~心のやすらぎ~

~心のやすらぎ~

高野山真言宗の僧侶による法話ブログです。
毎月1話掲載してまいります。

ある学校で、標語が校門の前に貼ってありました。

 

「行きたくて行きたくて、たまらない学校づくり」

 

 イジメなどをしないようにしようとか、仲良くしようとか、ケンカをしないとか、自発的に思うのでは無いでしょうか。

子供達が行きたくなる学校、それは、やさしさに満ち溢れた学校ではないでしょうか。

 

 現代は、学校によっては、子供の相合い傘を禁止しているところが有るそうです。 その理由は、傘の持っていない子供を傘に入れてあげると、入れてあげた子供がビショビショになり、それを見た親が、学校に苦情を言うからだそうです。

 これが、俗に云う、モンスターペアレントなのです。 一昔前迄は考えられなかった発想です。 人が困っていれば、助けるのは当たり前だし、それがお互い様でした。助け合いの精神を教えるのが学校でしたが、随分変わりました。

 

 作家で、もう亡くなりましたが、遠藤周作さんは、数学が全くダメで、授業中は机の上に教科書を立てて小説を読んでいたそうです。 これを知った母親は、

「文章を書くのが上手だから、あなたは作家を目指したらいい。」と勧めました。本人はその時の事をこう語っていました。

「あの時、普通の母親のようにちゃんと数学も勉強しなさいと言われていたら、今の私は無かった」と。

 

 短所を伸ばすには、相当の時間がかかる。それよりその時間を、長所を伸ばす時間にあてる。そうするとその長所はますます伸び、それが社会に出た時に役に立つ。 学校の全ての教科の勉強は、大事ですが、長所を伸ばす為に、こういう生き方も良いのではないでしょうか。

 

 スポーツをしていれば、必ず壁にぶち当たり、そのスポーツを辞めたい時が有ります。 普通であれば辞めたい理由を聞き、もう一度頑張る様に説得しますが、子供の心がかえって頑なになり、本当に辞めてしまいかねません。 壁にぶち当たった時は、ただ聞いてあげるだけで、良い結果が生まれる場合が有ります。

 

 仏像には、優しそうなお顔の観音さん、ちょっと強面のお不動さんと色々な仏様がいますが、色んな悩みに対応する為です。

 人には、色々な性格の方、色々な立場の方が居ますし、同じ人間でも時と場所、環境によって悩みが異なります。

優しく包み込んで欲しい時は観音さん、叱咤激励をして欲しい時はお不動さん、子供に関する悩みはお地蔵さん等と、その時々の気持ちに応じられるように多くの仏様が居ます。それらの仏様は、真言宗の本尊である仏様、大日如来が化身した姿であり、大日如来の働きを象徴したものです。

 

 困った時は、黙って仏様と向かい合い、心の中で話かけて見て下さい。そうするだけで、解決策が見つかるかも知れません。

 「こうしなさい」「それはダメ」と言うばかりでは無く、黙って話を聞いてあげる事が大切な場合も有ります。

 

 南無大師遍照金剛

 

留辺蘂町 金毘羅霊院 髙田 有修 僧正

 終活をされる方が多くなってきました。残される人たちに迷惑をかけないように身の回りの品々を整理することのようですが、今回はそれ以外の形についてお話させていただきます。

 

 その一、今から三十年前、恩師宮坂宥勝先生に講演をお願いした時に断酒されたと言われました。酒豪だったのにと心配する私たちに、実は読みたい本もあるし、まとめておきたい論文もあるが、残された時間に限りがあるのでと話されました。

 

 その二、或る日、檀家のご婦人がお寺に来られて、疎遠になってしまった女学生時代以来の友人と亡くなる前に仲直りしたいと依頼され、その席を設けてあげると、直ぐに打ち解け、声を上げ肩をたたいて談笑されていました。後日、これで暗くて重い荷物を降ろして旅立てるとよろこんでいました。

 

 他にも身近な方でその心を語らず、八十才を過ぎた今も黙々と歩き遍路を続けています。整理処分するだけでなく、このように仕事をまとめたり、心の安心を得たり、功徳を積み続けることも終活の姿と思います。

 

 その作業の途で何気なく付き合ってきた人の中に大切な人を再発見できたり、自分の中にこれは守ろうということに気づくことがあれば、また嬉しい時間です。

 

 南無大師遍照金剛

 

大空町 弘明寺 月原 宣雄 僧正

 皆さまは、まわりの人たちとうまくやれているでしょうか。人付き合いとは、おそらくこの世で最も難しく、いつもいつでも、うまくいくわけではないと思います。

 かくいう私も、未熟者であるためか、自分の思いが相手に伝わっていないような、さびしい気持ちになることも多いのです。

 特に相手が、家族や親しい友人ですと、お互いに甘えが出てしまうのか、他人さん相手ならば我慢できることが全く我慢できず、言いすぎてしまい、時にはケンカになることもあります。

 

 今日はそんな自分自身の頭を冷やすつもりで、お大師様のお言葉をご紹介いたします。

 

“夏月の涼風、冬天の淵風、一種の気なれども嗔喜同じからず”

