて、

「互いの心やタイミングが合わない時は、黙しているのがいいのだ」と仰っています。

 

 人付き合いの話に戻りますと、あなたの言葉が、相手にうまく伝わらなかった時、必ずしも「あなたが悪かった」とは限らないのです。

 なぜならば人は、同じことを言われたとしても、時や状況で感じ方が変わり、反応を変えてしまうものだからです。

 

 相手が大切な人であるほど、用件が大事なことであるほど、私たちは今すぐ理解されたいと思ってしまい、焦るあまりに、強い言葉を重ねてしまうこともあります。

けれども、大切だからこそ、無暗にぶつかるのではなく、「人は時節で変わるもの」なのだと受け止め、様子を見て、タイミングを待つような、お大師様流の知恵に学んでみるのも、有効かもしれませんね。

 

 南無大師遍照金剛

 

仁木町 仁玄寺 玉置真依 僧正