映画も小説も、何も知らないで手に取るほうがいい。なーーーんにも知らずにご覧になるのが賢明。そう言っている時点でネタバレの可能性もあって恐縮なのですけれど、どうにかネタに触れずにご紹介したい1作。
オバケも殺人鬼も出てこない社会派スリラーホラー。前半はネタバレなしで、後半は少しネタバレでお話させてください。
(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
南北戦争時代なのにスリルとは
あらすじは、奴隷制度。
綿花を摘む人々の過酷な暮らしから映画は始まる。奴隷は逃げようとしても無駄。黒人は白人に怯え、見えない檻で囲われるような暮らしだ。
ストーリーは、その中の一人の女性にフォーカスしていく。虐げられる暮らしの中で彼女は何かを企み、何かを実行しようとしていた。
なーーーんにも知らずに観て、初めて「差別」というものを実感したかもしれない。誤解を恐れずに言ってしまいますと、当方(アジア人)は黒人問題映画があまり得意ではなく、というのも、とても深刻で理解が及ばないから。
本作を観たのも、アカデミー賞を獲得したホラー『ゲット・アウト』と『アス』のプロデューサーが手掛けたと聞いて。今まで黒人問題を変化球で見せてくれたスタッフで、本作も恐怖モノという触れ込みだ。
きっと何かが怖いはず。
キャスト&スタッフ
(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
奴隷女性役のジャネール・モネイが美しい! と、まったく同じことを『ドリーム』の感想でも書いていた自分の語彙力にシビれます。シーンによって異なる印象を抱かせる芝居巧者。慣れるまでは少し、我が目を疑った。
仲間役のトンガイ・キリサが印象的で、『トランスフォーマー ビースト覚醒』のチーター役の方だった! ただし、ビーストは吹き替えで観たのでよく分からない!
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司令官役のジャック・ヒューストンが実にイヤらしい男。つまり、上手い。
エリック・ラングの横暴が迫真。
新入り女性役のカーシー・クレモンズがせつない。
監督・脚本ジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツのお2人は、ブッシュ+レンツと呼ばれているとのこと。本作までにコンビ歴15年。初の長編映画とは思えない。彼らは黒人と白人のタッグだからこそのバランスかもしれない。本作はブッシュ監督が見た悪夢が元になっている。怖い夢だ。
問題を実感できるからゾッとする
時系列を動かした場合、観客も頭を使うことになる。脚本はシンプルではないので、迷子になる恐れもある。ランプの灯りで描かれていた物語が、一転、明るさに満ちる。その瞬間、少し混乱してしまった。
なるほど、対比で際立たせるのか。奴隷制度を異常だと思えるのは、我々が現代に生きているからだ。そう思って観ていたのですけれど、想像以上に根が深いことが見えてきてゾッとした。
アメリカ本国では評価は二分したようだけれど、納得。本作を絶賛する白人は少ないのではと想像できる。コロナ禍のために全米劇場公開を逃したそうで、残念。公開されていたら観客動員はどうなっていただろう。
どうして未だにアメリカは黒人問題で悲劇が起こるのだろうと分からないでいたけれど、本作を観た今なら分かる気がします。
差別というものは誰の身にも降りかかる。被害も加害も他人事ではない。極端にも見えるアイデアも、現実にあり得そうだと思えるから怖い。
※ここまでネタバレなし/ネタバレあり部分は↓この下に。
少しネタバレで少し考察
ネタバレあります!
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ネタバレありますのでご注意を!
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ジャネール・モネイの2役に気づくまでにオロオロしたのは当方がだいぶボンヤリ人間だからなのですが、それよりも! あまりにも表情や容姿が違う! 女優さん、スゴイ。美しい分、余計にショックが増えた。
現代と南北戦争時代を対比させていると思わせておいて、という種明かしもタイミングが絶妙。アイデアは、ある人気監督の素敵な作品に似ている。といいますか、わりとそのままなのだけれど、本作独自の流れが格別。ラストシーンも良い。
「アンテベラムAntebellum」はラテン語で「戦前」を意味して、アメリカ合衆国の歴史においては「南北戦争前」の意味。南北戦争を記念した施設は、主に南部の各州に存在しています。
2020年製作/106分/G/アメリカ
原題:Antebellum
監督・脚本:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ/撮影:ペドロ・ルケ・ブリオッツォ/美術:ジェレミー・ウッドワード/衣装:メアリー・ゾフレス/編集:アクセル・ラッド/音楽:ネイト・ワンダー、ロマン・ジアンアーサー/出演:ジャネール・モネイ、エリック・ラング、ジェナ・マローン、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズ、ガボリー・シディベ、
※読んでいただいてありがとうございます。情報に誤りがありましたらご一報いただけたら幸いです。
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