 

 風という自然現象ひとつをとっても、夏頃に吹く涼しい風は有り難がり、冬の日の寒い風は嫌がられてしまうものだ、ということです。

いつでも風はただ吹いているのでしょうが、季節、すなわち周りの状況ですとか、受け取るタイミングによって、私たちの人間側の反応は、ずいぶんと変わるようです。

 

お大師様は、ある方に宛てたお手紙のなかで、こういった事例をたくさん挙げて、

「互いの心やタイミングが合わない時は、黙しているのがいいのだ」と仰っています。

 

 人付き合いの話に戻りますと、あなたの言葉が、相手にうまく伝わらなかった時、必ずしも「あなたが悪かった」とは限らないのです。

 なぜならば人は、同じことを言われたとしても、時や状況で感じ方が変わり、反応を変えてしまうものだからです。

 

 相手が大切な人であるほど、用件が大事なことであるほど、私たちは今すぐ理解されたいと思ってしまい、焦るあまりに、強い言葉を重ねてしまうこともあります。

けれども、大切だからこそ、無暗にぶつかるのではなく、「人は時節で変わるもの」なのだと受け止め、様子を見て、タイミングを待つような、お大師様流の知恵に学んでみるのも、有効かもしれませんね。

 

 南無大師遍照金剛

 

仁木町 仁玄寺 玉置真依 僧正

 4月8日は仏教を開かれた、お釈迦様の誕生をお祝いする 「花まつり」 という行事を、真言宗はもちろん、全国の寺院でお勤めされているのではないでしょうか。

 

 残念ながら、日本で最も信仰されている仏教の開祖であるお釈迦様のお誕生日が4月8日であるというのは意外と知られておりません。 しかし、多くの寺院では、古くから、お釈迦様がお生まれになったルンビニの花園の風景を模して、花御堂というたくさんのお花で飾られた荘厳を作り、この行事を続けております。

 

 今日は、お釈迦様が悟りを開かれて、初めての御説法をされた場面をご紹介したいと思います。

「サルナート」 という場所がインドにございます。

 お釈迦様は悟りを開いて、まず誰にこれを伝えていくべきか考えておられました。そして、以前苦しい修行を共に行っていた5人の修行者に会いに行くことにしました。

 苦行を離れ、悟りを開かれたお釈迦様、5人の修行者はお釈迦様のことを「苦行に耐えられずに堕落してしまった者」と思い、初めは話を聞く耳をもちませんでした。

 しかし、以前と全く異なる威容に、思わず引きつけられていったのでした。

 

 そしてお釈迦様の説法を聞き、弟子となり仏教が広がる始まりとなったのでした。

これを 「初転法輪」 といい、その場所である 「サルナート」 は聖地として、今でも沢山の仏教徒の信仰の地とされております。

 

 私たち現代に生きる僧侶も、説法、お話を大切に、特に目の前で相手の目を見て五感でお伝えすることこそがお釈迦様の御教えであると考え、それを聞かれる皆様も、長い人生の僅かな時間を、自分たちの祖先が信仰してきた仏教は、今どう伝わっているか、お聞きいただけましたらありがたく存じます。

 

 我々真言宗の宗祖、お大師様が大切に伝えてくださった仏教に感謝する、そんな4月を思い浮かべながら、今月お話をさせていただきました。

 

 南無大師遍照金剛

 

大空町 弘明寺 月原 真人 僧正

 私は昨年、約15年間の 「普段はサラリーマン、時々お坊さん」 という生活に終止符を打ち、お坊さんの活動に専念し始めたばかりです。 この「法話」の執筆自体に戸惑いながら、「ほんまもんのお坊さん」よりも読者の皆様に近い立場から実体験を踏まえて書いてまいります。

 

 今年は元旦から能登半島地震があり、あたりまえの日常のありがたさを感じる事が多くあります。

一方で4年に一度のうるう年であり、四国八十八カ所の「逆打ち」 (88番から逆回り巡拝) をするとご利益が3倍になる年と言われております。

 

 日本国内の巡礼路というのは四国八十八カ所が圧倒的な知名度を誇りますが、他にもいくつも存在しています。 私自身も現生利益を求めて数年前からまとまった休みを取っては、国内最古の西国三十三所、関東地方等に広がる板東三十三観音、埼玉県の秩父三十四観音霊場 (合せて日本百観音霊場)の巡礼を少しずつ進めていました。

 

 退職後には改めて修行の気持ちで秩父霊場の徒歩巡礼へ。 途中、足を痛めながらも松葉杖を使いなんとか結願、大きな達成感を味わいました。

 しかしながら、妻からは 『旅行ばかり行って』 と度々お叱りをうけます。

ですが、また雪が溶けたら、懲りずに四国八十八カ所の逆打ちへ出発したいと思います。

 

 皆様も、理由はともあれ四国八十八カ所の巡礼へ出発されてはいかがでしょうか。

車やバスツアーでも結構です。 何度に分けても、今年中に終わらなくても結構です。

3倍のご利益に執着しないことが大切です。

 

 南無大師遍照金剛

 

本別町 密厳寺 福家 祥雲 僧正